IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第59話 出撃準備!どんな敵とだって、戦ってやるさ!

 師匠から発破をかけられた俺は、再び作戦司令室へと戻ってきた。

 閉ざされたドアの中では、突貫作業の音が慌ただしく響き渡り、作戦前の忙しさをあますことなく伝えてくる。迷ったのはほんの二、三秒。決意を胸に、俺は再び扉を開いた。

 

「失礼します!山代紅也、復帰しました!」

 

 入ってすぐに、頭を下げる。その場の全員の視線が一瞬俺に集中し、すぐさま作業へと戻っていった。

 

「遅いぞ、馬鹿者。作戦内容は、山代妹から聞け。開始は25分後だ」

「り……了解!」

 

 俺の返事に、どこか満足げな表情をする織斑先生。あんな顔でも、俺のメンタルを心配していたんだろうか?まあ、そのことは彼方に置いておいて、俺は作業準備をする葵の元へ急ぐ。

 

「葵。作戦の説明を頼む」

「紅也!……わかった。

 作戦要員は、一夏と箒と紅也。私は不参加になった」

「セシリアはどうした?」

「高機動パッケージをインストールしてなかったから、出撃不可。一夏は箒が運ぶ。

 ……続けるわよ。目標と接触したら、一夏と紅也のエネルギー兵器で福音を速やかに撃破。ただし、操縦者を傷つけちゃだめ。だから、全力は使えない」

「了解だ。それで全部か?」

「……うん。じゃあ、早速あれを渡すから、こっちに来て」

 

 そう言って葵は、その場にあるパーツを出現させる。

 

 『コンプリート・センサー』

 かつてのブリッツ戦でも活躍した、超高性能センサーだ。

 

「……紅也も、レッドフレームを」

 

 そう言って葵は、俺に8を手渡す。《戻ったな!》と表示されたその言葉の意味を察し、思わず笑みが浮かんだ。

 

「よし、レッドフレーム、外部展開モード!」

 

 いつかの整備室と同じように、8は手元に残った状態で、操縦者のいないレッドフレームが展開される。作業アームを呼び出した俺は、レッドフレームの頭部パーツをコンプリート・センサーにマニュアル換装し、そのまま配線のチェックや調整を進める。ふと、後ろを振り返ると、同じく作業アームを展開した篠ノ之博士が、超高速で紅椿の調整をしているのが目に入った。俺の速さとは段違いで、複数のアームを同時にあやつり調整を進めている。

 

(――焦らなくていい)

 

 無理もない。あの人は、俺なんかのはるか上を行く人間だ。

 俺は、俺が出来ることを、全力でやるだけだ。

 

「紅也、大丈夫か?」

 

 篠ノ之博士を見ていた俺に目ざとく気付いたラウラが、俺の方へやってきた。

 

「いいか、作業の早さが全てではない。時間は十分にあるんだ。慌てずに……」

「――わかってるよ、ラウラ。ありがとな、心配してくれて」

「なっ……!」

 

 俺は大丈夫。そういう意味を込めて、笑顔で返事をする。

 するとラウラは顔を真っ赤にしてそっぽを向き、そのまま目線の先にいた葵と話し始めた。

 

「……葵」

「……何?」

「嫁に、一体何があった?この短時間で、驚くほどの変わりようだぞ」

「……当然。だって紅也は、私の自慢のお兄ちゃんだから」

 

 ……そうだな。葵のお兄ちゃんは、いつも出来ることをやってきたからな。

 今日だって、それは変わらない。それに、兄は期待してくれる妹がいる限り、何でも出来るんだぜ。

 作業のスピードを上げる。さらにコンプリート・センサーのデータを8に送るパスを形成。俺と8で情報を分割処理するための、疑似神経も調節。レッドフレームのシステムを、高速戦闘へと対応させていく。

 

「……速い……!!」

 

