IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第69話 サーペント・テール

「おおお織斑先生!大変です!!」

 

 やけに慌てた様子の麻耶が作戦司令室に飛び込んできたのは、シャルが撃墜される数分前であった。

 

「どうした、山田君?何かあったのか?」

 

 空中に浮かぶモニターを睨みながら、声の主には振り返らずに答える千冬。画面の中では、ちょうど一夏の雪片弐型が福音を浅く斬りつけ、海面へと落としていた。

 が、麻耶はそんな様子に気づきもせず、早口でまくしたてる。

 

「あ、ISです!未確認の黒いISが、中庭に!!」

「何だと!?」

 

 今度こそ、千冬は振り返る。

 顔を睨みつけられて怯える麻耶であったが、その目は嘘を言っている者の目ではない。

 そう判断した千冬は、とにかく事実確認をしようと教師に指示を飛ばそうとした。

 が、それは更なる乱入者によって中断される。

 

「織斑先生!」

「今度は姉ヶ崎教諭か……。何だ?」

 

 息を切らせて入りこんできたのは、養護教諭の姉ヶ崎であった。

 姉ヶ崎ははぁ、はぁ、と息を吐き出し、呼吸を落ちつけると、再び話しだした。

 

「大変です!山代くんが、山代くんが…………昏睡状態に陥りました!」

「何ぃ!?」

 

 それに答えたのは、千冬ではなかった。

 声は、彼女の頭上――天井から。

 次いでガタン!という音と共に天井の一部が外れると、そこから作業着を着た茶髪の男が飛び出し、そのまま部屋から出ていった。

 

「……何なんだ、次から次へと……」

 

 痛む頭を押さえながら呟いた千冬のぼやきは、誰に聞かれることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 一方、海上での戦闘もまた、変化を見せていた。

 

 シャルを撃墜した福音は、次に脅威度の高い目標へ、狙いを定めたのである。

 

「このスピードは……」

「……速い!」

 

 翼に包まれた福音は、簪とラウラの方へと突進する。

 ……が、先程シャルが落とされた折に福音の速さを見ていた二人は、どうにか回避に成功する。攻撃を外した福音は、そのまま彼方へと飛び去っていく。

 

 ――いや、果たして『外した』のか。

 

 福音はなおも加速を続け、突如向きを変え、急降下する。

 その先には――火花を散らし戦い続ける、バスターとブルーフレームセカンドKが存在していた。

 福音は翼の一部を開き、一直線にバスターめがけて突撃する。

 そう。

 福音は、自らを打倒しうるのは、バスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルであると判断し、その排除に動いたのだ。

 

 が、チョッパーはそれに気づいていた。

 回避するそぶりを見せないのは、あわよくば葵を巻き込んでやろうとでも考えているからだろうか。福音には目もくれず、中距離を保って交戦を続けていた。

 もちろん、葵もそんなことは分かっている。

 それでもこの勝負に乗っているのは、バスターに隙が出来るのを待っているためだ。

 そう。これはチキンレース。

 福音の圧力(プレッシャー)に耐えられなくなった者が敗北する、度胸試しであった。

 

 福音が、両者の間に飛び込む。

 そして先ほどと同じように翼を開き、全方位への無差別攻撃を開始した。

 

 それに対する両者の行動は、まさに対極。

 チョッパーが選んだのは回避――高度を上げ、弾幕の薄い福音の頭上へと逃げだす。

 葵が選んだのは防御――タクティカルアームズを盾に福音に接近する。

 そして、福音とブルーフレームセカンドKが接触した瞬間。

 福音は、真上へと打ち出された。

 葵は、平らに構えたタクティカルアームズを上へと振り抜き、力任せに福音を打ちあげたのだ。

 

「何やてぇ!?」

 

 チョッパーは、葵の目的は福音の排除だとばかり思っていた。

 しかし彼女は福音など無視し、使える駒の一つとして扱った。

 

