戦闘開始。
レールガンとビームライフルが発射され、黄色と緑の閃光が交差する。
音速を超える弾丸は、しかし光速には勝てず。
競り勝ったビームは、レールガンの本体へと向かう。
が、ボーデヴィッヒも大したものだ。レールガンの発射直後に降下し、直撃を避ける。結果、ビームはシュヴァルツェア・レーゲン本体をかすめ、背部ユニットの一部を溶かすにとどまった。
外れたビームはそのままアリーナのシールドに直撃し、完全に消滅する。
「ほう、ビームとはな……。大した威力だ」
「あなたの目は節穴なの?これでも、十二分に威力を落としてるのよ」
「ほざけ!!」
◆
〈side:山代 葵〉
へえ、やるわね。初見でビームをかわすなんて。
まあ、今のはこちらの実力を見せつけるのが目的だから、別にいいのだけど。
「まさか、弾頭を撃墜されるとはな……」
「紅也も同じことをやったわよ。つまりこの程度、誰でもできるわ」
「………っ!」
ああ、焦ってる焦ってる。
この子、自分より格上の子と戦ったこと、ないのかしら?もったいない。
じゃあ、私が最初の一人になってあげる。
「……どうしたの?来ないの?」
「言われなくてもっ!!」
今度はワイヤーブレード。いきなり6本全てを使ってくるあたり、油断はないようだ。
私も右手のライフルを相手に向けたまま、円軌道を描いて回避する。
さすがにまっすぐ追ってくるような馬鹿ではないようね。
ワイヤーブレードはランダムな軌道で私に追いすがり、あるいは先回りしようとする。
なるほど、セシリア以上に上手いわ。
直撃コースにあるもののみをナイフで、あるいは蹴りで迎撃する。脚部ダメージ軽微……。
ダメね。装甲の強度が足りないから、どうしてもダメージを受ける。
いっそ、脚にナイフでも追加しようかしら?
急停止。自らワイヤーの檻に飛び込み、ワイヤーを切断する。一本、二本、三本。
それを見たボーデヴィッヒは、ニヤリと口を三日月の形に歪め……
――っ!体が、動かない!
「かかったな!!」
AIC。正式名称、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性を停止させるという、第三世代兵装。
なるほど。確かに強力だ。実弾や不可視の弾丸、しかもIS本体まで停止できるなんて。
だけど。
「終わりだ!」
「アンタがね」
ビーム発射。何のために、銃口をアンタに固定してたと思ってんの?
反応が遅れたボーデヴィッヒは、ビームを直撃。即座に絶対防御が発動し、シールドエネルギーを大幅に減少させる。
すると、AICによる拘束が外れた。どうやら、集中力が切れたみたい。
動揺しすぎよ、ウサギちゃん。
「な、何故だ……。体どころか、引き金を引く指まで固定したはず……」
「引き金?ああ、これ。ただの飾りよ」
これは嘘。この引き金は、ビームライフルの故障時、マニュアル射撃をするためのものだ。
普段のビームライフルはイメージ・インターフェースで操作してるから、エネルギーをこめるだけで発射できる。
つまり、どんな状態であれ、私が生きていれば発射可能。それに気付けなかったのは痛かったわね。
「……じゃ、次はこっちの番」
脚部にミサイルポッドを展開。右手のビームライフルはそのままに、左手はマシンガンに変更。
まずはミサイル。左右合計6発を、ボーデヴィッヒを囲むように発射。
同時にマシンガン。これは直撃コースだ。
そして私は加速開始。わずかに右へ動くボーデヴィッヒへ牽制のビームライフルを放ちつつ、拡張領域に収納された『ジン』の実体剣を具現化。回避先を読まれたボーデヴィッヒは、AICを使ってミサイルの一発を停止させるが、ミサイルを遠隔起爆させてダメージを与える。そして剣を投げつけ、私は急降下。
――シュヴァルツェア・レーゲンは、既に檻に囚われた。
真下から、ナイフ二本を投擲。狙いはもちろん、装甲のない部分。
そして瞬時加速によって背後へ接近。ビームサーベル二本を抜き放ち、エネルギーをこめる。
背弄拳&断罪炎刀?何それ。
煙が晴れる。ジンの剣をAICで止めたボーデヴィッヒは、それに集中するあまり、ナイフに気付くのが遅れた。剣をプラズマ手刀ではじき、ナイフを残りのワイヤーで迎撃する。
そのタイミングで、外れたミサイルが全同時起爆。爆風が、ボーデヴィッヒの銀髪をはためかせた。
――もう彼女には、私が見えない。
無防備な背中。小さい、きれいな背中。
私は、それを。
X字に斬りつける。
「あああああああっ!!!」
絶叫。威力を弱めたから傷は残らないけど、焼けるような痛みが走ったに違いない。
でも、私の心は痛くない。
背中を蹴り飛ばし、ボーデヴィッヒを地に落とす。今のは鈴音とセシリアの分。ボーデヴィッヒは、ぴくりとも動かない。
……あ、まだエネルギーが残ってる。とどめを刺さないと。
ビームライフルを構える。
じゃあね、未熟者。心と体とISと、全てを鍛えて出直しなさ……
「やめろおぉぉぉぉ!!」
……高エネルギー反応!?横から?
