太陽がさんさんと照りつける、真夏の砂浜。気がついたら、私はそこに立っていた。
周りには誰もいない。こんなにもいい天気なのに、誰一人。
それはそうだろう。
ここは、軍の敷地内なのだから。
「じゃあな、行ってくる」
誰もいないはずだった、灼熱の砂浜。
いきなり聞こえたその声に驚き振り向いた私は、気がついたら空港にいた。
そして――
目の前には、小さい私が立っていた。
「待って!どうして行っちゃうの?」
いや――違う。
私の目線を追うように、くるりと後ろを振り返れば、そこには私がもう一人。
そうか……こっちが私で、さっきのが紅也。これは、私の昔の思い出だ。
「どうしてって……俺は、強くなりたいし、世界を見たいんだ。そうしていつか、師匠みたいに、自分の信念ってやつを見つけたい。だから……」
「そんなの、関係ない!何で、一人で行っちゃうの?何でお兄ちゃんは、私を置いて行くの!?」
「それは……お前に……強くなって欲しいからだ」
「強く……?」
そうだ。
これは、つらかった別れの思い出。そして、私の原動力。
「そう、強く。お前も、いつまでも俺と一緒って訳にはいかないからさ。一人でも大丈夫になってほしいんだ」
あのときの私は弱かった。
一人じゃなんにもできなくて、ずっと紅也の後を歩いてた。
だから、紅也は――お兄ちゃんは、私を置いていったんだ。
「じゃあ……私が強くなったら、お兄ちゃんは帰ってきてくれる?」
「もちろんだ!ただし、その頃には俺ももっと強くなってるからな!」
「じゃあ、約束!」
「ああ、約束だ!」
「コウヤ!搭乗の時間だ。置いてくぞ~」
「あ、カンベンしてくださいよ、師匠!」
去っていくお兄ちゃんに、私たちは手を振り続ける。
もう泣き顔じゃない。だって、また会えるから。
私が強くなれば、紅也は帰ってくるから。
◆
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
緊急通信を知らせるブザーの音で、私は意識を覚醒させる。
どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。こんな状況なのに。
自分で考えてる以上に、紅也の怪我のショックが大きいんだろうか、と自己分析するも、あいにく答えは出そうにない。というか、今はそんなことをしてる場合じゃない。
「……私」
「《アメノミハシラ》が、日本近海にて不自然な熱源を探知しました。しかし、目視は不可能。推測ですが、ミラージュコロイドを使用した輸送機か何かだと思われます」
「……そう。座標は?」
「
「……ありがとう」
通信を切る。
なるほど。最初に紅也達が福音と交戦したとき、デュエルがどこから現れたか、ずっと気になってた。
でも、納得。きっともう一人味方がいて、接敵ギリギリまで潜伏してたんだろう。
誘拐に妥当な人数は3人。七実も不承島でそんなことを言ってたっけ。
それはさておき。
ブルーフレームに送られてきた座標を確認する。どうやら慎重に行動してるらしく、まだ遠くへは行ってない。
――今からでも、十分追いつける。
それを確認した私は、紅也の師匠の所へ向かう。
昔、私と紅也を引き離した、あの男の所へ。
確かに、あの男は気にいらない。でも、ASTRAYを完成させたのはあの男だし、メカニックとしても一流なのは認めてる。
だから、好きとか嫌いとかそういう個人的な感情は全部無視して、頼んだ。
――紅也の力を、使うために。
生徒も教員もいない廊下を、静かに駆け抜ける。
おそらく、福音は見つからないけど、任務は継続中なんだろう。あるいは、N.G.Iあたりが圧力をかけてるのかもしれない。Xナンバーが二機もあったら、当然取り返したいと思うだろうし。エイミーさんとストライクまで駆りだしたんだから……。
「来たな、葵」
中庭に出るやいなや、あの男の声が聞こえた。
その隣には、直立する私のブルーフレームの姿もある。
「……首尾は?」
「オイオイ、いきなりだな~。
