一体、飛び始めてからどれほどの時間が経ったんだろう?
さっき、ラファールとすれ違ったから、交戦空域は近いはずだ。
体は……。うん、まだしばらくは大丈夫そうだ。
シャル子が飛んできた方向へ向かい、意識を集中する。すると――見つけた。
ISが5機、離れた所にもう4機。その近くに2機。今、4機のうち2機が移動した。
……多分、2機っていうのはXナンバーと葵だろう。もう2機は……コアナンバーから察するに、エイミーさんのストライクと別のXナンバーか。
なら――まずは、仕留めやすい方を狙わせて貰おうか。
まとまっている7機のISの方へ、俺は飛んでいく。
それは、奇妙な光景だった。
光の繭に包まれたISが、残り6機のISを相手に互角以上の立ち回りを行っているのだ。
よく見ると、6機のISの攻撃は、光の繭――おそらく福音――には一切効いていない。
どうやら、全てがあの光によって弾かれているようだ。
アレは……
厳密には違うか。
あれは多分、エネルギーを使って翼を形成し、攻撃と防御の両方に転用できるようにしたんだろう。問題は、それらをまかなうだけのエネルギーがどこにあんのか、っつう話だけど、そこはこの際後回しだ。
重要なのは、アレがエネルギーの塊である、という事実。
ならば……
喰らうまで、だ。
◆
〈side:篠ノ之 箒〉
福音との交戦を再開した私たちだったが、かなり厄介な状況に追い込まれた。
なにせ福音にこちらの攻撃は一切届かず、逆に福音はこちらに一方的な攻撃ができるのだ。
これを、不利と言わずしてなんと言うのか。
しかし、勝機はある。
エネルギーを切り裂く、一夏の零落白夜。あれならば、翼を貫通してダメージを与えられる。後は、シャルロットのようにアンチビームコーティングされた武器があれば対抗できるようだが、あいにく私たちにそんなものは無い。
「やはり、一夏が鍵になるな」
「そうですわね。スターライトも、インターセプターも効果がありませんし」
「あるいは、エイミーさんや葵の助けを借りるか?」
ラウラ、セシリア、一夏がそれぞれ提案する。
確かに、ビームもエネルギー兵器に対しては有効だろう。でも――
「それでは意味が無い!これは、私たちの任務だ!」
「箒。気持ちはわかるけど……」
鈴の言うことは分かる。でも、心情的に納得できるかと言えば、話は別だ。
私は、力を手に入れた。なのに、それを活かせずに他人任せの戦いをするなど、言語道断だ。最強ではなかったのか?この機体――紅椿は。
「みんなで戦えば勝てる……。勝てるはずなんだ!だから頼む!
まだ……諦めないでくれ!!」
これは、私のエゴだ。
でも、旅館を飛び出した時の、全員の思いでもあったはず。
勝利条件は揃っているんだ。ならば、やってやれないことはない!
「箒……。そうだな!ここで諦めたら、男じゃねぇ!」
「少し、弱気になっていましたわね……」
「そうね。福音だって同じISだもの!」
「……いずれ、限界が……来るはず……」
「しかし、まずはあの翼をどうにかしなければ……」
ラウラの指摘に、全員が沈黙する。確かに、あれをどうにかしなければ、一夏以外に出来ることは何も――
《任せろ。》
『!?』
紅椿のモニターの右下に、そんな四文字が表示される。
発信源は不明。でも、私には確信できた。
彼が――やって来たのだ、と。
同時に、福音の背後で紫電が迸る。
そして福音を包んでいたエネルギーの翼が消滅し、福音の姿が露わになる。
「これは、一体……」
「何にせよ、大チャンスよ!」
その言葉を皮切りに、一斉攻撃が始まる。
セシリアが、鈴が、ラウラが、簪が、各々の持つ射撃武装で、一斉に攻撃を開始する。
「キアァァァァァ!?」
ところどころから黒煙を上げ、姿勢を崩す福音。
美しかった銀の装甲はすでに黒ずみ、翼は折れ、まさに満身創痍。
でも、まだ動いている。
ならば――トドメをさすのは、私たちの仕事だ。
そう考えると、自分の内側から力が溢れてくる。
そして――紅椿から金色の光があふれ、エネルギーが回復していく。
「行くぞ、一夏」
「箒!その光は……」
「話は後だ!手を握れ!」
私は一夏へと手を伸ばし、白式の手を掴む。
すると、光が白式にも移っていく。見ると、やはりというか、エネルギーが回復した。
「! エネルギーが回復した!?何で!?」
「そんなことはどうでもいい!――行くぞ!」
雨月、空裂を構え、瞬時加速を行う。
隣を見ると、一夏も同様に加速し、零落白夜を発動していた。
福音は、空中に縫い付けられたかのように、その場から動かない。
AICだろうか?とにかく……これなら、外さない!
