夜。
簪を保健室に運んだ紅也は、整備室に来ていた。
「……で、調子はどうだ、クリムゾン」
《同時制御は30発が限界です。それも、マイスターにかなりの負荷がかかっています。先程の気絶の原因も、その負荷によるものが大きいでしょう》
《……と、なると、現在のシステムでは不完全か……。どうする、紅也?》
「うーん、戦闘時に8とリンクさせれば完全稼働できそうだけど、そこまで肩入れはできねぇな。今は、最大発射数を24発に設定しておこう。それでいいか、クリムゾン、8」
《異論ありません、クリエイター》
《まあ、いいだろう》
「よし。……じゃあ、修理を始めるぞ」
専用機の件が片付いて、ようやく負担が減ると思った矢先にこれだ。
やれやれ……今夜も長くなりそうだ……。
◆
時は流れ、クラス対抗代表戦の当日。
……あの後、一夏と凰は大ゲンカをして、一言も話していないそうだ。何でも、一夏が凰に「貧乳」と言ったらしい。
――それはいかんだろ。男として。
さておき。
二人はアリーナの上空で滞空し、睨みあっている。実況?今回はナシだ。
次の試合が葵VS簪なんでな。葵が「応援はいらない」と言ってたので、今の俺は簪のピットにいる。……お兄ちゃんは寂しいぞぉ!
「あの……紅也、くん。……いいの?山代さん……放っておいても……」
「ん……。本人が、こっちに行けって。
『自分の作品ぐらい、最後まで責任持て』って、言われたよ」
ああ、あの後、簪と葵は和解したぞ?もっとも、仲良くなったわけじゃないけどな。葵も、熱くなったことを反省してた。それで、三人で練習を続け、今日まで調整を続けてきた。
「くすっ……。山代さんらしいな……」
簪も、笑顔が増えた。
距離を取らずに接してくれる友達。そしていつも一緒の相棒。それらが、彼女の心の氷を溶かしたのではないだろうか?
《で……自信はありますか、マイスター?》
「正直……敵わないかも。でも、負ける気は……無いから。……サポートよろしくね、クリムゾン」
《大丈夫です。大船に乗ったつもりで、ガンガンいきましょう》
「……うん、頑張る……!」
「よし、その意気だ。……俺も、応援してるぜ」
「う……うぁ……うん」
うん、いい感じに気合が入ってるな。これなら、いい勝負ができるはずだ。
勝てるとは思わないけど。……いや、イヤミじゃなくて、本当に。
「さて、じゃあ、試合を見てようぜ」
「……え!?そ……そうだね!」
試合開始まで、後10秒―――
◆
〈side:アリーナ内部〉
「一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」
「雀の涙くらいだろ。そんなのいらねえよ。全力で来い」
簪と紅也がピット内で話していた頃、こちらでも舌戦が行われていた。
「一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる」
鈴音が、一夏を脅す。これは、殺さない程度にいたぶる、という宣言。つまり、「一夏殴ッ血kill」宣言であった。
『それでは両者、試合を開始してください』
開戦を告げる、ブザー音。互いに突撃し、刃をぶつけ合う。
瞬間、白式は吹き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直す。
「ふうん。初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど――」
再び甲龍が猛追。縦横無尽に駆け、襲いかかる刃に対し、白式は防戦一方であった。
状況は好転し得ない。ならば、と白式は距離を空けようとするが……
「――甘いっ!!」
甲龍の肩アーマーが開いたと思うと、白式は見えない砲弾に殴り飛ばされる。
これぞ、中国が誇る第三世代装備、衝撃砲――正式名称「龍咆」であった。
「よくかわすじゃない。龍咆は、砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」
「へっ……。前に、不可視の剣技を見たことがあるからな!」
かつて一夏が戦った相手、山代 紅也。彼の技である「空破斬」も、不可視の刃を飛ばすというものだった。
しかし今回、
一方、一夏に勝機がないかといえば、そんなことはない。
雪片弐型。そしてその能力、零落白夜。この一撃を決めれば、相手のISに致命傷を与えることが可能だ。そのために、相手の懐に入れれば、あるいは……。
「鈴」
「なによ?」
「本気で行くからな」
一夏が、雪片を構える。どうやら、攻勢に出るようだ。
「な、なによ……そんなこと、当たり前じゃない……。とっ、とにかくっ、格の違いってのを見せてあげるわよ!」
鈴音もまた、両刃青竜刀を構え直す。すると―――
一夏の姿が、掻き消えた。
いや、そう見えた。
一度見切られたら使えない。まさに一撃必殺。そのカードを切ったタイミングは、間違いなく最良だった。
―――が、戦いは、唐突に終わりを告げる。
ビキュウゥゥゥゥン!!!
