「ん……ふあ……あふぅ。………朝か」
寝ぼけ眼をこすり、頭を振って意識を覚醒させる。……見慣れない部屋だが、ここは……って。
(ああ……そういえば、昨日IS学園に入ったんだっけ)
昨日の記憶が一気によみがえる。ちょっとだけ、登校するのがいやになった。
さて、現状を確認しよう。時刻は午前6時。ずいぶんと早く目覚めたものだ。
ベッドの下には制服が散らばっている。穴だらけ・土まみれ・傷だらけで、もう使い物にならない。……今度、モルゲンレーテで改造してもらおう。魔殺商会の覆面タイツ並の強度にしよう。
……どこからか、「訂正しろ、全身タイツだ!覆面タイツじゃない!!」と聞こえた気がしたが、スルー。
隣のベッドは、シーツも布団もきれいで、誰も使っていないかのようだった。ついでにこの部屋、俺の制服とカバン以外のモノがない。部屋番号も昨日聞いたから荷物を運びこむ暇もなく、ある意味当たり前なのだが。今日中に、必要なものはこちらに移しておこうか。
と、唐突にカバンの中からブザー音が聞こえる。……ああ、そういえば、入れっぱなしだったな、アレ。
カバンから取り出したのは、取っ手のついたアタッシュケースのような外見のコンピュータ。しかしその正体は、ただのコンピュータにあらず。コイツは……
《私を放置するんじゃない、バカヤロウ!》
「あはは、悪ぃな、8(ハチ)!昨日はすぐに寝ちまったんだ」
《現在時刻6時12分……驚異の睡眠時間だな》
コイツは8(ハチ)。音声入力機能をもつ疑似人格型コンピュータである。また、モニターに文字を表示して、コミュニケーションをとることも可能だ。俺が師匠から譲り受けた物で、今となっては頼れる相棒だ。
「早起きを褒めろよ」
《6時起きじゃ自慢にならん。アイツを見習え!》
「厳しいなぁ、まったくよオ……」
《それより、モルゲンレーテのエリカからメールが届いてるぞ》
「何!?Xナンバー関連か?」
《違うな。……「紅也、部屋が決まったそうね。8から聞いたわ。ホテルにあったあなたたちの荷物、明日には……いえ、これを聞いてるのは明日の朝でしょうから、今日中ね。今日中には届くように手配したから。感謝しなさいよ。じゃ、がんばってね」だそうだ》
「部屋?部屋番なんて伝えてねぇが……」
《IS学園のデータベースから検索した》
「……………」
それは検索じゃない、どう考えてもハッキングだ。こいつ、無駄に高性能である。
◆
ジャージに着替えた俺は、寮から出て外を走っていた。
現在、時刻は6時40分。朝食には少し早いため、運動がてらあちこちを見学することにしたのだ。さっきまでは、朝練中の生徒やその監督をしてた教師を見かけたが、このあたりには誰もいない。
付近には空手、柔道、剣道、弓道などの道場があるが、今日は朝練はしてないらしく、どこも無人だった。
(……勝手に使っても、ばれないよな?)
一瞬の迷いの後、俺は剣道場へと足を向ける。
〈side:篠ノ之 箒〉
(……やってしまった)
昨日の夕方の、浅はかな行動を思い出し、頭が痛くなってくる。剣道をやめたといい、女子に鼻の下を伸ばしてヘラヘラしている(ように見えた)堕落しきった一夏に向けて、怒りにまかせて暴力をふるってしまった。
軽蔑されただろうか?嫌われただろうか?さっきから、そればかり考えてしまう。
(……ああ、もうっ!落ち着かん!こういうときは……)
木刀をつかみ、部屋の外へ。一夏はまだ眠っている。放って行くことに後ろめたさを感じるも、この気持ちが落ち着くまではまともに話せない。だから、向かう。
おそらく無人であろう、剣道場へ。
◆
剣道場に近づくと、違和感を感じた。
声が聞こえるのだ。男の声が。
男。当然一夏ではない。ならば……
(……山代 紅也か。)
自分を知っている、と言ったあの、好戦的な顔を思い出す。ヤツが剣道場にいるのだろうか?……ならば、ちょうどいい。この憂さ晴らしに、付き合ってもらう。
箒の口角は、三日月のように美しく、歪(いびつ)につりあがっていた。
◆
〈side:紅也〉
「はあっ!」
「ふっ!」
「そりゃ!」
「受けてみろ……一刀、両断!!」
……ふう。けっこう、いい汗かいた。
さて、そろそろ退散しようか……なんて考えていたとき、突然気配を感じた。
俺に向けられた、戦闘の意思。だれだか知らないが、ちょうどいい。少し、物足りなかったんだ。
「……誰だ、出てこい」
その声に反応して出てきたのは、つり目のポニーテール女子、篠ノ之 箒だった。
闘気を抑えきれないようなその表情を見て、思わず木刀を握り直す。
「ここは、部外者は立ち入り禁止のはずだ」
篠ノ之は告げる。が、それは口実に過ぎないだろう。ほれ見ろ、闘気が増してるぜ?
