「お~~わったーーっ!!」
昼休み。一人で昼食を食べてると、食堂の入り口の方から男の声が聞こえた。
「その様子だと、問題無かったようだな」
「まあ、わたくしがあれだけ丁寧に教えて差し上げたのですから、当然ですわ!」
「そうよ。この結果がアンタひとりで出せたとは思わないことね」
「わかってる。みんなには十分感謝してるって」
「でも、再試がなくて良かったよ。補習なんて入ったら、一緒に出かけることだってできないし……」
「ん?何か言ったか、シャル?」
「な、なんでもない!なんでもないよ!!」
「それより、早く席を探した方がいいのではないか?」
声の主は、一組と二組の専用機持ち連合軍。
席を探していたようなので、こっちに来るようにと手招きをする。
まあ、気付いたのは箒とラウラだけだったみたいだけど。
……寂しくなんて、ないもん。
「葵、早かったな」
「3組は、問題回収後にすぐ解散したから」
「そうか。すまないが、6人分の席を確保してくれないか?見ての通りの大人数でな」
そう言ってから、箒は食券を買いに小走りで去っていった。
……なんか、便利に使われた気がする。まあ、いいけど。
することも無しにみんなを眺め、こっちに来るのを待ってみる。
そして「そろそろ食べ始めようかな?」と思った頃になって、ようやく食器を持った鈴音がやってきた。
「あ、葵!アンタの言った方法、効果てきめんだったわよ。ありがと!」
「……どういたしまして。でも、みんなに伝わるとは思ってなかった」
「う……。うっかり口を滑らせて、セシリアにバレちゃったのよ。そしたら……」
「……そこから先は想像できる」
さて、何の話をしてるのか、と思う人もいるでしょう。
実は先日の勉強会の後、鈴音にこう話したのだ。
――勉強を教えるという口実なら、一夏と二人きりになれる、と。
それを聞いた時の鈴音の目は、たいそう妖しく輝いていた。
そして一夏に勉強を教えると言って部屋に上がり込み、そのまま楽しくお話ししたまでは良かったんだけど……。次の日の様子を不信がられて、セシリアに詰問され、抜け駆けがばれたらしい。
それ以降、箒、セシリア、シャルロット(とついでにラウラ)、鈴音のローテーションで一夏の部屋に交替で上がり込んでたらしい。その成果は……一夏の安堵の声を聞く限り、よいものだったのだろう。
「……にしても、よく思いついたわねぇ。そんな方法」
「……紅也が持ってたラノベに書いてあった」
これは嘘。
確かに、紅也の持ってたラノベ(いわゆるハーレム系)に、『勉強会シチュ』というのはあった。でも、このアイディアはそこからとったものではなく、私の実体験によるものだ。
ここまで言えば気付くだろう。私は、一夏の勉強を見た話を、みんなに隠してる。
何故かって?
……話したら、今の鈴音のポジションが私に引き継がれることは自明だから。
なんで、どうでもいい人のことで『抜け駆け』などと非難されなければいけないの?
……いや、どうでもいいっていうのは嘘か。
あの日は、ただの気まぐれっていうのもあったけど、その前にみんなを連れてきてくれたお礼の意味もあったし。
だから、別に他意は……って、誰に何を話してるんだろ、私は。
「あ、待たせちゃってゴメンね。先に食べててくれてもよかったのに」
「……気にしないで」
おっと、いけない。
気がついたら、シャルロットが私の目の前に座ってた。
「お待たせしましたわね」
「すまない、遅くなった」
「待たせてしまったか?」
「悪いな、みんな!」
次いでセシリア、箒、ラウラ、一夏も到着。全員が揃ったところで、ようやく食事と相成った。
「じゃ、いただきます。
……ふう、これで一学期も終わりだな」
「気が早いですわね、一夏さん。まだ授業は残ってますわよ?」
「テストは終わったんだ。残りは大したことないって」
一夏は、既に夏休みの事を考えてるみたい。この間の慌てようはどこへ行ったのかしら?
