紅椿。
ISの開発者、篠ノ之束が作り上げた、最新にして最高性能のIS。
十人中十人が欲しがるであろうそれを手に入れたのは、彼女の妹である篠ノ之箒であった。
――まあ、そうなるだろうな。
この人ほどのシスコンなら、このぐらいのことはやるだろう。現に俺も、かつて葵に似たような約束をしたことがある。それがいつ実現するかはわからねぇが……最新でも最強でも、作ってやろうじゃねぇの!!
◆
「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか!私が補佐するからすぐに終わるよん♪」
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方で――」
「はやく、はじめましょう」
せっかくのプレゼントは、どうやら不評のようだ。あるいは、プレゼント自体ではなく、博士の方に不満を持っているのだろうが。
「……紅也」
ちょいちょい、と葵に手招きされた。なにかナイショの話でもあるのか?
パーツを抱えたまま移動し、葵のそばでレッドフレームを解除。そして、ASTRAYシリーズ専用の、特殊な通信回路を開き、葵の話を聞く。
(……あの機体)
(ああ。とんでもないおたかr……爆弾だな)
(……力を得た人間は、それに振り回される)
(箒なら大丈夫じゃないか?武道の心得もあるし、心のコントロールが――)
(――コントロールが出来る人間が、むやみに暴力を振るう?)
(……不安になってきた)
言われてみると、教室での一夏との過激なコミュニケーションや、トーナメント後の俺への八つ当たりとか、けっこう思い当たるぞ。
(ま、なんにせよ、これで箒は一足飛びに強くなる。……要警戒だな)
(……うん。今まで持ってた属性に、『専用機持ち』が加わった。もう、鈴音やセシリアじゃ勝てない)
(……何の話だよ……)
そういや、前にも話したな。箒、鈴音、セシリアの三人は、一夏に対するアドバンテージが拮抗してるってことを。……って、今は関係ねぇよ、それ。
「――はい、フィッティング終了~。超早いね。さすが私」
……早っ!早井くんの決断速度ばりに早ぇよ!!
さすがは開発者。ISのことは知り尽くしているということか。
空中に呼び出した6枚のディスプレイを自在に操り、紅椿を箒に合わせて調節していく。
(……にしても、見てみろよ、あの武装)
(……日本刀、二本)
(微妙に語呂がいいな。……じゃ、なくて。ブレオンだぜ、ブレオン。いいなあ、アレ)
(……そんなにいいなら、紅也も二本持てば?)
(……今のパワーじゃ、一度に二本も振れねぇよ)
「あの専用機って、篠ノ之さんがもらえるの……?身内ってだけで」
「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」
ふと、会話の合間にこんな声が聞こえた。
おかしなことを言うなぁ。むしろ、今まで専用機を持っていなかったことが不自然なのに。
それに――
「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな?有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」
……と、言うことだ。
人は生きて死ぬ。その一点においては平等であっても、その生活の質、人生の質は千差万別。ホームレスになったマダオもいれば、戯れにギャンブルを開催する大富豪もいる。努力は報われないこともあるし、偶然成功することもある。ただ、全員に「チャンス」は与えられる。少なくとも俺は、そう思っている。
「――そう思わないかい、キミも」
「……ほえ?」
至高の思考から抜け出し、ふと顔を上げると、作業を続ける篠ノ之博士と目があった。
……何故?いきなり話しかけてきたんだろう。しかも的確に、俺を名指しで。
とはいえ、答えなければいけないだろう。無視すると、この人超不機嫌になるし。自分は人を無視するのに、どんだけわがままなんだ。実はわがまま星からやってきた、わがまま星人じゃねぇの?
「……確かに、法が無かった時代は力のあるものが、法がある時代には権力を持つものが、常に利益を得てきました」
うわ、つまらなそうに聞いてる。真面目な話は好みじゃないみたいだ。
「……でも、そんな些細なことはどうでもいい。俺が最も不平等を感じる点。それは――」
一呼吸置き、目を閉じ、そしてカッと見開いて、万感の思いをこめて言わせてもらう――!
