IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第68話 私の、たったひとつの望み

『じゃあ……私が強くなったら、お兄ちゃんは帰ってきてくれる?』

『もちろんだ!ただし、その頃には俺ももっと強くなってるからな!』

『じゃあ、約束!』

『ああ、約束だ!』

 

 

 

 

 

 

 ――葵は、昔から俺にべったりだった。

 普通の人間とは違う自分。

 それを強く意識しすぎたためか、人の輪に入れず、いつも一人だった。

 必然、葵とちゃんと接するのは俺や父さん、母さんだけだったんだ。

 特に、同じ(・・)存在である俺とは四六時中一緒にいて、俺もそれが嬉しかったから、そのままにしておいた。

 

 気付いたときは、手遅れだった。

 葵は一人で物を考えることができず、一人で外に行けず、一人で家にいられない。

 そんな子になってた。

 この頃、母さんは、モンド・グロッソに向けて世界中を飛び回ってたから、家にはほとんどいなかった。父さんもアメノミハシラ開発のほうにかかりきりで、だいたい留守にしてた。

 俺達の面倒はモルゲンレーテの人達が見てくれたんだけど、それでも、葵の俺に対する依存度は高いままだった。

 

 だから、考えたんだ。このままじゃ、ダメだって。

 そして、中一の夏。

 俺は、休学届を出した。

 

 俺がいなくなれば、葵も自立するんじゃないか。

 そう考えた俺は、当時モルゲンレーテに入ったばかりの天才技術者と一緒に、旅に出ることを決めたんだ。父さんもよく、『男は旅をするもんだ。俺が若いときもな、シュヴァルツバルドに隠された秘密の実験施設に潜入して……くどくど』とか言ってたし。

 それに、旅に出れば、俺の技術や強さも向上するんじゃないか、って思ったんだ。

 

 だから、俺は……

 

『待って!どうして行っちゃうの?』

『どうしてって……俺は、強くなりたいし、世界を見たいんだ。そうしていつか、師匠みたいに、自分の信念ってやつを見つけたい。だから……』

『そんなの、関係ない!何で、一人で行っちゃうの?何でお兄ちゃんは、私を置いて行くの!?』

『それは……お前に……強くなって欲しいからだ』

 

 俺が求めたのは、心の強さ。

 葵は、俺がいなくても大丈夫なんだ。

 葵には無限の可能性がある。それを、俺のせいで潰したくは無かった。

 だから、置いていった。

 俺は体を。葵は心を。

 次に会う時までに、互いに強くなっていよう、と……。

 

 それは――間違いだった。

 

 

 

 

 

 

『コウヤ。約束通り私は、強くなった……』

 

 葵の笑顔は、どこまでも自慢げだ。その表情に曇りは無く、罪悪感の欠片も無い。

 

『……約束、守ってくれた!』

『……やく……そく……?』

『うん!』

 

 ――強くなったら、帰ってきてくれるって。

 

 ああ。

 俺は、間違えてしまった。

 

 本当は、放っておくんじゃなくて、近くに置いておくべきだったんだ。

 ゆっくりゆっくり時間をかけて、葵の自立を促すべきだったんだ。

 

 それが。

 俺の、せいで――

 

 葵は、歪んでしまった。

 

『……ごめんな』

『……コウヤ?』

『ごめんな、アオイ』

『……何で、泣いてるの?』

 

 一歩、二歩。

 俺は葵に歩み寄り、その体を抱きしめる。

 

『ごめんな。本当に、ごめんな』

『だから、何で泣いてるの?』

 

 ああ、そんなことも分からないなんて。

 もう、あの明るくて、元気いっぱいで、いつも笑顔を浮かべてた葵は、どこにもいないんだ。

 俺が……彼女(アオイ)を、殺してしまったんだ。

 

「ごめんな……葵。あの時、気付いてあげられなくて」

『ごめ……ん。あおい……』

『謝ることなんて、ないのに……』

 

 あの時、俺は決めたんだ。

 葵が無くしたものを、少しずつ取り戻していこう、と。

 そして、葵がアオイを取り戻すまで、ずっとそばで支えてやろう、と。

 

