外伝は12時、本編は0時更新の予定です。外伝が尽きたらまた12時投稿に戻ります。
――先生。
――ん、何かね。
――俺の、左腕のことなんですが……
◆
「あー、ヒマだ」
現在、7月9日。福音とXナンバーを巡る事件のせいで大怪我を負い、あげく意識不明にまでなった俺は、本国に強制送還された。
ヘリと飛行機を乗り継ぎ、懐かしきオーストラリアへ帰って来たと思ったら即座に入院。
脳波やらCTやらをとられ、しばらく入院するようにとのお達しを受け、そのままベッドイン(卑猥な意味じゃないよ、念のため)。
かくして俺は、退屈極まりない日常へと叩きこまれるのであった。まる。
《いいことじゃないか。私など、
「それについては感謝してるぜ、8。おかげで、俺はこうして生きてる」
《そうか。ならば、態度で示せ》
「ごめん。それ、無理」
こんな風に、8とやりとりする以外に何もできない。
まったく、話し相手がコンピュータだけとは、なんて虚しい。
《葵と連絡を取ればいいだろう。それにセシリア・オルコットやラウラ・ボーデヴィッヒ、それに更識簪など、お前との会話にも積極的だ》
「おいおい、昨日の今日で連絡取るのは恥ずかしいだろ。それにいつものパターンで、根掘り葉掘り聞かれるに決まってるさ」
《……確かに、同感だ》
特に今回は2機のXナンバーとの交戦やブルーフレームの第二形態移行、それにゴールドフレームの乱入など、説明できることとできないことがごちゃ混ぜになっている。
幸い、俺も病み上がりということで追及は免れたが、こんな休日にメールや電話など始めたら、それこそエンドレス質問地獄になりかねない。
《……ならば、地元の友人と話せばいいだろう》
「中学中退して3年も前に交友関係がプッツリ切れた俺に、そんなものがいるとでも?」
《いるだろう、現に……》
8の画面にそう表示されたのと、8が
廊下は走るなよ、と内心で呟きつつ、8が自発的な行動を見せたことに驚く。
もしや、今来ている人物は俺の知り合いなのでは?と思い至ると同時、足音が俺の病室の前で止まり、その考えに拍車をかける。
次いで、急いだようなノックが2回。おかしなところが無いか確認しつつ、さっと右手で目立つものだけ片付けてから「どうぞ」と返事をする。
スライドするドアが開く時間ももどかしいと言わんばかりに滑りこみ、勢いよく突進してきたのは――
「コウヤ、大丈夫だった!?」
こちらでの俺の数少ない友人の一人にして、俺と葵の幼なじみ。ソフィア・ローウェル。
「大丈夫なわけありませんよ。……お久しぶりです、コウヤさん」
葵の友人で、よく家にも遊びに来る元・同級生、セリアーナ・マジェスティアであった。
◆
「とりあえず、久しぶり。ソフィアとは前話して以来だけど、元気そうだな」
「うん、変わりないよ。……じゃ、なくて!」
「私たちのことはいいんですよ。コウヤさんはもう少し自分のことを大事にしてください」
「お、おう……」
クールながらもどこか怒っている様に見えるソフィアと、穏やかな雰囲気と言動の中に底知れぬナニカを含ませたセリアに同時に詰め寄られ、左肩や胃がキリキリと痛んできた。
「怪我をしたと聞きました。今はこうして押しかけてしまいましたが、ご迷惑でしたか?」
「いや、丁度ヒマしてたんだ。話相手になってくれるっていうなら大歓迎だぜ」
体の向きを変えて彼女たちに向き直りつつ、部屋の片隅に畳まれていた椅子をすすめる。
突入してきたときの勢いはどこへやら、どこか遠慮がちに対面に座る彼女たちの姿に懐かしさを覚え、なんだか頬が緩む。
「コホン……。実習中に怪我した、って聞いてるんだけど、どうなの?」
「詳しくは話せねぇが、まあそんなところだ。具合は見ての通り」
「良かった。アオイちゃんに聞いても詳しいことは教えてくれなくて……私、心配してたんです」
「あんただけじゃないけどね」
見ての通り、か。便利な言葉だ。
「ま、何があったかは深く聞かないけど、これだけは言わせて。……もう、怪我するような無茶をしちゃ、ダメだよ」
「そうですよ!いくらコウヤさんがスゴイ人だからって、男でISを動かしてるなんていう例外なんですから、普通と違うことが起こってもおかしくないんですよ」
「……二人にはずいぶん心配かけちまったな。次からは前向きに検討させてもらうぜ」
「改める気、ないじゃん」
「もう……」
セリアの言動に一瞬ドキリとしたものの、どうやら純粋に俺のことを心配しての一言だと知って安心した。
……だけど、俺が無茶をやめる訳にはいかない。
今回はデュエルを取り逃がしてしまったし、相手にはまだ最後のXナンバー、イージスが残っている。彼らはまた近いうちに俺たちの前に立ち塞がるだろう。そうなったとき葵一人に戦わせて、俺が安穏としているわけにはいかないんだ。
葵には、俺がいないとダメなんだから……。
「もし無茶したときも、今回みたいにきちんと連絡してくださいね」
「……えっ?あれっ!?」
妙に駆けつけるのが速くて、てっきり母さんあたりから俺の入院を聞いたんだと思ってたけど……俺からの連絡だって?Why?