「まったく、気楽なものだな。もし再試験になったらどうするつもりだ?」
「夏休みが減っちゃうよ。大丈夫なの?」
「だ、大丈夫だ……多分」
あ、ビビリ復活。
「まあ、あたしがあれだけ見てあげたんだから、大丈夫よ!ね、一夏!」
「な、何を!それを言うなら、わたくしだって教えて差し上げましたわ!」
「貴様は教官の弟なのだ。もし、再試なんぞに引っかかってみろ……」
うわっ、ラウラの背後に「ゴゴゴ……」って文字と、炎が燃えてるイメージが見える。学年別トーナメント前に戦ったとき以上の迫力があるわね。
「ラ、ラウラ!怖いって!大丈夫だから、多分!」
「多分、だと……?」
「ああ、いや、絶対!絶対大丈夫!!」
……いやあ、平和よのぉ……。
と、黙って食事をしながら成り行きを見守ってたら、不意に箒が近づいてきた。
「なあ、葵。紅也は、まだ入院しているのか?」
「……うん」
「……そうか」
それは、久しぶりに聞いた紅也の話題だった。
最近はこのメンバーでも紅也の話題が出ることは少なく、最後に聞いたのは先週……簪と会話した時だったっけ。
それが箒の口から出たことに軽く驚きつつも、私は続きを聞いた。
「紅也は、本当に検査入院だったのか?それにしては、期間が長すぎると思うのだ」
「……本国で新型のテストを請け負ってる。仕事を優先してるだけ」
「そう言えば、あいつは技術者だったな。うむ、その設定を忘れていた」
「……設定じゃない」
確かに最近は、戦闘者としての面が押し出されてたけど。
「わかった。それならいいんだ。ありがとう、葵」
「……ん」
離れる箒を見ながら、私は食事を再開する。
これで、この話題は終わりだと思ってた。
部分的に真実を交えた、私の嘘。それで箒が納得したと思ってたのだ。
このときは。
◆
そして放課後。
私は、第六アリーナにいた。
私だけじゃない。他にも一夏に、箒に、セシリアに……要は、専用機持ち全員が集合してる。
それが周りの目を引くのか、すでに周囲には人だかりができてる。
さて、これから何をしようとしているのか?
答えは一つしかない。
模擬戦だ。
実は、私たちは福音戦以降、一切戦闘演習の類をせず、ただただ自己鍛練を積んできた。
なので、夏休み前にその成果をぶつけ合おう!……というわけだ。
まあ、セシリアとラウラには別の思惑があるみたいだけど……。
「じゃあ、組み合わせは私達全員VS葵で――」
「異議あり」
鈴音、いくらなんでも無茶ぶりすぎ。
「……何で、その組み合わせ?」
「だって、葵と互角だった福音は、私達と簪の7人を相手に圧倒したのよ?だったら……」
「……無理。あれは、三つ巴の状況を利用しただけだし、福音も全力じゃなかった。
いくら私でも、出来ることと出来ないことがある」
「それが普通はできないと思うけど。……しょうがないわね。じゃ、希望ある人」
何故か仕切りだした鈴音。誰もそれに異議を唱えない中、セシリアが挙手をする。
「わたくしとしましては、葵さんと一対一で戦いたいですわね。その方がテストの汎用性は高まりますし」
ちょっと、セシリア。そのセリフはダメでしょ。
いつか逆流するわよ。
「ちょっと待った。それならば、私も同意見だ。葵とは、一対一でやらせてもらいたい」
その意見に異を唱えたのはラウラだ。でも、そんなことを言ってたらきりがない。
「まあまあ、セシリアもラウラも、落ち着いて。
二試合する時間なんてないんだから、二対一でやってみたら?」
「……それくらいなら、可能」
「し、仕方ありませんわね……」
「いいだろう。それでやってやる」
「じゃ、対戦カードは決まりだな」
そうと決まれば、時間は有限。急ぐに限る。
私とセシリア・ラウラは各々のISを展開し、空中で向かい合う。
私は、ブルーフレームセカンドKで。
セシリアとラウラは、それぞれブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンで。
でも、二人の装備は違っていた。
セシリアの6機のビットは腰部に接続され、スカートをはいたような形状になっている。
手に握られたのもいつもの〈スターライトmk.Ⅲ〉ではなく、それよりもさらに大型のBTレーザーライフル――〈スターダスト・シューター〉。
――ストライク・ガンナー。それがこの装備の名称であった。
一方のラウラも、八〇口径レールカノン〈ブリッツ〉を二門、左右の肩に装備している。さらに、四枚の物理シールドを左右、正面に展開したその様子は、さながら色違いのデュナ○スといったところか。
これがドイツの軍用IS専用の砲戦パッケージ、パンツァー・カノニーアである。
二人は、福音戦で使わなかった装備のテストをするために、この模擬戦を組んだのだ。
一方、私としても、自分がどの程度この機体を使えるのか試しておきたかった。
夏休みになって、紅也に見せるときには、完璧にしておきたいから……。
「よし、準備はいいな?」
地上にいる箒が、オープンチャネルで全員に呼びかける。
その声に対し、誰も返答をせず、代わりに武器を構えた。
「では……始め!」
「喰らえっ!」
開始早々、シュヴァルツェア・レーゲンの両肩に装備されたレールカノンが火を吹く。
その結果を半ば予想していた私は、左右スラスターの出力とタクティカルアームズの角度を調節し、加速しながら不規則な軌道で回避する。
「――この程度?」
「では、ありませんわよ!」
肩部スラスター逆噴射。急制動をかけ、そのまま身体ごと上を向いた私の視界に入ってきたのは、〈スターダスト・シューター〉を発射したブルー・ティアーズであった。
(そんなものが、通用するとでも?)