まあ、パーツの規格自体は合ってるからな。装着は済んだぜ。……ただし、ASTRAYの初期バックパックだけは外してある。ビームサーベルを使うときは、拡張領域から直接呼び出してくれ」
「……わかった」
説明を聞きながら、私は新しくなった愛機を眺める。
新しくなった、といってもそこまで大きな改造をしたわけじゃない。紅也から預かった新型バックパック、タクティカルアームズを装備したのだ。
青い機体が背負う赤い大剣を見ると、紅也の分まで私が戦う、という気持ちがどんどん強くなっていく。
「それと、紅也がシールドを壊しちまったから、持ってたPS装甲材で代わりのシールドを作っておいた。いいか!レアモノだから、絶対壊すなよ!」
「善処する。……ありがとう」
ブルーフレームに触れると、装甲が光となって、一瞬で私に装着される。
違和感は全くない。タクティカルアームズは、まるで最初からこの機体のものであったかのように、自然になじんでいた。
軽く上昇すると、バックパックが火を吹き、思ったよりも速く空に近づく。
その感覚に心地よさを覚えながら、私は例の地点へ、全速力で向かうのだった……。
*
その一時間前……
〈side:織斑先生の部屋の人々〉
「あるわよ、方法」
葵たちが退室した後、突如響いた声。話を聞かれていたことよりも、女が言った言葉の方に動揺した一夏たちは、声の主を探してきょろきょろと視線をさまよわせる。
「ど、どこにいるんだ?見つからねぇぞ」
「そりゃそうよ。部屋の外にいるんですもの。……入っていいかしら?」
一夏の言葉に突っ込みを入れた声の主は、そうことわってからドアをノックした。
「あ……どうぞ」
その丁寧な物腰に、思わず敬語になってしまう一夏は、どこか滑稽である。
さて、こうして入室したその女は、あのストライクの操縦者、エイミーだった。
「……で、何の話をしてたのかしら?」
「あなた、絶対聞いてましたわよねぇ!?」
すっとぼけるエイミーに対して怒涛の突っ込みを入れたのは、今日も絶好調のセシリアだ。きっと、束に無視されたことや作戦からハブられたうっぷんが、全てツッコミ
「私が聞いたのは、Xナンバー2機が消えた、って話から後だけよ。それより前の、不抜けたセリフなんか聞いてない。……で、まず聞きたいんだけど、あなたたちはどうしたいの?」
そう言ってから、エイミーは皆の顔を見渡す。誰もが『行きたいけど、行っても役に立たない……』とでも言いたげな顔で悩んでいるが、一人だけ。真っ先に手を上げた者がいた。
「私は行く。紅也が怪我をしたのは、私が至らなかったせいだ。
次は……絶対に負けない。なんとしても奴を……奴らを倒してやる」
俯いていた顔を上げ、拳を作って宣言したのは、なんと箒であった。先程までの混乱は既に無く、その目には再び炎が灯っていた。
彼女は思ったのだ。奴らを倒すことこそが、紅也に報いることに繋がると。そうでもしなければ、紅也に借りを返すことはできないと。
「そうだよな!俺も行くぜ。
このままじゃ終われねぇ……終われねぇんだ!」
続いて一夏が参戦を宣言する。元々、彼はリベンジに乗り気であった。敵の居場所が分かるのであれば、当然飛び出していくだろう。
そして――
「では、わたくしも参りましょう。たとえ攻撃が聞かなくとも、牽制くらいはできますわ!」
「あたしも行くわよ!セシリアばっかにいいカッコさせるわけにはいかないじゃない!」
「僕も。新しく防御用のパッケージが届いてるから、みんなを守ることならできる」
「攻撃は効かなくとも、AICは使える。私も行こう」
「私にできることは……ない。……でも、紅也くんに怪我させた人達を……許せない」
セシリアが。
鈴が。
シャルが。
ラウラが。
簪が。
その場にいた全員が、戦う意思を固めたのだ。
「どうやら、みんな、意志は固いみたいね。……後は、アオちゃんね……」
「葵なら大丈夫だ!きっとすぐに立ち直って、来るに決まってる!」
エイミーが呟いた一言に、一夏が声を大にして反論する。
それは、仲間への信頼の表れか。それとも……