《ヘリの中で、私が各方面への連絡を済ませた》
「やっぱり、メールくれたのは8だったんだ。文面が硬かったから、そうじゃないかと思った」
「えっ……あ、私もそう思ってましたよ、もちろん」
「いつものメールと全然違ったよね、癖とか」
「いつも……?……コウヤさん、ソフィアにはいつもメールしてるんですか!?」
「まあ、週一くらいしか送れないけどな。結構忙しくてよ」
「ふふ、そうだね。この前も友達とショッピングに行って、一日盛り上がったって言ってたね」
「うぅ……なんで。コウヤさん、私にはあんまりメールくれないのに」
そりゃ、妹の友達に頻繁にメール送るとか、流石にないだろ。なぁ?
これは葵も一夏も、ついでに鈴音もなぜか激しく同意してたし、間違ってないはずだ。
「それはそれとして、母さんと連絡つかないのは?8、メール送ったんだろ?」
《ヒメは……》
「お義母さんはフランスに出張してて、今は飛行機の中だって。今日の夜にはここに着くはずだよ」
「そっか。じゃ、明日の面会時間には来るな……。言い訳、色々考えとかねぇと」
「あ、ASTRAYネットワークで連絡は取れないんですか?」
「うーん……今母さんがテストしてるのは、「ハイペリオン」だったか。未完成だし、ネットワーク対応機か分からねぇな。8、一応チェック」
《了解だ。……現在接続されているのは私と、ブルーフレーム、ゴールドフレーム、パープルフレーム、それに……む、「シュヴァルツェア・レーゲン」!?》
「何ぃ!?」
「……コウヤ?」
「どうしたんですか!?」
「……悪い、なんでもない。8、原因の精査を頼む」
《了解だ。……このユーザーコード、コウヤのものか?しかし……》
いささか気になることもできたが、モルゲンレーテと関わりの浅いこの二人の前で話を続けるわけにはいかない。とりあえず、別の話題を。
「そういや二人とも、ISについてどう思う?」
「唐突だね」
「そうですねぇ……」
確かに、唐突な話題だ。なんでよりにもよって、この話題を選んだのか。
……あ、ひょっとしてあれが原因かな。帰国前に織斑先生と話した、あの一件。
↑
昨日――7月8日。
本国から呼び出しがかかった旨を織斑先生に伝えに行ったときのことだ。
「――と、言う訳で、昏睡の影響やレッドフレームのオーバーホールのため、一度本国に帰らせて頂きます」
「そうか、分かった。 ――ああ、そうだ。山代」
「はい、何でしょうか?」
「もし、お前のレッドフレームのようなものが世界中に流れたら、この世界はどうなると思う?」
その問いは、唐突だった。
確かに俺の――いや、モルゲンレーテの目的の一つはそれだ。
男でも使えるISの技術を確立し、利益を独占する。
だけど、その後のことなんて、考えもしなかった。
でも。
でも、世界は、きっと。
「何も変わらないんじゃないですかね?」
「ほう。それは、何故だ?」
「だって、ISが広がった今の世界でも、相変わらず政治家や国のトップには男が多いし。
就職だって、それこそ軍や軍事企業以外は就職差別もないし。
何より――今は、平和ですから。兵器が増えた所で、それは世の中に影響を与えませんよ。
……ああっ!でも、どっかの男性至上主義者がテロくらいは起こすかもしれませんけど。戦争は起こらないんじゃないですかね」
これは、半分嘘だ。
戦争は起こるかもしれない。でも、起こったら鎮圧するまでだ。
そうすれば、領土も獲得できるし周囲への牽制もできるし、一石二鳥……。
――って、ダメだ。考え方が、完全に
さて、そんな俺の返事に対して、織斑先生は腕を組んで、目を閉じたままだった。
もしかして……怒らせた?
