IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第65話 いつか誓う僕ら

 太陽がさんさんと照りつける、真夏の砂浜。気がついたら、私はそこに立っていた。

 周りには誰もいない。こんなにもいい天気なのに、誰一人。

 それはそうだろう。

 ここは、軍の敷地内なのだから。

 

「じゃあな、行ってくる」

 

 誰もいないはずだった、灼熱の砂浜。

 いきなり聞こえたその声に驚き振り向いた私は、気がついたら空港にいた。

 そして――

 

 目の前には、小さい私が立っていた。

 

「待って!どうして行っちゃうの?」

 

 いや――違う。

 私の目線を追うように、くるりと後ろを振り返れば、そこには私がもう一人。

 そうか……こっちが私で、さっきのが紅也。これは、私の昔の思い出だ。

 

「どうしてって……俺は、強くなりたいし、世界を見たいんだ。そうしていつか、師匠みたいに、自分の信念ってやつを見つけたい。だから……」

「そんなの、関係ない!何で、一人で行っちゃうの?何でお兄ちゃんは、私を置いて行くの!?」

「それは……お前に……強くなって欲しいからだ」

「強く……?」

 

 そうだ。

 これは、つらかった別れの思い出。そして、私の原動力。

 

「そう、強く。お前も、いつまでも俺と一緒って訳にはいかないからさ。一人でも大丈夫になってほしいんだ」

 

 あのときの私は弱かった。

 一人じゃなんにもできなくて、ずっと紅也の後を歩いてた。

 だから、紅也は――お兄ちゃんは、私を置いていったんだ。

 

「じゃあ……私が強くなったら、お兄ちゃんは帰ってきてくれる?」

「もちろんだ!ただし、その頃には俺ももっと強くなってるからな!」

「じゃあ、約束!」

「ああ、約束だ!」

 

「コウヤ!搭乗の時間だ。置いてくぞ~」

「あ、カンベンしてくださいよ、師匠!」

 

 去っていくお兄ちゃんに、私たちは手を振り続ける。

 もう泣き顔じゃない。だって、また会えるから。

 私が強くなれば、紅也は帰ってくるから。

 

 So(だから),I(私は)――

 

 

 

 

 

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

 緊急通信を知らせるブザーの音で、私は意識を覚醒させる。

 どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。こんな状況なのに。

 自分で考えてる以上に、紅也の怪我のショックが大きいんだろうか、と自己分析するも、あいにく答えは出そうにない。というか、今はそんなことをしてる場合じゃない。

 

「……私」

「《アメノミハシラ》が、日本近海にて不自然な熱源を探知しました。しかし、目視は不可能。推測ですが、ミラージュコロイドを使用した輸送機か何かだと思われます」

「……そう。座標は?」

P(プロト)-03に転送しました」

「……ありがとう」

 

 通信を切る。

 なるほど。最初に紅也達が福音と交戦したとき、デュエルがどこから現れたか、ずっと気になってた。

 でも、納得。きっともう一人味方がいて、接敵ギリギリまで潜伏してたんだろう。

 誘拐に妥当な人数は3人。七実も不承島でそんなことを言ってたっけ。

 

 それはさておき。

 ブルーフレームに送られてきた座標を確認する。どうやら慎重に行動してるらしく、まだ遠くへは行ってない。

 

 ――今からでも、十分追いつける。

 

 それを確認した私は、紅也の師匠の所へ向かう。

 昔、私と紅也を引き離した、あの男の所へ。

 確かに、あの男は気にいらない。でも、ASTRAYを完成させたのはあの男だし、メカニックとしても一流なのは認めてる。

 だから、好きとか嫌いとかそういう個人的な感情は全部無視して、頼んだ。

 

 ――紅也の力を、使うために。

 

 生徒も教員もいない廊下を、静かに駆け抜ける。

 おそらく、福音は見つからないけど、任務は継続中なんだろう。あるいは、N.G.Iあたりが圧力をかけてるのかもしれない。Xナンバーが二機もあったら、当然取り返したいと思うだろうし。エイミーさんとストライクまで駆りだしたんだから……。

 

「来たな、葵」

 

 中庭に出るやいなや、あの男の声が聞こえた。

 その隣には、直立する私のブルーフレームの姿もある。

 

