IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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本編は葵がメインのことが多いのですが、基本はオムニバス形式で話が進みます。


第77話 一学期のやりのこし

「お~~わったーーっ!!」

 

 昼休み。一人で昼食を食べてると、食堂の入り口の方から男の声が聞こえた。

 

「その様子だと、問題無かったようだな」

「まあ、わたくしがあれだけ丁寧に教えて差し上げたのですから、当然ですわ!」

「そうよ。この結果がアンタひとりで出せたとは思わないことね」

「わかってる。みんなには十分感謝してるって」

「でも、再試がなくて良かったよ。補習なんて入ったら、一緒に出かけることだってできないし……」

「ん?何か言ったか、シャル?」

「な、なんでもない!なんでもないよ!!」

「それより、早く席を探した方がいいのではないか?」

 

 声の主は、一組と二組の専用機持ち連合軍。

 席を探していたようなので、こっちに来るようにと手招きをする。

 まあ、気付いたのは箒とラウラだけだったみたいだけど。

 

 ……寂しくなんて、ないもん。

 

「葵、早かったな」

「3組は、問題回収後にすぐ解散したから」

「そうか。すまないが、6人分の席を確保してくれないか?見ての通りの大人数でな」

 

 そう言ってから、箒は食券を買いに小走りで去っていった。

 ……なんか、便利に使われた気がする。まあ、いいけど。

 

 することも無しにみんなを眺め、こっちに来るのを待ってみる。

 そして「そろそろ食べ始めようかな?」と思った頃になって、ようやく食器を持った鈴音がやってきた。

 

「あ、葵!アンタの言った方法、効果てきめんだったわよ。ありがと!」

「……どういたしまして。でも、みんなに伝わるとは思ってなかった」

「う……。うっかり口を滑らせて、セシリアにバレちゃったのよ。そしたら……」

「……そこから先は想像できる」

 

 さて、何の話をしてるのか、と思う人もいるでしょう。

 実は先日の勉強会の後、鈴音にこう話したのだ。

 

 ――勉強を教えるという口実なら、一夏と二人きりになれる、と。

 

 それを聞いた時の鈴音の目は、たいそう妖しく輝いていた。

 そして一夏に勉強を教えると言って部屋に上がり込み、そのまま楽しくお話ししたまでは良かったんだけど……。次の日の様子を不信がられて、セシリアに詰問され、抜け駆けがばれたらしい。

 それ以降、箒、セシリア、シャルロット(とついでにラウラ)、鈴音のローテーションで一夏の部屋に交替で上がり込んでたらしい。その成果は……一夏の安堵の声を聞く限り、よいものだったのだろう。

 

「……にしても、よく思いついたわねぇ。そんな方法」

「……紅也が持ってたラノベに書いてあった」

 

 これは嘘。

 確かに、紅也の持ってたラノベ(いわゆるハーレム系)に、『勉強会シチュ』というのはあった。でも、このアイディアはそこからとったものではなく、私の実体験によるものだ。

 ここまで言えば気付くだろう。私は、一夏の勉強を見た話を、みんなに隠してる。

 何故かって?

 ……話したら、今の鈴音のポジションが私に引き継がれることは自明だから。

 なんで、どうでもいい人のことで『抜け駆け』などと非難されなければいけないの?

 

 

 

 ……いや、どうでもいいっていうのは嘘か。

 あの日は、ただの気まぐれっていうのもあったけど、その前にみんなを連れてきてくれたお礼の意味もあったし。

 だから、別に他意は……って、誰に何を話してるんだろ、私は。

 

「あ、待たせちゃってゴメンね。先に食べててくれてもよかったのに」

「……気にしないで」

 

 おっと、いけない。

 気がついたら、シャルロットが私の目の前に座ってた。

 

「お待たせしましたわね」

「すまない、遅くなった」

「待たせてしまったか?」

「悪いな、みんな!」

 

 次いでセシリア、箒、ラウラ、一夏も到着。全員が揃ったところで、ようやく食事と相成った。

 

「じゃ、いただきます。

 ……ふう、これで一学期も終わりだな」

「気が早いですわね、一夏さん。まだ授業は残ってますわよ?」

「テストは終わったんだ。残りは大したことないって」

 

 一夏は、既に夏休みの事を考えてるみたい。この間の慌てようはどこへ行ったのかしら?

