あの激戦(ただし一方的)からしばらく後。
凰やセシリアとは別の保健室にボーデヴィッヒを運んだ俺は、ようやく見舞いに行くことができたのだが……。
「……………」
「……………」
打撲の治療を受けたセシリアと凰は、むすっとした表情のまま、こちらに目を合わせようともしない。
部屋の中には一夏と葵。……ひょっとして、セシリア達を前座扱いしたから、気まずいとか?
いやいや。あるいは葵を止めたせいで、一夏と葵がケンカ中とか……?
「別に助けてくれなくてよかったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
「……無理。ああなったら、私でも負ける」
「お前らなあ……。無理すんなよ」
……なるほど。葵に中断されたのが、情けなくて怒ってたのか。
なら、あえて言おう!
「
「……もう、驚かねぇぞ」
む。背弄拳、失敗か。さすがに同じネタは通じないな。
「今だって、結構痛いだろ?今は無理せず休めよ。」
「なによ紅!こんなの怪我のうちに入らないたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」
二人とも、かなり痛そうだ。二人の希望をくんだ形とはいえ、こうなるまで無茶をさせてしまった張本人である葵も、どこか申し訳なさそうな表情をしている。
「バカってなによバカって! バカ!」
「一夏さんこそ大バカですわ!」
うおっ!?いきなり何だ?誰も、何も言ってないぞ!!
――は!これが噂の「地の文読み」か?一夏のモノローグが読まれたのか!?
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
「ん?何か言ったか、シャルル」
「一夏。シャルルは『格好悪いところを見られたから、恥ずかしい』って言ったんだ」
「そうか。そりゃそうだよな」
両手に飲み物を持って、シャルル入室。……この言葉が聞こえてたら、また大きな騒動になってたかもな。でも、一夏のことだから、「俺も好きだぜ」とか言いそうだけど。
――が、これを聞いた二人は大きく動揺。
「なななな何を言ってるのか、全っ然わかんないわね!こここここれだから
「べべっ、別にわたくしはっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」
俺達二人をちらちら見ながら、顔が赤くなっていく二人。
まったく、そんな態度だったら、
「……鈍感」
「確かに、そうだよな。見てて滑稽になるくらい」
「…………」
ん、葵?何故に目をそらす?
「はい、ウーロン茶と「加藤」茶。とりあえず飲んで落ちついて、ね?」
「ぶっ!!」
あ、凰のやつ吹き出した。この程度のギャグに引っかかるなよ。
「ち、ちょっと、紅!ヘンなこと言わないでよ。笑っちゃったじゃない!」
おお、先程とは違う理由で顔が真っ赤だ。
「まあ、冗談だよ。マーシャンジョークってやつだ」
「まーしゃん……?」
「だからぁ」
「深く考えるな、って言いたいんでしょ?分かってるよ」
前にもあったな、こんなやりとり。シャルルのスルースキルは、確実に上昇してるみたいだ。それがいいことなのかは不明だが。
「ま、まあ、ウーロン茶、もらうわ」
「では、わたくしは「加藤」茶を……」
「ぶふっ!」
凰、アウトー。
「てんどん」は、お笑いの基本だぜ?こんなんじゃ、24時間叩かれっぱなしになるぞ。
「ち、ちょっと、鈴さん!?汚いですわよ!」
「うるさい!い、今のは、葵が悪い!!」
「……ごめん」
「? 妙に素直ね……」
「……まさか、この程度の低レベルなネタで笑うとは思わなくて……」
「うがーーっ!」
鈴、暴走。
私のツインテールは天をも穿つ!…って感じに、髪が逆立ってる。
隣で優雅に紅茶(ただしペットボトル)を飲むセシリアと対比すると、妙にシュールな光景だ。
「ま、先生も落ちついたら帰っていいって言ってるし、しばらく休んだら――」
ドドドドドドドドドドッ…………!
