「くそっ……。一体、どうなってんだよ……」
密漁船の上。今や戦場からはやや離れた場所にあるそこから、一夏は戦闘を見ていた。
福音を紅也が撃破して、そしたらエッジさんが紅也に銃を向けて……。
(何でだよ!何で、戦うんだよ!)
さっきまで共闘していた者たちが、突然対立する。一夏にしてみれば、訳のわからない状況だった。
「あらあら、あかんなぁ。あんな状態で戦闘なんて」
船にいた女が突然しゃべりだしたため、一夏は驚いてそちらを見る。
女は口元に手を当て、どこか楽しそうに空の彼方を見ていた。
――いや、待て。
俺がISのハイパーセンサーを使って見ている光景を、たかが密漁者が見ている!?
「兄さんも、あかんなぁ。鈍い男は嫌われるで」
ドン!と腹部に衝撃が走る。それと同時に、白式のエネルギーが切れて、装甲が消えてしまった。
「お……お前は……?」
倒れた一夏が僅かに顔を上げると、そこには見たことのない、全身装甲のISが立っていた……。
◆
〈side:海上の戦闘組〉
「どりゃぁぁぁぁ!!」
先手を取ったのは俺だ。不意打ち同然の瞬時加速&抜刀で、ビームライフルを切り落とす。
確かにビームライフル本体は貴重だが、機体の方が最優先だ!
「なんとっ!?まさか、武器を狙うとは……」
「へっ!まさか武器までPS装甲じゃあないからな!」
そして即座に距離をとる。その判断は正しかったようで、さっきまで俺がいた空間を、ビームの刃が薙いだ。
――いや、刃を伸ばしたのか?
レッドフレームの胸部装甲は、わずかに切り裂かれていた。
「言い忘れていたが、私は接近戦の方が得意だ」
「見りゃ分かるっての!」
くそっ!厄介だな、ホント!
「紅也!援護を……」
「ダメだ!箒はエネルギーを使うな!やるなら、実体剣だけでやってくれ」
「しかしっ……」
「いいか、『私なら倒せる』とか思うな!今俺が互角に戦えてるのは、あいつがお前を警戒してるからなんだよ!」
箒から入った通信に答えつつも、刃からは目を放さない。
ちょっと乱暴に返答しすぎたか?だけど、気を使う余裕はねぇ!
避けるべきものは避け、よけきれないものはシールドで防ぐ。
とにかく、今必要なのは時間だ。
奴のPS装甲が切れれば、後はガーベラで……。
「――時間稼ぎなど、無駄なことだ」
二刀を持ち、さらに手数を増やすデュエル。
嵐のような連撃を前に、俺は距離を取るしかない。
そろそろ、バックパックの推進剤が底をつきそうだ。
(くそっ……8!プロペラントタンクを分離後爆破!奴の視界を塞ぐぞ!)
《ガッテンだ!》
レッドフレーム本体のエネルギーを消費し、加速する。デュエルもそれに動揺はせず、正面から突っ込んできたが――俺はそれを回避する。
そしてデュエルの頭上に、推進剤をわずかに含んだタンクを投下。奴はすぐに迎撃したが、それが災いした。
ドン!
小規模な爆発が起こり、デュエルの装甲表面を焦がす。
好機が、来た。
「今だ!箒!!」
「はあぁぁぁぁ!!」
〈雨月〉から、無数のエネルギー球が放たれ、煙に穴をあける。
そこに敵を見た俺は、ビームの刃を実体化させ、トドメを刺すべく動こうとしたが――
――ゾクリ。
不意に、脳の奥が冷たくなる。
何か、嫌な予感がする。俺は、攻撃を躊躇してしまった。
そして――
俺とデュエルの間を、黄色い閃光が走りぬけていった。
「ちょっと待ちぃ!こっからは2対2や。フェアプレーの精神でいこうや!」
「なっ!?新手?」
慌てて砲撃を行ったISを探す。
発見。カーキ色の機体に、全身に搭載された火器。あれは――
「GAT-X103、バスターか!」
「よう知っとるな、その通りや!」
自分の感覚に従って正解だった。
あのままあそこにつっこんだら、俺は焼け死んでただろう。
「一体、どこにいたのだ!?」
箒が叫ぶ。
「姉ちゃん、アホやなあ……。敵に『自分は船におりました』なんて言うわけないやろ!」
…………言っとる。
じゃ、なくて!船だって!?
