IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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定時に間に合わず、すみませんでした。


第34話 明かされる事実 崩れた計画

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

「そげぶっ!?」

 

 俺は作戦通りにやっただけだ。それに、あれはただの事故だ、ノーカウントだ!ノーカウント!などと言い訳する暇もなく葵に顔面を殴られた俺は、ごろごろと床を転がる。

 うう……目が痛い。こりゃ、絶対腫れてるな。まさに、目の上のたんこぶ。

 

《一夏が伝染(うつ)ったか?全く笑えないぞ。それより、客だ》

 

 転がった先にあった8のモニターに、こう表示されていた。

 ……客?こんな時間に来るとは、また凰か?

 俺は面倒が嫌いなんで、一夏の痴話喧嘩の尻拭いは嫌なんだが、とりあえず確認してみるか。

 

 がちゃり。

 

 そこにいたのは予想外。

 しかし嫌な相手ではなく、むしろ待ちわびていたはずの男――否、女だったのは確認済みの――シャルル・デュノアその人だった。

 

「ん、シャルルか。どうしたんだ?……まさか、一夏に襲われたとか?」

 

 冗談めかしてそう問いかけるも、シャルルはうつむき、無言のまま。

 ――こりゃ、真剣(マジ)な話だな。意識を仕事モードに切り替える。

 

「……何か、あったんだな。とりあえず、入れよ」

 

 少々大げさに、部屋へと招くポーズをとる。しかし、それにもシャルルは無反応で。

 

「――紅也」

 

 唐突に彼女は顔を上げ、俺と目をあわせ――その動きを止めた。

 何だ?俺の顔に、何かついてるのか?

 

「……ぷっ」

 

 笑った?あのシャルルが、人の顔を見て笑った、だと?

 やっぱり、顔にごはんつぶでもついてたか?

 

 ぺたぺた。

 

 自分の顔を触ってみる。そして、その手がまぶたに当たったとき――

 

「痛たたたたたたたたたぁ!?」

「ぷっ……あっはははは!」

 

 そうだ!腫れてるんだ、顔が!

 こら、シャルル。笑うな。シリアスが台無しだ。

 

「はは、笑ったな?ちょっとは元気でたか?」

「え?あ、ごめん、笑っちゃって。

 ――うん。少し、元気がでてきた。入っていいかな?話したいことがあるんだ」

 

 俺とシャルルは部屋の中へ。葵は、すでにベッドに座っていた。

 ……って、待て!葵の存在がバレたら、作戦は失敗――

 いや待て私。もうミッション・コンプリートしてるから、別にバレても……。

 

「君が、オーストラリアの代表候補生の山代さん?始めまして」

「……山代 葵。よろしく、シャルル」

「いきなり呼び捨て?」

「……紅也が、そう呼んでるから」

 

「――って、ちょっと待て!何で葵を知ってるんだ!」

 

 葵のやつ、まだ名乗ってないよな!?

 

「え?だって、モルゲンレーテのHPに、普通に情報載ってたし……」

「しまったあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 迂闊だった!シャルルが俺を探りに来たなら、俺の周りを調べないわけねえだろうが!

 じゃあ、俺の完璧な作戦は、最初っから破綻してたのか!?

 

「……馬鹿」

「ひどいぜ、葵!」

 

 

 

 

 

 

 カチャリ。

 

「……で、シャルル。話って何だ?なんなら、葵は外させようか?」

「いや……。せっかくだから、一緒に聞いてよ」

「……分かった」

「それでいいなら、話してくれ」

「うん。じゃあ、話すね。

 実は、僕はずっと、隠し事をしてたんだ。それがさっき一夏にバレて、どう接すればいいか、分からないんだ。……今までどおりには、接することができないと思う。

 僕は、どうすればいいかな?」

 

 シャルルの悩み。

 ……どう考えても、一夏に、女であることがバレたんだろうなぁ。

 こんな時間に起こるハプニングの定番としては、シャワー室でばったり会って……とか?それ何てエロゲ?

 

「じゃあ、俺から質問をひとつ。……これは、結構ヤバい話か?」

 

 自分で聞いといてなんだが、どんだけ白々しいんだよ!と思う。

 

「……うん。下手すれば、転校することになるかも」

 

 転校じゃなくて、強制送還だろ。よくもまあ、うまい言葉を選ぶもんだ。

 

「それは、穏やかな話じゃねぇな。転校、あるいは退学ともなると……スパイ行為でもしたのか?」

「! ……はあ。紅也に隠し事はできないね。

 そうだよ。僕は、一夏と紅也のデータを盗むために、転校してきたんだ。父親の命令でね」

 

 そこは認めたか。取りつくろう気配も動揺も感じないし、シャルルらしからぬ投げやりっぷり。やはり、相当追い詰められてるようだ……。

 

「それが、隠し事か?」

「……うん、そうなんだ」

 

 アハハ……。と、いつもと違う、乾いた笑みを浮かべるシャルル。

 ……こいつも、もう限界だったのかもな。バレても、バレなくても、いつか告白しただろう。

 元々、こんなことには向かない、やさしい性格の子だったんだ……。

 

「嘘だっ!!」

「!」

 

 カナカナカナカナカナ……

 

「まだ、『話したりない』って顔をしてるぜ」

「……………」

 

 シャルルは再び俯き、沈黙。

 ……ネタに走っただけなんだが、ビビリすぎだ。

 まあ、最初にあのシーンを見たときは、俺もビビったが。

 

「実は……。僕は……男じゃ、無いんだ……」

 

 カチッ。

 