 同じく近くに来たらしい、簪の驚きの声が遠く聞こえる。慌ただしい周囲の音がだんだんと小さくなり、俺は作業に没頭していく。

 

 ――頭の中で何かが芽を出すような、弾けたような感覚がした。

 

 作業に必要な時間、工程。最優先で処理すべき事項。クリアになった頭で全ての情報を俯瞰して、順番に確実に処理していく。

 

 そして――

 

「できたっ!!」

 

 十分後、無事に全ての作業が完了した。

 自分でも、まさかここまで効率よく仕上がるとは思っていなかった。正直、うまく行き過ぎている感が否めない。

 まあ、上手くいってるなら、それはいいことだ。

 レッドフレームを収納し、今度は8を持って、一夏達の作戦会議に加わる。

 

「待たせたな!レッドフレーム、準備完了だ!」

「紅也!もう大丈夫なのか?」

「言っただろ?『準備完了だ』って!変にナーバスになってたけど、そんな悩みは捨ててきた!」

「捨て……。はあ。どうやら、いつもの紅みたいね」

「びっくりしたよ。あんなに怒った紅也って、初めて見たから」

 

 ラウラと同じ質問をする一夏に返事をし、その返答を聞いた鈴音とシャル子がほっとしたかのように息を吐いた。

 

「まあ、よくよく考えたら、篠ノ之博士の技術力がぶっ飛んでるのは、今更な話だしな。……まったく、もしあの人に理念があったら、ソレスタルビーイングだって結成できるのに」

「束さんにイオリア的な役割を期待しないほうがいいぞ……」

「……そのイオリアさんというのがどなたかは知りませんが、紅也さんが戻ったなら、作戦会議を再開しましょう」

 

 セシリアの一言により、生徒による作戦会議が再開される。

 

「……あのう、私もいるんですけど……」

 

 失礼。生徒たち+ロリ教師による作戦会議が再開される。

 

「えーと、一夏の防御の話をしてたんだけど、紅也には何かいい案はある?」

「うーん、一夏の剣は両手持ちだからな……。俺がカバーして、なんとかしてみよう。幸い、さっき葵からシールドを借りたからな。一枚くらい壊しても大丈夫だ」

「助かるぜ、紅也。被弾でシールドエネルギーを減らしたくはないからな」

「でも、それだと、紅の攻撃力が生かせないわよ。せっかく3機で行くんだから、数の優位を生かさないと」

 

 鈴音の指摘に、うーん、と首をひねる一同。

 

「正直、3対1の戦闘だったら、三角形に囲んで、背後から本命を撃つってのが基本だよな」

「あるいは紅椿が正面で気を引いて、残りの二機で遊撃というスタイルも……」

新兵(ルーキー)に足止め役は酷だ。嫁が二枚の楯で防御しながら気を引くというのはどうだ?」

「防御に徹していると脅威が低いと判断されて、陽動になりませんよ……。山代くん、ビームライフルはどうですか?」

「一撃で倒せる威力は、ちょっと無いですね……。少なくとも、ビーム・マグナムくらいの威力がないと難しいです」

「でも、あれは安定性に欠けるし……」

「……そもそも、持ってるの……?」

「……ない」

「じゃあ、もう近付いて、斬って、終了!でいいんじゃねぇの。俺も紅也も、どっちも一撃必殺なんだから」

「……下手に考えるよりは、そっちの方がいいかもな」

 

「よし、作戦開始5分前だ。全員、所定の位置に集合しろ!」

 

「よし、時間だ。葵!悪ぃけど、レッドの強化パーツを預かっておいてくれ。量子変換(インストール)してないから、外に置きっぱなしなんだ!」

「……わかった。行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 現在時刻、11:30。

 俺、一夏、箒の三人は、海へと続く海岸に立っていた。

 三人、交互に目を合わせ、軽く頷く。それが、合図となった。

 

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

「8!レッドフレーム、展開だ!」

《合点承知!》

 

 砂浜に光があふれ、それが収まるとそこには3機のISが存在していた。

 

「お、レッドフレームはいつもと印象が違うな」

「まあ、ブルー用のパーツをつけたからな。ここだけ色が違って、違和感があるだろ」

「無駄口を叩くな、紅也、一夏。……行くぞ」

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 一見すると、いつもと同じ一夏と箒のやりとり。

 しかし、箒の声色に、俺は違和感を感じていた。

 

(まさか……浮かれてんのか?)