「これで……」
「この一撃で……」
「「私(俺)達の勝ちだ!!」」
刃が、福音の胴体を捉える。
今度は、両方とも直撃だ。福音の装甲が光となっていき、ゆっくりと消滅する。
そして操縦者の姿が露わになり、ゆっくりと落ちていく。
「――ったく、ツメが甘いのよ、ツメが」
そこへ鈴がすぐさま降下し、意識を失っている操縦者を確保する。
――これで、私の任務は終了だ。
「よし!じゃあ、鈴はその人を連れて先に戻ってくれ。俺は葵たちを……なっ!?」
「どうした、一夏……あれは!?」
一夏とラウラが見たナニカの正体が気にかかった私は、つられて同じ方向を向く。
そこには……バスターの装甲にナイフを突き刺し、手刀でデュエルの頭部を破壊するブルーフレームの姿があった。
「今……消えましたわよね?」
「……うん」
どうやら私が振り向くまでの間に、決定的な何かが起こったようだ。
何があったのかは分からないが、皆がそれに衝撃を受け、硬直していた。
デュエルが落ちていく。
そして葵がこちらを振り返る。
しかし、バスターだけがまだ動いていた。
装甲を解除し、生身の右腕で葵の腰にがっちりと張り付き、ブルーフレームを拘束する。
そして――
「最後に勝つのはワイやぁ!!」
限界を超えたエネルギーが、バスターのコアからあふれ出す。
攻撃のためではない。これは――自爆のためだ。
「葵!!」
思わず叫び声を上げる。あまりのことに、葵も反応できていない。
助けようにも、この距離からでは間に合わない。
近くにいたはずのストライクも、デュエルを回収するべく海面ギリギリまで下がっていたため、救援は間にあわない。
もうだめだ……と、思わず目を閉じたとき。
バスターの背後の空間が、ゆらり、と動いた。
◆
〈side:山代 葵〉
迂闊だった。
まさか、装甲を解除してまで私を拘束しようとするとは。
たとえ振り払っても、この距離で爆発を受けたら、ただではすまないだろう。
油断した。
ああ、駄目だ。全然ダメだ。
勝利の余韻に浸るのは、勝ちを確認してからにすべきだった。
そんなことも、忘れてたなんて……。
(ゴメン……お兄ちゃん)
《謝るなよ。お前は、本当によくやった。》
………!?