 もう二度と、葵に寂しい思いはさせない、と……。

 

 ――そういえば。

 

 また、葵に心配かけちまったなぁ。

 

 ダメなお兄ちゃんだな、本当に。

 

 ……これ以上、心配かける訳にはいかねぇよな。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 緑色のランプが光る、懐かしい天井。絶えず響く、換気装置の低い音。

 シチュエーション:エラー。ショックによる一時的なリンク破綻。リブートします。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 目に映るのは、青い空に白い雲。そして、目線がさっきより少し高い。

 

 ――そう。

 どういうわけか、俺は外に立っていた。

 

 ……まあいいや。

 体を動かし、両手、両足のチェックをする。感触から判断するに、どうやら五体満足らしい。

 らしい、というのは変な表現だけど、仕方が無い。

 どういうわけか、自分の体が目に映らないのだ。

 でも、触ってみると確かにそこにあるし、動かしてる感じは分かるし……。何なんだ?

 とりあえず現状を把握するため、俺は中庭を歩き始めた。ほどなくして窓が見つかったため、俺は部屋の中を覗き込んでみた。

 

 あれは……レッドフレームだ。

 ひどい状態だ。両腕はぶっ壊れて、装甲のあちこちにヒビが入ってる。

 バックパックは見つからねぇけど、壊れてねぇよな?

 脚もボロボロ……。あーあ、こりゃ修理に3カ月以上はかかるだろうなぁ。泣けてくるぜ。

 

 俺は窓から眼を逸らし、今度は作戦司令室を目指す。

 そこに行けば、誰かに会えるだろう……と思ってたんだが、どうやら俺は運がいい。

 ちょうど、そこに山田先生がいるじゃないか。

 

《山田先生!》

 

 ……が、山田先生は俺を無視して、小走りで司令部の方へと向かっている。

 む。その対応は結構イヤだぞ。

 意識をこちらに向けるために、俺は地面をダン!と踏み、再び呼びかける。

 軽く地響きがしたような気がしたんだけど……気のせいかな。

 

《山田先生!みんなは……葵はどこに!?》

「えっ!?今のは……あ。あわわわわわっ!?」

 

 そう言って山田先生は俺の後方――空を指す。

 

《あっちですね!わかりました!じゃ、行ってきます!!》

 

 そして、俺は――

 

 静かに、飛び立った(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 怒り狂った福音は、一夏に狙いを定め、超高速で突撃する。

 しかし、その動きは唐突に停止し、一夏にはまんまと逃げられてしまった。

 

「ふん。動きが単調すぎるのだ」

 

 その現象の正体はAIC。バスターを葵に任せたラウラが、そのまま加勢しに来たのだ。

 さらに後方には、簪の姿も見える。これで1対7。いくら第二形態移行した福音といえど、勝てるはずが無い――!

 

『状況変化。最大攻撃力を使用する』

 

 ――と、思っていた。

 

 福音がその一言を発すると、それまでしならせていた翼を自身へと巻きつけ始めた。

 エネルギーによる完全防御。福音は球状になった翼で自身を包み、AICを力ずくで引きちぎると、そのまま生徒たちの方へ突撃していった。狙いは――

 

「シャルロット!行ったぞ!」

「大丈夫!」

 

 そう、シャルだった。

 この距離では、一夏も追いつけない。他の面々も、エネルギーシールドを貫通する手立ては無いため、シャルが自力でどうにかするしかないのだ。

 が、シャルには手段があった。

 二つのシールドソードを手元に戻し、その取っ手を握る。

 この武器にはアンチビームコーティングが施されているため、エネルギーシールドを貫通することができるのだ。

 二本の巨大剣を構え、福音を迎え撃つシャル。

 ――が、敵はそこまで甘くはなかった。

 

 シャルと福音が接触する寸前、福音は翼をガバッと開き、球体の中にシャルを閉じ込めた。

 そして響く、ナニカが削れる音。

 時間にすれば一瞬だったが、一夏たちには永遠のように長く感じた。

 ならば――当事者であるシャルにとっては、どれほど永かったのだろうか?

