「ハァァッ!」
切っ先をバスターに向け、私は今や自分のモノとなったタクティカルアームズにエネルギーを送る。するとタクティカルアームズに搭載されたスラスターが全力で稼働し、私は青い流星となってバスターに接近した。
「! 速い!!」
とっさにガンランチャーを構えたバスターだったが、反応は遅れ、刺突を直撃した。
勢いのままに吹き飛ぶバスター。しかし、姿勢制御スラスターを使ってすぐに姿勢を立て直し、再び二門の砲を構えた。
「……ハッ、ハハハハハハ!!なんや!この程度かいな!」
ひどく耳障りな大声が、私の脳を刺激する。
「どうしました、チョッパー?……まさか、とうとう頭がおかしく……」
「『とうとう』って何や!しばくで、自分!
……姉ちゃん。その剣、実体剣やな?」
「……それが何?」
そう返答すると、バスターは肩をすくめるような動作をし、その後私に人差し指を向け、言った。
「つまり、その剣ではワイらには傷一つつけられへんってことや!」
……何だ。本当にそれだけか。
甘い、甘すぎる。
確かに、タクティカルアームズでは、PS装甲を傷つけることはできない。
でも、エネルギーを減らすことはできる。
なぜなら、PS装甲に想定以上のダメージが加わると、ISは一時的に装甲強度を上げるために、更なるエネルギーをつぎ込むからだ。
そうして行きつく先は一つ――フェイズシフト・ダウン。
この剣の破壊力があれば、十分にそれを狙える!
「……とか、思っとるんやろうな。でも、無駄やで」
敵がいきなり呟いたのと同時に、バスターのシールドエネルギーが回復していく。
先程までの消耗が嘘のように、あっという間に。
「……一体……?」
思わず口から出たのは、そんな言葉だった。
「簡単なことや。コイツの拡張領域には、追加のエネルギーパックが満載されてるんや。それも、〈ストライカーパック〉とは比較にならんほどの、なぁ!」
再び始まる砲撃。
……そうか。
妙だとは思ってた。
紅也と交戦してエネルギー切れ間近のデュエルが、なぜ復活したのか。
おそらく、輸送機の中でバスターからエネルギーパックを譲り受け、失った分を補給したんだろう。
……面倒臭い。
ならば、バスターにエネルギー切れを期待しない方がいい。
デュエルは……どうだろう?さすがに戦闘中の補給は無理だと思うけど、分からない。
フェイズシフト・ダウンが狙えないなら、決め手はビームサーベル。でも、タクティカルアームズの防御力がないと、接近戦は厳しい。
「私もいるぞッ!」
デュエルの言葉で、一旦意識を切り替える。
タクティカルアームズをフライトモードに変形させ、PICを使って背中に固定。
第二形態移行を経て非固定浮遊部位へと変化したそれは、私が意識を向けるだけで瞬時加速を発動した。
両手に構えたのはビームサーベル。不意打ち同然でデュエルの懐に飛び込み、振りかぶられたビームサーベルを横に逸らす。
そのままもう一本で胴体を切ろうとした時、邪魔が入った。福音が攻撃を再開したのだ。
慌ててデュエルから距離を取るも、〈銀の鐘〉の爆発の余波で左手のビームサーベルの刃が消えてしまった。動作不良だろうか?
そして再び接近するデュエルと、砲撃するバスター。そして全体を爆撃する福音という、さっきと同じ状態にまで戻されてしまった。
違うのは、私の機動性。第二形態移行によってタクティカルアームズが最適化されたため、敵の攻撃をだいぶ楽に回避できるようになった。
そうはいっても、このままじゃジリ貧だ。何か、状況を打破する一手が欲しい。
――力が欲しいか?
ドクン!
不意に、そんな声が聞こえた。
外から、ではない。私の内面――いや、ブルーフレームから、確かにそんな声が聞こえたのだ。
――俺の力が必要か?
