IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第6話 本名?偽名?それとも……

「……で、具体的にはどうするんだ?」

「そんなの、決まっているでしょう?あなたと山代 葵は、世界で二人だけの男性操縦者……ということになっているのですわよ。その立場を利用して、仲良くなるのですわ!」

「なるほど……。でも何か、騙すみたいで気が乗らないなぁ」

「甘いですわよ!先に騙したのはあっちですわ!

 ……そして自然に部屋に上がって、女であることの証拠を手に入れなさい!!」

 

 最後は、高圧的な命令口調。コイツ、かなりヒートアップしてるな。

 

「まあ、正直俺もかなり気になるからな。やってみるよ。あ、後お前が言ってた山代 葵のことを聞きたいんだけど……」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「……また後でな」

 

 人の振り見て我が振り直せ。昨日の箒の二の舞はごめんだ。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 紅也〉

 

 お、織斑たちが戻ってきた。何を話していたかは気になるが、それを聞くのは野暮だろう。

 誰にだって、プライバシーは必要だ。

 三時間目が始まる。

 

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどが挙げられ―――」

「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられてるみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

 クラスメイトの一人が、不安げな声で尋ねる。……そういうものなのか?俺の機体はいろいろ変わったところが多いからなぁ。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出るということはないわけです。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、形崩れしてしまいますが―――」

 

 そこまで言った山田先生と、織斑の目が合う。そして、突然その顔が朱に染まる。

 

「え、えっと、いや、その、お、織斑君はしていませんよね。わ、わからないですね、この例え。あは、あははは……」

 

 ごまかしのつもりか、無理やりな笑い声は、教室の空気を微妙なものに変えた。

 しかし、若干2名、異なった反応をみせた者たちがいた。

 

(……織斑君『は』?)

(山代 葵については触れませんでしたわね……)

 

 なんか、妙なリアクションをしてるなー、とは思ったものの、授業中だし深く突っ込む理由もない。彼らがそのようなことを考えていたなど、俺は知るよしもなかった。

 

「んんっ、山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ。そ、それともう一つ大事なことは……」

 

 その後、ささいなことからなぜか十代女子による恋愛しゃべり場が始まった。正直、ついていけねぇ……。

 

 ……ところで、入学直後なのに2時間続けて授業が脱線してる件。

 

 

 

 

 

 

「なあ、山代」

 

 授業終了後、唐突に織斑が話しかけてきた。

 昨日も感じたが、気さくな奴だと思う。なんていうか……こう、からみやすい雰囲気を持ってるというか……ダメだ。まとまんねぇ。

 

「ん、どうしたんだ織斑。なんか用があるのか?あるんだな!」

「軽くデジャブを感じるんだけど!?」

「いや、悪いな。周りに誰も知り合いがいないうえに、こんな環境だから、つい……な」

「また同じセリフ!?お前はあれか、NPCか?」

 

 ……うん。からみやすい。

 

「気にするな。ただ、からかっただけだ。……で、何か用か?」

「べ、別に用があるわけじゃないけどな、ホラ、アレだよ。せっかく2人だけの男子なんだから、仲良くなっときたいな~、とか思ったんだよ」

 

 ……これはあれか、ネタフリか?いいだろう、乗ってやろう。

 

「お前、もしかして……コレなのか?」

 

 右手の甲を左のほほに当てる。いわゆる『オカマ』のポーズだ。

 

「え、うそうそ、織斑くんって……」

「美少女だらけのこの環境で、何の反応もしないと思ったら……」

「えー、超ショックー!!」

「でも……イイかも……」

 

 ざわ……ざわ……

 周囲がうるさくなってきた。

 

「ばっ……違ぇよ!何言ってんだよ!」

 

 慌てる織斑。しかし、前回の話で似たようなことを考えていたのを、コイツは忘れたのだろうか?(天の声)

 

「ふっ……冗談だよ。」

「ふざけんな!シャレになんねぇよ!!」

「え!?……じゃあ、本当に……」

 

 すすっ、と椅子を引き、織斑から距離を取る。そして再び始まる、ギャラリーによる「ざわ……ざわ……」劇場。

 

「うあーーーっ!無現ループか!?」

 

 パァン!

 

「休み時間とはいえ騒ぎ過ぎだ、馬鹿者」

 

 いつの間に 一夏の背後に 出席簿

 現れたのは、もちろん織斑先生だ。いつも思うが、実はどこかでスタンバイしていて、騒いだら出てくるようにしてるんじゃないか?

 どう考えてもコントだ。タイトルは「絶対に騒いではいけないIS学園24時」ってとこか?

 

 バアン!

