IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第72話 男たちのFALKEN

 花月荘内、作戦司令室。そこに、私たちは集まっていた。

 メンバーは11人――私と紅也、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、簪、織斑先生。そして、エイミーさん。

 

「紅也、もう動いても大丈夫なのか?」

「ああ。ただし、左腕には触るなよ。死ぬほど痛いから。いいな、絶対に触るなよ!」

「それって、ネタ振りかしら?」

「違う!違うから手を伸ばすな、鈴音!」

 

 ……………。

 

「……えっと、話してもいいかしら?」

 

 何だろう?前回、あんなにシリアスに締めたのに、なんか色々台無しだ。

 ここで私が言うべきことは、ただ一つ。

 

「……紅也、シリアスが台無し」

「まだそのネタ引っ張ってんの!?」

 

 

 

 

 

 

「……エイミーさん。まずは、あの戦闘機のことを、話してほしい」

 

 私がそう切り出すと、エイミーさんは椅子に腰かけ、話し始めた。

 

「アレの正式名称はADF-01、通称FALKEN……。IS以前にアメリカが開発していた、次世代型の戦闘機よ」

 

 IS以前……と、いうことは10年以上前。

 そんな昔に、IS9機から逃げおおせるような戦闘機が開発されていた……?

 

「有り得ねえ!そんな昔に、あんな超兵器が開発されてたなんて!」

 

 紅也も同じことを考えたようだ。確かに、有り得ない。あまりに現実離れしてる。

 

「まあ、落ちついて。もちろん、最初からあんなにハイスペックだった訳じゃないわ。

 当初の設計では、レーザーとCOFFINシステムだけが搭載された試作機だったんだから」

「COFFINシステム……?」

 

 聞きなれない単語に、ラウラが小さく首をかしげる。その姿は、無垢な子供みたいで可愛い……じゃなくて。

 

「キャノピーを排除してコックピットを装甲で覆い、機体各所に配置されたセンサーで外部の状況をモニターして、コックピット内の全天球スクリーンに投影するシステムよ」

「へえ。旧来のコックピットだと後ろや真下は見づらかったから、当時のものとしてはかなり画期的だな。察するに名前の由来は……コックピットがCOFFIN(カンオケ)みたいになったことか?」

「そんな感じよ。

 ……続けるわね。アメリカが開発した当時のFALKENのスペックは、さっき話した通り、そこまで高いものじゃなかった。しかもその試作機は“白騎士事件”の時に白騎士にちょっかいかけて中破。……覚えてらっしゃらない、織斑先生?」

「知らんな」

 

 そういえば、ブリーフィング中に紅也が出ていった後、篠ノ之博士が言ってたっけ。 『白騎士の操縦者は織斑千冬だ』……って。でもエイミーさん、その時にはいなかったはずだよね?

 

「で、では、何でそんな、『あるはずのない』機体が現れましたの?」

「そんなの、決まってるじゃない。もう一機作ったからよ」

「……もう……一機……?」

 

 セシリアが発した問いに、エイミーさんはさらりと答え、簪が更なる問いを口にする。

 

「そ。白騎士にFALKENが負けちゃって、ISが世界に広まって。それが女にしか使えないことが分かって。そうして社会は女尊男卑の傾向が日に日に強くなっていった……。

 そんな状況が許せない人たちが、ISを打倒するために新しいFALKENを作った……らしいのよ」

「えーっと……『らしい』っていうのは、どういうことなんですか?」

 

 私が――そしておそらくこの場にいる誰もが聞きたかったことを、シャルロットが尋ねる。

 その問いを受けて、エイミーさんはたっぷり十秒ほど考えてから、「まあ、いいか」と前置きをして、再び話し始めた。

 

「らしい、って言うのはね。この話が噂話に過ぎなかったからよ。新型FALKENの設計データがあったのは本当らしいけど、本体は作られた形跡も無いし、そもそも設計者だって誰なのか分からない。でも……」

「FALKENは実在した。ならば、技術者たちが技術を持ち逃げしたのだろうな」

「そんでもって、どっかの国なり組織なりに合流して、機体を完成させた……。気持ちはわからんでもねぇけど、技術者の風上にも置けねぇ奴らだな!」

 

 織斑先生も紅也も、同時に結論に至ったようだ。

 特に紅也は、技術を持って逃げた、という行い自体にあからさまな嫌悪感を示している。

 ……同族嫌悪?