「……録音終了」

「よし、よくやった、葵。

 はー、疲れた。まったく、慣れないことはするもんじゃねぇな」

「……え? え? ええぇぇぇぇ!?」

 

 状況の変化についていけないシャルルは、混乱しているようだ。

 

「シャルルの肉声。自白。デュノア社社長の関与。

 全部、証拠」

「よっしゃ、じゃあ、任務完了だ。こっからはオフレコで話そうぜ」

 

 そう言って、まだ混乱中のシャルルの肩を両手で掴み、目を合わせる。

 

「シャルル……」

「え!? こ、紅也?」

「……すまなかった!!」

「……へ?」

 

 頭を下げる。

 思えば、俺はシャルルに対して、ひどいことをしてきた。

 

 最初からスパイと疑ったり(まあ、間違ってなかったけど)。

 打算ありきで接近したり(まあ、お互い様だったけど)。

 変な作戦でハメようとしたり(最初から破綻してたけど)。

 

 全部、俺に非があると言える。

 

「俺は、お前を疑ってた。最初から、スパイだと思ってた。

 笑顔の裏で、どう正体を暴こうか考えてた。友達やってるフリをして、ずっと……」

「紅也……」

 

 動揺した目で、こちらを見るシャルル。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 

「だから……。ゴメン」

「……何だ。紅也も、いっぱい嘘ついてたんだ」

 

 その顔は、ひきつっていて。でも、どこか笑っているようだった。

 

「アハハ……。おあいこ、だよ。僕のウソと紅也の嘘で、おあいこだ。

 でもね。一つだけ聞かせて。僕は、紅也のこと、友達だと思ってる。……紅也にとって、それは、『友達やってるフリ』だったの?」

「……いや。俺は……。俺も、お前は友達だと思ってる」

「ふふ……。それだけ聞ければ、十分だよ」

 

 今度は、完全な笑顔で笑うシャルル。その表情に、俺も釣られて笑顔になる。

 

「…………」

 

 葵は何か言いたそうだが、頼むから今は何も言わないで。

 

 

 

 

 

 

「……で、聞いてもいいかな。どうして、僕の秘密が分かったの?」

 

 感動の和解から一段落した後、俺たちとシャルルは、改めて話し合っていた。

 

「スパイって点は、最初から疑ってた」

 

 俺もそうだもん。

 

「女だってことは、たまたま気がついた。まず見た目。一夏に手を握られたときのしぐさ。一夏と着替えない。シャル子と呼んだときの過剰反応。嫁さん発言への反応の遅さ。それから……」

「も、もういいよ!とりあえず、バレバレだったって事は、よく分かったから!!」

 

 シャルル、再び涙目の巻。

 

「……それだけじゃない」

「……あ、葵さん?」

 

 あれ?葵が、何か怖いよ?

 ひょっとして、アレを言っちゃう気?やめてよ。

 もういいじゃん。これで、お互いに隠し事はないことになってるんだよ。

 握手して、別れて、また明日、で。それでいいじゃん。

 

「決定的だったのは、紅也が着替えを――」

「わー!わー!わー!」

 

 知らない知らない知らない!

 聞かない聞かない聞かない!

 

「? 着替え?」

「覗いた」

「! ……いつ?」

「さっき」

「……誰が?」

 

 びっ。

 葵の、ほっそりとした白い指先が、俺を指差す。

 

「……見たの?」

「……………」

 

 ニコニコした、しかし先ほどとは種類の違う笑顔のシャルルを前に、俺は無言を貫き通す。

 目の前にいる、コイツは誰だ?本物のシャルルは、どこへ行った!?

 

「言い訳は?」

 

 むう、この私を怯ませるとは……。なんというプレッシャーだ!

 ヤバイ。ここで返答を間違えたら、デッドエンド&タイガー道場直行コースだ。

 虎竹刀で叩かれる!ロリブルマになじられる!

 そして、新たな世界に目覚めてしまう――!!

 

「……コルセットを見ただけだから、セーフ……」

「「アウト!!」」

 

 葵は右、シャルルは左の頬を、それぞれはたく。この顔は、まるで……。

 

「アッチョンブリケー!!」

 

「……紅也のえっち」

 

 その言葉が、俺のピュアピュアな心にざっくり刺さった。

 

 

 

 

 

 

「さて、シャルルの悩みはよく分かった」

「……紅也、変な顔。シリアスが台無し」

「お・ま・え・の・せ・い、だろうが!つーか、そのセリフ、根に持ってたのか!?」

「……そんなことない」

「うーそーだ!今、間が空いてたぞ」

「ふふっ、二人とも、仲がいいね」

「「当然!」」

「……そこは、普通は『なんだって!?』っていうところだよね……」

 

 話が脱線しすぎだ。時間ないから、巻いていこう。

 

「さて、シャルルの悩みはよく分かった」

「そこからやりなおすんだ……」

「この件が明るみに出たら、本国に強制送還されるんだろ?シャルル自身は、どうしたいんだ?」

「僕は……。

 僕は、ここで、みんなと一緒にいたい。今のまま、学園生活を続けたい。……駄目かな?」

 

 そう言いきったシャルルの顔は、迷っていながらも、確固たる決意を秘めている。

 ……答えは得た、か。なら、早速商談に入ろうか。

 

「シャルル。俺は、その願いを叶えることができる。

 ……だけど、タダで聞いてやるわけにはいかねぇ。俺は、企業の人間なんだ」

「……条件は、何?僕は、この願いを叶えるために、何でもやるよ」

 

 

 

「いい返事だ。じゃあ……。

 

 

 俺と契約して、モルゲンレーテの操縦者になってよ!!」

 

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