IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第43話 守りたいものを守れる強さ、それを信じられなくなる弱さ

 強さとは――なんなのか。

 

『強さっつーのは心の在処。己の拠り所。自分がどうありたいかを常に思うことじゃないかと、俺は思う』

 

 ……そう、なのか?

 

『そりゃそうだろ。自分がどうしたいかわからねーやつは、強い弱い以前に歩き方を知らないもんだろ』

 

 ……歩き、方……。

 

『どこへ向かうか。どうして向かうか、さ』

 

 ……どうして向かうか……。

 

『つまり、やりたいことはやったもん勝ち。つまんねー遠慮とか我慢とか、損するぞ?

 やりたいようにやらなきゃ、人生じゃねぇよ』

 

 ――では、お前は……?お前は何故強くあろうとする?どうして強い?

 

『強くねえよ。俺は、まったく、強くない。

 けれど、もし俺が強いっていうのなら、それは――』

 

 ――それは……?

 

『強くなりたいから、強いのさ』

 

 ――。

 

『それに、強くなったら、やってみたいことがあるんだよ』

 

 ――やってみたいこと……?

 

『誰かを守ってみたい。自分の全てを使って、ただ誰かのために戦ってみたい』

 

 ――それは、まるで……あの人のようだ。

 

『そうだな。だから、お前も守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 そう言い残して、男の姿は掻き消える。

 そして瞬きした瞬間、周りの風景は、IS学園の教室へと変化していた。

 

『あーあ、やっぱりこうなったか』

 

 誰かが、後ろから歩いてくる。振り返ると、そこにはIS学園の制服を着た、男子生徒が立っていた。

 聞き覚えのある声。意識を闇に呑まれる前、確かに聞こえた声。しかし、その顔が分からない。まるで、闇に隠されているかのように、見えなくなっているのだ。

 

『分かったか?本当の強さってやつがよ。借り物の力じゃ、本物には勝てないぜ』

 

 ――お前は。

 

『ん?』

 

 ――お前にとって、強さとは、何だ?

 

『俺にとっての強さ、か。うーん、俺はあんまり強くないからな』

 

 ――あいつと同じ事を言う。

 

『あいつ、ってのが誰のことかは分からんが……。……そうだな、俺の知っている、強い人の話をしよう。それでいいか?』

 

 ――ああ、構わない。

 

『――ある島に住んでいた感情を持たぬ男は、一人の女に惚れたことで、彼女を守る刀となることを誓った。彼女の死後も、彼女のことを思い続け、彼女のためだけに国と戦った』

 

 ――守るものがあるものは強い、と?

 

『そこは自分で考えてくれ。

 ――またある男は、望まぬ争いに巻き込まれたが、自分の理想を貫くためにがむしゃらに戦い続けた。そして戦いの果てに自らの可能性を撃ち破り、茨の道を進むと決めた』

 

 ――目標がある者は、強くなれるのか?

 

『――またある女は、自分の半身を失って絶望したが、そんな弱い自分を殺した。その後も心の闇と向き合い続け、それに呑まれることなく、自らの未来をつかみとった』

 

 ――闇と、向き合う……。

 

『まずは、周りを見渡してみろ。お前が拒絶しているものに、目を向けてみろ。

 ……そうしなきゃ、何も始まらないぜ?』

 

 ――だが、もう遅い。私は、いろいろなものを置き去りにしてきた。今更、何かが見つかるわけがない。

 

『それも『拒絶』だぜ。

挨拶するだけでもいい。笑顔を向けるだけでもいい。

それも無理なら……そうだな、現実世界の俺の所に来いよ。きっと、何か得るものがあるだろうよ。じゃあな、ボーデビッヒ』

 

 ――待て!私は……

 

 

 

 

 

 

「ボーデヴィッヒだ!」

「…………」

 

 どうやら、夢を見ていたようだ。

 私は、ベッドの上に寝かされている。……前にも見たことのある天井だ。

 

 ふと、近くから気配を感じる。そちらに顔を向けると、教官が椅子に座って、私の顔を見ていた。その表情には、隠しきれない驚愕が浮かんでおり――

 

「……第一声がこれとは、脳の検査をした方が良かったか?」

「ち、違います教官!これは、その……」

 

 わたわた。

 

 両手を振って否定しようとするが、突然走った痛みに思わず顔をしかめる。

 

「――っ。そうだ……私は……?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」

「何が……起きたのですか……?」

 

 痛む身体を無理やり動かし、上半身を起こして教官の顔を見る。この様子では、私が忘れている何かが起こったのであろうことは、容易に想像がついた。そして、教官がそれを話したがっていないことも。だが、聞かなければいけない。そんな気がした。

 

「ふう……。一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」

 