 

 福音の翼が回転しながら一斉に開き、全方位に対してエネルギー弾とビームの嵐を巻き起こす。

 シャルを助けるべく接近した一夏たちは、程度の差こそあるものの全員が被弾してしまった。そして、シャルが落ちていく。ISは展開されているものの、あのダメージではもはや戦闘続行は不可能だ。

 

「くっ……油断した!ゴメン、みんな。先に戻るよ!」

 

 これ以上とどまれば、足手纏いになる。

 そう判断したシャルは、即座に戦闘空域を離脱した。

 

 ……これで、1対6。

 

 福音は止まらない。

 再び自身を光の球へと変えると、次の獲物を求め、恐ろしいスピードで加速していく。

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?……無茶苦茶ね、もう!」

「よく言う!かすりもしてないくせに、なぁ!」

 

 福音の攻撃の余波は、ストライクとデュエルの戦場にまで届いていた。

 そのため熾烈な撃ち合いは強制的に中断され、今は両者共に回避に専念していた。しかしそんな中でも、彼女たちはゆっくりと接近し、互いの隙を窺っている。

 そして、福音の弾雨が止んだとき――ほぼ同時に間合いを詰めた。

 

「「はあぁぁぁぁぁ!!」」

 

 声が重なり、剣が重なる。

 獲物は互いに一本。しかし……

 

「くっ……。何だ、その剣は!」

 

 デュエルの剣は、普通のビームサーベルである。問題は、ストライクの方だ。

 背中の赤い翼はすでに無く、代わりに、水色のバックパックが装着されていた。

 さらに、左肩には追加装甲が。左腕には小さな楯が。そして何より目を引くのが、両手で構えた超大剣である。

 

「教えてほしい?この剣の名前は、シュゲルトゲベール。最高の開発陣が作った、最高の剣よ!」

「どこかで聞いたようなセリフをっ!」

 

 再びビームサーベルを振るうデュエルであったが、間合いも威力も段違いのシュゲルトゲベールに振り払われ、かなりの距離を吹き飛ばされてしまう。

 即座にエイミーは追撃し、体勢を崩したままのデュエルに向け、左腕を向ける。

 そして――シールドの先端が分離し、クローのように二つに開く。

 これこそ、ソードストライカーに搭載された武装の一つ。ロケットアンカー〈パンツァーアイゼン〉であった。

 パンツァーアイゼンはデュエルの体を捕まえ、即座にエイミーの元へと引き寄せる。

 デュエルの向かうその先には、ピンク色の光を放つビームの刃が待ち受けている。

 

 絶体絶命……と思われたが、天はエッジに味方した。

 唐突に拘束が外れ、ソードストライクが飛びのく。

 直後、先程までいた空間を、黄色い光が通過していった。

 そう。バスターの砲撃である。

 

「アオちゃん、何やってんの!」

「ゴメン!」

 

 ソードフォームのタクティカルアームズを構えた、ブルーフレーム第二形態――ブルーフレームセカンドKが、バスターを切りつける。

 PS装甲が想定外の負荷を受け、一瞬だけ多量のエネルギーが消費される。しかし――

 

「効かへんで!ワイのバスターには!!」

 

 バスターが持つ予備エネルギーパックにより、すぐに回復されてしまう。

 まさに鉄壁。残りのエネルギーパックがいくつあるかは分からないが、チョッパーの口ぶりから察するに、まだまだ余裕なのだろう。

 これに対抗するには、葵もビームサーベルを使うしかないのだが……盾のないこの状況で、タクティカルアームズを収納するのは自殺行為だ。

 一応、自立砲台として遠隔操作もできるが……葵は、その手の武器を扱ったことが無い。

 ぶっつけ本番で試す訳にもいかないので、このままやるしかないのだ。

 

「どうする?変わろっか?」

「……やれる」

 

 一瞬、葵とエイミーが背中合わせとなり、言葉をかわす。

 初めて会ってから一年も立っていない二人だが、時に敵として、時に味方として何度も戦った二人のコミュニケーションは、これで十分。

 再び互いの標的を見据え、目も合わさずに飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 エイミーさんに告げたように、私にも策がある。

 確かにPS装甲に、タクティカルアームズは効果が薄い。

 でも――武器に対しては?