「――この世界には、妹を持つ人間と、持たない人間がいるっ!」
「「「「……は?」」」」
その場にいた一同が、ぽかん、とした表情になる。しかも、あの織斑先生まで。
激レアだ。カメラがないのが悔やまれる。……昨日、壊れちゃったからなぁ。
そんな中でただ一人、篠ノ之博士だけが「うんうん」と同意しているのを見て、俺は続ける。
「そもそも、妹というのはただの血縁者にあらず!兄・姉・弟・親・子供その全てと違い、共に成長し、生涯守っていくべき存在!もし俺が昔の偉い人だったら、小野妹子を外国に遣ったりできないね!え?小野妹子は妹じゃない?そんなことはどうでもいいんだよ!話を戻すぜ。まあウチの場合は俺より葵の方が強いが、それは置いといて、妹を守るためなら、俺は代わりに刺されようが、撃たれようが、Xナンバーに追い回されようが、喜んで楯になってやる!そしてその際『お兄ちゃん……ありがとう』とか言われたら、それだけでもう世界と戦えるぜ!世界のための英雄に何かからなくていい!むしろ
後ろから、延髄蹴りが放たれた。放ったのは葵だろう。
もしかして、照れ隠しか?かわうぃ~ね~。でも、お兄ちゃんとしては、もうちょっと手加減してほしかったというか、砂浜が熱いというか、意識が遠いっつーか……。
◆
〈side:織斑 一夏〉
「まったく、相変わらずのシスコンぶりだよね、あの子。
あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」
突然始まった紅也の『
「え、あ。はい。
……じゃ、なくて!昨日も思ったんですけど、束さんって紅也と知り合いだったり……?」
「紅也?誰?」
きょとん、と首をかしげる束さん。誰、って……。
「今、あんだけ話してたじゃないですか!あいつが紅也ですよ!」
「へえ。まあ、名前なんて興味ないんだよ。大事なのは、あそこにいるのが私と同等のシスコンだって事実だよ~。いや~、妹っていうテーマであんなに話したのは、後にも先にも一回きりだったね~。で、白式見せて」
「は、はい……」
どうやら、この話は終わりのようだ。
束さんと紅也の間に何があったのか、気にならないと言えば嘘になるけど、後で紅也に聞けばいいだろう。
(――来い、白式)
右腕のガントレットに左手を添える。こうすることで、俺の中で白式を展開するイメージがまとまるのだ。紅也は『マスクドライダーみたいだな』って言ってたけど、知ったことか!
視界が光に包まれ、俺は白式に包まれた。さすがに展開にも慣れたため、今の俺は一秒未満で展開できる。……紅也はもっと早いけど、展開するたびに『来い……レッドフレェェェェム!』って言って指を鳴らしたり、『レッドフレーム、セェェットアップ♥』って言いながらポーズを決めたりしてるからなぁ。たとえ手本にするとしても、ああはなりたくないものだ。
「データ見せてね~。うりゃ」
いいですよ、とも言ってないのに、いきなり白式の装甲にコードを刺す束さん。まあ、この人はこういう人だ。再び、複数のディスプレイが空中に浮かびあがった。
「ん~……不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんだろ?見たことないパターン。いっくんが男の子だからかな?……多分だけど、今の白式のコアを使えば、男の子でも起動出来るんじゃないかな?」
ちなみにフラグメントマップというのは、各ISがパーソナライズによって独自に発展していくその道筋のことらしい。人間で言う遺伝子だそうだ。
「束さん、そのことなんだけど、どうして男の俺や紅也がISを使えるんですか?」
「ん?紅也って誰?」
「だから……そこで寝てるシスコンです」
そう言って指差した先には、葵に頭を踏まれ、砂浜で焼き土下座のような格好をする紅也。……哀れだ。俺は、ああはなりたくないな。大事なことなので二度言いました。
「ふ~ん。そんな名前なんだ。まあ、どうでもいいけど」
わお、デジャブだ。
「……で、なんでいっくんがISを使えるかって話だけど……どうしてだろうね。私にもさっぱりぱりだよ。ナノ単位まで分解すればわかる気がするんだけど、していい?」
「それって、俺も含めてますよね……。いい訳ないでしょ……。
……で、こ……シスコンは、どうしてISが使えるんでしょう?」