とか思っていた俺に、なんでこんな返事が予想できただろうか?いや、できない。
「それが、お前の答えか……。
ふっ、難しく考えていただけのようだな、私は。
妙なことを聞いて悪かったな、紅也。身体を大事にしろよ」
ぽかーん。
その時の俺の状態は、まさにそんな感じだった……。
↓
……ってことがあったから、ISと関わりの薄い一般人の意見を聞きたかったのかもしれない。彼女たち以外となると、俺に関わる人間関係って大抵はモルゲンレーテやISが絡んでるし
「今となってはスポーツの一種でしょうか。ボクシングとかF1とか、それと同じだと思います」
「昔は考えられなかったけど、今はあって当たり前のものだよね。でも身近にないから、どうって言われてもよくわからないかも。……こんな答えでごめんね」
「いや、ありがとな。……じゃあ、俺みたいな“ISを操縦できる男”が増えてきたら、どうなるんだろうな?」
「コウヤみたいな?……ま、まあ、悪くないかな」
「そういう意味じゃないと思いますよ?……そうですね、最近は委員長や生徒会長なども女の人がなることが多いんですけど、そういうのも今の“女尊男卑”と無関係ではないと思うんです」
IS学園だけじゃなかったのか。織斑先生にはああ答えたけど、もっと若い世代――子供のころから今の“流れ”が当たり前になっていた俺たちの世代では、女性が上に立つことが当然になっているんだ。
「「ISが使えるから女の人の方が偉い」って言う子は最近いなくて、女だから偉いって考えてる子供もいるんですよ。信じられます?」
「マジかよ……」
「そういえば、クラスの中にもコウヤとか織斑一夏くんが出てきて、夢を見てる男子がいるかな。ISの適性検査を受けに行ったり、急に偉ぶったりとか」
「どちらも、自分の力でも何でもないはずなんですけど……勘違いする人が多いんですね」
流石、葵の友達といったところか。セリアの考え方は、“女尊男卑”に対する葵の考え方とよく似ている。
ソフィアもソフィアで、俺たちの実績を自分のもののように語る男子には良くない思いを抱いているらしい。
そして、俺はというと……その両者を騙しているようで、妙な居心地の悪さを感じる。そもそも俺の戦う力、レッドフレームは大破し、俺の扉は閉ざされた。希望があるとすれば、レッドフレームの次世代機。青と黄を混ぜた色、緑色の装甲を持つ開発中のあの機体だけ。
「コウヤさん?」
「……ああ、ごめん。そっか、これだけの流れを変えるんだ。変わらないわけ、ないよな」
大きな流れを変えようとすれば、必ずどこかにしわ寄せが来る。昔、父さんに言われたことが頭をよぎる。
今は女性が強い力を持ちつつある。そして、ISという強すぎる力は争いを呼ぶ。
一方で、争いが無くならないからこそ、力が必要だ。そんな中で、男も操縦できるIS、レッドフレームの亜種という“力”が、世界に広がってしまったら……?
「……難しく考える必要はないよ」
額に寄せた皺を見られたのか、ソフィアがぽつりと呟いた。
「そういうのは、大人の役目でしょ?私たちはまだ高校生なんだし、難しく考えなくてもいいと思うんだ」
「そうですよ!好きなことに一直線で、いつだって一生懸命な紅也さんを、私は」
「私たちは、そんなコウヤの味方だから」
「……ソ~フィ~ア~!」
フォローしてくれたと思ったら、俺そっちのけでじゃれあう二人。
でも、そんな二人を見ていたら、なんだか元気が湧いて来た。
……難しく考えるのは大人の役目、か。
なら俺は今まで通り、そして臨海学校で改めて決意したように、できることをできる限りやってみよう。
師匠のように。そしてあの天災のように。迷惑なんかそっちのけで、やりたいことは全部、自重せずにやってやる!
駆けつけた看護師により病室から追い出される二人を見ながら、俺はそう決意した。
◆
「ふう……。参考になったな、一般の意見は」
《一般、か?紅也に多分に肩入れしている意見だが》
8はそう言うが、正直だいぶ気が紛れた。今度なんらかの形でお礼をしないとな、あの二人には。今回も葵のアドバイス通り、クッキーとか買って渡せばいいか。前に「一緒に出かけるのとかは逆効果」って言ってたし。
さて……そろそろ葵に電話でもしようかな。
この時間なら、部活も終わって部屋にいるはずだ。
ああ、あとIS学園に連絡しないと。「しばらく帰れない」って。
ついでに、テストとか免除してくれねぇかな。どうせ合格するのは分かってるんだし。
クラスの皆にもメッセージを送ろう。文面は……そうだな。
まあ、これから考えればいいか。
二人とも紅也たちの友人(?)だけあって、一癖も二癖もあります。