IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第67話 actress again

「ハァァッ!」

 

 切っ先をバスターに向け、私は今や自分のモノとなったタクティカルアームズにエネルギーを送る。するとタクティカルアームズに搭載されたスラスターが全力で稼働し、私は青い流星となってバスターに接近した。

 

「! 速い!!」

 

 とっさにガンランチャーを構えたバスターだったが、反応は遅れ、刺突を直撃した。

 勢いのままに吹き飛ぶバスター。しかし、姿勢制御スラスターを使ってすぐに姿勢を立て直し、再び二門の砲を構えた。

 

「……ハッ、ハハハハハハ!!なんや!この程度かいな!」

 

 ひどく耳障りな大声が、私の脳を刺激する。

 

「どうしました、チョッパー?……まさか、とうとう頭がおかしく……」

「『とうとう』って何や!しばくで、自分!

 ……姉ちゃん。その剣、実体剣やな?」

「……それが何?」

 

 そう返答すると、バスターは肩をすくめるような動作をし、その後私に人差し指を向け、言った。

 

「つまり、その剣ではワイらには傷一つつけられへんってことや!」

 

 ……何だ。本当にそれだけか。

 甘い、甘すぎる。

 確かに、タクティカルアームズでは、PS装甲を傷つけることはできない。

 でも、エネルギーを減らすことはできる。

 なぜなら、PS装甲に想定以上のダメージが加わると、ISは一時的に装甲強度を上げるために、更なるエネルギーをつぎ込むからだ。

 そうして行きつく先は一つ――フェイズシフト・ダウン。

 この剣の破壊力があれば、十分にそれを狙える!

 

「……とか、思っとるんやろうな。でも、無駄やで」

 

 敵がいきなり呟いたのと同時に、バスターのシールドエネルギーが回復していく。

 先程までの消耗が嘘のように、あっという間に。

 

「……一体……?」

 

 思わず口から出たのは、そんな言葉だった。

 

「簡単なことや。コイツの拡張領域には、追加のエネルギーパックが満載されてるんや。それも、〈ストライカーパック〉とは比較にならんほどの、なぁ!」

 

 再び始まる砲撃。

 

 ……そうか。

 妙だとは思ってた。

 紅也と交戦してエネルギー切れ間近のデュエルが、なぜ復活したのか。

 おそらく、輸送機の中でバスターからエネルギーパックを譲り受け、失った分を補給したんだろう。

 ……面倒臭い。

 

 ならば、バスターにエネルギー切れを期待しない方がいい。

 デュエルは……どうだろう?さすがに戦闘中の補給は無理だと思うけど、分からない。

 フェイズシフト・ダウンが狙えないなら、決め手はビームサーベル。でも、タクティカルアームズの防御力がないと、接近戦は厳しい。

 

「私もいるぞッ!」

 

 デュエルの言葉で、一旦意識を切り替える。

 タクティカルアームズをフライトモードに変形させ、PICを使って背中に固定。

 第二形態移行を経て非固定浮遊部位へと変化したそれは、私が意識を向けるだけで瞬時加速を発動した。

 

 両手に構えたのはビームサーベル。不意打ち同然でデュエルの懐に飛び込み、振りかぶられたビームサーベルを横に逸らす。

 そのままもう一本で胴体を切ろうとした時、邪魔が入った。福音が攻撃を再開したのだ。

 慌ててデュエルから距離を取るも、〈銀の鐘〉の爆発の余波で左手のビームサーベルの刃が消えてしまった。動作不良だろうか?

 そして再び接近するデュエルと、砲撃するバスター。そして全体を爆撃する福音という、さっきと同じ状態にまで戻されてしまった。

 違うのは、私の機動性。第二形態移行によってタクティカルアームズが最適化されたため、敵の攻撃をだいぶ楽に回避できるようになった。

 そうはいっても、このままじゃジリ貧だ。何か、状況を打破する一手が欲しい。

 

 ――力が欲しいか?

 

 ドクン!

 不意に、そんな声が聞こえた。

 外から、ではない。私の内面――いや、ブルーフレームから、確かにそんな声が聞こえたのだ。

 

 ――俺の力が必要か?