 

「山代。私がそんなにヒマに見えるか?」

「申し訳ございません」

 

 すぐに土下座。ああ、朝のトラウマがよみがえる。

 

「……で、織斑。おまえのISだが、準備まで時間がかかる」

「へ?」

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

「???」

 

 顔を挙げていないせいで表情まではわからないが、織斑が戸惑っているであろうことは良く分かる。

 一方、クラスメート達は、その意味を正しく理解したようだ。

 

「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 専用機を与えられる。それはつまり、世界に467個しか存在しない、ISコアを得るということ。本来なら、国家か企業に所属する人間にしか与えられないそれを、織斑は手に入れたのだ。貴重な実験体として、データを取られることと引き換えに。

 

(よう……首輪付き)

 

 なんとなく、某古い王様の言葉を思い出した。

 アレか?大量虐殺ルートに入るのか?最後は5対2で決戦か?……ダメだ、織斑先生に勝てるイメージが浮かばねぇ。

 

 開幕早々にビームライフルをフルパワーで発射したのを瞬時加速で回避され、そのまま『零落白夜』でなます斬りにされるところまで想像したところで、ふと話が進んでいることに気付いた。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

 おっと、分からない人のために補足しておこう。

 篠ノ之博士。本名、篠ノ之束。

 ISコアの製作者であり、今の女尊男卑の世界構造を作った元凶ともいえる人。一度会ったことがあるが、極度の人嫌いらしく、ほとんど会話が成立しなかった。

 師匠曰く、「自分の知り合い以外はすべて有象無象」……だそうだ。

 ……そういえば師匠は博士にやたらと嫌われてたけど、なんでだろう?

 

「あの人は関係ない!」

 

 突如、篠ノ之が大声をあげた。どうしたんだ?誰かが、地雷を踏んだんだろうか?

 さっきまで話してたのは、篠ノ之博士のことだから……

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

(……ああ、お姉さんが、嫌いなのか)

 

 篠ノ之博士と話した時、唯一成り立った会話が「妹」の話題だった。

 俺が話す以上のペースでまくしたて、その話題を振ったことを軽く後悔したが、そのときはっきりとわかったことが一つ。

 少なくとも、博士は篠ノ之が大好きだ。

 

(……やりきれねぇな)

 

 ここでネタばらしをしても、篠ノ之の態度は変わらないだろう。それが少し、切なかった。

 

「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

 

 先程までの雰囲気を流すかのように、授業が始まる。

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 またしても織斑の席にやってきたオルコット。かまってほしいのだろうか?

 

「まあ、一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

「? なんで?」

「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

 ……その「この私、○○」って話し方。小物っぽいからやめた方がいいと思う。

 具体的には、第一期中盤で黒幕っぽくふるまった挙句、パワーアップした主人公にあっさり倒されて、あげくに部下に「器量が小さい」とか言われて裏切られそうだ。劇場版では出番があって良かったな。

 

「そして、そこの山代も企業に所属してるなら、専用機を持っているはずですわ。

 そうですわよね、山代さん?」

「ん、ああ。もちろん。……っていっても、ウチの量産機のプロトタイプだけどな」

「へー」

 

 ……織斑、やっぱり話について来れてないだろ。

 

「……馬鹿にしてますの?」

「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」

「それを一般的に馬鹿にしていると言うのでしょう!?」

「……初めて意見が合ったな、オルコット」

 

 無知は罪だ。俺は、そう思う。

 

「……で、山代さんの専用機……確か、ジンカスタムでしたっけ?

 言っておきますけど、今度は負けませんわよ?わたくしの機体は第三世代。アナタの機体はせいぜい第二世代。わたくしが負ける要素はありませんわ!」

「だから、初対面だって言ってるだろ……。それに、ジンはウチで作った機体じゃねぇ。性能テストを頼まれただけだ。」

「まあ、そうでしたの。じゃあ、アナタの専用機って、何ですの?」

 

 その問いには答えず、俺は無言で手を差し出す。

 

「? 何のつもりですの?」

「……ここから先は有料だ。」

「情報料!?アナタ、どれだけ意地汚いんですの!?」

「金は貰えるときに貰う。……それが企業のやり方だ。」

「決め台詞が台無しですわ!……もう結構です!アナタがたは猿どうし、仲良く群れていればいいんですわ!!」

 

 フン!とこちらを―心なしか、織斑を長めに見ていた―睨んで、踵を返すオルコット。

 何がしたかったのだろうか?

 

「まったく、何だよ、あの態度!こうなったら、ぜってー勝ってやる!

 ……というわけで山代、協力してくれないか?」

「……まあ、俺が一人勝ちするよりは面白そうだな。いいぜ、無料(タダ)で協力してやる。とりあえず、学食に行こうぜ」

 

「ああ。……っと、箒も誘っていいか?ほら、さっきのアレで、若干浮いてるし……」

「いいぜ。人数多いほうが楽しいし、な。 おーい篠ノ之、一緒に学食に行かないか?」

「……私は、いい」

 

まだ、さっきのことを引きずっているのだろうか?反応が悪い。

どうする?と織斑に目線を送ると、任せろ、とでも言いたげに立ち上がった。

 

「まあそう言うな。ほら、立て立て。行くぞ」

「お、おいっ!私は行かないと――う、腕を組むなっ!」

 