即座にビームライフルを呼び出し、エネルギーを込める。
……が、ブルー・ティアーズは予想を超えた加速でこちらに接近し、そのまま私を蹴り飛ばそうとした。
なるほど、速い。
瞬間的な加速度なら福音と同じか、それ以上か。
まさしく驚異的だ。
ならば。
その速さ、利用させて貰う。
ビームライフルを構えたまま、タクティカルアームズを誘導する。
空中でソードフォームに変形させ、私とセシリアの間で待機させる。
相手からすれば、いきなり刃が出現したように見えただろう。セシリアの慌てた顔がはっきり見える。
――が、唐突にセシリアの動きが停止した。
そう、まるで、慣性を奪われたかのように……。
次いで、タクティカルアームズの腹に向け、砲弾が飛んでくる。
超高速に加速された弾丸――ラウラのレールカノンだ。
私はタクティカルアームズを下降させながら、ガトリングフォームへと変形させる。
剣先が二つに割れ、その間を弾丸が通り抜けていく。
その弾道を見送りながら、即座にガトリングを起動し、未だに静止しているセシリアへと弾丸を発射する。
「甘い!」
叫んだのはラウラ。
左眼を覆う眼帯を外し、金色の瞳でこちらを睨むラウラは、発射されたガトリング弾を静止させていく。
AIC……。これほどの距離からでも発動できるなんて。
侮れないわね、あの左眼……ヴォーダン・オージェだったかしら。
人間に疑似ハイパーセンサーを埋め込むなんて、どういう頭をしてんのかしら?
まあ、手っ取り早く他人を超えたいなら、肉体改造が一番かもしれないけど。
……とまあ、戦闘中にもかかわらず私がこれだけ余裕なのには、実は理由がある。
「なっ!?止まってませんわよ!」
そう。セシリアに向かったガトリング弾は、すべて静止している。
でも、もう一種類……緑色の
ラウラは即座にセシリアを開放し、セシリアも持ち前の機動力で緊急離脱する。
負ったダメージは最小限……いい判断だ。
「驚きましたわ。まさか、ビームを撃てるなんて……」
「……バスター戦で学んだ」
あの時、ビームが使えればもう少し楽に戦えていた。
そう思って紅也に相談したら、8を使って新しい設計データを送ってくれた。
早速モルゲンレーテ所属の先輩方と協力して改造を施し、そのシステムを試してみたら……結果は上々だったというわけだ。
「……今度は私から行く」
返事を待たずに、私は新たに編み出した技術で、ラウラへと肉薄する。
左肩、背中、右肩、そしてまた左肩……という順で、絶え間なく瞬時加速を行う。
これは、訓練中に思いついた技。こうすることで、常時瞬時加速のスピードを出しながら戦闘できる。
三基の高出力スラスターを持つ、ブルーフレームだからこそできる反則技だ。
「くっ、速い……とでも言うと思ったか!」
しかし、阻まれる。
ラウラの前に展開した、AICの網。それが私の行く手を阻んだ。
――でも。
「! バックパックが……無い!?」
「剣までは……阻めなかったわね?」
さっき、伏線を張ってあげたのに。
タクティカルアームズは、誘導兵器として使えるって。
でも、驚いた。ラウラは、前にやり合ったときよりもだいぶ腕を上げてる。
これは、将来が楽しみね……。
スラスターへの直撃を受け、黒煙を吹き出すシュヴァルツェア・レーゲンを見ながら、私はそう思った。
「……で、セシリアはどうするの?」
「……はあ。ギブアップですわ。
確かその剣、アンチビームコーティングされてますもの。レーザーライフルでは太刀打ちできませんわ」
そう言って、セシリアは悔しそうに地上へ降りていく。
……これで、私の勝ち。
――それにしても。
さっき、セシリアがAICで停止した後の私の動き。
周囲の景色がゆっくりと流れていって……まるで、あの時みたいだったな。
やっぱり、実戦の中でのみ発揮されるタイプの能力なのかな?
セシリアを追って地上に降りながら、私はそんなことを考えていた……。