 そこで、教官は一旦言葉を切る。その様子から、ここで話したことは他言無用だと、ひしひしと伝わってくる。

 

「VTシステムは知っているな?」

「はい……。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは……」

「そう。IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

「………………」

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

 操縦者の、願望……。

 無意識に、シーツを握りしめる。もう、教官と目を合わせてはいられない。

 だって。

 

「私が……望んだからですね」

 

 あなたに、なることを。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

「お前は誰だ?」

「わ、私は……。私……は、……」

 

 何故だろう。

 自分は、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。それなのに……そんな、簡単なことが、言葉にできない。

 

「誰でもないのなら、ちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。何、時間は山のようにあるぞ。なにせ三年間はこの学園に在籍しなければいけないからな。その後も、まあ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」

「あ…………」

 

 意外だった。

 教官は、強く厳しい人だった。

 あのとき、廊下で話した時に、嫌われたかと思った。

 それが……まさか、自分を励ましてくれるなんて。

 

 教官が席を立つ。私はその姿を、ただ茫然と見送るしかなくて。

 

「ああ、それから。

 お前は私にはなれないぞ。アイツの姉は、こう見えて心労が絶えないのさ」

 

 それだけ言い残し、教官――いや、織斑先生は部屋から去って行った。

 

「ふ、ふふ……ははっ」

 

 なぜか、急に笑いがこみあげてきた。

 そうだ。確かにあの二人は姉弟(きょうだい)だ。ふたり揃って言いたいことだけ言って、そのままいなくなるところなんか、特にそっくりだ。

 しかもあそこまで言っておいて、結論は自分で考えろというのだから、ズルいことこの上ない。

 

 ――そういえば、もう一人。

 

 自分の言いたいことだけ言って、揚句自分の名前を間違えて、それで去って行った奴もいたな。

 最初に現れたのは、織斑一夏で間違いない。体験するのは初めてだったが、おそらくあれが相互意識干渉(クロッシング・アクセス)というものなのだろう。

 ならば、消去法で考えると、浮かぶのは一人のみ。

 

 山代紅也だ。

 

 VTシステムの起動前にも、あいつの声を聞いた気がする。

 奴とは大した接点も、因縁もないはずだが、どうしてあの場に現れたのか?

 断言はできないが、どうも相互意識干渉とは違う感じだった。まるで、通信機越しに話しているような、そんな感覚。

 

 ――現実世界の俺の所に来いよ。

 

 ……とりあえず、名前を訂正して。

 それから、話してみるか。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

「遅いわ!!」

「……何が?」

 

 事情聴取の後、俺と葵は合流して、保健室へと向かっていた。

 ちなみに、俺達は予め有事の際の対応を任されていたので、聴取といっても簡単な報告のみだったのだが。

 

「何が、って……。俺、主人公だよな?最近、ポっと出の奴らに出番盗られ過ぎじゃないか!?特に前話!完全に一夏メインじゃねぇか!」

「……第一章では出ずっぱりだったから、文句言うな」

「ハイゴメンナサイ」

 

 葵から真っ黒な何かが迸るのを見た俺は、「クスクス……」とか笑いだされても困るので、この話題を止める。

 

「……で、何でアイツと会うの?」

「ん? まあ、アフターサービスってやつ、かな」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンにハッキングし、VTシステムを発見したあの時。

 消去するのは(俺が)危険、と判断した俺は、せめてもの対抗策として、発動前に確認を促すという、最低限の安全装置(リミッター)を取り付けた。

 それはVTシステムの一部に、自分から作った疑似人格データを埋め込むというものだったので、そのへんのことを覚えているかどうか、確認しに行くのだ。

 

「……何で、私も?」

「……だって、アイツ怖いじゃん。噛みつかれたらどうしよう」

「……犬か」

 

 とかグダグダやってるうちに、保健室に到着。

 早速ドアを開け、入室するも……

 

「ははっ……。くくく……」

 

 何か、笑っていらっしゃる。

 VTの影響で、精神崩壊しちゃったのだろうか?

 これは、俺じゃ修正してやれない。劇場版では精神崩壊しなかったから、そっちで幸せになってくれ。

 ……でも、UCにマリーダがいる以上、正史では精神崩壊決定だよなぁ。

 

「くくく……。

 ……………はっ!?」

 

 あ、目が合った。

 

「……………」

「……………」

 

 沈黙。ここで俺が取るべき行動は……?

 

「ご、ごゆっくり?」

「ま、待て!違うんだあぁぁ!!」

 

 ボーデヴィッヒが叫ぶ。が、すぐに痛みが走ったようで、表情が歪んだ。

 

「お、おい。大丈夫か?無理すんなよ」

「大丈夫だ……。心配するな」

 

 !?