緑の光が一条、天から降ってきた。
光は、アリーナの遮断シールドを貫通し、ステージの中央を溶解させる。
蒸気か、土煙か……。それらが混ざったものが立ち込め、乱入者の正体を隠す。
「な、なんだ?何が起こって……」
「一夏、試合は中止よ!すぐにピットに戻って!」
混乱する一夏と、緊張する鈴音。
状況は不明――が、彼らのISは、いち早く状況を理解した。
《ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています》
「なっ―――」
「一夏、早く!」
「お前はどうするんだよ!?」
緊急事態。だというのに、二人の行動は遅かった。
当然だ。彼らは実戦など未経験であるし、このような事態の対処方法など、知るすべを持たないのだから。
「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」
ゆらり。
煙の中の影の、右腕が彼らに向く。
「逃げるって……女を置いてそんなことできるか!」
かちり。
砲身固定。ロックオン。砲身に、光が集まる。
「馬鹿!アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!」
『いい加減にしろ!馬鹿はお前ら両方だ!!』
突如、アリーナに響く大音量。
そして不明機から放たれる、緑色の光線。
アリーナの遮断シールドを貫通するほどの威力を持つそれは、まっすぐに甲龍に向かい……
射線上に割り込んだ何者かによって、防がれた。
「……鈴音!油断、禁止!!」
「あ……葵!?アンタ、なんでここに……?」
「無駄口を叩くな!とっとと逃げろ!」
「紅也!?お前まで、どうして……?」
乱入するは、赤と青。紅也のレッドフレームと、葵のブルーフレームであった。
「一夏、凰。お前らじゃ、あのISには絶対に勝てない。だから、早く逃げろ」
紅也は、冷酷に宣言する。
「なっ……!そ、そんなの、やってみないとわからな――」
「やる前から、勝負はついてる!!」
「――葵?何よ、アンタまで……」
「お前ら、一度しか言わないからよく聞け。アレに、生半可な兵器は通用しない」
紅也は語る。その言葉の、真意を。
「あの機体には、PS装甲が採用されている。ビーム以外の兵器では、傷一つつけられねぇ」
「ぴーえす……?何だ、それ?」
「話してる暇はない。早く、逃げて」
二射目。再び放たれたビームを、ブルーフレームはシールドで受け止める。
「何よ!実体兵器が効かないなんて、反則じゃない!何なのよ、あの機体は!!」
叫ぶ凰。そして、そのとき煙が晴れ、敵の姿が露わになる。
黒を基調とし、胴体と肩に赤いパーツを持つ、全身装甲。頭部の黄色いVアンテナは、山代兄妹のISとどこか似通っている。特徴的なのはその右腕で、黒と赤の、巨大な楯を装備している。どうやら、ここからビームを撃っているようだ。左腕のクローも、どこか凶悪な印象を持っている。
そして紅也は、唐突に、敵の正体を告げた。
「アイツの正式名称は、GAT-X207……。開発コード、『ブリッツ』だ」
『ゴーレム』は犠牲となったのだ……。
『ブリッツ』の武装についてはビーム、レーザー等媒体によって差異がありますが、ここでは展開の都合上ビームで統一させて頂きます。