「! 地震か!?」
「……こんな音はしないはず」
「な、なんだ?何の音だ?」
地鳴りのような音と、激しい震動。それは、だんだんと大きくなり、近づき……
ドカーン!
保健室のドアが、あろうことか吹き飛んだ。
――あるぇ?ドアって、ああいう使い方するんだっけ~?
さながら
「織斑君!」
「デュノア君!」
「山代君!」
あー。うー。
バイハのゾンビの如く殺到する女子たちは、俺達男子へと手を伸ばす。
逃げるか?……いや、これ、ウェスカークラスの身体能力が無いと無理ゲーじゃね?
まあ、幸い我々人類には、「対話」という名の英知の結晶がある。話が通じれば、ELSとだって分かりあえるんだ。ここは、それに頼ろうではないか!
「な、な、なんだなんだ!?」
「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
「ま、待て!話せばわかる!」
……自分で言ってて思ったが、これだと瞬殺されそうだな。
「「「「これ!」」」」
どうやら、言葉は通じたようだ。「所詮は獣だ」状態だったら、人の言葉も解さない奴ら相手に、5対2どころの話じゃない戦いを強いられたはずだから、危なかった……。
それはそうとして。
女子一同が差し出してきたのは、学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。
「へぇ。『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」
「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」
手っ!
暗闇から、手が!手が!手がっ!
俺達を……。この、暗闇に引きずりこもうとするっ!
――と、福本先生的な描写をしてみたが、なんのことはない。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「……紅也、君。私と……」
女子が、俺達をパートナーにするため、無数の手を伸ばす。
……が、俺は。
「ふっ。ふふふふふふふ。ハハハハハ!!」
彼女たちの声は聞かず、こみ上げてくる笑い声を抑えずに放つ!
「お、おい、紅也……?」
「どうしたの、紅也?」
ああ、これが笑わずにいられるかってんだ。
俺は、勝ちたかった。そして、葵以外には勝つ自信があった。
唯一の懸念はボーデヴィッヒだったが、あの戦闘、データを解析した後では、何の脅威にもならん。――つまり!俺が組むべき相手は……!!
「残念だったな。俺、葵と組むから」
「「「「ええーっ!」」」」
ざわ……ざわ……
「まあまあ、予想できたことだし……」
「でもー、やっぱりー、ざんねーん」
「……とても、残念」
……と、なると。残るターゲットは一夏とシャルルに絞られるわけだが……。
シャルルと一夏が顔を見合わせる。シャルルは困り顔。
ああ、そっか。女だってバレる可能性があるからな。
「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
しーん……。
一夏の声が響き、部屋に静寂がもどる。まるで、部屋全体に「サイレント」をかけたような……。って、まあそれはどうでもいいか。当面の問題は解決した。
「まあ、そういうことなら……」
「他の女子と組まれるよりはいいし……」
「男同士っていうのも絵になるし……ごほんごほん」
最後の奴。ちょっとこっち来なさい。1組の人だよね?OHANASHIしようぜ。
が、そんな心の声に反応する子は一人もおらず。
女子たちは一人、また一人と帰って行き、やがて完全に姿を消した。
「……ってことだけど、いいよな、葵」
「…望むところ」
ふっ……。これで、俺の勝ちは固い。
「くそ……。厄介なペアが誕生したな」
「そうだね……。紅也はともかく、山代さんはとても強い」
「まったく。紅はともかく、葵に勝てる気はしないわ」
「葵さんをどうにかしなければ、勝ち目はありませんわね」
「……ってコラ!お前ら!何好き勝手言ってるんだ!!
特に凰とセシリア!お前ら、俺に負けてるだろうが!」
「だって、あの時は『葵の前座』程度にしか考えてなかったし」
「わたくしに勝ったのも、事故のようなものでしょう?今度は油断なくためらいなく、殺される前に殺してさしあげますわ!」
「物騒だな、オイ!」
そもそもそのセリフ、見た目的にはボーデヴィッヒの方が合ってるだろ!
