流れに不自然な所がありますが、そこは「ノリ」と「凄み」で誤魔化されて頂ければ幸いです。
「山代……紅也?」
「ああ、そうだぜ」
「山代 葵じゃ、ない……?」
「別人だな、そいつは」
「そんな……それではわたくしは……」
オルコットの顔が、真っ赤に染まっていく。俺の名前を別人のものと思い込みだまされたと勘違いした故の怒りか、はたまた渾身のドヤ顔で名前を告げたにも関わらず、間違えた羞恥か。どちらにせよ、原因は俺である以上、被害をこうむるのも俺だ。間違いない。
……だけど、一つだけ言わせてほしい。
「人の話を聞こうとしない、お前が悪……」
「うるさいですわ!許しません!男の分際で、このわたくしをコケにするなんて!
こうなったら……決闘ですわ!!」
「ってオイ、なんでそうなる……」
決闘?ヤダ。メンドクサイ。というかここ、遊戯王時空だったの?目と目が合ったら即バトルですか?そもそも、俺はどっちかというと技術屋であって、戦う者ではない。ゆえに、戦わない。
……だいたいこの学園に来たのも、最先端のIS技術を見るという名目であって、強くなるとかそういう目的じゃない。だから断ろう。うん。
「……俺は戦わない、技術者だからな。というか、そもそも戦う意味がないな」
「なんですって!?逃げる気ですの?全く、これだから男は……」
「聞いてなかったのか?お前と戦っても、得るものなんか無いって言ってるんだよ。どうしても戦ってほしかったら、それに見合うメリットを提示してみな」
「……得るものが無い?ずいぶんと傲慢ですわね。いいでしょう。
そうですわねぇ、あなたが技術者というのであれば……万が一あなたが勝てたら、このわたくしの、ブルー・ティアーズのデータを差し上げてもよろしk……」
「1週間後の月曜だ。逃げんなよ、オルコット」
まさに棚からぼた餅。なんという僥倖!数奇!運命!!
「いやぁ、オルコットさんは話の分かるお方ですね。傲慢なだけと思っていましたが、いや素晴らしいビジネスマンです。お会いできて良かった」
「ちょっと貴方、態度が変わり過ぎですわよ!?そもそも、わたくしはビジネスマンでも、ビジネスウーマンでもありませんわ!」
「……で、そっちの条件は?」
「急に素に戻らないでくださいまし!ついていけませんわ!
……コホン。それで、条件とは何のことですの?」
真っ赤になって、ハアハアと息が切れるまで話したと思えば、急にきょとんとした顔になるオルコット。どうやら、本当に何のことか分からないらしい。
「いや、こっちだけにメリットがある取引なんて、成り立たないぜ。そっちも、勝った時の条件を出してくれ」
「そういうことですか……。……では、あなたが負けたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」
「その期間は?給料はいくらだ?」
「そんなものあるわけないでしょう!?」
「いや、俺はもう企業と契約してるから、拘束時間が長いのはちょっと……」
「そういうことなら仕方がありませんわね。では……」
高圧的ではあるが、意外にもノリのいいオルコットと会話が弾む。
しかし、そんなノリについてこれない者もいたようだ。
「あー、ちょっといいか?」
「何だ?」「何ですの?」
「……俺はどうすればいいんだ?」
まだ立ちっぱなしだった、クラス代表候補その3、織斑一夏。朝の自己紹介を彷彿とさせるワンシーンであった。
ていうかゴメン、正直、忘れてた。
「……とりあえず、他に候補はいないな?ならば、この三人でバトルロイヤルを行い、勝者がクラス代表を決定する。それでいいな?」
「ああ、いいぜ」
「構いませんわ」
「オラ、ワクワクしてきたぞ!」
……あれ?俺の一言で、クラスが白けたぞ?
「……勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、山代はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
織斑先生まで、馬鹿を見る目でこちらを見てくる。……次からは自重しよう。
時は進んで放課後。今日はいろいろ(例えば飛び降りたり、射られたり、下手に出たり)
と忙しかったため、非常に疲れた俺は、授業終了と同時に寮に向かっている。
すると、目の前に、プリント片手に歩く私服女子……もとい、副担任の山田先生が現れた。
「山代くん、寮に向かってるんですか?入れ違いにならなくてよかったです」
「えーっと、何か用ですか?」
「はい。えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って部屋番号の書かれた紙とキーを差し出され、俺はそれを受け取った。
「1017室……ですか。何というか……」
「あ、ええ!?不満ですか?ごめんなさい!」
「いえ、そうではなく……って、泣かないで、山田先生!」
「す、すみません……。それで、部屋なんですけど、ちゃんと希望通りになってますよ」
「ありがとうございます。……入学前から無理言っちゃって、申し訳ないです」
「ふ、ふぇ!?あ……どういたしまして」
どこか照れくさそうな山田先生。正直、グッと来た。
……いや待て俺。確かに彼女は同年代に見える。
だが教師だ。
どこぞのミニコンのように、先生は「年増」だと思えば………
……………
よし、落ち着いた。
「では、これで失礼します。山田先生、また明日」
「あ、はい。また明日」
そのまま山田先生と別れ、俺は寮に向かう。
部屋には誰もいなかった。俺は制服を脱ぎ捨て、そのままベッドに飛び込む。
睡魔は、すぐにやってきた――――
◆
〈side:織斑 一夏〉
時刻は深夜。俺は唐突に目を覚ました。
……今日は散々だった。千冬姉にバシバシ叩かれ、クラスメイトにケンカを売られ、幼馴染には殺されかけた。女子って全員、凶暴なのか?
話を戻そう。
現在、箒は隣のベッドで眠っていて、起きる気配はみじんもない。安らかな寝顔……とても、俺の命を狙っていたとは思えない表情だ。それは当然。現在時刻は午前2時。この部屋どころかこの寮の中でも、起きている人間はいないだろう。
(……眠れないな。半端な時間に目が覚めちまった)
とりあえず、誰もいないうちにトイレでも済ませておこうと思い、俺は部屋の外に出た。トイレは廊下の端っこにあるはずだが、それは女子用。用務員さんが使うトイレでも探すか……と考えながら廊下を進むと。
コツ、コツ、コツ………
誰かの足音が聞こえる。背中に汗がつたうような感じがした。
だって、こう考えてくれよ。
男が、深夜に、一人で、女子寮を、徘徊。
(……マズイ、こんなことが箒や千冬姉の耳に入ったら―――間違いなく殺される!)
と、いうわけで、俺は暗がりに身を隠す。どうでもいいけどこの状況、第三者が見たら通報モノだと思う。
気を取り直して、もう一度廊下に目を向ける。幸い、歩いてきたのは寮監ではなかった。月明かりに照らされ、その姿が露わになる。
蒼いショートボブの髪、黒みを帯びた碧眼、日本人特有の、しかしそれでいて十分に白い肌。どっからどう見ても、山代 紅也であった。しかし……
(む……胸!?胸があるだって!?)
昼間と違い、彼の胸には確かなふくらみがあった。
(じゃあ、セシリアの言ったことって、嘘じゃないのか?山代は……女!?)
彼……いや彼女は、こちらには目を向けず、1017室へと入っていった。
「紅也」と名乗る主人公の謎については、もう少しだけ引っ張ります。