IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第42話 世界最強

「あああああああああっ!!!」

 

 煙の中から、絶叫が聞こえる。ラウラの声だ。

 常識を越えた熱量のビームをその身に受けた彼女が、とりあえず生きていたことに安堵しつつ、何かが起こっている事に対し緊張する。

 

「一体、何が……?」

「煙が、晴れるぞ」

 

 煙が晴れ、ラウラの姿を探した俺は、とんでもないものを目にする。

 そう。そこにいたのは、シュヴァルツェア・レーゲンではなかった。

 

 煙の中から現れたのは、漆黒の騎士だった。

 ボディラインは、ラウラのそれをそのまま表面化したような感じ。そして最小限のアーマーが、腕と脚についている。そして頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の個所には赤いラインアイ・センサーが輝いている。

 

 問題は、その武装。

 ビデオで何度も見て、そして最近になって自分が振るうようになったその剣の名は。

 

「雪片……!」

 

 そう。千冬姉が使っていた、そして俺に受け継がれた、最強の刃。

 それを、なぜ、こいつが……。

 

「一夏、来るよ!」

 

 シャルルの声で、現実に引き戻される。

 ほぼ無意識の行動だった。中段に刀を構え、敵の突撃を防ぎにかかる。

 すると黒い敵は、居合いの要領で刀を振るい、俺の雪片弐型を弾き飛ばす。

 

「ぐうっ!」

 

 まずい。俺を守るものは、もうない。敵は、上段の構えをとり、そのまま俺を両断しようとする。

 あれは、千冬姉の戦法。やろう、武器だけじゃなく、戦い方まで……!!

 

 とっさに後方退避。その判断は正しく、刃は左腕を、皮一枚斬り裂くにとどまった。……が、エネルギーが底をつき、白式が解除され、光となって消えてしまう。

 

 ……くそっ!ふざけんな!

 俺は、まだ終われねぇ!この、ふざけた偽物をぶっ壊すまで、終われねぇ―――!!

 

「ISが無い?それがどうしたああっ!」

 

 今の俺の武器は、己の拳一つのみ。それでも、あいつだけは、許せねぇ……。

 

「良く言った、一夏!」

「……後は任せて」

 

 俺が突撃を敢行しようとしたとき、ラウラのピットの方から、見覚えのある二機が現れた。

 

 

 

 

 

 

『山代兄妹、話がある』

『え?』

『……織斑先生』

『今回のトーナメント、いつ再び襲撃が起きるかもわからん。……もし、またXナンバーが出てきたら、お前らだけが頼りだ。そこで、非常事態に備えて、いつでも出れるようにしておいてくれ』

『……なるほど。襲撃に備えて、タッグマッチにしたんですね』

『……引き受ける』

『そうか。では早速、第一試合だが――』

 

 

 

 

 

 

「あの申し出は好都合だったな。おかげで、間にあった」

「……間一髪。あのままじゃ、一夏は死んでた」

「結果的に間にあったんだから、いいだろ。

 ――しっかし、VTが発動したか。一応、リミッタ―はかけたんだけどな」

「……バレない程度。弱すぎる」

「それもそうだな。……じゃあ、延長戦開始だ!」

 

 ヤッホウ!前話では出番が無かった紅也だ。

 あの時、織斑先生から指示を受けた俺達は、VTシステムの発動を警戒してボーデヴィッヒのピットで待機してたのさ。

 ビームマグナムの爆音が響いたときは、死人が出たかと焦ったが、出てきたのはニセブリュンヒルデだった。

 ――8もVTの起動を知らせてくれたから、生きてるのは分かっていたんだが……本当に、暮桜そっくりだな。

 

「注意しろよ……。偽物とはいえ、ブリュンヒルデ。母さんに勝った相手だ」

「分かってる。油断しない。二人でやる」

 

 俺は刀を、葵はビームライフルを、それぞれ構える。

 ――が、予想外の事態は、俺達の後方で発生した。

 

「待ってくれ!アイツは……アイツだけは、俺にやらせてくれ!」

「!? 一夏!?」

 

 ISを失い、左腕に傷を負った一夏が、VT-ISに向けて飛び出そうとしていた。

 それを、打鉄を展開している箒が、必死に抑えている。

 

「ちぃっ、こんなときに。葵!少し、一人で相手しててくれ!」

「了解。……すぐ戻ってきて」

 

 ブルーフレームがビームを発射し、VT-ISを遠ざける。その間に俺は一夏の元へ行き、話を聞くことにした。

 