まただ。
聞き覚えのない、男の声。でも、どこかで聞いたことがあるような気がする。そんな矛盾。
――私、は……
返事をしようとしたそのとき。
「イィィィィヤッホォォォォォウ!!」
やたらとハイテンションな女の声が、戦場に響き渡った。
「増援!?」
「マズイ……アレは……」
「「ストライク!!」」
センサーが映し出した、トリコロールの機体・エールストライクは、ものすごい速度で私たちに接近すると、勢いそのままバスターを蹴り飛ばし、海面へと叩きつけた。
「私、見☆参!アオちゃん、大丈夫?」
「……ちっ」
「何故舌打ち!?」
やってきたのは、エイミーさん。私とデュエルの間に滞空し、ビームライフルを構えている。
……正直、あまり来て欲しくは無かった。
必要なのは、『私一人で』Xナンバーを鹵獲した、という結果だったから。
彼女個人のことは嫌いじゃないけど、N.G.Iの彼女の助けは、正直借りたくなかった。
「まあいいわ。
アオちゃん、手伝って!私たちが来たから、アイツらすぐに逃げちゃうわよ」
「それが分かってるのに……。……
ふと漏らした一言に違和感を覚えた私は、アメノミハシラからのデータを参照する。
すると、やはりというかなんというか、いつものメンバーが全員来ていた。
……いないのは、紅也だけだ。
「今日こそ落とさせてもらうぞ、ストライクっ!!」
ストライクの登場から立ち直ったデュエルが、すぐにビームサーベルで襲いかかってくる。
「じゃ、私は
そう言い残して、エイミーさんはビームサーベルを引きぬき、そのままデュエルに格闘戦を挑みに行った。
……まったく、余計な気を回してくれちゃって……。
私に一斉射撃をしてくる福音から逃れながら、私はバスターの位置を確認する。
……下から熱源反応!?
その場で急停止し、目の前から空へと昇っていく光の柱を回避する。
「ちぃっ、外したか!」
海にぽっかりと空いた穴から、バスターが飛び出してきた。
当たり前なのだが、蹴りのダメージは全くないみたい。でも、足蹴にされたことでイラついたのか、攻撃自体はかなり雑だ。
……エイミーさん、ここまで狙ったのかな?
ううん、多分天然だよね。
火線をかわされたバスターは、続いて両肩のミサイルポッドを開放し、12発のミサイルを同時発射してくる。そして同時に腰の二丁を連結し、私に向けて構えた。
今度はガンランチャーを前に。高エネルギー収束火線ライフルを後ろに。
先程までとは違うその形態は、対装甲散弾砲と呼ばれる、近・中距離砲撃形態だった。
このままつっこむのはまずい。でも、逃げるにしてもミサイルが邪魔だ。
さっきの私の攻撃の意趣返しってワケ?ムカつく!
とりあえず迎撃すべく、タクティカルアームズをガトリング形態に変形させ、手元に呼びだしたとき――
背後から、新たなミサイルが12本飛来した。
12本はまるで生きているかのように動き回り、バスターの放ったミサイルと正面衝突すると、辺りに爆発の花を咲かせた。
《マイスター、全弾命中です》
「ありがとう、クリムゾン」
そして現れたのは、打鉄弐式を纏った簪だった。意外な乱入に驚いたけど、私はすぐに平静を取り戻す。
「ありがとう、簪。私ひとりでも対処できたけど、助かった」
「……ど、どういたしまして?……ねえ、クリムゾン。あれって……感謝してるってことで、いいの?」
《肯定です。クリエイター曰く、あれがツンデレだとか……》
「消すよ、駄AI」
《アイ、マム》
失礼なAIだ。一体、紅也は誰をモデルにしたんだろう。
「……それより、下がって。簪じゃ、有効なダメージは与えられない」
「その通りやで、ねえちゃん!」
そう言ってバスターが、体を簪の方へと向ける。
そう、体だけを。
「なっ、なんや!?砲が動かん!」
「やはり、AICは効くようだな。」
「……ラウラ」
対装甲散弾砲を空間に縫い付けたのは、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだった。
私はその好機を逃さず、散弾砲にビームライフルを放つ。しかしそれが直撃する瞬間に、敵は散弾砲を量子化し、AICから逃れてしまった。
ビームは、バスターの足の一部をわずかに抉った程度だ。
「ちっ、ならばもう一度……」
「ラウラ。福音をお願い。こいつは……私一人でやる」
