IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第70話 戦場への帰還

 一体、飛び始めてからどれほどの時間が経ったんだろう?

 さっき、ラファールとすれ違ったから、交戦空域は近いはずだ。

 体は……。うん、まだしばらくは大丈夫そうだ。

 

 シャル子が飛んできた方向へ向かい、意識を集中する。すると――見つけた。

 ISが5機、離れた所にもう4機。その近くに2機。今、4機のうち2機が移動した。

 ……多分、2機っていうのはXナンバーと葵だろう。もう2機は……コアナンバーから察するに、エイミーさんのストライクと別のXナンバーか。

 

 なら――まずは、仕留めやすい方を狙わせて貰おうか。

 まとまっている7機のISの方へ、俺は飛んでいく。

 

 それは、奇妙な光景だった。

 光の繭に包まれたISが、残り6機のISを相手に互角以上の立ち回りを行っているのだ。

 よく見ると、6機のISの攻撃は、光の繭――おそらく福音――には一切効いていない。

 どうやら、全てがあの光によって弾かれているようだ。

 

 アレは……光波防御帯(アルミューレ・リュミエール)か?まさか、アメリカとイスラエルに先を越されるとはね。

 

 厳密には違うか。

 あれは多分、エネルギーを使って翼を形成し、攻撃と防御の両方に転用できるようにしたんだろう。問題は、それらをまかなうだけのエネルギーがどこにあんのか、っつう話だけど、そこはこの際後回しだ。

 重要なのは、アレがエネルギーの塊である、という事実。

 

 ならば……

 

 喰らうまで、だ。

 

 

 

 

 

 

〈side:篠ノ之 箒〉

 

 福音との交戦を再開した私たちだったが、かなり厄介な状況に追い込まれた。

 なにせ福音にこちらの攻撃は一切届かず、逆に福音はこちらに一方的な攻撃ができるのだ。

 これを、不利と言わずしてなんと言うのか。

 しかし、勝機はある。

 エネルギーを切り裂く、一夏の零落白夜。あれならば、翼を貫通してダメージを与えられる。後は、シャルロットのようにアンチビームコーティングされた武器があれば対抗できるようだが、あいにく私たちにそんなものは無い。

 

「やはり、一夏が鍵になるな」

「そうですわね。スターライトも、インターセプターも効果がありませんし」

「あるいは、エイミーさんや葵の助けを借りるか?」

 

 ラウラ、セシリア、一夏がそれぞれ提案する。

 確かに、ビームもエネルギー兵器に対しては有効だろう。でも――

 

「それでは意味が無い!これは、私たちの任務だ!」

「箒。気持ちはわかるけど……」

 

 鈴の言うことは分かる。でも、心情的に納得できるかと言えば、話は別だ。

 私は、力を手に入れた。なのに、それを活かせずに他人任せの戦いをするなど、言語道断だ。最強ではなかったのか?この機体――紅椿は。

 

「みんなで戦えば勝てる……。勝てるはずなんだ!だから頼む!

 まだ……諦めないでくれ!!」

 

 これは、私のエゴだ。

 でも、旅館を飛び出した時の、全員の思いでもあったはず。

 勝利条件は揃っているんだ。ならば、やってやれないことはない!

 

「箒……。そうだな!ここで諦めたら、男じゃねぇ!」

「少し、弱気になっていましたわね……」

「そうね。福音だって同じISだもの!」

「……いずれ、限界が……来るはず……」

「しかし、まずはあの翼をどうにかしなければ……」

 

 ラウラの指摘に、全員が沈黙する。確かに、あれをどうにかしなければ、一夏以外に出来ることは何も――

 

《任せろ。》

 

 

『!?』

 

 紅椿のモニターの右下に、そんな四文字が表示される。

 発信源は不明。でも、私には確信できた。

 彼が――やって来たのだ、と。

 

 同時に、福音の背後で紫電が迸る。

 そして福音を包んでいたエネルギーの翼が消滅し、福音の姿が露わになる。

 

「これは、一体……」

「何にせよ、大チャンスよ!」

 

 その言葉を皮切りに、一斉攻撃が始まる。

 セシリアが、鈴が、ラウラが、簪が、各々の持つ射撃武装で、一斉に攻撃を開始する。

 

「キアァァァァァ!?」

 

 ところどころから黒煙を上げ、姿勢を崩す福音。

 美しかった銀の装甲はすでに黒ずみ、翼は折れ、まさに満身創痍。

 