「一夏!さっきも言ったように、ここは俺達が任されてんだ。お前の助けはいらねぇ」

「うるせぇ!あいつ……あれは、千冬姉のデータなんだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

「お前は……いつも千冬さん千冬さんだな」

「それだけじゃねぇよ。あんな、わけわかんねぇ力に振り回されてるラウラも気にいらねぇ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねぇと気がすまねえ。

とにかく、俺はあいつをぶん殴る。そのためにはまず正気に戻してからだ」

 

 成程、一夏の言い分は分かった。自分の意思で、自分の手で、あのVT-ISを排除したいんだな。……でも、今の一夏に、それを許可することはできない。

 

「……そんな感情論で、何ができる」

「! 紅也、てめぇ!」

「現実を考えろ!白式のエネルギーはゼロ。お前は手負い。そんな状態で出ていったって、殺されるぞ!」

「ぐっ……」

 

 先程からアリーナ内では、非常事態警報が鳴り響いている。俺は続ける。

 

「そもそも、鎮圧を任されたのは、俺達だ。具体的な策もなしにつっこんできたら、今度は無理やりつまみ出すぞ!!」

 

 話はそれで終わり。俺は戦闘宙域を目指し、バーニアを吹かす。

 

 

 

 

 

 

〈side:一夏たち〉

 

「待てよ紅也!話はまだ――」

「落ち着け、一夏!」

「そうだよ。紅也の言葉を思い出して!」

「? 紅也の?俺には戦う力が無いから、ひっこんでろってことだろ!」

「違う!紅也は、出てくるなと言ったんじゃない。『具体的な策』を用意してから出てこいと言ったんだ!」

「……え?」

「箒の言うとおりだと思う。だって紅也、一言も『出てくるな』とは言ってないよ」

 

 シャルルにそう言われ、一夏は紅也の言動を思い出す。

 

 ――そうだ。『出ていったら殺される』、『つっこんできたらつまみ出す』。でも、『出てくるな』とは、一言も言ってないじゃないか。

 

「落ち着いたか?」

「あ、ああ……」

「感情的な所も収まったかな?これで、いつもの一夏に戻った」

「悪い、箒、シャルル。心配かけた」

 

 冷静になった一夏のその言葉に、箒とシャルルは笑顔を返す。

 

「……で、後は『具体的な策』なんだけど。たぶん、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

「本当か!?だったら頼む!早速やってくれ!」

「けど!

 けど、約束して。絶対に負けないって」

 

 シャルルにしては珍しく、その言葉は強く、有無をいわせぬものだった―――

 

 

 

 

 

 

〈side:戦闘組〉

 

「墜ちろ!」

 

 葵はビームを放ち、VT-ISを一夏たちから引き離していた。

 さらにマシンガンやミサイルを呼び出して牽制するが、マシンガンはかわされ、ミサイルは斬られ、とどめに放ったビームも、機体を掠めるのみに終わる。

 

(くっ……。偽物とはいえ、流石はブリュンヒルデ……世界最強!)

 

 武器は近接ブレード一本。それなのに、未だかつて感じたことの無いほどの力を、葵は感じていた。

 

(でも……変。威圧感は、あんまり感じない……)

 

 そう。確かに、目の前の相手の強さは伝わってくる。それでも……母や、前のラウラ、さらには鈴音やセシリアからさえ感じた、気迫と呼べるものが、全く伝わって来なかった。

 

 ――それゆえ、彼女は目の前のVT-ISを、脅威とは見れなかった。

 

 ビームライフルを収納し、右手にマシンガン、左手にバズーカを構える。

 そして葵は弾速の遅いバズーカを、敵に向けて発射。同時に敵の進行方向にマシンガンを連射し続けた。

 これは、昔葵が編み出し、彼女の母親を驚かせた攻撃法。進行方向へ弾を放つことで、バズーカを避けた敵にダメージを与える、必中の攻撃。

 だけど、これにはいくつか攻略法があった。コイツは、どんな対処をするのか……

 

 VT-ISはバズーカを回避せず、刀で迎撃した。マシンガンの弾は虚しく宙をきり、壁へと着弾する。

 

 ――確実な迎撃。しかし、それは反撃のための動作ではない。

 

 もし、本当に「勝ちたい」と思っている人間が相手ならば、そのまま瞬時加速で突っ込んでくるなり、ライフルで弾と私を同時に狙う、といった奇襲をしてくるはずだった。

 所詮は紛い物。そう思ったとき、葵は一気にやる気をなくした。

 

 そんな時。

 

「待たせたな、葵!反撃、行くぜぇ!」

 

 疑似的な瞬時加速を行うレッドフレームが接近し、棒立ちするVT-ISに斬りかかる。

 推進剤を惜しみなく使用した、爆発的な加速。しかしVT-ISはそれに見事に反応し、居合のように刀を抜き放つ。

 