 バスターの二つの砲、〈高エネルギー収束火線ライフル〉と〈ガンランチャー〉は、ただの金属。PS装甲ではないのだ。そして現状、もっとも恐ろしいのは至近距離での対装甲散弾砲。ならば、どちらか一方を破壊、もしくは強奪すれば、ビームが使えるのだ。

 

 でも……足りない。

 剣のブースターを使った突撃でも、両肩のスラスターを使った加速でも、紙一重の所で避けられるか、武器を収納されてしまう。

 

 なら、どうするのか……。

 決まっている。

 もっと速く、接近すればいいだけだ。

 

 現在、バスターは二つの砲を連結せず、別個に放っている。

 ならば、恐れることは無い。

 タクティカルアームズで刺突の構えをとり、敵の側面に回り込む。

 バスターはぐるり、と回転して左の高エネルギー収束火線ライフルを構え、こちらに向ける。

 

 ――でも、遅い。

 

 右肩、左肩、タクティカルアームズ。

 三基のスラスターに同時にエネルギーを送り――最大になった所でそれらを開放する。

 

 そう。

 三重(トリプル)瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 その瞬間、意識が飛びそうになる。

 人間の体ではおおよそ耐えきれないような、強烈なGが私を襲う。

 でも……私は、ただの人間(ナチュラル)じゃない。

 置き去りになりそうな意識を、意志の力でつなぎとめ、ただひたすらに敵を見据える。

 

 ビームが放たれる。

 でも、狙いははるか後方。それこそ、私を捉えきれていない証拠だ。

 次いで、上空からビームが放たれる。バスターではない。おそらく、デュエル。

 タクティカルアームズ、被弾。でも、これはアンチビームコーティングされてる。ビームライフル程度で壊れないし、体勢が崩れるほどでもない。

 実体弾を受けてたら、また違った結果になったかもしれないけど。

 バスターは私の狙いに気付いたのだろう。高エネルギー収束火線ライフルを収納しつつ、ガンランチャーでカウンターを狙うつもりのようだ。

 

 でも、遅い。

 

 剣先がスライドし、大剣が割れる。

 その中心部から姿を現したのは、ガトリング砲だ。

 ためらわず発砲する。狙いをつける暇は無い。

 だけど、切っ先は確かにライフルに向けていたのだ。ならば、ガトリングもまたライフルに向かっていく。

 機体の加速と発射の加速。それらによって爆発的な加速を得たガトリング弾は、驚異的な破壊力を持っている。

 

 一発。二発。

 

 弾丸がバスター本体と、ライフルに命中する。

 

 三発、四発。

 

 ライフルに弾痕が増える。

 

 五発、六発、七発。

 

 ライフルが消滅し始める。――間にあわない!?

 

 九、十、十一、十二……

 

 全弾命中。しかし、そこまでだった。

 ライフルは完全に量子化し、破壊には至らない。

 

 私は減速せずにそのままバスターを追い抜き、ガンランチャーによる追撃をかわす。

 くっ……次こそは!

 

 

 

 

 

 

〈side:シャルロット・デュノア〉

 

 うぅ~。全方位に対する完全防御なんて、反則だよ!

 モルゲンレーテの設計データの中に似たようなものがあったけど、未完成だったハズだよね?それを実現するなんて……。これが、第二形態移行。

 

 ふう……。一夏、大丈夫かなぁ。

 確かに零落白夜は必殺の威力を持ってるけど、福音のあの攻撃も一撃必殺。

 先に剣が当たれば一夏の勝ちだけど、翼に包まれたら僕らの負けだ。

 一夏が負けたら、打つ手は無い。だから僕も、早く戻って補給しないと。

 

 

 キィィィィィン!!

 

 

 ……な、何!?

 今、確かに何かがそばを通ったはずなんだけど、何の反応もない!

 まさか……例の『ミラージュ・コロイド』を使うステルス機!?

 まずい。今の一夏たちじゃ、絶対手が足りない!

 一夏、みんな……僕が戻るまで、無事でいてね!

 




最初にリタイアしたのは、シャルロットでした。
彼女がすれ違った機体の正体とは……?
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