 

「それで、開発までの経緯は分かったからさ。あれがどのくらい強いのか話してくれませんか?」

 

 そして一夏が、やや焦れたように本題をきりだす。

 『開発までの経緯は分かった』って言ってるけど、絶対分かってない。目が泳いでるもん。

 一夏って、歴史とか苦手なタイプだよね、多分。

 

「うーん、映像を見返した限り、目についた装備は4つね。

 まず一つ目。初期型にも装備されてたTLS……つまり、レーザー砲ね。もっとも、威力は桁違いに上がってたけど。セシリアちゃんのスターライトくらいはあるんじゃないかしら?もしかしたら、同じ技術で作られてるのかもね」

「! ま、まさか……。でも、いえ、そんなハズは……」

 

 エイミーさんが漏らした言葉で、セシリアの態度が急におかしくなった。

 でも、そんなことはお構いなしに、話は続く。

 

「で、二つ目。MPBMっていう、多用途炸裂弾頭ミサイルよ。アイツが逃げるときに撃ってきたやつ」

「あれ、ですか……。ただの戦闘機が持つ武器にしては、恐ろしく高威力でした。満タンだった紅椿のシールドエネルギーも、一瞬で二桁まで減らされてしまいましたし……。」

「むしろそれだけで済んだISって兵器が規格外なのよ。あれって本来、普通サイズの軍基地程度だったら一発で破壊できるくらいの威力があるんだから。……だから『逃げて』って言ったのに」

「うっ……」

 

 ジト目で睨むエイミーさんに怯えたのか、それともあまりの威力に愕然としたのか、箒がたじろぐ。心なしか、額からはタラタラと冷や汗がたれているようにも見える。

 

「次はECMP。……これが一番厄介なのよね」

「厄介!?あのミサイルより強力な武器が、あの戦闘機に積んであるんですか!?」

 

 鈴音が驚愕するのも分かる。一番目がIS武装と同じ威力のレーザー。二番目が基地一つを易々と灰にするミサイル。……と来れば、次は核が来てもおかしくない。

 ……でも、エイミーさんは首を横に振った。

 

「ECMPは武器じゃないわ。超強力なECMポッドよ。

 あれが逃げたとき、射撃武器が一切当たらなかったでしょ?ECMPが発動してる限り、現行の照準・誘導システムの全てが妨害される……」

 

 その言葉に思い当たる節があり、私は思わず顔をしかめる。

 私と紅也の射撃も、セシリアのレーザーも、ラウラのレールガンも、簪のミサイルも、あれにはかすりもしなかった。なら、私たちじゃあ勝てない――?

 

「待ってくれ!たかがECM程度で、あんな結果になるわけがない!」

 

 ネガティブな思考に陥りかけた私たちを、紅也の一言が現実に引きずり戻した。

 

「簪。打鉄弐式の戦闘ログを、モニターに表示してくれ」

「……わかった」

 

 言うが早いか簪は打鉄弐式を展開し、モニターと機体とをコードでつなぐ。

 そしてモニターに〈CONNECT〉の表示が出ると、先程の戦闘の映像が表示される。

 ちょうど、私のガトリングが外れ、簪がミサイルを撃つシーン。16発のミサイルが別々の軌道を描いてFALKENへと襲いかかり……不自然に軌道が逸れ、爆発した。

 

「クリムゾン!ここでストップだ。もう一度再生してくれ。スローでな」

《了解、クリエイター》

 

 映像が巻き戻される。爆発したミサイルが元の形に戻り、バックして再びFALKENのそばへ近づいていく。そして映像は再び停止し、今度はゆっくりと再生され始めた。

 

「よし。ここに、ミサイルのコントロール時の観測データと、入力した軌道データ、それから空間そのもののデータを重ねて表示するんだ」

《ラージャ》

 

 ウィンドウ端の文字が消えると、映像に線が入る。これが、ミサイルの軌道データなのだろう。

 さらに画面が分割され、小さなウィンドウが二つ増える。そこに表示されたのは、FALKENの立体模型と、座標軸のようなもの。

 

「まず、これがマルチロックミサイル〈山嵐〉の軌道。4発が敵機正面に回り込み、2発が後部エンジン。残りの10発が胴体と主翼を狙うコースだ。……で」

 

 どこからか取り出した指し棒で、紅也が座標軸の書かれたウィンドウを叩く。するとその画面が拡大され、原点のところにFALKENの立体模型が表示された。

 

「これが、ミサイルに搭載された小型センサーで捉えた、FALKENの立体像だ。

 ……分かるか?センサーは、正確にFALKENを捕捉している」

「! 確かにその通りね……。これは、ECMPの影響を受けてない」

 

 エイミーさんが驚愕の表情を浮かべる。他のみんなも同じような感じの表情だろう。

 私はというと……見えないから分からないけど、多分、緩んだ表情をしてるに違いない。

 だって、こんなふうに生き生きと解説してる紅也をまた見れて、すごく嬉しいから。

 

「でも、ミサイルは……外れた!」

 

 映像が進み、ミサイルの軌道が逸れたところで一時停止する。

 

「そのときのFALKENの周囲の空間データが……これだ!」

 

 別の小さいウィンドウが拡大される。見たところ、空気の流れを示したデータのようだけど……どこかおかしい。

 そして、それに一番早く気付いたのは――鈴音だった。

 

「え!?この空間圧……。ひょっとして、衝撃砲!?」

「ピンポーン!ほぼ正解だ!」

 

 そう言ってから紅也はモニターに近づき、投影されたキーボードに何かを入力していく。

 ……何で8を使わないんだろう?