 

 まただ。

 聞き覚えのない、男の声。でも、どこかで聞いたことがあるような気がする。そんな矛盾。

 

 ――私、は……

 

 返事をしようとしたそのとき。

 

「イィィィィヤッホォォォォォウ!!」

 

 やたらとハイテンションな女の声が、戦場に響き渡った。

 

「増援!?」

「マズイ……アレは……」

「「ストライク!!」」

 

 センサーが映し出した、トリコロールの機体・エールストライクは、ものすごい速度で私たちに接近すると、勢いそのままバスターを蹴り飛ばし、海面へと叩きつけた。

 

「私、見☆参!アオちゃん、大丈夫?」

「……ちっ」

「何故舌打ち!?」

 

 やってきたのは、エイミーさん。私とデュエルの間に滞空し、ビームライフルを構えている。

 ……正直、あまり来て欲しくは無かった。

 必要なのは、『私一人で』Xナンバーを鹵獲した、という結果だったから。

 彼女個人のことは嫌いじゃないけど、N.G.Iの彼女の助けは、正直借りたくなかった。

 

「まあいいわ。

 アオちゃん、手伝って!私たちが来たから、アイツらすぐに逃げちゃうわよ」

「それが分かってるのに……。……たち(・・)?」

 

 ふと漏らした一言に違和感を覚えた私は、アメノミハシラからのデータを参照する。

 すると、やはりというかなんというか、いつものメンバーが全員来ていた。

 ……いないのは、紅也だけだ。

 

「今日こそ落とさせてもらうぞ、ストライクっ!!」

 

 ストライクの登場から立ち直ったデュエルが、すぐにビームサーベルで襲いかかってくる。

 

「じゃ、私は手負い(・・・)のデュエルを相手するから、アオちゃんは無傷(・・)のバスターをお願いね。……これなら、あなたたちの顔も立つでしょ?」

 

 そう言い残して、エイミーさんはビームサーベルを引きぬき、そのままデュエルに格闘戦を挑みに行った。

 ……まったく、余計な気を回してくれちゃって……。

 

 私に一斉射撃をしてくる福音から逃れながら、私はバスターの位置を確認する。

 ……下から熱源反応!?

 その場で急停止し、目の前から空へと昇っていく光の柱を回避する。

 

「ちぃっ、外したか!」

 

 海にぽっかりと空いた穴から、バスターが飛び出してきた。

 当たり前なのだが、蹴りのダメージは全くないみたい。でも、足蹴にされたことでイラついたのか、攻撃自体はかなり雑だ。

 

 ……エイミーさん、ここまで狙ったのかな?

 ううん、多分天然だよね。

 

 火線をかわされたバスターは、続いて両肩のミサイルポッドを開放し、12発のミサイルを同時発射してくる。そして同時に腰の二丁を連結し、私に向けて構えた。

 今度はガンランチャーを前に。高エネルギー収束火線ライフルを後ろに。

 先程までとは違うその形態は、対装甲散弾砲と呼ばれる、近・中距離砲撃形態だった。

 

 このままつっこむのはまずい。でも、逃げるにしてもミサイルが邪魔だ。

 さっきの私の攻撃の意趣返しってワケ?ムカつく!

 とりあえず迎撃すべく、タクティカルアームズをガトリング形態に変形させ、手元に呼びだしたとき――

 

 背後から、新たなミサイルが12本飛来した。

 12本はまるで生きているかのように動き回り、バスターの放ったミサイルと正面衝突すると、辺りに爆発の花を咲かせた。

 

《マイスター、全弾命中です》

「ありがとう、クリムゾン」

 

 そして現れたのは、打鉄弐式を纏った簪だった。意外な乱入に驚いたけど、私はすぐに平静を取り戻す。

 

「ありがとう、簪。私ひとりでも対処できたけど、助かった」

「……ど、どういたしまして?……ねえ、クリムゾン。あれって……感謝してるってことで、いいの?」

《肯定です。クリエイター曰く、あれがツンデレだとか……》

「消すよ、駄AI」

《アイ、マム》

 

 失礼なAIだ。一体、紅也は誰をモデルにしたんだろう。

 

「……それより、下がって。簪じゃ、有効なダメージは与えられない」

「その通りやで、ねえちゃん!」

 

 そう言ってバスターが、体を簪の方へと向ける。

 そう、体だけを。

 

「なっ、なんや!?砲が動かん!」

「やはり、AICは効くようだな。」

「……ラウラ」

 

 対装甲散弾砲を空間に縫い付けたのは、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだった。

 私はその好機を逃さず、散弾砲にビームライフルを放つ。しかしそれが直撃する瞬間に、敵は散弾砲を量子化し、AICから逃れてしまった。

 ビームは、バスターの足の一部をわずかに抉った程度だ。

 