「イアイフォームだと!?剣へのカウンターのつもりだろうが、甘いぜ!!」

 

 が、紅也は両手で構えたガーベラ・ストレートで刃を受け止め、そのまま体当たり。

予想外の攻撃でVT-ISは吹き飛び、アリーナの壁に激突した。

 それを見届けた葵は、すかさず紅也に接近する。

 

「フン!ウイルス程度に、人間様が負けるかっての!」

「……紅也。アイツ……」

「ああ。期待して損したぜ。これじゃ、まだボーデヴィッヒの方が強かった」

「……同感。あれには、心がない。だから、弱い」

「そうだ。一夏は、そんなものが姉のコピーだと考えると、許せないんだとよ。

 ……時間を稼ぐ。葵、くれぐれもトドメを刺すなよ。もちろん、お互い怪我をしないように、な」

「……極めて了解。私はアレを壊さないし、紅也と自分を守る」

 

 煙の中から、VT-ISが現れる。先程の体当たりでのダメージは、ほとんどないようだ。

 

「さあて、行くぞ!……慎ましく、な」

 

 VT-ISは刀を振りかざし、紅也に狙いを定める。だが紅也は急制動、急旋回、急加速を駆使して、敵を間合いに入らせない。時には空振りした敵に急接近して蹴りを入れ、再び距離を置いていた。

 一方、葵はビームを封印し、マシンガン二丁で援護射撃を行う。そのせいでVT-ISは紅也に接近できず、装甲に傷を増やしていった。

 

 VT-ISは葵に狙いを変更。刀を上段に構えて瞬時加速を行うも、ミサイルの弾幕に阻まれる。その一瞬の硬直の間に紅也にシールドで殴られ、大きく体勢を崩す。

 

 紅也を狙えば葵が。葵を狙えば紅也が。一夏達を狙えば両方が。

 隙のないコンビネーションを前に、VT-ISはどんどんダメージを蓄積していく。

 それがまだ残っているのは、ひとえに、手加減されているからであった。

 

 ――そして戦闘に、最後の役者が登場する。

 

「待たせたな、紅也、葵!」

「颯爽登場、ってか?」

「……待ちくたびれた」

 

 右腕と雪片弐型のみを展開した一夏と白式が、舞台の上へあがってきた。

 

「行くぜ偽物野郎。零落白夜――発動!」

 

 ヴン………

 

 雪片から、エネルギーの刃が現れる。しかもそれはだんだんと形を変え、細く鋭く収束していく。最後に残ったのは、まるで日本刀のような刃。

 

(それが、お前の心の形か……)

(きれいな……光……)

 

 前座の出番は終わり。

 一夏に道を譲り、紅也と葵は静かに退場する。

 

「紅也、葵、ありがとな。こいつは……俺が倒す!」

 

 一夏は居合いの構えをとる。それは、先程までのVT-ISの構えと同じ。

 当然だ。一夏と千冬は、兄弟であるのだから。

 

 それは、『一閃二断の構え』。

 千冬が、箒が、一夏へと教え込んだ構え。

 

 腰を落とし、右手を背中へ。腰がねじれ、そこに力が集約されていく。

 一夏の双眸は、敵をまっすぐに見据え、それのみに意識を集中する。

 

 イメージするのは、波一つ立たない、穏やかな水面。

 そこに、一滴の水が落ちた。波紋が広がる。ゆっくりと、同心円状に……。

 

 心に映った水の雫と、刀を構える敵の姿が、重なった。

 

 VT-ISが接近する。太刀筋は、速く鋭い袈裟斬り。しかしそれは、機械的に振り下ろされた、もっといえば、プログラムされた動作。そんなものは――

 

「ただの真似事だ!」

 

 横一閃。

 刀が弾かれる。最初の攻防とは立場が逆。VT-ISの頭が、がら空きになる。

 これが本物の織斑千冬ならば、そのまま体を流し、距離をとった上で再び攻めるだろう。

 しかし、VT-ISは、その場で機械的(・・・)に体勢を立て直す。

 

 もちろん、一夏はそんな隙を見逃さない。

 大上段に刀を構え、相手を縦に断ち斬った。

 

 これぞ、一閃二断。一足目に閃き、二足目に断つ。

 

「ぎ、ぎ……ガ……」

 

 VT-ISに紫電が走り、真っ二つに割れる。まるでサナギから蝶が羽化するかのように、ラウラの姿が現れた。

 二人の目線が交錯する。そして気を失ったラウラを、一夏はそのまま抱きかかえた。

 

「……まあ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

 

 ―――こうして長かった戦いは、一夏の勝利で幕を閉じたのだった……。

 

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