「そういうお前は関係者か?悪かったな。じゃあ行くぜ」
「そうはいかん。お前は不法侵入者だ。こんなことはしたくないが……少し、痛い目を見てもらう」
嘘つけ。じゃあ、なんでお前は笑っているんだ。鏡を見てみろ。
「剣道勝負じゃなくて、果し合いが望みか?じゃあ……やろうぜ」
互いに木刀を構えて向かい合う。そして……
「「行くぞ!!」」
同時に相手に向かって走る。正面からのぶつかり合い。力は、こちらが圧倒的に上だ。
勢いに任せ、篠ノ之を押し返す。
「……っ、何が技術屋だ。十分できるじゃないか。嬉しいぞ!」
「そいつはどうも。あんたも、なかなかの力だと思うぜ」
篠ノ之は、右上段からの袈裟切りを放つ。俺は刀を寝かせてそれを受け、押し返し――はせず、力を受け流し、その勢いでくるりと回る。
相手の右わき腹へ、峰で一撃。威力は抑えたつもりだが、相手からはうめき声がもれる。
「痛いか?悪いな、手加減はしたつもりだったんだが」
「チッ、舐めるな!!」
篠ノ之は脇を締め、木刀を短く構え直す。そして先ほどとはうってかわって、素早く打ちこんできた。大振りは効かないとわかった上での戦術変更。これはただの剣道の動きではなく、「戦うこと」を前提とした武術の動き、考え方だ。
だが、それだけだ。当らなければ、どうということはない!!
バックステップで回避しつつ、時計を見る。現在時刻7時55分。そろそろ朝飯を食べないと、授業に遅れる。
「おい、篠ノ之」
「敵に話しかけるとは、余裕だな!その余裕、すぐに崩してやる!!」
「そろそろやめた方がいいぞ」
「なら、すぐにトドメを刺してやる!!」
聞いてないな。なら、しょうがないか……。
先程以上の速さで床を蹴り、高速で壁際まで後退する。そして木刀の先を床に着け、左足を前に。まるで、スタートダッシュをするかのようなポーズに、篠ノ之は一瞬戸惑う。
その一瞬が、命取りだった。
「空破斬!!」
俺が木刀を振りぬくと、圧縮された空気の刃が飛んでいく。
それは篠ノ之が正眼に構えた木刀に直撃し、手から弾き飛ばした。勢いに押され、そのまま道場の床にしりもちをつく。
何が起こったか分からず、呆然とした様子の彼女に接近し、俺は木刀を向ける。
「俺の勝ち……で、いいよな?」
◆
「参った……。私の負け、だ」
篠ノ之は、悔しそうに下を向く。女子とはいえ、全国大会優勝者。剣には絶対の自信があったのだろう。
「太刀筋が素直すぎる……。剣道なら合格だろうが、真剣勝負には不向きだぜ。
……立てるか?」
そう言って手を差し出す。彼女は少しばかり―少しか?けっこう長々と―迷った後、黙って俺の手をとった。
「よっこら、せっ……と。悪かったな。けっこう強かったから、つい熱くなっちまった」
「あ、ああ。気にするな。頭に血が上っていたのは、こちらも同じだ」
「だろうな、あの顔……滅茶苦茶楽しそうだったぞ。今思い出しても……ぷっ、ハハハ……」
「笑うことはないだろう!だいたい、お前だって……」
ピピピピピピピピピピ!!
「な、何だ!?」
「あ、悪い。俺の時計のアラームだ」
そう言って時計を見せる。時刻は8時。そろそろ戻ったほうがいいな。
「じゃあ、俺は先に行くぜ。篠ノ之、一人でも大丈夫か?」
「……馬鹿にするな」
「それもそうだな。じゃ、また教室でな!」
木刀を片付けてから、俺は駆け足で寮へと戻った。
休日なので、明日は3話くらい段階的に投下します。とりあえず、次話は7時ごろ更新です。