――ビームの熱によって傷は塞がった。だけど、そのせいでひどい火傷だ。
――でも、感覚は残ってます。痛みも感じます。
――そうか。それは不幸中の幸いって奴だ。
◆
「ハーイ、コウヤ。元気にしてる?」
「見て分かるだろ!怪我で絶賛入院中だ!」
「……それだけ叫べるなら、元気じゃない」
一通りの検査が終わり、面会が可能となった時間に真っ先に会いに来たのは俺の母さん、ヒメ・ヤマシロであった。
「……で、マジでどうしたんだよ、母さん。確か今日は、M1の最終稼働テストじゃなかったっけ?」
「だって、動かすだけなら私じゃなくてもいいじゃない。三人娘に押しつけて、キャンセルさせてもらったわ」
「そりゃ、そうなんだけどさ……」
あっ、ちなみに三人娘というのは、モルゲンレーテに所属してるIS操縦者の3人のことだ。
三人そろって葵が引き起こした事件に巻き込まれたため、葵や俺を避けてるフシがある。まあ、仕事上の付き合いだから、普通に話したりはするけどさ……。
閑話休題。
「それで、コウヤはそんな怪我なのに仕事してるんだ?」
「ん、まあね。全部音声入力で済ませられるから、片手が使えなくてもどうにかなるんだ」
「便利なものね」
そう。言っちゃ悪いけど、母さんが来たタイミングは悪かった。
さっきエリカさんや師匠からメールが届いて、新しいASTRAYについての意見を求められていたところだったから、邪魔されたくなかったんだよなぁ……。
「へぇ、これが01から03の稼働データを元に作られた新型なのね」
「一応、機密なんだけどな……。母さんにはそれこそ『今更』なのかもしれないけど」
「そうね。「ハイペリオン」が終わったら遅かれ早かれ、私にもテスト依頼が来るだろうし。
あ、三機もあるのね?操縦者は決まってるの?」
「06だけはね。この間デュノア社から引きぬいた娘で内定してるんだ。05はコンセプト上操縦者はいらないし、04は……多分俺になるんじゃないかな」
「あ、そうか。02……レッドフレームは、もう修復困難なぐらい壊れちゃったもんね」
「……………」
母さんの一言で、俺の表情は暗くなる。
MBF-P02、レッドフレーム。
俺の愛機で
その後、こっちの施設で被害を調べてもらったんだけど、左腕・左肩は融解、本体損傷、右腕駆動系全損、背部フライトユニット損壊、さらに制御系は壊滅といった状態で、修理するより新型を一機作った方が早いような有様であった。
そのため、今の8にはレッドフレームを展開する能力は無く、俺も今や只の一男子高校生にすぎない。
――戦闘の代償は、あまりに大きかった。
「まあ、レッドフレームがあなたを守ってくれたのよ、きっと。
っていうか、そう考えなさい!男でしょ!?」
「そうは言っても、この状況はキツイよ。
さっき話したP-04にしたって、完成予定は早くて9月。学園の始業式には間にあわない。そうすりゃ、『男性IS操縦者』を演じることだってできやしないさ」
「じゃ、諦めてモルゲンレーテで働きなさい」
「ええっ!?高校中退で就職勧めるって、親としてどうよ!?」
慰めるべきところで、まさかの諦めろ宣言。
この人はカウンセリング相手には向いてなかった。それも致命的に。
「だって、私も高校中退してユウヤさんと結婚したし。
それにね、人生ってきっと、勉強だけじゃないわよ!!」
「だからって、あえて捨てるっていう発想は無かったよ!」
教育はできるかぎり受けておけ、ってのが一般的だと思うけど。
「なによ、遊び心のない子ね」
「いや、遊び心で人生捨てるのは論外だと思うんだけど!?」
「ま、そんなことは置いといて……」
「『そんなこと』!?俺の人生、そんなこと扱い!?」
思わず、返事も大声になる。
が、母さんはそんな俺を見ると「ふっ……」とニヒルに笑って……
「なんだ。やっといつもの顔に戻ったじゃない」
と、のたまった。
「母さん……。……って、何いい話だった風に終わらせようとしてるのさ!」
「ちっ、バレたか」
まったく……。
「それで、本題は?」
「つれないわね、もう!
良く聞いて。今度、ユウヤさんが帰ってくるわ」
「えっ!?父さんが?」
それは、純粋な驚きだった。
俺の父、ユウヤ・ヤマシロはモルゲンレーテが所有する静止衛星、アメノミハシラで働いている。
衛星、というからには勤務場所は当然宇宙。
それが、俺の怪我ごときで帰れるもんなのか……?
「先に言っておくけど、あなたの怪我が原因じゃないの。宇宙滞在期間が1年を超えたから、帰還命令が出ただけよ」
「そっか……そうだよな」
そりゃ、知ってるさ。シャトル一機打ちあげるのにいくらかかるか、なんて。
でも、さ。子供としては、そんなこと関係なしに帰ってきてほしいんだよ。特にこういうときは。
「まあまあ、そうむくれないの」
「むくれてない!」
ああもう!そんな、「全部お見通しよ」っていう眼で見るなよ、頼むから。
「ふふっ、最近コウヤは大人っぽくなってきたけど、まだまだ子供なのね。お母さん安心しちゃった」
「……そうかい」
まだまだ子供でいていいんだな、俺は。ありがとよ、ソフィア。
「ま、安心しなさい。ユウヤさんも、ちゃんとお土産持って帰ってくるって言ってたわよ」
「お土産……?」
「おっと、これ以上は言えないわ。……そろそろ行くわね。追手が来たわ」
そう言ってウィンクした母さんは、そのまま病室から去っていった。
『あ、いたわよ、ヤマシロさん!』
『見つけたっ!逃がさないわよ~!!』
『あら、思ったより早かったわね。でも、甘いわよ!』
『え!窓から!?』
ドタドタドタ……
足音が近づき、遠ざかっていく。
……テストパイロットの三人が、母さんを探しに来たんだろう。
まあ、そんなことはどうでもいい。
廊下を走るな。
病院内ではお静かに。
◆
「……と、いうわけで、今日はみんなと部屋で騒いでた」
「そっか。寂しくなかったみたいで良かったよ」
夜。
葵と電話で話した。
俺が居なくなったせいで不安定になっちゃいないか心配だったけど、どうやら杞憂だったようだ。
……ちゃんと、IS学園での居場所を見つけたんだな。安心した。
箒、鈴音、セシリア、シャル子、ラウラ、簪。
同じ専用機持ちの彼女たちと共に過ごすことで、兄離れも進むんだろうか?
だが一夏、テメェはダメだ。
兄離れは望むが、彼氏を作れとは言ってない。
もし、俺が居ない間に一夏と不必要に接近するようなことがあったら……!
「……紅也?」
「ああ、いや、何でもない。
……っと、そうだ。一つ連絡。近いうちに父さんが帰ってくるそうだ」
「……父さんが?」
「ああ。ちょうど夏休みと重なることになるから、お前も帰ってこいよ。積もる話もあるだろ?」
「……うん」
「そうか。母さんにもそう伝えとくよ。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
電話が切れる。
すでに話し相手のいない夜の病室で、俺は再び一人になった。
「眠れねぇな……。
……あ、そうだ。確かあの写真があったはず」
8のデータ領域から、いくつかの写真をピックアップする。
それは、眠れない夜のヒマ潰し兼一夏への牽制。
(黛先輩に送っとこ。タイトルは……『一夏の疑惑』っと)
さて、あとは勝手にあっちの新聞部が盛り上げてくれるだろう。
一夏……。下心を持って葵に近づいたら、許さないからな?