 

 だとすれば、今のうちに落ちつかせなければならない。さっきまでの俺のように、気持ちを乱した状態では、ロクなことにならないからだ。

 ……が、そんな俺の内心には気づかずに、箒は一夏に話し続ける。

 

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏、そして紅也が力を合わせれば、できないことなどない。そうだろう?」

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちも言っていたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない。十分に注意をして――」

「無論、わかっているさ。ふふ、どうした?怖いのか?」

「そうじゃねぇって。あのな、箒――」

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

「……箒。落ち着け。そんなに興奮してたら、成功するものも失敗するぞ」

「何だ?紅也も不安なのか?大丈夫だ、私は熱くなってなどいない」

「でもよ……」

「そもそも、さっきあそこまでカッカしていた紅也に、そんなことは言われたくないな」

「くっ……」

 

 何コレ。すごく腹立つ。

 一夏も箒の説得をあきらめたのか、紅椿の背中に乗って、作戦開始を待っている。

 

『織斑、山代、篠ノ之、聞こえるか?』

 

 オープン・チャネルの通信が、俺に転送されてくる。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決着を心がけろ』

「了解」

「肯定だ」

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

 三者三様の返事を返し、さらに箒が作戦の確認を取る。

 

『そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、なにかしらの問題が出るとも限らない』

「わかりました。できる範囲で支援をします」

 

 ……ここでのやりとりも、一見すると普通だが、やはり違和感を感じる。

 やはり、警告しておいた方がいいような気がするんだけど。

 

『では、はじめ!』

 

 ――無情にも、作戦開始のゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 封鎖されたはずの海域で、こんな会話が交わされていた。

 

「もうすぐ指定海域だ。奴は、間違いなくここを通るぜ」

「……今、衛星からのデータを確認しました。距離にして8…7キロほどですか……。なおも接近中!近いですね」

「そろそろ俺はヤベェな。テメェらのお守は終わりだ。先に撤退するぜ」

「ご苦労様でした、エフ。後は我々にお任せを」

「礼なんざいらねェ。テメェらは、仕事に集中しやがれ」

 

 男は、自身の名の由来となった独特の笑い声を上げ、ハッチを開放する。

 そして突如、虚空にISが出現した。

 それと同時に、何もない空間に火が灯ったかと思うと、その炎は高速で飛び去っていった……。

 

 

 

 

 

 

 箒と一夏は、俺の想定以上の超高速で飛んでいく。データでは見てたけど……なんて速さだ!

 

(負けてらんねぇぜ!8、推進剤をもっと燃やせ!)

《負けず嫌いめ……勝手にしろ!》

 

 俺もレッドフレームを加速させ、どうにかこうにか追いすがる。

 コンプリート・センサーのおかげで周囲の風景ははっきりと見えるが、加速のGで眼球が悲鳴を上げている。そんな地獄にさよならを告げるべく、俺は必死に福音の姿を探す。

 

「暫時衛星リンク確立……情報照合完了。目標の現在位置を確認。――一夏、一気に行くぞ!」

「お、おう!紅也も、遅れんなよ!」

 

 そう言って箒たちは、さらに加速をしていく。脚部と背部の装甲が開き、推進力を増したのだ。

 

「くっそう!待ちやがれぇぇぇ!!」

 

 スラスターの向きを背部に一極集中させ、俺はロケットの如く加速する。

 ――まだ見ぬ敵との邂逅は、目前まで迫っていた。

 




もちろん、敵は福音だけではありません。
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