「ちっ、ならばもう一度……」

「ラウラ。福音をお願い。こいつは……私一人でやる」

「葵……分かった。お前も行くぞ!」

「……しょうがない」

 

 簪とラウラが離脱する。福音とは、既に一夏や箒たちが交戦していた。

 

「ええのか?3対1なら勝てたかもしれへんで?」

 

 バスターは再び砲を実体化させ、今度は分離して私を狙う。

 でも、当らない。このくらい、1対1ならなんてことはない。

 だから。

 

「……私一人で十分」

「ほざけぇ!」

 

 

 

 

 

 

 葵とバスターの一騎打ちが始まった頃。

 ストライクとデュエルの戦いもまた、苛烈なものとなっていた。

 

「ストライク!いい加減にしつこいぞ!」

「アンタたちが逃げるからでしょ?まったく……。

 私はただ、盗られた物を取り返したいだけ。依頼成功率ほぼ100%の奪還屋なの。OK?」

「知るか!」

 

 互いに距離を取り、ビームライフルを撃ち合う。緑の光が互いを目指して飛び交うも、それらはなかなか相手をとらえられずにいた。

 

「ふっ……やるな!」

「そっちこそ。チンピラにしては十分よ」

「チンッ……!?許さんぞ、貴様!」

 

 さらにスピードを増していく二機。その様子こそが、互いの技量の高さを証明していた……。

 

 

 

 

 

 

「さて、リベンジさせてもらうぜ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)っ!!」

 

 第二形態移行を果たした福音へと、一夏は果敢に飛び込んでいく。

 迎え撃つ福音は一夏へとエネルギー翼を伸ばし、その体を抱きしめようとする。

 

「そう来ると思ったぜ!鈴!」

「命令すんじゃないわよ!くらえっ!」

 

 が、一夏は即座に反転し、刹那、上空から炎の弾丸が雨の如く降り注ぐ。

 ――そう。鈴の衝撃砲だ。

 

 機能増幅パッケージ、『崩山』を装着した甲龍は、衝撃砲の数を4門に増設し、しかも威力も増幅されていた。

 銀の鐘に勝るとも劣らない弾雨。しかし福音は自らの体を光の翼で包み、それを防御する。

 直後。

 翼から、光の羽根と緑の光が、全方向へと放たれた。

 

 衝撃砲を連射中の鈴に、それを回避するすべはない。

 鈴は砲撃を中断するも、回避するそぶりは見せない。

 何故か。

 

「まかせて、鈴!」

 

 そう言って鈴の前に飛び出したのは、シャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡだ。

 もちろん、普段のリヴァイヴではない。今の機体には、モルゲンレーテとデュノア社が共同開発した、新型の多機能パッケージが装備されていた。

 二枚の実体シールドと、二枚のエネルギーシールドが、鈴へと迫る弾丸をことごとく防御する。

 さらに、福音の背後からは先端の尖ったシールドが飛来し、エネルギー翼を切り裂いて(・・・・・・・・・・・・)本体を切りつけた。さらに、福音の死角となっている足下からは、それと同じ形状をした砲台が、ガトリングを連射している。

 ――これが、モルゲンレーテが開発した複合武器、シールドソード。タクティカルアームズの原型とでも呼べるこの武器は使い手を選ぶものの、シャルほどのレベルであれば問題なく扱える。

 

「――いける!箒!」

「はあぁぁぁっ!!」

 

 福音は二枚のシールドソードと鈴に注意を払っているため、一夏と箒は完全にノーマークであった。シャルが短く指示を飛ばすと、彼方から爆発的な推進力で箒が飛び出し、二刀を以って連撃を浴びせ始めた。

 一方の福音は、ビームを切り裂くシールドソード相手に守勢に回ることは止め、本来の機動力を活かした戦法に切り替え、迎撃を開始する。赤と緑の光が空中を飛び交い、花火のような絢爛さで辺りを彩る。しかし、数では福音が上なのか、紅椿は徐々に押され始めた。

 

「ならば、こちらも数でいかせてもらいますわ!」

 

 苛烈な攻撃を続ける福音に対し、箒は一度距離をとった。そのタイミングを狙い、通常装備のセシリアが六基のブルー・ティアーズを放ち、福音を囲むように配置する。

 さらに鈴、シャル、箒も各々の武器を構え、一斉射撃を行った。

 