 でも、まだ動いている。

 ならば――トドメをさすのは、私たちの仕事だ。

 そう考えると、自分の内側から力が溢れてくる。

 そして――紅椿から金色の光があふれ、エネルギーが回復していく。

 

「行くぞ、一夏」

「箒!その光は……」

「話は後だ!手を握れ!」

 

 私は一夏へと手を伸ばし、白式の手を掴む。

 すると、光が白式にも移っていく。見ると、やはりというか、エネルギーが回復した。

 

「! エネルギーが回復した!?何で!?」

「そんなことはどうでもいい!――行くぞ!」

 

 雨月、空裂を構え、瞬時加速を行う。

 隣を見ると、一夏も同様に加速し、零落白夜を発動していた。

 

 福音は、空中に縫い付けられたかのように、その場から動かない。

 AICだろうか?とにかく……これなら、外さない!

 

「これで……」

「この一撃で……」

「「私(俺)達の勝ちだ!!」」

 

 刃が、福音の胴体を捉える。

 今度は、両方とも直撃だ。福音の装甲が光となっていき、ゆっくりと消滅する。

 そして操縦者の姿が露わになり、ゆっくりと落ちていく。

 

「――ったく、ツメが甘いのよ、ツメが」

 

 そこへ鈴がすぐさま降下し、意識を失っている操縦者を確保する。

 ――これで、私の任務は終了だ。

 

「よし!じゃあ、鈴はその人を連れて先に戻ってくれ。俺は葵たちを……なっ!?」

「どうした、一夏……あれは!?」

 

 一夏とラウラが見たナニカの正体が気にかかった私は、つられて同じ方向を向く。

 そこには……バスターの装甲にナイフを突き刺し、手刀でデュエルの頭部を破壊するブルーフレームの姿があった。

 

「今……消えましたわよね?」

「……うん」

 

 どうやら私が振り向くまでの間に、決定的な何かが起こったようだ。

 何があったのかは分からないが、皆がそれに衝撃を受け、硬直していた。

 

 デュエルが落ちていく。

 そして葵がこちらを振り返る。

 しかし、バスターだけがまだ動いていた。

 

 装甲を解除し、生身の右腕で葵の腰にがっちりと張り付き、ブルーフレームを拘束する。

 そして――

 

「最後に勝つのはワイやぁ!!」

 

 限界を超えたエネルギーが、バスターのコアからあふれ出す。

 攻撃のためではない。これは――自爆のためだ。

 

「葵!!」

 

 思わず叫び声を上げる。あまりのことに、葵も反応できていない。

 助けようにも、この距離からでは間に合わない。

 近くにいたはずのストライクも、デュエルを回収するべく海面ギリギリまで下がっていたため、救援は間にあわない。

 

 もうだめだ……と、思わず目を閉じたとき。

 バスターの背後の空間が、ゆらり、と動いた。

 

 

 

 

 

 

〈side:山代 葵〉

 

 迂闊だった。

 まさか、装甲を解除してまで私を拘束しようとするとは。

 たとえ振り払っても、この距離で爆発を受けたら、ただではすまないだろう。

 

 油断した。

 

 ああ、駄目だ。全然ダメだ。

 勝利の余韻に浸るのは、勝ちを確認してからにすべきだった。

 

 そんなことも、忘れてたなんて……。

 

(ゴメン……お兄ちゃん)

《謝るなよ。お前は、本当によくやった。》

 

 ………!?

 

 突然、ブルーフレームのウィンドウに表示された文字列。

 それが、暗闇に引きずり込まれかけていた私の意識を、現実世界へと呼び戻した。

 

 そして急激に減衰する、バスターのエネルギー。

 見ると、バスターは首を絞められたような格好で空中に浮いており、その周囲の空間には電撃が迸っていた。

 

「があぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 バスターの操縦者の右腕から力が抜ける。

 放電現象はなおも続き――やがて、バスターの装甲から色が消えた。

 

 フェイズシフトダウン――つまり、エネルギー切れである。

 装甲が光となり、空気に溶けるように消えていく。

 そんな中で操縦者だけが、不自然に空中で横たわっていた。

 

 ――再び異変が起こる。

 空間がゆらり、と動き、何もない空間に手が現れたのだ。

 次いで腕が。体が。翼が。脚が。何もなかったはずの空間に出現し、最後に現れた顔が、私を見つめる。

 

 ――知っている。

 私は、この顔を知っている。

 