 

「まったく、気楽なものだな。もし再試験になったらどうするつもりだ?」

「夏休みが減っちゃうよ。大丈夫なの?」

「だ、大丈夫だ……多分」

 

 あ、ビビリ復活。

 

「まあ、あたしがあれだけ見てあげたんだから、大丈夫よ!ね、一夏!」

「な、何を!それを言うなら、わたくしだって教えて差し上げましたわ!」

「貴様は教官の弟なのだ。もし、再試なんぞに引っかかってみろ……」

 

 うわっ、ラウラの背後に「ゴゴゴ……」って文字と、炎が燃えてるイメージが見える。学年別トーナメント前に戦ったとき以上の迫力があるわね。

 

「ラ、ラウラ!怖いって!大丈夫だから、多分!」

「多分、だと……?」

「ああ、いや、絶対!絶対大丈夫!!」

 

 ……いやあ、平和よのぉ……。

 と、黙って食事をしながら成り行きを見守ってたら、不意に箒が近づいてきた。

 

「なあ、葵。紅也は、まだ入院しているのか?」

「……うん」

「……そうか」

 

 それは、久しぶりに聞いた紅也の話題だった。

 最近はこのメンバーでも紅也の話題が出ることは少なく、最後に聞いたのは先週……簪と会話した時だったっけ。

 それが箒の口から出たことに軽く驚きつつも、私は続きを聞いた。

 

「紅也は、本当に検査入院だったのか?それにしては、期間が長すぎると思うのだ」

「……本国で新型のテストを請け負ってる。仕事を優先してるだけ」

「そう言えば、あいつは技術者だったな。うむ、その設定を忘れていた」

「……設定じゃない」

 

 確かに最近は、戦闘者としての面が押し出されてたけど。

 

「わかった。それならいいんだ。ありがとう、葵」

「……ん」

 

 離れる箒を見ながら、私は食事を再開する。

 これで、この話題は終わりだと思ってた。

 部分的に真実を交えた、私の嘘。それで箒が納得したと思ってたのだ。

 このときは。

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。

 私は、第六アリーナにいた。

 私だけじゃない。他にも一夏に、箒に、セシリアに……要は、専用機持ち全員が集合してる。

 それが周りの目を引くのか、すでに周囲には人だかりができてる。

 さて、これから何をしようとしているのか?

 答えは一つしかない。

 

 模擬戦だ。

 

 実は、私たちは福音戦以降、一切戦闘演習の類をせず、ただただ自己鍛練を積んできた。

 なので、夏休み前にその成果をぶつけ合おう!……というわけだ。

 まあ、セシリアとラウラには別の思惑があるみたいだけど……。

 

「じゃあ、組み合わせは私達全員VS葵で――」

「異議あり」

 

 鈴音、いくらなんでも無茶ぶりすぎ。

 

「……何で、その組み合わせ?」

「だって、葵と互角だった福音は、私達と簪の7人を相手に圧倒したのよ?だったら……」

「……無理。あれは、三つ巴の状況を利用しただけだし、福音も全力じゃなかった。

 いくら私でも、出来ることと出来ないことがある」

「それが普通はできないと思うけど。……しょうがないわね。じゃ、希望ある人」

 

 何故か仕切りだした鈴音。誰もそれに異議を唱えない中、セシリアが挙手をする。

 

「わたくしとしましては、葵さんと一対一で戦いたいですわね。その方がテストの汎用性は高まりますし」

 

 ちょっと、セシリア。そのセリフはダメでしょ。

 いつか逆流するわよ。

 

「ちょっと待った。それならば、私も同意見だ。葵とは、一対一でやらせてもらいたい」

 

 その意見に異を唱えたのはラウラだ。でも、そんなことを言ってたらきりがない。

 

「まあまあ、セシリアもラウラも、落ち着いて。

 二試合する時間なんてないんだから、二対一でやってみたら?」

「……それくらいなら、可能」

「し、仕方ありませんわね……」

「いいだろう。それでやってやる」

「じゃ、対戦カードは決まりだな」

 

 そうと決まれば、時間は有限。急ぐに限る。

 私とセシリア・ラウラは各々のISを展開し、空中で向かい合う。

 

 私は、ブルーフレームセカンドKで。

 セシリアとラウラは、それぞれブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンで。

 

 でも、二人の装備は違っていた。

 

 セシリアの6機のビットは腰部に接続され、スカートをはいたような形状になっている。

 手に握られたのもいつもの〈スターライトmk.Ⅲ〉ではなく、それよりもさらに大型のBTレーザーライフル――〈スターダスト・シューター〉。

 ――ストライク・ガンナー。それがこの装備の名称であった。

 

 一方のラウラも、八〇口径レールカノン〈ブリッツ〉を二門、左右の肩に装備している。さらに、四枚の物理シールドを左右、正面に展開したその様子は、さながら色違いのデュナ○スといったところか。

 これがドイツの軍用IS専用の砲戦パッケージ、パンツァー・カノニーアである。

 

 二人は、福音戦で使わなかった装備のテストをするために、この模擬戦を組んだのだ。

 

 一方、私としても、自分がどの程度この機体を使えるのか試しておきたかった。

 夏休みになって、紅也に見せるときには、完璧にしておきたいから……。

 

「よし、準備はいいな?」

 

 地上にいる箒が、オープンチャネルで全員に呼びかける。

 その声に対し、誰も返答をせず、代わりに武器を構えた。

 

「では……始め!」

「喰らえっ!」

 

 開始早々、シュヴァルツェア・レーゲンの両肩に装備されたレールカノンが火を吹く。

 その結果を半ば予想していた私は、左右スラスターの出力とタクティカルアームズの角度を調節し、加速しながら不規則な軌道で回避する。

 

「――この程度?」

「では、ありませんわよ!」

 

 肩部スラスター逆噴射。急制動をかけ、そのまま身体ごと上を向いた私の視界に入ってきたのは、〈スターダスト・シューター〉を発射したブルー・ティアーズであった。

 

(そんなものが、通用するとでも?)