「……首尾は?」

「オイオイ、いきなりだな~。

 まあ、パーツの規格自体は合ってるからな。装着は済んだぜ。……ただし、ASTRAYの初期バックパックだけは外してある。ビームサーベルを使うときは、拡張領域から直接呼び出してくれ」

「……わかった」

 

 説明を聞きながら、私は新しくなった愛機を眺める。

 新しくなった、といってもそこまで大きな改造をしたわけじゃない。紅也から預かった新型バックパック、タクティカルアームズを装備したのだ。

 青い機体が背負う赤い大剣を見ると、紅也の分まで私が戦う、という気持ちがどんどん強くなっていく。

 

「それと、紅也がシールドを壊しちまったから、持ってたPS装甲材で代わりのシールドを作っておいた。いいか!レアモノだから、絶対壊すなよ!」

「善処する。……ありがとう」

 

 ブルーフレームに触れると、装甲が光となって、一瞬で私に装着される。

 違和感は全くない。タクティカルアームズは、まるで最初からこの機体のものであったかのように、自然になじんでいた。

 軽く上昇すると、バックパックが火を吹き、思ったよりも速く空に近づく。

 その感覚に心地よさを覚えながら、私は例の地点へ、全速力で向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 その一時間前……

 

 

 

〈side:織斑先生の部屋の人々〉

 

「あるわよ、方法」

 

 葵たちが退室した後、突如響いた声。話を聞かれていたことよりも、女が言った言葉の方に動揺した一夏たちは、声の主を探してきょろきょろと視線をさまよわせる。

 

「ど、どこにいるんだ?見つからねぇぞ」

「そりゃそうよ。部屋の外にいるんですもの。……入っていいかしら?」

 

 一夏の言葉に突っ込みを入れた声の主は、そうことわってからドアをノックした。

 

「あ……どうぞ」

 

 その丁寧な物腰に、思わず敬語になってしまう一夏は、どこか滑稽である。

 さて、こうして入室したその女は、あのストライクの操縦者、エイミーだった。

 

「……で、何の話をしてたのかしら?」

「あなた、絶対聞いてましたわよねぇ!?」

 

 すっとぼけるエイミーに対して怒涛の突っ込みを入れたのは、今日も絶好調のセシリアだ。きっと、束に無視されたことや作戦からハブられたうっぷんが、全てツッコミ(パワー)に転化されたのだろう。

 

「私が聞いたのは、Xナンバー2機が消えた、って話から後だけよ。それより前の、不抜けたセリフなんか聞いてない。……で、まず聞きたいんだけど、あなたたちはどうしたいの?」

 

 そう言ってから、エイミーは皆の顔を見渡す。誰もが『行きたいけど、行っても役に立たない……』とでも言いたげな顔で悩んでいるが、一人だけ。真っ先に手を上げた者がいた。

 

「私は行く。紅也が怪我をしたのは、私が至らなかったせいだ。

 次は……絶対に負けない。なんとしても奴を……奴らを倒してやる」

 

 俯いていた顔を上げ、拳を作って宣言したのは、なんと箒であった。先程までの混乱は既に無く、その目には再び炎が灯っていた。

 彼女は思ったのだ。奴らを倒すことこそが、紅也に報いることに繋がると。そうでもしなければ、紅也に借りを返すことはできないと。

 

「そうだよな!俺も行くぜ。

 このままじゃ終われねぇ……終われねぇんだ!」

 

 続いて一夏が参戦を宣言する。元々、彼はリベンジに乗り気であった。敵の居場所が分かるのであれば、当然飛び出していくだろう。

 そして――

 

「では、わたくしも参りましょう。たとえ攻撃が聞かなくとも、牽制くらいはできますわ!」

「あたしも行くわよ!セシリアばっかにいいカッコさせるわけにはいかないじゃない!」

「僕も。新しく防御用のパッケージが届いてるから、みんなを守ることならできる」

「攻撃は効かなくとも、AICは使える。私も行こう」

「私にできることは……ない。……でも、紅也くんに怪我させた人達を……許せない」

 

 セシリアが。

 鈴が。

 シャルが。

 ラウラが。

 簪が。

 

 その場にいた全員が、戦う意思を固めたのだ。

 

「どうやら、みんな、意志は固いみたいね。……後は、アオちゃんね……」

「葵なら大丈夫だ!きっとすぐに立ち直って、来るに決まってる!」

 

 エイミーが呟いた一言に、一夏が声を大にして反論する。

 それは、仲間への信頼の表れか。それとも……

 