 

 ――いや、そもそも8はどこにあるの?少なくとも、今の紅也は持ってないし……。

 

 考えている間に画面が切り替わり、ディスプレイに二つの映像が投影される。

 一つは、さっきまで表示していた空間データ。もう一つは、新たに表示された甲龍の衝撃砲のデータだ。

 

「似ているな」

「ええ、そっくりですわ」

 

 まさにその通り。

 FALKEN周囲に生じていた不自然な空間圧は、衝撃砲の砲身形成時の空間圧とほぼ同じだった。

 

「なるほど……。ECMによるシステム面と防御と、この異常な圧力による物理防御。それが、先程の違和感の正体か」

「それだけじゃないですね。この異常な高圧力は、あちらこちらに生じています。おそらく、それによって風を操作し、軌道をずらしたんでしょう。

 でも……こんなのまともな人間じゃ、まず使わない……」

 

 映像は続く。

 直撃こそしなかったけど、爆風にあおられるFALKEN。一歩間違えば、あっさり大破してただろうことは想像に難くない。

 そこで紅也は映像を止め、回線を切断した。

 

「……つまり、これはただのECMじゃねぇ。ISの技術をも取り込んで作られた、最強の盾だ」

「そうみたいね……」

 

 紅也とエイミーさんが俯き、互いに無言になる。

 その雰囲気に呑まれたのか、誰一人口を挟まず、部屋全体が沈黙に呑まれていく。

 

 ……はあ。こういう空気、あんまり好きじゃないんだけど。

 

「……最後の一つは?」

 

 空気を変えるべく、私は新たな問いを投げかける。

 まあ、見当はついてるんだけどね。

 

「……4つ目の兵装は、ミラージュコロイドよ。最後に機体が消えたのは、これが原因だと思うわ。今思えば、デュエルやバスターを運んでた輸送機ってのも、この機体だったのかもね」

「なるほど……。機体に兵員輸送コンテナとかを外付けしたんだろうね」

「おそらく、な……」

 

 …………。

 

 再び沈黙。

 

「……圧倒的だな」

「……ええ」

 

 一夏とセシリアが、疲れたような調子で呟く。

 

「……同感。こんなの、射撃じゃ仕留められない」

「しかも、格闘戦を挑もうにも、あのミサイルがある。……ままならないな」

「――いや、そうでもないわよ」

 

 弱気になる私と箒に対し、そう呟いたのは、なんと鈴音だった。

 

「……何か、手があるの?」

 

 そう言った私に対し、鈴音は無い胸を逸らすと、人差し指を立ててこう言った。

 

「いくら空気のバリアーを作ったって、衝撃までは消せないわ。だから、こっちも大火力で応戦するか、爆弾が撃てない距離まで近づけばいいのよ。だって、もしそんな至近距離でアレを使ったら、あいつもタダじゃ済まないはずよ」

 

 どうだ!とでも言わんばかりに自慢げな鈴音。

 確かに、有効な対策だろう。弾道をどの程度逸らせるかは知らないけど、逸らせる範囲以上の爆風なら、ダメージは通る……!

 

「だが、相手は姿を消すのだろう?逃げに徹したらどうする気だ?」

「う……それは……」

 

 ラウラの指摘により、鈴音の声から自信が失われていく。

 ――が、ここで意外な意見が飛び出した。

 

「……逃げられたら……追わなきゃ、いい……」

「なんだと?」

 

 意味のわからない主張をしだした簪に、ラウラがいらだった声を上げる。

 多分、見逃すとかそういうのが嫌なんだろう。もちろん、私も嫌だ。

 でも……簪が言おうとしてることは、多分そんなことじゃないと思う。

 

「面白いことを言うわね、更識のお嬢さん。聞かせてくれるかしら?」

「私たちは……アレが逃げたら、対処できない……。でも、アレも……私たちは……倒せない」

「うん、それもそうね」

「正面切って戦えば、凰の言ったような戦術でどうにでもできるからな」

「だから……カウンター。攻められたとき、倒す……」

「――だってよ、ラウラ」

 

 簪の言葉を受けて、紅也がラウラに意見を求める。

 

「なるほど……悪くは無いな」

 

 どうやらラウラも納得したみたい。……なら、もう話すことは無い。この場はここで解散だ。幸い、みんなゴールドフレームのことは忘れてるみたいだし。

 

「では、この場は解散だ。交戦の報告は後でいい。

 ……そうだ、山代妹は残れ。まだ無断出撃の言い訳を聞いていないからな」

 

 ……こっちのことも、忘れててくれればよかったのに。

 

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