 一方、バスターに接近した福音もまた、狙いをバスターのみに絞り、攻撃を再開。

 翼を開いて突撃し、死の抱擁をすべく高速で接近する。

 至近の脅威を排除するためにガンランチャーを取り出すバスターであったが、そこに降りそそぐガトリング弾。

 葵に武器を狙われ、福音に本体を狙われ、バスターは窮地に立たされていた。

 

「チョッパー!……くっ!」

「よそ見してるヒマがあるのかしら?」

 

 エッジが援護に入ろうとするも、エイミーがそれを許さない。

 時にシュゲルトゲベールで。時にビームブーメラン〈マイダスメッサー〉で。

 たくみに繰り出される攻撃の嵐は、エッジが全身全霊をこめて集中しなければ、とてもさばききれない。

 

「あー、もう!しゃーないわ!!」

 

 焦れたように叫んだチョッパーは、瞬時加速を使用した。

 逃げるためではない。ここから逆転するための賭けに出たのだ。

 

 加速した先にいるのは――ブルーフレーム。

 ガトリングを避けながら突撃し、タクティカルアームズをソードフォームに戻す前に距離を詰め、ガンランチャーを発砲。

 葵は即座に回避し、被弾こそしなかったものの、チョッパーの姿を一瞬見失う。

 

 ――そこに、福音が突撃してきた。

 

 外したガトリング弾の一部が福音の装甲に命中したため、福音はブルーフレームを「敵性存在」と認識してしまったのだ。

 前方に翼を展開し、面制圧を行う福音に対し、葵は再びタクティカルアームズの影に隠れる。

 

「……くっ。こんなことしてる、場合じゃないのに……!」

「なら、私に任せろ!」

 

 葵が呟いた一言。それに答えるかのように箒が現れ、福音に向けて刺突を放った。

 現れた真紅のレーザーは翼に阻まれたものの、射撃は止んだ。

 その隙を見逃す葵ではない。

 フライトフォームに変形させたタクティカルアームズで加速を行い、バスターに追いすがる。今逃げられたら、ここまでの戦い全てが無駄になる。そうなったら、紅也は戻って来ないんじゃないか?そんな思いが、葵の内面を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 バスターは、思ったよりも近くにいた。と、いうより、足止めされていた。

 

「悪いけど、ここから先は……」

「一方通行だっ!」

 

 そう。鈴音と一夏の手によって。

 

 衝撃砲を連射し、バスターの進路を妨害する鈴と、零落白夜を使って格闘戦を挑む一夏。

 

 ――零落白夜。

 その性質を考えると、確かにPS装甲相手にも有効だろう。

 バスターの操縦者にもそれが分かってるのか、間合いに入らせないために二つの砲を連射してる。そのせいか――私には、気付いていない。

 

 ビームライフルを構える。

 エネルギー残量をチェック。第二形態移行によって最大値が上がったのか、まだ余裕はある。だから、一撃で射抜くべく、限界までエネルギーを込める。

 

 ピキュゥゥゥン!!

 

 発砲。

 私の放ったビームは、人間が知覚できるはずのない速さで飛んでいき――

 バスターの左肩を吹き飛ばした。

 

「ぐぅぅぅぅぅ!!いつの間に!?」

「待ってたぜ、葵!」

 

 命中したビームがミサイルポッドを誘爆させ、ビームの余波が腕の一部を溶かす。

 いくらエネルギーが回復しても、実体ダメージまでは回復しない。こんな左腕では、両手で巨砲を使うことなんてできないでしょ?

 でも、足りない。

 きっと、紅也は――

 

 もっと、痛かったに違いない。

 

 だから――

 

「ありがとう、一夏、鈴音。福音をお願い」

 

 こいつを、ねじふせる。

 

「分かったわ。負けんじゃないわよ!」

「葵、頑張れよ!」

 

 そう言い残し、二人は福音の方へと去っていく。

 それを見送ることはせず、タクティカルアームズを再びソードフォームに戻し、突撃をかける。バスターもこっちに気付いたみたいだけど……手遅れ。

 

 再び左腕。

 むき出しになった左腕を切りつけたことで絶対防御が発動し、敵のエネルギーを大幅に減らす。

 まあ、すぐに回復しちゃうんだけど。

 

 それでも――

 

 痛みまでは、消えないでしょ?