「葵……分かった。お前も行くぞ!」
「……しょうがない」
簪とラウラが離脱する。福音とは、既に一夏や箒たちが交戦していた。
「ええのか?3対1なら勝てたかもしれへんで?」
バスターは再び砲を実体化させ、今度は分離して私を狙う。
でも、当らない。このくらい、1対1ならなんてことはない。
だから。
「……私一人で十分」
「ほざけぇ!」
◆
葵とバスターの一騎打ちが始まった頃。
ストライクとデュエルの戦いもまた、苛烈なものとなっていた。
「ストライク!いい加減にしつこいぞ!」
「アンタたちが逃げるからでしょ?まったく……。
私はただ、盗られた物を取り返したいだけ。依頼成功率ほぼ100%の奪還屋なの。OK?」
「知るか!」
互いに距離を取り、ビームライフルを撃ち合う。緑の光が互いを目指して飛び交うも、それらはなかなか相手をとらえられずにいた。
「ふっ……やるな!」
「そっちこそ。チンピラにしては十分よ」
「チンッ……!?許さんぞ、貴様!」
さらにスピードを増していく二機。その様子こそが、互いの技量の高さを証明していた……。
◆
「さて、リベンジさせてもらうぜ、
第二形態移行を果たした福音へと、一夏は果敢に飛び込んでいく。
迎え撃つ福音は一夏へとエネルギー翼を伸ばし、その体を抱きしめようとする。
「そう来ると思ったぜ!鈴!」
「命令すんじゃないわよ!くらえっ!」
が、一夏は即座に反転し、刹那、上空から炎の弾丸が雨の如く降り注ぐ。
――そう。鈴の衝撃砲だ。
機能増幅パッケージ、『崩山』を装着した甲龍は、衝撃砲の数を4門に増設し、しかも威力も増幅されていた。
銀の鐘に勝るとも劣らない弾雨。しかし福音は自らの体を光の翼で包み、それを防御する。
直後。
翼から、光の羽根と緑の光が、全方向へと放たれた。
衝撃砲を連射中の鈴に、それを回避するすべはない。
鈴は砲撃を中断するも、回避するそぶりは見せない。
何故か。
「まかせて、鈴!」
そう言って鈴の前に飛び出したのは、シャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡだ。
もちろん、普段のリヴァイヴではない。今の機体には、モルゲンレーテとデュノア社が共同開発した、新型の多機能パッケージが装備されていた。
二枚の実体シールドと、二枚のエネルギーシールドが、鈴へと迫る弾丸をことごとく防御する。
さらに、福音の背後からは先端の尖ったシールドが飛来し、
――これが、モルゲンレーテが開発した複合武器、シールドソード。タクティカルアームズの原型とでも呼べるこの武器は使い手を選ぶものの、シャルほどのレベルであれば問題なく扱える。
「――いける!箒!」
「はあぁぁぁっ!!」
福音は二枚のシールドソードと鈴に注意を払っているため、一夏と箒は完全にノーマークであった。シャルが短く指示を飛ばすと、彼方から爆発的な推進力で箒が飛び出し、二刀を以って連撃を浴びせ始めた。
一方の福音は、ビームを切り裂くシールドソード相手に守勢に回ることは止め、本来の機動力を活かした戦法に切り替え、迎撃を開始する。赤と緑の光が空中を飛び交い、花火のような絢爛さで辺りを彩る。しかし、数では福音が上なのか、紅椿は徐々に押され始めた。
「ならば、こちらも数でいかせてもらいますわ!」
苛烈な攻撃を続ける福音に対し、箒は一度距離をとった。そのタイミングを狙い、通常装備のセシリアが六基のブルー・ティアーズを放ち、福音を囲むように配置する。
さらに鈴、シャル、箒も各々の武器を構え、一斉射撃を行った。
「……………!!」
とっさにエネルギー翼で体を覆うも、既に手遅れ。衝撃を受け切れなかった福音が大きく体勢を崩した。
そこへ――
「らあぁぁぁっ!!」
瞬時加速を使用した一夏が、刹那の隙に肉迫した。
すでに雪片弐型の刀身は、あふれんばかりの輝きを放っている。
そして。
刃が、届いた。
「キアアアアアアア………!!」
獣の如く叫び声を上げ、福音は海面へと落下する。が、すぐに体勢を立て直し、無数の翼を発現させて再び飛翔した。
「いける!みんなで戦えば勝てるぞ!!」
その突撃をかわし、一夏がそう宣言する。
それを聞いてか聞かずか、福音は、静かに一夏を睨みつけていた……。
◆
ここは……どこだろう?
