曰くつきの二人が登場したHRは、珍しくお茶を濁した織斑先生の一言で終了した。
一夏も平手打ちのダメージから「オイこら捏造するな」立ち直り、三人目の男子と友誼を深めようとしていた……。
「おい織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう。山代、お前も逃げるな」
「君が織斑君?初めまして、僕は―――」
「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」
そう言うと一夏はデュノアの手を取り、教室を飛び出す。
俺も8の取っ手をつかみ、早足でその後に続く。
「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん……」
デコが真っ赤の状態で
だが男だ。
「トイレか?」
「トイ……っ違うよ!」
「そうか。それは何より」
二人は階段を下りていく。……む、そろそろ他クラスのHRが終わってもおかしくない時間だ。
俺は手近な窓を開け、外へと飛び出す。
8の拡張領域から具現化させたのは、真っ赤な翼のハングライダーだ。
「アイ・キャン・フラーーイ!!」
窓枠を蹴り、空へ。目指すは第二アリーナだ。
「ああっ!転校生発見!」
「しかも織斑君と一緒!」
「そういえば、山代君は?」
「いた、あそこ!!空飛んでる!!」
「ええい、性懲りもなく!弓道部部隊!!」
校舎から聞こえる声。……が、同じ手が二度も通じると思うなよ!!
弓矢は飛んでくるが、俺は回避しない。
ハングライダーに命中。ダメージなし。
制服に命中。穴は開かないし、痛くも痒くもない。
「
「そんな!矢が効かないなんて……」
フハハハハハ!!
説明しよう!前回の教訓を得て、俺の制服は防弾・防刃・防レーザー加工を施してあるのだ!!むろん、ハングライダーも同じ材質。この程度では終わらんよ!
「貸しなさい。私がやります」
「あ、名護屋河先輩!お願いします!!」
……は?「名護屋河」って……弓道部の部長じゃねぇか!
マズい!あの人の矢は、40m先の的を、木端微塵にするほどの破壊力があんのに!!
「くっ……。シールド展開!!」
校舎に向けてレッドフレームの楯を構える。その判断は正しかった。
ズドオォォォン!!
砲弾でも直撃したかのような衝撃を受け、俺は体勢を崩し、地面へと落ちていった……。
◆
〈side:織斑 一夏〉
群衆に捕まる前に校舎を脱出した俺達は、少しペースを緩めて走っていた。
そしてもうすぐ第二アリーナの入り口……ってところで、信じられないモノを見た。
「よォ……。遅かったな、二人とも……。」
更衣室の脇の壁にもたれかかり、息も絶え絶えの人影。それは、いつの間にか姿を消していたはずの、紅也であった。
見るものにインパクトを与える赤髪は、いまは泥まみれで見る影もなく。
額と唇が切れ、うっすらと出血していた。
それなのに、全くダメージのない制服だけが、妙にミスマッチだった。
「山代君!?一体、何が……?」
シャルルが恐る恐る、といった感じで接近し、ハンカチで血を拭き取ろうとする。
しかし紅也はそれを手で制すると、俺達二人を見回す。
「へっ……。二人とも、無事だったか。良かった……」
「ば……馬鹿やろう!他人の心配より、自分の心配を……」
俺は、思わず声を荒げる。
「いや、いいんだ……。自分の体のことは、自分が一番よく分かってる……」
ずるずる、と。
山代の体が壁をすべり、尻もちをつく。俺達を見上げるその瞳は、やや虚ろだった。
「……なあ、一夏。最後に一つ、頼まれてくれないか?」
「っく、何だよ……。最後だなんて、言うなよ……」
「こ……これを……」
そう言って紅也は、懐から四角い箱を取り出し、俺に押しつける。
「一本だけ…。一本だけでいいんだ。これを、俺の口に……」
俺はその箱から、小さな円柱形の物体を取り出し、紅也にくわえさせた。
サクサクサク……という音が響く。
――紅也が取り出したのは、じゃ○りこだった。
「ふう……ありがとよ……。
……早く行け。俺は……少し……眠く……なって、き……た……」
瞼が閉じていく。もう、俺達の言葉は、彼には届かない。
「くっ……。行くぞ、シャルル!コイツの犠牲を無駄にしちゃ、いけないんだ!!」
「え、えっと。ただ寝てるだけだと思うんだけど……?」
「いいから行くんだ!俺達まで遅刻したら、紅也に申し訳がたたねぇ!」
渋るシャルルの手を引き、俺は更衣室の扉をくぐる。
もう、後ろは振り返らない。
◆
〈side:山田 真耶〉
あ、初めての私サイドですね!いいんでしょうか、織斑先生より先に……。
さて、朝から散々生徒にからかわれた私ですけど、今日は一味違いますよ!