ふ、と浮かんだこの疑問。
しかし束さんは、俺にとっても、誰にとっても予想外な答えを返した。
「ん?なにいってるのかな?あの子、ISなんて使えないよ」
「……へ?」
◆
〈side:シスコン〉
……この間から思ってたんだけど、最近この『side』表示が不本意なものばかりだ。
こんなにコロコロ変えるなよ。バーン・ノーティスかっつーの。
閑話休題。
最近こんなパターンが多い気がするが、気がついたら、俺は砂浜に倒れていた。
……正座し、頭だけが砂に埋まった状態で。
熱ぃぃぃぃぃ!!……と、叫べたらどんなに楽か。口も開けない。
ばたばた。
無駄な抵抗と思いつつも、手足を動かして熱さをごまかそうと試みる。
「あ……紅也さん。今、助けますわ……」
ん、この話し方は……セシリアか。なんでこんなに意気消沈してるのかは知らないが、助けてくれるならありがたい。けっこうしっかり埋まってて、自力じゃ抜け出せねぇんだ。
砂を掘る音が聞こえ、やがてセシリアの冷たい手が俺の頬をなでる。ひんやりしていて気持ちがいい。熱さが少し、和らいだ気がした。
「ありがとよ、セシリア。あやうく死ぬところだった」
「どういたしまして……。はぁ……」
顔の左側を固めていた砂が無くなったため、ようやく口を開くことができた。その隙間から力任せに頭を出し、立ち上がってからぷるぷると顔を振って砂を飛ばす。……そこ、犬とか言うな。
「……で、どうしたんだセシリア。何か、元気ねぇけど」
「……あの、紅也さん。わたくし、篠ノ之博士に嫌われているのでしょうか?」
「…はあ?」
セシリア曰く。
初めて見た
『はあ?誰だよ君は。金髪は私の知り合いにいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再会なんだよ。そういうシーンなんだよ。どういう了見で君はしゃしゃり出て来るのか理解不能だよ。っていうか誰だよ君は』
……と、冷たい言葉をかけられ、あげく『あっちへ行け』と追い払われたらしい。その態度が先程までと異なっていたため、自分が嫌われるようなことをしたのではないか……と。
「気にするな。ただ覚えとけよ。
篠ノ之博士は、自分の知り合い以外は本気で『認識』してねえんだ。安心院さんみたいに平等に見下してるわけじゃないけど、何て言えばいいのか……。セシリアも、初対面の人に話しかけられたら『この人、誰ですの?』って思うだろ?それがひどくなった感じだ」
「……そうなんですの?私自身が嫌われてる訳ではないのですね?」
う……。
涙目になって俺を見上げるセシリアに、思わずキュン……と来た。これを見てると……何というか、セシリアをいじめたくなって――
……いやいや!違う!俺はSじゃない!
「そうだぜ。だけど反面、自分が認識した人間には、ああいう風にフレンドリーになる。つまりツンデr……」
さくっ。
「変なことを言うねぇ、キミも。ツンデレはむしろウチの箒ちゃんだよ」
「~~~~~~~~!!」
作業中の篠ノ之博士が、唐突にプラグを投げてきた。
どんな超科学を使ったかは不明だが、それは俺の眉間に寸分違わず直撃し、俺を悶絶させた。……扱いひどくね?
「変なことを言ってるのはむしろ姉さんです。誰がツンデレですか、誰が」
「ほ~ら、こんなことを言って、内心の照れを押し隠す……。テンプレ的ツンデレじゃないか!」
「篠ノ之博士。全然デレてないですよ。むしろ絶対零度のツン、つまりツンドラです」
箒からの思わぬつっこみに、篠ノ之博士はその豊満な胸を張って得意げに話すも、俺はそれを否定する。
「こ、紅也ッ!……それより、こっちはまだ終わらないのですか?」
「んー、もう終わるよー。はい三分経った~。あ、今の時間でカップラーメンができたね、惜しい」
ん、あれから三分も経ってなかったのか。どうやら、気絶からの回復は思ったより早かったらしい。紅椿の変化が止まり、第一次移行が終了する。
「んじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」
「ええ。それでは試してみます」
……そこは、「はい、そのつもりです」じゃないの?
プシュッ、プシュッと空気の抜ける音と共に、ケーブルが外れていく。それから箒が意識を集中させると、次の瞬間、紅椿は『消えた』。
(疾い――!!)