 

「やるなあ、ねえちゃん。今のは……効いたでぇ!」

 

 至近距離から放たれたガンランチャーを、肩のスラスターを使って回転することで回避する。そしてその勢いを殺さないよう、回転しながら右足を突き出し、かかと落としの要領で生身の部分に追撃を行った。

 

 ゴキン。

 

「がっ……はっ……!!」

 

 散弾の掠める音とは違う、何かが壊れたような音が、私の耳元に響いた。

 私は一度距離を取り、バスターを正面から見据える。露出した操縦者の左腕は不自然に「だらり」と垂れ下がり、ぴくりとも動いていない。

 

「どう?今のも、効いたでしょ?」

「……………」

 

 相手は無言。骨をやられた痛みで、しゃべることもできないのかな?

 ……だらしない。紅也とは大違いだ。

 

 とりあえず、もういいや。

 私の気は晴れた。

 

 ――そろそろ、終わらせよう。

 

 ビームサーベルを構え、無抵抗のバスターめがけて突き進む。

 敵はノロノロと右手のガンランチャーを構え、私に照準をつける。その動きには精細さのかけらも無く、完全な悪あがきに見えた。

 

「紅也の……(かたき)ぃ!」

 

 最大出力で振りかぶったビームサーベルの刃が、私の意志に呼応して巨大化する。

 あと数秒で刃は届き、敵を完全に葬るだろう。

 このとき、私は。

 そう確信していた。

 

「アオちゃん、逃げてぇ!」

 

 響いた声。

 これがエイミーさんの発したものだと理解したときには、すべてが遅かった。

 

 ザシュッ!!

 

 ブルーフレームの右腕部装甲に侵入したビームの刃はそのまま私の右手をすり抜け、振り下ろされる。ビームサーベルを握った右手はくるくると宙を舞い、私から離れていく。

 でも、ISには(・・・・)絶対防御がある(・・・・・・・)。私自身の右手は斬り落とされることなくここにあるが、代償としてエネルギーを大きく失うことになる。

 そして、本体とのつながりを失い供給されていたエネルギーが尽きたビームの刃は霧散し、ビームサーベルは海へと落ちていった。

 

「はあっ、はあっ……。間にあった、な……」

 

 私とバスターの間に割り込んだのは、満身創痍のデュエルだった。

 右足を失い、胴体は斬られ、左腕も肘から先が消失し……それでも、右手に持ったビームサーベルだけは決して放すまいとしている。

 そっか……。私は、コレにやられたのか。

 

「エッジ!?自分、何で……」

「仲間を助けるのは当然だろう!……そいつをよこせ!!」

 

 バスターに接近したデュエルは、右手を使ってバスターの腰の高エネルギー収束火線ライフルを掴みとり、私に向けて攻撃を開始する。

 それはあまりに乱雑で、粗末な反撃だった。

 でも、私は回避しきれずに、何発かもらってしまう。

 

 ――と、不意に後ろから肩を掴まれ、私はそのまま後退させられた。

 

「アオちゃん!しっかりして!」

 

 私を引きずっていったのは、エール装備のストライクだった。

 ナニカ言ってるようだけど、私には分からない。

 

 傷を受けてしまった……。

 強くなった。そう思ってたのに。

 何をやってるんだ、私は。

 これじゃあ……こんなんじゃ、私は……。

 

 ――力が欲しいか?

 

 再び聞こえた、男の声。

 

 力?力って、なんだろう?