今の私は、ISを使ってます!名前は「ラファール・リヴァイヴ」!!デュノア社製の第二世代機です。
さて、何でISを使っているかというと……。
今日の模擬戦闘、私が戦うんです!実は私、昔は日本の代表候補生だったんですよ!!
えっへん!すごいでしょ!
ここで活躍すれば、生徒たちも私を見直すはず!そうすれば、変なあだ名じゃなくて、山田先生って呼んでくれるはずです!!
……と、そんなウキウキした気分で飛んでいたのですが、センサーが何かを発見しました。
望遠機能で拡大してみると、アレは……。オーストラリアの第二世代機、「メイン・バトル・フィギュア」のシールドですね。しかも、表面が陥没してます!
この武装を持っているのは、IS学園内では二人だけ……。
……いえ、カラーリングは赤ですから、山代くんのものでしょう。
……えええっ!!じ、じゃあ、山代くんに何かあったんでしょうか?
シールドを拾い上げた後、山代くんの姿を探してみると……。いました!更衣室の入り口に!
し、しかも……。倒れてます!大変です!!
あわてて接近し、バイタルチェックを行うと、どうやら意識を失っているようです。
一体、何があったのでしょうか?
「山代くん、目を開けてください!山代くん!!」
「え……あ……。やまだ……せんせい?」
「! 山代くん?気が付いたんですね!良かった~。」
うっすらとですが、目を開けてます!
私はそれが嬉しくて、思わず彼を抱きしめました。
――そう、ISを装備していることを忘れて。
「さあ、ちょっと遅れてますけど、アリーナに行きましょう!大丈夫、織斑先生には、私から説明しますから!」
「ありがどうござ……ぞれより、ぐるし……」
「じゃあ、このまま飛びますよ!!」
山代くんが何かを言いかけてたけど、もう時間がありません。
さあ、私の活躍が始まりますよ~!!
◆
〈side:アリーナ内〉
「……む?そういえば、山代はどうした?姿が見えんが」
セシリアと鈴音を叩いた千冬は、ようやく紅也の不在に気付いた。
「あー……山代君は……」
シャルルは、あれをどう説明したものか……と、考え込む。
実際、シャルルも何が起こったか把握しているわけではない。
「まさか、サボりか?いい度胸だ……」
「ま、待ってくれ千冬姉!これには、深い訳が……」
バシーン!都合四度目の乾いた音が、アリーナに響く!……あ、これ以前の三回分は原作参照ね。
「織斑先生と呼べ。……で、どんな事情があるんだ?くだらないものだったら……」
そう言って、素振りを始める千冬の姿に、一夏は冷や汗を流した。
「えっと……その……」
シャルル同様、説明に困る一夏であったが、救いの声は、空から降ってきた。
「織斑先生!それは、私が説明します!!」
唐突に聞こえたその声に、一同は上を見上げる。
そこにいたのは一機のIS――ラファール・リヴァイヴだった。
「山田君か、早かったな」
「ええ、急ぎましたから……」
ゆっくりと地上に下りる真耶。その両腕で抱えられていたのは、話題の張本人、紅也であった。
「紅也さん!?どうしたんですの?」
「ちょ、紅!大丈夫なの?」
近くにいたセシリアと鈴音が、そのぐったりした姿に驚愕する。
それを千冬は一睨みで黙らせ、麻耶に説明を求める。
「……で?なにがあった?」
「私も詳しくはわかりませんけど、更衣室の前で倒れてました。
さっきまで意識があったんですけど、気が付いたら、また……」
そう説明した真耶の目は、涙目だった。
「……はあ。山田先生。更衣室からここまで、どうやって来た?」
「それは、急いで飛んで……あ」
その場にいた全員が、麻耶に白い目を向ける。
「生身の人間が、そんなGに耐えられるわけないだろう」
「ご……ごめんなさーい!!」
実際は、飛ぶ前に胸で窒息――略してちちっそく――したことが原因なのだが……。幸いと言っていいのか、それを知るものはこの場には一人もいなかった。