 黒い頭部には、ASTRAYに特有のデュアルアイに加え、第三の目である単眼(モノアイ)が。

 装甲は金と黒で彩られ、右腕だけが漆黒。

 さらに背後に存在する、悪魔のような一対の翼。

 

 この機体……間違いない。

 

「ゴールドフレーム……」

《おっと。今の正式名称はMBF-P01:Re ゴールドフレーム(アマツ)だ。

 ……間に合って良かったぜ、葵。》

 

 そして、このしゃべり方。このタイミングの良さ。

 

「……お兄ちゃん」

 

 間違いない。紅也が――お兄ちゃんが、来てくれたんだ。

 

「ふうん……。やっぱりアナタが持ってたのね、右腕」

 

 そう言いながら上昇してきたのは、デュエルを抱えたエイミーさんだった。

 いきなり現れたゴールドフレームに特に動揺したりせず、堂々とした佇まい。

 やはり、只者ではないと思い知らされる。

 

《……なんのことやら。》

「とぼけないで。それ、ブリッツのトリケロスでしょ?何が『戦闘中に破損』よ」

《ハハハ。これはモルゲンレーテでコピーしたトリケロスです。オリジナルは壊れちゃいました。》

「まったく……。じゃ、そういうことにしておくわ」

 

 ふふっ……と、笑うエイミーさん。そして――

 

「……って、コウくん!?意識戻ったの!?」

 

 遅れて叫ぶ。

 なんだか、すごく今更な感じだ。

 

《まあ、訳あって声は出ませんけどね。》

「ふーん、へーえ、ほーう。ま、無事でなによりよ」

 

 そう言って、再び笑い出すエイミーさん。その姿に、思わず私もつられて……

 

 リイィィィィィン!!

 

 笑う前に、何かが飛んできた。

 

 三機が散開する。

 これは――レーザー砲!?

 

 照射され続けるレーザーは、デュエルを抱えており、一番動きの鈍いストライクを追う。

 そしてすぐに、敵の正体が明らかになった。

 

 それは、前進翼と三面カナードを持ち、規格外の大型エンジンを搭載した、異形の戦闘機。

 

 そう、黒い戦闘機だ。

 キャノピーは無く、無数のセンサーとおぼしき光点が存在する機首が上方にせり上がり、そこからレーザーを照射し続けている。

 

「あれは……FALKEN!?何でこんな所に……」

 

 驚愕の声を上げるエイミーさん。その声に反応し、デュエルの操縦者の顔が、ぴくりと動いた。

 

 ――まずい!

 

「《エイミーさん!》」

 

 私と紅也が、同時に警告する。

 しかしそれも無駄に終わり、いきなり暴れ出したデュエルはストライクを振り払い、漆黒の戦闘機へと接近していった。

 そして巧みな機体操作で相対速度を合わせると、そのまま戦闘機とドッキングした。

 

「! ……逃がさない!」

《オープン・ファイア!》

 

 タクティカルアームズをガトリングフォームにし、攻撃開始。

 一方、紅也のゴールドフレームも、トリケロスを構え、ビームによる攻撃を開始した。

 でも――当たらない。

 ビームは的外れの方向へ飛び、ガトリング弾は不自然に逸れ、かすりもしない。

 

「葵さん!援護しますわ!」

「逃がさんぞ!」

「……落とす!」

 

 セシリアたちが援護にやってきた。

 でも、状況が変わらない。

 レーザーは照準が合わず、レールガンも外れ、ミサイルは命中直前であらぬ方向に飛んでいく。

 

「ならば、接近戦でッ!!」

 

 そう言いながら展開装甲を稼働させ、化け物じみた加速力で追いすがる箒。

 敵のスピードも相当速いけど、これなら追いつけそうだ。

 ……と、思ったとき、敵が後方に向け、何かを発射した。

 

「……!いけない、逃げて!」

 

 エイミーさんが警告を発するも、箒は止まらない。接近するミサイルを、空裂から発した帯状レーザーで迎撃する。

 レーザーは弾頭を切り裂き、そのまま敵へと向かっていく。

 

 でも、私が見れたのはここまでだった。

 

 ミサイルが炸裂する。

 そして通常弾頭では考えられないほどの圧倒的な破壊が、箒を包み込んだ。

 閃光が紅椿を呑み込み、その姿を隠す。

 それと同時に敵の姿もまた、空に溶けるように消えていった……。

 

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