……いや、セシリアも貴族つながりで、まあ正解っちゃあ正解なんだが。
閑話休題。
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
凰とセシリアがベッドから飛び出す。痛みはいいのか?
「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」
「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」
……この二つの条件を同時に満たす箒って、有利だよなぁ……。ネックは、専用機持ちじゃないところか?でも、あの人の妹なんだから、専用機くらいちょちょいのちょい……。
「ダメですよ」
「「「「「うわあっ!」」」」」
葵以外、全員が驚く。これは……背弄拳!?まさか、見稽古持ちだったのか、山田先生!
……あ、いや、影が薄いだけか。
「山代君、ひどくないですかぁ!?
……コホン。おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
あーあ。やっぱり、大ダメージだったか。
二人とも代表候補生だ。この説得には応じざるを得ないだろうな。
「うっ、ぐっ……!ちょっと紅!修理とか出来ないの?」
「そ、そうですわ!技術者なのでしょう?」
う、こっちに飛び火してきたか。
まあ、無理もない。二人とも、藁にもすがる思いだろうから。
「あー。予備パーツがあれば直せるが、なければ無理だ。そもそも俺は、他国の技術者。それが許可なく国のISに手を出したとなれば、国際問題になりかねないからな」
例外として、簪の時みたいに、俺個人の技術の範囲での修理はできるが。ブルー・ティアーズや龍咆の製造は、個人じゃ無理だ。ゆえに不可能。
「もっとも、俺が持ってるパーツで代用すれば、直せなくはないが」
「え!?な、なら――」
「欠けてるパーツを、全部ドリルに換装――」
「あ、やっぱいいわ」
「ええ。わたくしも辞退します」
何故?ロマンを感じないか?……女だから、天元突破のロマンは分からないか。
まあ俺も、某ドクターほどのドリル愛はないが。
「わかってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分が支払うことになりますからね。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念なことです。あなたたちにはそうなってほしくありません」
「はい……」
「わかってますわ……」
どうやら、話がついたようだ。自分のISに、無理はさせちゃいけねぇよ。メカにだって、魂があるんだ。
「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ?」
一夏が、ふとした疑問を投げかける。まあ、確かにそうだ。俺も、葵がキレちゃった理由が知りたい。もし、ボーデヴィッヒにナニカサレタヨウダったら、切り札使ってでも叩き潰してやる。
「え、いや、それは……」
「ま、まあ、なんと言いますか……」
「馬鹿にされた」
「? ふうん?」
ああ……。一夏がらみの何かで挑発されたんだろうな。葵は、弱くみられた事に怒ったんだな。なんか納得だぜ。
シャルルも何か気付いたようで、発言しようとするが――
「シャルル、ストップだ。馬に蹴られて死ぬぞ」
「え?あ、そっか。アハハ……」
◆
夜。1017室。
「……で、ドイツのデータは?」
「ああ、バッチリだ。……ただ、AICと光波防御帯は全く別の技術だ。俺としては、ワイヤーブレードの方が気にいったな」
「そう。じゃあ、エリカに送る」
《了解だ。そうそう、デュノア社の併合は、うまくいったそうだ。良かったな》
「ああ。これでまた、ウチは大きくなる。また一歩、
「……良かった。他に報告は?」
《ああ、
「ありがと」
「……ちょっと待て。俺のバックパックは?」
《ああ。全員天にかかりきりだったからな。完全に後回しだ》
「そんなぁ!じゃあ、トーナメントには……」
「……間にあわない」
「ちくしょおぉぉぉぉぉ!!トリケロスなんて、回収するんじゃ無かった!」
「そう言わない。これで、PS装甲が解析できた」
「ぐっ……。ま、まあ、そうだな。これならいずれ、レッドフレームの弱点を補える……」
駒は揃った。学年別トーナメントが、いよいよ始まる――