「甘楽」を使っていらっしゃる方がいるようなので、こちらでは「虹甘楽」を名乗らせて頂きます。なんか、レア度が上がった気分です(笑)
かつて連載していた「IS~RED&BLUE~」が第一部完の状態になりましたので、死蔵するのももったいないのでここに投稿させて頂きます。
不定期な投稿になると思いますが、ご容赦ください。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」
黒板の前でにっこりと微笑む(自称)副担任、山田麻耶。若い。いや、幼い。
下手をすれば同年代にすら見える彼女は、元気いっぱいといった様子で仕事をこなしている。
その子供っぽい様子を見て、思わず俺は周りを見渡す。右も左も女子だらけ。空席は一つもない。つまりこの人、本当に教師。
(マジかよ……。東洋の神秘ってヤツか?)
新入生たちの初顔合わせ。その最中に『東洋人は実年齢よりも若く見える』という通説について想いを馳せていると、不意にクラスの雰囲気が変わったような気がした。
「…くん、織斑一夏くんっ」
先ほどまで教壇から聞こえていたはずの声が思いのほか近くから聞こえ、あわてて正面に向きなおる。思わず声を上げそうになったが、すんでのところで口を閉じ、喉奥から吐き出されつつあった音を呑み込む。
「は、はいっ!?」
呼ばれたのは俺ではなく、目の前に座る男……世界初の男性IS操縦者、織斑一夏であった。織斑も山田先生の接近に気付いてなかったようで、妙に裏返った声で返事をした。まわりから、くすくすと笑い声が聞こえる。まったく、面白い奴だなぁ。アハハハ……。
……危ない危ない。もう少しで、俺も笑われるところだった。
「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
ペコペコ頭を下げながら言う山田先生。生徒相手にここまで下手にでるとは……本当に教師なのだろうか。直近まで考察していた論題が、再び頭の中を占拠し始める。
「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ。絶対ですよ!」
がばっと顔を上げ、やおら織斑の手をとる山田先生。……顔、近いですね。
織斑は立ち上がり、こちら……というより、後ろに振り向く。その瞬間、俺に向けられていた視線がすべて消える。彼はこのプレッシャーの中、自己紹介ができるのだろうか?そんな俺の勝手な心配をよそに、言葉が紡がれる。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
出だしは上々、緊張はしているが、固まってはいないと見た。
「………………」
(……それだけ?)
固まってはいないが、勢いだけの見切り発車であったようだ。
「以上です」
がたたっ。何人かがずっこける音がした。かくいう俺も拍子抜けして、虚空にズビシ!とつっこみをいれる。
「あ、あのー……」
山田先生、涙声だ。隣の女性も、やれやれといった様子で首を振り、それに合わせて右手に持った出席簿がヒラリと揺れた。
揺れる出席簿の行方を、なんとなく目で追ってしまう。猫ってこんな気持ちでねこじゃらしを追いかけているのか、などと考えていると、規則的に動いていたはずのそれは、突如として大きく振りかぶられ――
弾丸と見まがう勢いで放たれたそれは、目の前で立ち上がっていた男の頭をしたたかに打ち付け、乾いた音を立てた。
「いっ――!?」
たぶん、「痛い」って言いたかったんだな。馬鹿な奴だ。痛いなら痛いって、言えばよかったんだ……。
じゃなくて。
「げえっ、関羽!?」
バアンッ!Aボタン連打で2コンボだ。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。」
トーンの低い声。すらりとした長身、よく鍛えられて引き締まったボディライン、鋭い吊り目。なるほど、リンクs…もとい、豪傑だ。だが、女性に「関羽」とか言っちゃイカンだろ。関羽といえば髭だぞ、ヒゲ。ヒゲの力は伊達じゃないんだぞ?
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな」
一転して優しげな声。戦いの中ではあれほど過烈なブリュンヒルデも、このような態度が取れるのか。世界最強と言われる女性の、意外な一面を見た。
まあ、表情は変わらずでキツ目ツリ目の残念美人といった様相だが……あいたっ!?
「痛ってぇ!?頭の芯からじわじわ痛む!!」
まさかの飛び火!……というか、何故?
「失礼な視線でこちらを見ていたからだ、馬鹿者」
「…ゴメンナサイ」
さすがは世界最強。メガネもなしにスイッチの切り替えを……あ、止めて下さい。振りかぶらないで。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
……滅茶苦茶だ。理不尽だ。関羽じゃなくて董卓だ。しかし、そんな暴君丸出しの発言に対して、周囲の女子たちは思いもよらない反応を見せていた。
「キャ―――――!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
何というカリスマ。その声、その態度に当てられた女子たちが一斉に騒ぎだす。もちろん、かくいう俺も彼女に対しては複雑な思いがあるものの、一操縦者として見るなら間違いなく憧れているし、ファンの一人だ。だけど声を上げようにもうめくしかできないし、冷静になって考えてみるとこのノリにはついていけない。
「……毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
本気であきれる織斑先生。……アナタ、世界最強のネームバリューが分かってないよね?あんな戦いを見せられて、魅せられないものはいないと思うぜ?
「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして~!」
……さっきの言葉は訂正だ。これはうっとうしいわ、うん。
「で?挨拶も満足にできんのか、お前は」
そう言って、射るような眼で織斑を睨む織斑先生。……ややこしい。
「いや、千冬姉、俺は――」
またしても襲いかかる出席簿。うめく織斑。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
「え……?織斑くんって、あの千冬様の弟……?」
「それじゃあ、男で『IS』を使えるっていうのも、それが関係して……」
「ああっ、いいなぁっ。代わってほしいなあっ」
教室内がまたざわめき始める。よほど、織斑’sの関係が衝撃的だったのだろう。
織斑なんて名字、珍しいからすぐに連想できると思うけどなぁ……。それとも、織斑の性別にばかり目が行って、名前まで気が回らなかったのか?
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
と、無茶苦茶なようで非常に理にかなったことを言う織斑先生。考えて言ったのか、それとも素か。……おそらくは、後者だ!
まあ、真意はどうでもいい。とりあえず、それは脇に置いておこうじゃないか。
だけど、それより前にやることがあるんじゃないか、と俺は思うワケよ。
(そろそろ織斑を座らせてやれよ……)
織斑一夏は自己紹介の時からずっと、所在なさげに立っていたのだった。
「席に着け、馬鹿者」
それに思い至った織斑先生の号令により彼はようやく座り、前が見えるようになった。
さて、これから久々の学園生活が始まるわけだ。確かSHRが終わったから、次はいよいよ授業……。
授業……?
(……何だろう。何か、大切なことを忘れている気がする)
自分の自己紹介が済んでいないことに気付いたのは、一時間目の最中であった―――