IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第4巻 ぼくのわたしの夏休み
ジェス・レポート4


 コウヤ・ヤマシロ。

 

 オーストラリア出身。かつての国家代表ヒメ・ヤマシロと、宇宙開発局のユウヤ・ヤマシロとの間に生まれた第一子。

 そんな環境で生まれ育った彼は幼いころよりモルゲンレーテに出入りし、機械や宇宙に強い興味を示していたという。篠ノ之束によりインフィニット・ストラトスが発表された際には、家族の中の誰よりも興奮し、興味を示したという話さえ残っている。

 幼い彼がモルゲンレーテのIS開発部への所属を希望したのは、彼がまだ9歳の頃だったという。当然就職など不可能であったが、当時の開発主任は彼がモルゲンレーテに出入りすることを許可した。

 

 ――その後数日と経たない間に、彼から離れようとしなかった妹、アオイ・ヤマシロにも許可証を発行することになるのは、完全な余談である。

 

 そんな彼の転機となったのは、第一回モンド・グロッソにおける、ヒメ・ヤマシロの敗北であった。

 最も強いと信じていた母と、最高の仕上がりだと信じていた機体。それを斬り伏せた白い機体と、輝きを放つ一振りの刀。

 彼は母親の敗北を通して、世界の広さを知った。そして――広い世界に、興味を持った。

 

 ジュニアハイ進学後2カ月もしないうちに、彼は自らの師と共に旅に出た。

 

 飛行機に乗り、海を渡り、砂漠を歩き、山を越える。道中で様々な人と出会い、別れ、彼は今まで知らなかった『世界』を知った。

 この旅について詳細な話を知る者は既に存在せず、取材を行うことはできなかった。しかし彼が旅を通じて成長し、宇宙(ソラ)への憧れを強くしたことは事実であるようだ。

 

 2年後、彼はオーストラリアに帰還し、時を同じくして発足した『ASTRAY計画』、『GAT計画』に技術者として参加することとなる。

 しかし、事実を分析し、逆算すると彼はこの時点で既に『レッドフレーム』のフィッティングを始めていたことになる。

 

 

 

 

 

 

 コウヤについて語る上で欠かせない事柄はいくつかある。そのうちの一つが、彼の最初の愛機であったIS――いや“パワードスーツ”アストレイ・レッドフレームである。

 

 第一回モンド・グロッソにおいて《零落白夜》により敗れたヒメ・ヤマシロ。彼女の要望により、エネルギーに依存しない防御力を持つIS――即ち、全身装甲型IS『メイン・バトル・フィギュア』シリーズが開発されるに至ったというのは有名な話である。

 

 しかし、全てが終わった今だからこそ思う。

 その話すら、流れすら偽物であり、実際は『レッドフレーム』という機体を世に送り出すための方便であったのではないか?と。

 

 その根拠は、全身装甲型の特徴――操縦者の姿が見えない、という点だ。前述の通り、コウヤは14歳の時点でフィッティングを始めているはずである。にもかかわらず、世界はコウヤ・ヤマシロという“男性IS操縦者”を確認していなかった。

 その理由は、のちに『ASTRAY』と名を変えることとなる機体、『メイン・バトル・フィギュア』が“量産機”として開発されたことにある。

 当初『メイン・バトル・フィギュア』として表舞台に発表されたのは、2号機である通称『レッドフレーム』のみである。テストパイロットはコウヤの妹、アオイであった。

 同時に、3号機『ブルーフレーム』の計画も発表され、そちらが完成次第アオイはブルーフレームの操縦者になるとも発表されていた。

 

 お披露目の会場において、レッドフレームがISではないと看破するものは一人もいなかった。

 全身に搭載された姿勢制御スラスターによる飛行、武装の展開・量子化。当時のレッドフレームにはその程度の機能しかなかったが、世間の人間にとってはそれで十分だったのだから。

 

 “全身装甲”という以外特徴の無い量産機に、世界のだれが注目するだろう?まして、その中に入っている名もなき操縦者になど――

 

 以降、レッドフレームはコウヤが操縦し、フィッティングを進めていたという。

 

 その後『メイン・バトル・フィギュア』は『Xナンバー強奪事件』の折にビーム兵器を解禁され、第三世代相当機『ASTRAY』に改名される。そして世界初の男性IS操縦者、織斑一夏の登場と共に紅也の存在もまた公表され、彼らは表舞台に立つ。絶対防御も、PICも存在しない“ISもどき”を使い、コウヤは命懸けの戦いを続けてきた(模擬戦だって、彼にとっては命懸けだ!)。

 

 そんな無茶が、いつまでも続くわけがない。

 10年前の『銀の福音暴走事件』において、レッドフレームは撃墜される。

 男でも扱える、ISを模した機械としてのレッドフレームは、この戦いを境に永遠の眠りについたのだ……。

 

 

 

 

 

 

 オーストラリアに帰還した彼を待ち受けていたのは、戦闘の後遺症による残酷な事実と、失われたレッドフレームに代わる新たなる機体――“扉”を開くための翼であった。

 

 それから一月ほど、彼の足取りは途絶えている。

 表向きは「入院」ということであったが、実際は一週間程度で退院していたという資料がある。

 リハビリを続けていた、開発に専念し引きこもっていた、修行をやり直していた、宇宙開発計画に参加していた――突拍子もない説としては、彼は本当にこの世界にいなかったという話すらある。

 

 中心人物の消えたこの世界で、何が起こっていたのか……。

 これから始まるのは、そういう物語だ。

 

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