 

 即座にビームライフルを呼び出し、エネルギーを込める。

 ……が、ブルー・ティアーズは予想を超えた加速でこちらに接近し、そのまま私を蹴り飛ばそうとした。

 

 なるほど、速い。

 瞬間的な加速度なら福音と同じか、それ以上か。

 まさしく驚異的だ。

 ならば。

 その速さ、利用させて貰う。

 

 ビームライフルを構えたまま、タクティカルアームズを誘導する。

 空中でソードフォームに変形させ、私とセシリアの間で待機させる。

 相手からすれば、いきなり刃が出現したように見えただろう。セシリアの慌てた顔がはっきり見える。

 

 ――が、唐突にセシリアの動きが停止した。

 そう、まるで、慣性を奪われたかのように……。

 

 次いで、タクティカルアームズの腹に向け、砲弾が飛んでくる。

 超高速に加速された弾丸――ラウラのレールカノンだ。

 私はタクティカルアームズを下降させながら、ガトリングフォームへと変形させる。

 剣先が二つに割れ、その間を弾丸が通り抜けていく。

 その弾道を見送りながら、即座にガトリングを起動し、未だに静止しているセシリアへと弾丸を発射する。

 

「甘い!」

 

 叫んだのはラウラ。

 左眼を覆う眼帯を外し、金色の瞳でこちらを睨むラウラは、発射されたガトリング弾を静止させていく。

 AIC……。これほどの距離からでも発動できるなんて。

 侮れないわね、あの左眼……ヴォーダン・オージェだったかしら。

 人間に疑似ハイパーセンサーを埋め込むなんて、どういう頭をしてんのかしら?

 まあ、手っ取り早く他人を超えたいなら、肉体改造が一番かもしれないけど。

 

 ……とまあ、戦闘中にもかかわらず私がこれだけ余裕なのには、実は理由がある。

 

「なっ!?止まってませんわよ!」

 

 そう。セシリアに向かったガトリング弾は、すべて静止している。

 でも、もう一種類……緑色のビームガトリング弾(・・・・・・・・・)は、休むことなくブルー・ティアーズの装甲を抉り続けていた。

 

 ラウラは即座にセシリアを開放し、セシリアも持ち前の機動力で緊急離脱する。

 負ったダメージは最小限……いい判断だ。

 

「驚きましたわ。まさか、ビームを撃てるなんて……」

「……バスター戦で学んだ」

 

 あの時、ビームが使えればもう少し楽に戦えていた。

 そう思って紅也に相談したら、8を使って新しい設計データを送ってくれた。

 早速モルゲンレーテ所属の先輩方と協力して改造を施し、そのシステムを試してみたら……結果は上々だったというわけだ。

 

「……今度は私から行く」

 

 返事を待たずに、私は新たに編み出した技術で、ラウラへと肉薄する。

 左肩、背中、右肩、そしてまた左肩……という順で、絶え間なく瞬時加速を行う。

 これは、訓練中に思いついた技。こうすることで、常時瞬時加速のスピードを出しながら戦闘できる。

 三基の高出力スラスターを持つ、ブルーフレームだからこそできる反則技だ。

 

「くっ、速い……とでも言うと思ったか!」

 

 しかし、阻まれる。

 ラウラの前に展開した、AICの網。それが私の行く手を阻んだ。

 

 ――でも。

 

「! バックパックが……無い!?」

「剣までは……阻めなかったわね?」

 

 さっき、伏線を張ってあげたのに。

 タクティカルアームズは、誘導兵器として使えるって。

 でも、驚いた。ラウラは、前にやり合ったときよりもだいぶ腕を上げてる。

 これは、将来が楽しみね……。

 

 スラスターへの直撃を受け、黒煙を吹き出すシュヴァルツェア・レーゲンを見ながら、私はそう思った。

 

「……で、セシリアはどうするの?」

「……はあ。ギブアップですわ。

 確かその剣、アンチビームコーティングされてますもの。レーザーライフルでは太刀打ちできませんわ」

 

 そう言って、セシリアは悔しそうに地上へ降りていく。

 ……これで、私の勝ち。

 

 ――それにしても。

 さっき、セシリアがAICで停止した後の私の動き。

 周囲の景色がゆっくりと流れていって……まるで、あの時みたいだったな。

 やっぱり、実戦の中でのみ発揮されるタイプの能力なのかな?

 

 セシリアを追って地上に降りながら、私はそんなことを考えていた……。

 

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