 決まってる。力は、強さだ。

 そして、強くなれば、こいつらを一人で倒せる。

 そうすれば、きっと、紅也も戻ってくる。

 

 なら――

 

(……欲しい。私は、力が、欲しい)

 

 ――そうか。

  了解した。その任務、引き受けよう。

 

 そして、私の意識は浮上する。

 

「来るわよ、アオちゃん!」

 

 エイミーさんの呼びかけで前方を見やれば、そこには砲を連結したバスターとデュエルの姿が。一機では構えられなくなった超高インパルス長射程狙撃ライフルを二機がかりで構え、私たち二人を照準してる。

 

「こんな奴にぃ!!」

 

 砲口が臨界する。

 隣にいたエイミーさんは、私の手を掴み、エールのフルパワーで上昇しようとする。

 でも、私はその手を振り払う。

 

「!? アオちゃん!」

 

 そしてそのまま姿勢を低くし、三基のスラスターに火をともす。

 ビームサーベルは既に無い。ビームライフルでは効果が薄い。

 なら、どうするか。

 

 バスター最強の攻撃が放たれる。

 でも、私は止まらない。

 紙一重、ともいえる距離で砲撃をかわし、光に沿って全力で空を駆け抜ける。

 

 ――不思議な感覚だ。

 

 時間が、とてもゆっくり流れてる。

 すぐ右側にある光の柱にも触れられそうだし、敵も止まって見える。

 違うのは、私だけ。私だけが、この空間を動いてる。

 ふと、ブルーフレームに違和感を感じ、体を見てみる。

 大きな変化はない。ただ、胸のあたりの装甲に、緑色の蛇のようなマークが刻まれていた。

 それを見た瞬間、唐突に理解する。

 

 そうか。

 

 これが、力か。

 

 目の前には、ボロボロのデュエルと、壊れかけのバスターが。

 お馬鹿さん。

 そこまでやられたんだったら、いっそ逃げればよかったのに。

 

「命を粗末にする奴は二流だ……」

 

 ふと、そんな言葉が飛び出す。

 バスターは、まだ反応しない。

 

 ――これなら、十分狙える。

 

 構えたのは、私が最も多用するナイフ、アーマーシュナイダー。

 左手に構えたそれを、バスターの胸のやや下あたりに向け、力を込めて突き刺した。

 

 ずぷり。

 

 アーマーシュナイダーはさほど抵抗も無く目標に刺さった。

 

 ――そして、時間が動き出す。

 

「なっ……」

装甲(アーマー)装甲(アーマー)の継ぎ目を狙ったやてぇ!?」

 

 私が狙ったのは、PS装甲で覆われていない部分。

 ここなら、ビームでなくても十分に破壊できる。

 

「くっ……。動け!動けっちゅーに!」

 

 バスターの操縦者の声が聞こえてくるが、肝心のバスターは動かない。

 それは当然だ。

 私が狙ったのは、駆動制御系が集中している部分なのだから。

 

「チョッパー!バスターを解除して下さい!後は私が……」

「……させない!」

 

 左手のエネルギープラグを起動。本来はビームに回すエネルギーを、直接手に纏わせる。

 これは、光雷球やプラズマ手刀の応用だ。所詮付け焼刃だから、展開できるのはせいぜい数秒。でも――この距離なら、それで十分。

 

 スラスターを使い、滑るように空中を移動する。

 目の前には、デュエルの顔。

 そして――

 

「……蒲公英」

 

 私はそこに、左手を突き出した。

 

「な……」

 

 声は、そこで止まる。

 放った手刀による突きが、デュエルのフェイスカバーを破壊したのだ。

 頭から海面に落ちていくデュエル。

 ああ、なんてあっけない。

 

 さて……向こうはどうなったんだろう?

 もはや動けないバスターの腕を掴み、私は一夏と鈴音が向かった方向に目をやる。

 

 正直に言おう。

 今、私は完全に油断していた。

 慢心は死を呼びよせる。それはついさっき、身をもって知ったばかりだったのに。

 

 至近から、高エネルギー反応。発信源は、機能停止したはずのバスターであった。

 

「くっ……くははは!最後に勝つのはワイやぁ!!」

 

 叫ぶバスターの操縦者。

 エネルギー反応はさらに増幅していく。

 

 これは……間違いない。

 

 コイツは、自爆する気だ。

 

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