 ……織斑、パネェ。あそこまで自然に腕を組むなど、呆れを通り越してむしろ感心する。

 そういや、篠ノ之は織斑と幼馴染だ、って言ってたっけ。昔からああだったとしたら、きっと周囲からはカップル扱いされてたんだろうな。

 ――あ、肘関節を決められた。背負い投げ?違うな、アレは……。アレは……。ま、まあ、なんにせよ、見事な投げだ。

 

「……痛いじゃないか」

 

 ネタに走るとは、意外と余裕だな、織斑。ASとISの違いはあるが。

 

「見事なもんだな、篠ノ之」

「ふ、ふん。この程度、誰でも出来るわ」

 

 ……お。照れてるのか?面白れぇなぁ。

 

「まあ、時間もないし、行こうぜ。俺、朝飯食ってないから腹ペコなんだ」

「む、やはり朝餉を抜いていたのか」

「俺もな」

「織斑、お前は自業自得だ」

「……なあ、その織斑っての、止めてくれないか?なんかこう……距離を取られてる気がするというか。嫌なんだよ」

 

「何だって!?お前……やっぱりコレなのか?」

「何ぃ、だ……男色だと!?許さん、そこに直れ、一夏ぁ!!」

「だからぁ、違うっての!!」

 

 うんうん、非常にカオスだ。にぎやかでいいねぇ。

 

「じゃ、先に行くぜ~」

「あ、コラ山代!誤解を解いていけ!!」

「待て、逃げるな、一夏ァ!!」

 

 事態の収拾?そんなの、する気はないね。

 

 

 

 

 

 

 食堂。

 

「すみません、日替わり定食3つ、お願いしまーす」

 

「コラ、何事もなかったかのように原作の流れに乗るんじゃねぇ」

「? 一夏?何を言ってるんだ?」

「いや、なんか言いたくなってな」

 

 メタな発言をしている織斑は、取りあえず無視だ。

 

「まあまあ、結果として、篠ノ之はついてきたんだし、良いじゃねぇか。

 ……名付けて、鮎の友釣り作戦。ミッションコンプリートだ」

 

 ちなみに、友釣りは、釣ろうとしている野鮎の縄張り内に、釣り人が用意したオトリの鮎に掛け針をつけた状態で進入させ、それに対して野鮎が攻撃してきたところを引っかける技法であるから、ネーミングは間違ってない。

 

「俺はオトリか!?」

「まあ、原作のように、手をつないで引っ張ってくるよりはいいだろ」

「さっきからお前たちは何を言ってるんだ?」

 

「はい、日替わり3つお待ち」

「あ、どうも。……ほら、自分の分は自分で持ってけ」

「おう」「ああ」

 

 空いてる席を探し、そこに座る。

 しばらくは黙々と食べていたが、やがて、織斑が口を開く。

 

「なあ、山代」

「紅也、でいいぞ。一夏。

 ……べ、別に勘違いするなよ!お前がどうしても、どうしても名字が嫌だって言ったから、そう呼んでやるだけだからな!」

「ツンデレ乙。で、教室での話の続きなんだが、俺にISの操縦を教えてくれないか?お前も、専用機持ちなんだろ?」

「そうだぜ。でも、教えるっていっても、まずはお前のISの特徴がわからなければ教えられないぜ?」

「ギブ アンド テイクか?さっき、無料で教えてくれるって……」

「そうじゃねぇよ。例えば、お前の機体が砲戦仕様なのに、格闘戦を教えてもしょうがないだろ?って話だ」

 

 味噌汁をすする。うーん、日本人好みのうす味なんだろうが、ちょっと物足りないな。

 オーストラリアの料理って、割と濃い味だったし。

 

「ってことは、紅也って接近戦型の機体なのか?」

「……俺としたことが、タダで情報をくれてやることになるとは。

 ああ、そうだ。でも、ちゃんと遠距離武器も持ってるから、接近戦寄りの万能機、ってとこだな」

「やはりそうか。どうりで刀の扱いがうまいわけだ」

 

 と、今まで黙っていた篠ノ之が口をはさむ。食事は米粒ひとつ残さず完食されており、箸も揃えられている。まさに、日本人の理想形。

 

「え?箒は紅也と試合したことがあるのか?」

 

 驚く一夏。いつの間に……とか、思ってるんだろうな、多分。

 

「朝に、剣道場でな。時間が無くなりそうだったから無理やり終わらせたけど、あのまま続けてたら結構いい勝負になったと思うぜ」

「どの口がいうか。私を圧倒していたくせに。

 ……そうだ、あの時は聞き忘れていたが、アレは一体何だったのだ?いきなり木刀を吹き飛ばされたんだが。」

「ああ、アレ?ただの必殺技だよ」

 

「「ひ、必殺技!?」」

 

「……?何だ?今どきのバトルマンガの主人公なら、必殺技くらい持ってるのは当たり前だろ?」

「なんだそりゃ!?」

「さて、ごちそうさまでした……っと。

 とりあえず、機体のことを織斑先生に聞いてこいよ。そしたら、放課後に特訓だ!」

 

 そう言いながら、食器を片づける。善は急げ、ってやつだ。

 早いうちにアリーナの使用許可と、練習機のレンタルをしておかないと……。

 




次は21時に更新予定です。
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