 まともな返事をした!?あの、ボーデヴィッヒが?

 

「? どうした?何を驚いている」

「あ、いや……。てっきり、いつもみたいに冷たくされると思ったからな」

「……いつも、か。それが、拒絶だったのだな」

 

 何かを考え込むようなボーデヴィッヒ。

 何があったんだろう?憑き物がおちたような表情だ。

 

「……怪我の具合は?」

「貴様は……。

 ……筋肉疲労と打撲だそうだ。大したことは無い」

「……そう」

 

 俺と葵は、近くから椅子を引っ張ってきて、それに腰かける。

 ……ん、まだ椅子が温かい。誰か来てたのか?

 

「……一つ、聞いていいか」

 

 椅子に座った所で、俺はボーデヴィッヒに声をかける。

 

「……何だ」

 

 その返答に、いつものぶっきらぼうさはない。それを聞いて、少し安心した俺がいた。

 

「あのとき……。VTシステムが発動した前後のことを、お前は覚えてるか?」

「ああ、思い出した……。その声だ」

 

 答えになってないが……。

 成程。俺の意識データと会話をしたのは、間違いないようだ。

 

「どこまで話したっけか?」

「私が『拒絶』したものに、もっと目を向けてみろ、と言っていたな……。

 後、私の名前はボーデヴィッヒだ。ボーデビッヒじゃない」

 

 ……? さっぱり分からない。

 

「……あー、その話って、VTに呑まれる前?それとも後?」

「? 後に決まっているだろう」

 

 ……あり?

 おかしいな。俺のシステムトラップは、VT発動前に起動するはずだったのに。

 

「……話?紅也、コイツと何を話したの?」

 

 お、ナイスフォローだ、葵!

 『ちょっと怒ったような口調で兄を問いただす妹』の演技をして、ラウラから話を聞き出すのか。

 

 ……演技、だよな?

 

「強さについてだ。織斑一夏と話した後、お前が現れた」

「……どんな話?」

「そうだな。例えば……」

 

 ラウラ説明中……

 

 なるほど。

 どうやら俺の意識データの残滓のようなものが、VTシステムからISコアに漏出して、そいつと話したようだ。

 しかし聞けば聞くほどメタでネタな発言が多い。コピーとはいえ、俺は俺か……。

 

「……で、これから私は、どうすればよいのだ?」

「オイオイ。散々『自分で考えろ』って言われてたのに、いきなり人に頼っちゃダメだろ」

「む……。しかしだな……」

 

 どうやらボーデヴィッヒは、指示を聞くこと、頼ることになれているため、自分で何かをすることが苦手なようだ。

 

「じゃあ、少し考えてみようか。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。何を求める?」

「……強さだ。教官やあの男のような、本当の強さ」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。どこに求める?」

「……自分の、心の内側に」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。どこを目指す?」

「……それが、分からない」

 

 ……ふむ。

 今のボーデヴィッヒに必要なのは、目的か。

 これを考えさせるためには、さて、どうするか……。

 

「……あなたは、私より弱い」

「……葵?」

 

 唐突に、葵が呟く。

 この状況で挑発か?……有り得ない。

 おそらく、何か伝えたいことがあるのだろう。そう思い、俺は放っておくことにした。

 

「目的がないなら、まずは私を目指せばいい」

「――お前、を?」

「……そう。でも、これは仮の目標。

 その間にいろんな人と関わって、自分で新しい目標を見つけること」

「……見つかる、のか?」

「……知らない。

 ……でも、これで、あなたは私と関わる理由ができた」

 

 ――葵、成長したな。

 

 そう。大事なのはきっかけだ。例えば葵と凰が友達になったのも、偶然会ったという「きっかけ」から生まれた事象。今まで周りから距離を置いてきたラウラは、葵と関わるきっかけを与えられた。そして葵という接点から、俺達と関わることができる。

 

「……いいのか?私は……」

「……あの戦いは、お互い様。私も、やり過ぎた」

 

 うん。正直、あれはオーバーキルもいいとこだったと思う。

 ――とか考えてると、葵に睨まれた。以心伝心、恐るべし。

 

「まあ、そういうことだ。俺達二人が、お前にとって最初の友達だ。

 ――もっとも、お前なら、すぐにみんなに溶け込めると信じてるぜ」

「最初の……。

 そうだ。一つだけ、お前たちに聞きたいことがある」

「……何?」

「答えられる範囲で、答えよう」

 

 その言葉に、ラウラは一度眼を閉じ、ややあって再び目を開く。

 眼帯を外しているため、露わになっているオッドアイが、俺達二人を見つめる。

 

「お前たち……。『最初の一人』……アインス・イェーガーを知っているか?」

 




もうちょっとだけ続きます。
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