「まさか…さっきの……?」
「当たりや、兄ちゃん。迂闊やで?戦場で、敵の言葉に従うなんて……」
「チョッパー!あれは、あなたの船だったのですか?」
「……は?エッジ、自分何を言うとんねん!」
……もういいや。
デュエルは復活したが、装甲がところどころ抉られている。
さすがは第四世代か。PS装甲を貫通するとは……。
「ま、待て!では、一夏は……」
「あの兄ちゃんか?今はおねんねしてるで?ホンマに間抜けやったな……」
「黙れ!」
箒が激昂し、バスターへと突っ込んでいく。
確かに、あの機体に接近戦武装はないけど……ちょっと待て!
策も無しに勝たせてくれるほど、相手はヤワじゃないぞ!
むしろこれは……
ハメられたか!!
バスターの両肩の6連装ミサイルポッドが開き、左右合計12発のミサイルが箒を襲う。
が、箒はそれを紅椿の機動性でかわし、距離を詰めようとする。
俺が見ていられたのは、ここまでだった。
「なにをボサっとしている!」
俺の正面にはデュエルが。
とっさに赤いシールドを突き出すも、耐ビームコーティングを失っているそれは、あっさりと切り裂かれた。
「さっきの爆発は良かったが……こちらが一人と油断したな!」
「まったくだぜ!騎士が不意打ちとはな!!」
もう出し惜しみはしていられない。ビームサーベルから刃を出し、切り合いに応じる。
「ふっ、私は自分のルールを他人に課すほど、融通の効かん人間ではないさ!」
「その言葉、どこぞの教師に聞かせてやりたいな!」
一撃、二撃。
相手のビームサーベルも一本だ。どうやら、さっきのでだいぶエネルギーを減らしたらしい。――これなら、付け入る隙があるはずだ!
「互いにエネルギーが心もとないな!どうする?決闘でもするか?」
「三歩歩いてズドン!か?じゃあ俺は一歩目で撃つぜ!」
「では私は振りかえらんぞ」
「そうかい!」
冗談の応酬をしてはいるが、斬り合いも続いている。
こっちとしては、斬られる=死ぬだから、かなり気を使うんだが!?
いいよな!絶対防御って奴はよぉ!
……と、唐突にデュエルは俺から距離をとる。
見れば、ビームサーベルも輝きを失って……時間切れか!
「俺の……」
「勝ちだ、とは言わせへんよ」
ガキイィィン!
俺の背中に、何かが衝突した。
レッドフレームは体勢を崩し、状況がつかめない。
手足を動かし、8がスラスターを制御してどうにか前を向くと――
正面には、合体させた二つの筒を腰だめに構えたバスターがいた。
「はん!そんなモンが当たるとでも……」
「ぐっ……紅也……」
――冷やりとした。
背後から聞こえたのは、箒の声。
何故?
決まっている。
さっき激突した物体は、紅椿だったのだ。
成るほど。だからデュエルは撤退したのか。
俺を追い込んだから。
そうかそうか。
これは
まずい。
「二人まとめて、吹き飛びィ!」
ビーム・マグナムの比ではない。極太の火線が、俺達を呑み込もうとする。
――箒を連れて逃げられるか?
無理だ。
――俺一人なら?
ギリギリ間に合う。
――じゃあ箒は?
絶対防御がある。大丈夫だ。
――じゃあ、お前は……
――巻き込まれた一般人を、見殺しにするのか?
いや……
――なら、どうする?
決まってんだろ。弟子一人守れなくて、何が師匠だッ――!
「うおぉぉぉぉっ!!」
葵から借りた、ブルーフレームのシールドを構える。
損傷は、さっき壊れたレッドのシールドよりも、若干マシというレベル。
こんなんで大丈夫なのか?
――大丈夫だ、問題ない!!
着弾。
あまりの衝撃で機体が傾くが、スラスターを吹かしてふんばる。
シールドにひびが入っていく。やはり、限界なのか……?
「あ……紅也……」
いや、限界なんて知るか!せめて箒だけでも、きっちり逃がしてやる!
「箒……逃げ……」
そして――
暴力的な破壊の光が、俺の左腕を呑み込んでいった……。
紅也の「大丈夫だ、問題ない」は……。