「……来るとか来ないとか、そういう意味じゃないのよ……」
思案顔で呟いた一言に反応したものは、今度こそ一人もいなかった。
「じゃあ、みんなは準備をしておいてね。私は、織斑さんに作戦の許可を貰いに行くから」
エイミーが指示を出し、その場は解散となる。
*
再び現在――
〈side:福音強奪部隊〉
「それにしても……ボロボロだったじゃねぇか、エッジ」
「いくら2対1だったとはいえ、情けないで。自分」
「面目ない……。モルゲンレーテの赤はともかく、もう一機の女を見誤っていた」
「そのことなんだが……あの機体。どこのデータベースにも存在してねェぜ」
「……! 相違ないか?エフ」
「ああ。映像を見たが、間違いねェ。それにあの技術……」
「……エフ?どうしたん?」
「何でもねェよ」
そう言ってエフは、不快な声で笑い出す。
音の爆発、とでも評するべき声量に顔をしかめるエッジとチョッパー。だが、彼女らは気付かない。
――キュイィィン……
機体後部に固定された福音が、低い音を響かせていたことに。
◆
〈side:花月荘:司令室〉
「山代さん!?何をやってるんですか!戻ってきてくださぁい!」
千冬によって司令室に呼ばれた一夏たちが最初に聞いたのは、葵に呼びかける麻耶の声であった。オープン・チャネルであれば声を出さずとも伝わるのだが……どうやら、それに気づかないほどテンパっているらしい。
「ちふ……織斑先生!何があったんですか?」
皆を代表して、一夏が千冬に声をかける。
「無断出撃だ!山代がここから飛び出した。理由はわからんが、おそらく……」
「奴らの場所をつきとめたのね。モルゲンレーテには、アメノミハシラがあるし。私達と同じく、熱源探知をしたんでしょ」
それに対して、モニターの方を向いたまま答えたのは千冬とエイミーであった。
二人の表情はうかがえないが、おそらく苦い顔をしているのだろう。声の端々に、そのようなニュアンスが隠れている。
「それで、わたくしたちを招集した理由とは……?」
おそるおそる、といった感じでセシリアが問いかけると、返事はすぐに返ってきた。
「お前たちに命令だ。山代をつれ戻せ。
現状況下での指示は『待機』だ。山代と強奪部隊を交戦させるわけにはいかん。なんとしても、接触前に捕まえろ!」
「わ、わかりました」
命令違反……下手をすれば、葵の今後に関わる問題だ。しかも、そんなことにも気付けない現在の葵は、明らかに正常な状態ではない。
そんな状態でXナンバー2機と交戦したら、おそらく……
最悪の事態を想定して、全員の顔が青ざめる。
「――教官」
そんな空気の中、ラウラがおもむろに口を開く。普段と違う様子が気になったのか、千冬は「何だ?」と言って続きを促した。
「作戦の詳細を確認したいのですが。万が一……葵と敵が交戦を始めた場合、我々はどうすれば?」
万が一……。果たしてそうだろうか?
仮に、自分たちが葵に追いつけず、戦闘中に遭遇した場合にどうするか。ラウラの聞いていることはそれだった。
「……命令は『山代をつれ戻す』ことだ。それ以外の指示は無い」
「! それって……」
シャルが何かに気付いた。それを皮切りに、全員の表情が明るいものに変わっていく。
「いいんですか?織斑先生?」
「……『万が一』だ。わざと手を抜いたら承知せんぞ!」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
生徒7人の声が重なった。
「では、私もアオちゃん追跡に加わりましょう。……引率は必要でしょう?」
「そうだな……頼めるか?」
「任せてください。ただし、一つ頼めるかしら?」
「……何だ?」
「私が飛ぶとき、『ストライク発進、どうぞ!』……って言ってくれないかしら?」
「ふざけるな!!」
そんなやりとりの中……
「織斑先生!海上にISの反応が……!」
麻耶が告げたこの情報により、事態は大きく動き出す……。
ちーちゃんにオペ子は似合わないよ~!
組織サイドの人物はほぼオリキャラですが、コードネームは某ゲームから拝借しております。