突然、ブルーフレームのウィンドウに表示された文字列。
それが、暗闇に引きずり込まれかけていた私の意識を、現実世界へと呼び戻した。
そして急激に減衰する、バスターのエネルギー。
見ると、バスターは首を絞められたような格好で空中に浮いており、その周囲の空間には電撃が迸っていた。
「があぁぁぁぁぁっ!!!」
バスターの操縦者の右腕から力が抜ける。
放電現象はなおも続き――やがて、バスターの装甲から色が消えた。
フェイズシフトダウン――つまり、エネルギー切れである。
装甲が光となり、空気に溶けるように消えていく。
そんな中で操縦者だけが、不自然に空中で横たわっていた。
――再び異変が起こる。
空間がゆらり、と動き、何もない空間に手が現れたのだ。
次いで腕が。体が。翼が。脚が。何もなかったはずの空間に出現し、最後に現れた顔が、私を見つめる。
――知っている。
私は、この顔を知っている。
黒い頭部には、ASTRAYに特有のデュアルアイに加え、第三の目である
装甲は金と黒で彩られ、右腕だけが漆黒。
さらに背後に存在する、悪魔のような一対の翼。
この機体……間違いない。
「ゴールドフレーム……」
《おっと。今の正式名称はMBF-P01:Re ゴールドフレーム
……間に合って良かったぜ、葵。》
そして、このしゃべり方。このタイミングの良さ。
「……お兄ちゃん」
間違いない。紅也が――お兄ちゃんが、来てくれたんだ。
「ふうん……。やっぱりアナタが持ってたのね、右腕」
そう言いながら上昇してきたのは、デュエルを抱えたエイミーさんだった。
いきなり現れたゴールドフレームに特に動揺したりせず、堂々とした佇まい。
やはり、只者ではないと思い知らされる。
《……なんのことやら。》
「とぼけないで。それ、ブリッツのトリケロスでしょ?何が『戦闘中に破損』よ」
《ハハハ。これはモルゲンレーテでコピーしたトリケロスです。オリジナルは壊れちゃいました。》
「まったく……。じゃ、そういうことにしておくわ」
ふふっ……と、笑うエイミーさん。そして――
「……って、コウくん!?意識戻ったの!?」
遅れて叫ぶ。
なんだか、すごく今更な感じだ。
《まあ、訳あって声は出ませんけどね。》
「ふーん、へーえ、ほーう。ま、無事でなによりよ」
そう言って、再び笑い出すエイミーさん。その姿に、思わず私もつられて……
リイィィィィィン!!
笑う前に、何かが飛んできた。
三機が散開する。
これは――レーザー砲!?
照射され続けるレーザーは、デュエルを抱えており、一番動きの鈍いストライクを追う。
そしてすぐに、敵の正体が明らかになった。
それは、前進翼と三面カナードを持ち、規格外の大型エンジンを搭載した、異形の戦闘機。
そう、黒い戦闘機だ。
キャノピーは無く、無数のセンサーとおぼしき光点が存在する機首が上方にせり上がり、そこからレーザーを照射し続けている。
「あれは……FALKEN!?何でこんな所に……」
驚愕の声を上げるエイミーさん。その声に反応し、デュエルの操縦者の顔が、ぴくりと動いた。
――まずい!
「《エイミーさん!》」
私と紅也が、同時に警告する。
しかしそれも無駄に終わり、いきなり暴れ出したデュエルはストライクを振り払い、漆黒の戦闘機へと接近していった。
そして巧みな機体操作で相対速度を合わせると、そのまま戦闘機とドッキングした。
「! ……逃がさない!」
《オープン・ファイア!》
タクティカルアームズをガトリングフォームにし、攻撃開始。
一方、紅也のゴールドフレームも、トリケロスを構え、ビームによる攻撃を開始した。
でも――当たらない。
ビームは的外れの方向へ飛び、ガトリング弾は不自然に逸れ、かすりもしない。
「葵さん!援護しますわ!」
「逃がさんぞ!」
「……落とす!」
セシリアたちが援護にやってきた。
でも、状況が変わらない。
レーザーは照準が合わず、レールガンも外れ、ミサイルは命中直前であらぬ方向に飛んでいく。
「ならば、接近戦でッ!!」
そう言いながら展開装甲を稼働させ、化け物じみた加速力で追いすがる箒。
敵のスピードも相当速いけど、これなら追いつけそうだ。
……と、思ったとき、敵が後方に向け、何かを発射した。
「……!いけない、逃げて!」
エイミーさんが警告を発するも、箒は止まらない。接近するミサイルを、空裂から発した帯状レーザーで迎撃する。
レーザーは弾頭を切り裂き、そのまま敵へと向かっていく。
でも、私が見れたのはここまでだった。
ミサイルが炸裂する。
そして通常弾頭では考えられないほどの圧倒的な破壊が、箒を包み込んだ。
閃光が紅椿を呑み込み、その姿を隠す。
それと同時に敵の姿もまた、空に溶けるように消えていった……。