「……来るとか来ないとか、そういう意味じゃないのよ……」

 

 思案顔で呟いた一言に反応したものは、今度こそ一人もいなかった。

 

「じゃあ、みんなは準備をしておいてね。私は、織斑さんに作戦の許可を貰いに行くから」

 

 エイミーが指示を出し、その場は解散となる。

 

 

 

 

 

 

 再び現在――

 

 

〈side:福音強奪部隊〉

 

「それにしても……ボロボロだったじゃねぇか、エッジ」

「いくら2対1だったとはいえ、情けないで。自分」

「面目ない……。モルゲンレーテの赤はともかく、もう一機の女を見誤っていた」

「そのことなんだが……あの機体。どこのデータベースにも存在してねェぜ」

「……! 相違ないか?エフ」

「ああ。映像を見たが、間違いねェ。それにあの技術……」

「……エフ?どうしたん?」

「何でもねェよ」

 

 そう言ってエフは、不快な声で笑い出す。

 音の爆発、とでも評するべき声量に顔をしかめるエッジとチョッパー。だが、彼女らは気付かない。

 

 ――キュイィィン……

 

 機体後部に固定された福音が、低い音を響かせていたことに。

 

 

 

 

 

 

〈side:花月荘:司令室〉

 

「山代さん!?何をやってるんですか!戻ってきてくださぁい!」

 

 千冬によって司令室に呼ばれた一夏たちが最初に聞いたのは、葵に呼びかける麻耶の声であった。オープン・チャネルであれば声を出さずとも伝わるのだが……どうやら、それに気づかないほどテンパっているらしい。

 

「ちふ……織斑先生!何があったんですか?」

 

 皆を代表して、一夏が千冬に声をかける。

 

「無断出撃だ!山代がここから飛び出した。理由はわからんが、おそらく……」

「奴らの場所をつきとめたのね。モルゲンレーテには、アメノミハシラがあるし。私達と同じく、熱源探知をしたんでしょ」

 

 それに対して、モニターの方を向いたまま答えたのは千冬とエイミーであった。

 二人の表情はうかがえないが、おそらく苦い顔をしているのだろう。声の端々に、そのようなニュアンスが隠れている。

 

「それで、わたくしたちを招集した理由とは……?」

 

 おそるおそる、といった感じでセシリアが問いかけると、返事はすぐに返ってきた。

 

「お前たちに命令だ。山代をつれ戻せ。

 現状況下での指示は『待機』だ。山代と強奪部隊を交戦させるわけにはいかん。なんとしても、接触前に捕まえろ!」

 

「わ、わかりました」

 

 命令違反……下手をすれば、葵の今後に関わる問題だ。しかも、そんなことにも気付けない現在の葵は、明らかに正常な状態ではない。

 そんな状態でXナンバー2機と交戦したら、おそらく……

 

 最悪の事態を想定して、全員の顔が青ざめる。

 

「――教官」

 

 そんな空気の中、ラウラがおもむろに口を開く。普段と違う様子が気になったのか、千冬は「何だ?」と言って続きを促した。

 

「作戦の詳細を確認したいのですが。万が一……葵と敵が交戦を始めた場合、我々はどうすれば?」

 

 万が一……。果たしてそうだろうか?

 仮に、自分たちが葵に追いつけず、戦闘中に遭遇した場合にどうするか。ラウラの聞いていることはそれだった。

 

「……命令は『山代をつれ戻す』ことだ。それ以外の指示は無い」

「! それって……」

 

 シャルが何かに気付いた。それを皮切りに、全員の表情が明るいものに変わっていく。

 

「いいんですか?織斑先生?」

「……『万が一』だ。わざと手を抜いたら承知せんぞ!」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

 

 生徒7人の声が重なった。

 

「では、私もアオちゃん追跡に加わりましょう。……引率は必要でしょう?」

「そうだな……頼めるか?」

「任せてください。ただし、一つ頼めるかしら?」

「……何だ?」

「私が飛ぶとき、『ストライク発進、どうぞ!』……って言ってくれないかしら?」

「ふざけるな!!」

 

 そんなやりとりの中……

 

「織斑先生!海上にISの反応が……!」

 

 麻耶が告げたこの情報により、事態は大きく動き出す……。




ちーちゃんにオペ子は似合わないよ~!

組織サイドの人物はほぼオリキャラですが、コードネームは某ゲームから拝借しております。
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