「……………!!」

 

 とっさにエネルギー翼で体を覆うも、既に手遅れ。衝撃を受け切れなかった福音が大きく体勢を崩した。

 そこへ――

 

「らあぁぁぁっ!!」

 

 瞬時加速を使用した一夏が、刹那の隙に肉迫した。

 すでに雪片弐型の刀身は、あふれんばかりの輝きを放っている。

 そして。

 刃が、届いた。

 

「キアアアアアアア………!!」

 

 獣の如く叫び声を上げ、福音は海面へと落下する。が、すぐに体勢を立て直し、無数の翼を発現させて再び飛翔した。

 

「いける!みんなで戦えば勝てるぞ!!」

 

 その突撃をかわし、一夏がそう宣言する。

 それを聞いてか聞かずか、福音は、静かに一夏を睨みつけていた……。

 

 

 

 

 

 

 ここは……どこだろう?

 日差しが強い。まあ、夏だから当たり前だな。

 足が熱い。ついでに、顔も熱い。日差しに加えて砂浜からの照り返しのコンボ。嫌になるぜ。

 ……って、アレ?俺、こんなに背ぇ低かったっけ?160cmくらいはあるはずなんだけどな。

 

 ………。

 …………。

 ……………。

 

 ――ちょっと待とうか。

 

 俺、確かさっきまでXナンバーと戦ってたよな?

 そんでもって、左腕にシャレになんないような一撃をくらったハズだよな。

 でも、実際の左腕はどうだ?確かに生傷だらけだけど、こんがりキツネ色になってる程度。

 

 ……まさか。

 俺はまた、死後の世界に来ちまったのか!?

 ……って、『また』ってなんだ、『また』って。おかしいだろ、俺。

 

 ――アレ!?なんか、体が引っ張られる!

 ちょ、待て!体が言うことを聞かねぇ!誰か、助けてくれ!

 

 あ、あんなところに人が!おーい、助けて~。

 ……お、手を振ってくれた。おーい、助けてくれー。

 よかった。どうにか伝わったみたいだな。こっちに向かって走ってきた。

 

 ん、待てよ?

 こんな訳のわからない世界にいる、俺以外の人間(?)。

 よく考えりゃ、そんなのがマトモな奴であるはずがない!!

 まさか、死神さん!?

 ヤメテー。俺は(ホロウ)じゃないよー。鬼神の卵でもないよー。

 

 ……あ、なーんだ。葵じゃねぇか。

 でも、やっぱり小さいよな?パッと見、145cmくらいか?ついでに胸も……ゴホン。冗談だって。だから、そんな目で見ないでくれよ。

 

『おかえり、コウヤ』

『ああ。ただいま、アオイ。……お兄ちゃん、とは呼んでくれないのか?』

『……うん。子供っぽいから』

『ハハッ、そっか』

『……ねえ、コウヤ。見せたいものがあるの。こっちに来て』

『ん?何だ。……まさか、プレゼントとか?』

『……そう。来て』

 

 あ、待てよ、葵。今行くから、走るなって。

 ホントにいい笑顔で笑うよなぁ。こんな顔で笑ってくれたのは、あの時以来――

 

 ……え?

 

『嬉しいなぁ。迎えに来てくれたこともそうだけど、ちゃんと俺がいなくてもここまで来れたってことがな』

『……当然』

 

 待て。

 

『良かった。アオイも、ちゃんと強くなったんだな』

『うん』

 

 行くな。

 

『……で?どこまで走るんだ?』

『……こっち。もうすぐ』

 

 止まれ。

 

『ここは……演習場?』

『うん。……コウヤ』

 

 扉を開くな。

 

『ここに……何があるんだ?』

 

 開くな。

 

『……見ればわかる』

 

 開くな。開くな。開くな。開くな!

 

『じゃあ……開けるぜ!』

 

 見るな―――――

 

『――――な。これは……』

 

 ――そこは、地獄だった。

 痣だらけで地上に倒れ伏す、モルゲンレーテのIS操縦者たち。

 散らばるISの破片。

 ひび割れた壁。吹き飛んだ土。

 そして、そして――

 

『コウヤ。約束通り私は、強くなった……』

 

 そう告げた葵の笑顔には、一点の曇りも無く――

 




ちなみに「シールドソード」は、とあるヒゲとスーツと十字が似合う男の設計です。
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