もちろん、ブリッツのように姿を消したわけではない。あまりの急加速で、残像すら残さずに空へと飛び上がったのだ。
「で……デタラメですわ……」
セシリアのつぶやきも尤もだ。瞬間的な加速力ですら、レッドフレームの全力をはるかに上回っている。……といっても、レッドフレーム自体がそこまで速いわけではないので、あまり比較対象にはならないが。
「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
「え、ええ、まぁ……」
……今のはオープン・チャンネルか。今はどこにいるかわからないけど、葵が中継してくれたんだろう。
「じゃあ刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん」
再びディスプレイを叩く篠ノ之博士。すると武器データが届いたのか、箒が二本の刀を抜き放った。その姿は、なかなかどうして、様になっている。
(二刀流の訓練でも受けてたのかねぇ……)
(お?何の話だ?)
(……その声っ!)
(師匠!?なんで?)
(そりゃ、この回線は『ASTRAY』の回線だからな。当然、俺も受信できるさ。……で、だ。葵。俺にもオープン・チャンネルを中継してくれねぇか?)
(………わかった)
しぶしぶ、といった感じで葵は承諾。何かが『繋がった』ような感じがしたことから、俺は回線接続が完了したことを理解した。
「親切丁寧な束おねーちゃんの解説つき~♪ 雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣に!する武器だよ~。射程距離は、まあアサルトライフルくらいだね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫」
(お、こりゃ、束じゃねぇか。久しぶりだな~)
(し……師匠?こっち来るとか言わないでくださいよ?)
(え?何でだよ)
(……あなた、あの人にめっちゃ嫌われてるでしょうがっ!)
(ん?そうなのか?)
(……………………)
箒は雨月を構え、勢いよく突きを放つ。すると周囲の空間に高エネルギーの赤い球体が出現し、そして光の弾丸となって漂う雲を穴だらけにした。
(かなりの威力だな)
(……多分、PS装甲にも通用する)
(おいおい、何が見えたんだよ。気になるじゃねぇか)
「次は空裂ねー。こっちは対集団使用の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利。そいじゃこれ撃ち落としてみてね、ほーいっと」
言うなり、篠ノ之博士は十六連装ミサイルポッドを召喚。紅椿に向かって一斉射撃を行った。標的となった箒は、刀を振りながら一回転する。それはまるでゼルダの○説。タメ無し、大妖精の加護なしにもかかわらず、刀から赤いレーザーが飛び出し、全てのミサイルを撃墜する。
(……ん?この光景、何かで見たことがあるような……?)
(……白騎士事件じゃない?一機のISに四方八方からミサイルが飛んでいくところなんか、そっくり)
(それよりいいのかよ、紅也。あれ、空破斬より威力が高いぜ)
(……上位互換)
(……ハッ!)
そういえばそうだ。ただの衝撃波にすぎない空破斬に対し、あっちはエネルギー波。しかも空中、地上、オールレンジで使用可能。
(……じゃあ、俺が教えたことって……)
(……無駄?)
(うわぁぁぁぁん!初弟子がぁぁぁ!!)
「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」
いきなり、山田先生が声を上げる。尋常ではないその様子に、俺は通信から意識を逸らしたうえで注意を傾ける。
「どうした?」
「こ、こっ、これをっ!」
山田先生が、織斑先生に小型端末を渡す。その画面を見て、織斑先生の表情が曇ったのを、俺は見逃さなかった。
――指向性音声センサー最大出力。対象は教師二人。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた――」
「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみませんっ……」
「専用機持ちは?」
「全員揃っていますっ」
……ちっ、気付かれたか?
しばらくやりとりをした後、山田先生は旅館の方へと走り去っていった。そして織斑先生が手を叩き、俺達の方へ向き直る。
「全員、注目!
現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日の稼働テストは中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」
その言葉を聞いて、静かだったビーチがにわかに騒がしくなる。
想定外の不測の事態。混乱するのも当然だろう。
葵も人込みをかき分けて、こちらにやってきた。
「……聞いた?」
「いや、わからねぇ。途中から手話に切り替えやがった」
「……そう」
どこか不安そうな葵の声。かくいう俺も不安だ。状況不明というのが、一番始末に負えない。
「とにかく、言われたとおり旅館に――」
「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、山代兄妹、更識!――それと、篠ノ之も来い」
「……ですよねー」
どさくさまぎれにとんずらしようと思ったが、そうは問屋が卸さないようだった……。
途中の長話パートを読み飛ばさないでいてくれると嬉しいです。
いや、特に伏線とか仕込んでるわけではないのですが。
こっちはこっちでシスコンビ?