意識をそちらに向けると、そこには〈雪片弐型〉を構えた白式の姿。
止めろ、って。何を?今は試合中よ。
「止めろよ、葵。もう、勝負はついてる」
「……何勝手に名前で呼んでるの?
まあいいわ、許してあげる。それより、まだ試合中なんだけど。シールドエネルギーが残ってるから、まだ『勝負はついてない』わ」
「でも、いくらなんでもやり過ぎだ!さっきの悲鳴を聞いただろ!?」
「……わかったわ」
ブルーフレームを降下させる。私はシュヴァルツェア・レーゲンを乱暴につかみ、ゲートへと放り投げた。
――シュヴァルツェア・レーゲン、シールドエネルギーゼロ。
ボーデヴィッヒはそのまま倒れこむ。が、ピット内からちらりと覗いた赤い機体の腕が、それを起こして、引きずって行く。
「これで、私の勝ちね」
「『これで』、じゃねえだろ!確かに、ラウラはやり過ぎた。でも、葵も――」
「……また。まあいいわ。その度胸に免じて、名前で呼ぶのを許してあげるわ、一夏」
まったく。
弱いくせに乱入して、偉そうに説教して。
まるで、紅也みたい。
「……馬鹿騒ぎは終わったか?」
「……織斑、先生」
「千冬姉!?」
そんなときに乱入してきたのは、一組の担任の織斑先生だった。
現役を引いたとはいえ、ブリュンヒルデ。母さんを倒したその実力を、ぜひ見てみたいものだ。
「模擬戦をやるのは構わん。――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる」
バリアー……?
あ、一夏。ゲートから入ってきたわけじゃなかったんだ。
「このような事態が、そう何度もあってはかなわん。そこで、学年別トーナメントまでの、私闘の一切を禁止する。……異論は無いな?」
「……構わない」
「あ、ああ……」
「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
では解散!と一言言って、織斑先生は去っていく。
再び静寂。残されたのは、私と一夏だけ。
「……なあ。なんであそこまでやったんだ?全部の攻撃で、絶対防御が発動してたぞ」
「……ISを壊さないため」
「え!?そのために、操縦者だけを?それじゃ、本末転倒じゃないか」
「何が?命に別条は無いし、ISのダメージレベルも低い。あのくらいなら、紅也が修理できる。トーナメントには出れる。
……でも、セシリアと鈴音は多分、もう……」
「!……そっか。でも、やっぱりやり過ぎだ。次からは、もうやめてくれよ」
「……考えとく」
考えとく、なんて。
普段なら、そんなこと絶対に言わないのに。
「よし。じゃあ、二人の見舞いに行こうぜ。一応、保険室で検査してもらうんだってさ」
「……そう。じゃあ、行く」
「お、普段の葵に戻ったな。」
いや、戻ってなんかない。多分、今の私は、少しおかしくなってる。
◆
〈side:山代 紅也〉
……え、ようやく出番?俺、主人公なのに。
ああ、葵も主人公だっけ。そりゃ失礼。
さて、一夏がアリーナに乱入した後、俺はボーデヴィッヒの使っていたピットへと走っていた。
葵は、たとえ一夏が止めても、ボーデヴィッヒにとどめを刺すだろう。そのときISが解除されてればいいが、そうでなければ外してやって、すぐに保健室へと運ばなければならない。
まあ、妹のアフターケアは、兄の義務だ。このくらいはやるさ。
……とまあ、これが表向きの理由。
ピットに到着……って、のわあ!?
漆黒のIS、シュヴァルツェア・レーゲンが俺の近くに落ちてきた。
葵め……。投げたな?
まあいい。レッドフレームを展開し、機体を運んでいく。ボーデヴィッヒは気絶してるな。過剰なダメージのせいで、操縦者保護機能が働いたか。ちょうどいい。
(じゃあ……データの吸い上げ、開始しますか)
《もはや犯罪行為になんのためらいもないな。お前》
(犯罪?仕事と言え)
AIC、ワイヤーブレード、レールガン。有用なデータが、次々に吸い上げられていく。
プラズマ手刀、VTシステム……って、VTシステムだと!?
(8!コレは本気でヤバイ!削除できるか?)
《いや、出来ないことはないが。やったらお前がデータを吸い出したことがバレるぞ!》
(それは困る!じゃあ、放置!放置だ!)
《やむをえまい》
そうだ、やむを得ない。その代わり、何かが起こったら、俺が責任を持って対処しよう。
(じゃあ、次はISの解除だ。コイツを運ばねぇと……)
IS本体は、驚くべきことに、ほぼ無傷だった。
おそらく、壊さないようにと葵が配慮した結果だろうが……。
なんだろう。その配慮は、かなりずれてる気がする。
《シュヴァルツェア・レーゲン、解除……》
8のモニターにそう表示されるや否や、ボーデヴィッヒの姿が露わになる。その表情は苦悶で固まり、左目からは一筋の涙が垂れていた。
――敵とはいえ、その姿は、ひどく哀れで。
「……悪かったな。今は、ゆっくり休んでくれ」
そうでも言わないと、罪悪感に押しつぶされそうだった。
機体ダメージを最小限にするために操縦者だけを攻撃。
ヤマト少尉とは真逆のタイプですね。