日差しが強い。まあ、夏だから当たり前だな。
足が熱い。ついでに、顔も熱い。日差しに加えて砂浜からの照り返しのコンボ。嫌になるぜ。
……って、アレ?俺、こんなに背ぇ低かったっけ?160cmくらいはあるはずなんだけどな。
………。
…………。
……………。
――ちょっと待とうか。
俺、確かさっきまでXナンバーと戦ってたよな?
そんでもって、左腕にシャレになんないような一撃をくらったハズだよな。
でも、実際の左腕はどうだ?確かに生傷だらけだけど、こんがりキツネ色になってる程度。
……まさか。
俺はまた、死後の世界に来ちまったのか!?
……って、『また』ってなんだ、『また』って。おかしいだろ、俺。
――アレ!?なんか、体が引っ張られる!
ちょ、待て!体が言うことを聞かねぇ!誰か、助けてくれ!
あ、あんなところに人が!おーい、助けて~。
……お、手を振ってくれた。おーい、助けてくれー。
よかった。どうにか伝わったみたいだな。こっちに向かって走ってきた。
ん、待てよ?
こんな訳のわからない世界にいる、俺以外の人間(?)。
よく考えりゃ、そんなのがマトモな奴であるはずがない!!
まさか、死神さん!?
ヤメテー。俺は
……あ、なーんだ。葵じゃねぇか。
でも、やっぱり小さいよな?パッと見、145cmくらいか?ついでに胸も……ゴホン。冗談だって。だから、そんな目で見ないでくれよ。
『おかえり、コウヤ』
『ああ。ただいま、アオイ。……お兄ちゃん、とは呼んでくれないのか?』
『……うん。子供っぽいから』
『ハハッ、そっか』
『……ねえ、コウヤ。見せたいものがあるの。こっちに来て』
『ん?何だ。……まさか、プレゼントとか?』
『……そう。来て』
あ、待てよ、葵。今行くから、走るなって。
ホントにいい笑顔で笑うよなぁ。こんな顔で笑ってくれたのは、あの時以来――
……え?
『嬉しいなぁ。迎えに来てくれたこともそうだけど、ちゃんと俺がいなくてもここまで来れたってことがな』
『……当然』
待て。
『良かった。アオイも、ちゃんと強くなったんだな』
『うん』
行くな。
『……で?どこまで走るんだ?』
『……こっち。もうすぐ』
止まれ。
『ここは……演習場?』
『うん。……コウヤ』
扉を開くな。
『ここに……何があるんだ?』
開くな。
『……見ればわかる』
開くな。開くな。開くな。開くな!
『じゃあ……開けるぜ!』
見るな―――――
『――――な。これは……』
――そこは、地獄だった。
痣だらけで地上に倒れ伏す、モルゲンレーテのIS操縦者たち。
散らばるISの破片。
ひび割れた壁。吹き飛んだ土。
そして、そして――
『コウヤ。約束通り私は、強くなった……』
そう告げた葵の笑顔には、一点の曇りも無く――
ちなみに「シールドソード」は、とあるヒゲとスーツと十字が似合う男の設計です。