IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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入院編第4話 運命の子

 ――そりゃ、皮膚移植や、代謝活性とか、いろいろ……

 ――そんな方法じゃ無理だ。

 ――じゃあ……

 ――いい加減にしろ!

 

 

 

◆

 

 

 

 光から眼を守るため、とっさに瞳を閉じた。

 瞼越しでも伝わる、強烈な光。

 それが収まったのに気づいて眼を開けると、そこは海岸だった。

 夜の海岸。

 空を見上げれば星の海。地上を見れば本物の海という、絶好のロケーション。

 これが、ISコアの意識空間なのだろうか?

 とりあえず視線を上げ、正面をみると、そこには小屋があった。

 まるで時代に取り残されたような、古めかしいログハウス。

 海岸にぽつん、と存在するそれは、まるで誰かの別荘のようだった。

 

「いいところでしょ?」

「!?」

 

 突然聞こえた声に、俺は思わず飛び上がる。

 おかしい。さっきまで、このあたりには誰もいなかったはずだというのに……。

 おそるおそる、後ろを振り返る。

 

 ……誰もいなかった。

 

「あ、ここです。ここ」

 

 その言葉に従い、目線を少し下げる。

 そこにいたのは、まだ年端も行かないような子供だった。

 ウェーブのかかった金髪に、吸い込まれるような水色の瞳の男の子。

 その佇まいからは、年不相応の落ち着きや気品が感じられた。

 

「えーと、キミは……?」

「あ、ごめんなさい。こんなところに人が来るのは初めてだから、嬉しくて、つい……」

 

 アハハ……と、年相応の笑顔で笑う少年。

 この姿を見てると、なんだかビビってたのが馬鹿らしくなるな。

 とか考えてる間に、少年は俺に向けて丁寧に礼をして、名乗った。

 

「初めまして。僕はプレア・レヴェリーといいます」

「……やはり、君が」

 

 プレア・レヴェリー。

 それは、“人喰い”に取り込まれたはずの子供の名だった。

 

「はい。今から……えーと、10年くらい前にここに来ました。でも、人に会ったのはこれが初めてです!」

 

 そう言って人懐っこい笑みを浮かべ、右手を差し出すプレア。

 その表情に一切の邪気がないのを確認した俺は、ためらわずその手をとった。

 

 ……感じる違和感。

 

 右手を見る。

 右腕を見る。

 すると、そこに巻かれていたはずの包帯は、どこにもなかった。

 

「……ありゃ?」

「どうかしましたか?」

 

 きょとん、と首をかしげるプレア。ショタコンにはたまらない一枚絵だろう。

 だがしかし!俺はショタではなくシスコンだ。妹萌えだ。

 

「残念だったな!」

「何がですか?」

 

 また、きょとん顔。

 ……うーん、純粋系はやりにくいなぁ。

 

「……っと、そうだ。腕のことだよ。まだ包帯取れてなかったはずなんだけどなぁ……」

「ああ、身体の事ですか?それはそうですよ。

 ここは、ISコア内部の意識領域。いうならば、精神世界なんですから。あなたがイメージした通りの姿で……つまり、あなた本来の姿になってるはずですよ」

「本来の……?」

 

 そう言われて、改めて自分の身体を意識する。

 精神世界と言われて心配だったが、服はちゃんと着ている。モルゲンレーテの作業服だ。

 問題は……左側。

 あれほどの被害を受けたはずの俺の左腕は、記憶のままの無傷の状態で、そこにあった。

 

 ――ああ、なるほど。

 医師が言ってたのは、こういうことか。

 あの日……レッドフレームが壊された日、俺は無意識化で8の機能(ホログラフ)を使い、元通りの左腕を投影した。

 だから、俺は壊れた左腕をとうとう見なかったってこと。

 ゆえに、イメージがぶれることはなく。

 こうして、無傷の俺(ただし精神体)が存在するわけだ。

 

「納得しましたか?」

「ああ。そりゃあもう」

「それなら良かった。ところで、あなたの名前は?」

 

 ……あれ?自己紹介、まだだったっけ。

 

「悪い。名前を聞いておいて、自分が名乗らないなんて失礼だったな。

 俺はコウヤ・ヤマシロ。日本風に言うなら山代紅也。好きな方で呼んでくれ」

「では、コウヤさんと。

 コウヤさん。ここには、どうやって来たんですか?」

「答えても良いけど……その前に。

 プレア。お前はここがどういう場所なのか……は、理解してるよな」

 

 さっき、『ISの意識空間』って言ってたし。

 

「俺は、自分の精神をISのネットワークのようなものに乗せて、ここまでアクセスしてきたんだ」

「そうですか。どうりで、コアが起動してないわけです。てっきり、あなたが僕の操縦者だと思ったんですけど」

「……え?このISは、男でも動かせるのか!?」

 

 かつて、ISを男が動かすための実験機だった、このコア。

 それなら、俺(おとこ)でも使えるかもしれない、と一縷の望みをかけてみるも……。

 

「いいえ。ISは普通、男の人には動かせません。

 それは僕でも同じです。だから、不思議だったんですよ。コウヤさんがここに来れるはずが無い、って」

「……そっか」

 

 わずかな望みは、これで潰えた。

 やっぱり、一夏のような例外でなければ、ISは動かせない。

 

「でも、例外はあるみたいですね。例えば、『白式』の織斑一夏さんなんかは男でも乗ってますし。後は……この人。今は眠ってますけど、一人で動ける人もいるみたいです」

 

 何でそんなことが分かるんだ?

 と、思ったが、よく考えれば今のプレアはISの意識そのもの。

 コア・ネットワークから情報を拾うなんて、造作も無いことか。

 ……ん?

 今、聞き捨てならないことを聞いたような……。

 

「えーと。『この人』っていうのは、どの人のことなんだ?」

「あ、はい。この人です。僕の近くにいるみたいなんですけど」

 

 ……まさか、師匠!?

 

「ああ、違います。人っていっても、人間じゃなくて、ISコアのことです。

 外の地図で表わすと……ここですね。隣の部屋です」

 

 砂浜に地図が浮かび上がる。

 モルゲンレーテのメインサーバーに隠された、建物全体の見取り図が。

 ……ISのハッキング能力って、高いなぁ。

 

 それはさておき。

 地図に書かれた、星印の部屋が現在位置――第二研究室。

 プレアが示したISコアの在処は、隣の第一研究室だ。

 

 ――つまり。

 

「あの……無人機のコアか」

 

 5月。

 クラス対抗代表戦の行われた日の深夜に回収した、謎の無人機。

 そのコアは俺が海中から回収し、秘密裏にモルゲンレーテへと送り届けた。

その後解析作業が行われるも、難航。

 結局コアは起動するそぶりすらみせず、第一研究室で眠り続けている……という状態だ。

 

「……待てよ?

 プレア、あのコアは『眠ってる』って言ったよな?なら、起こすことはできるか?」

「え!?ええと……出来ると思います」

「なら、起こして欲しい。それでもって、俺に協力してくれるように頼んでくれないか?」

 

 眠ったままの意識。

 起動しないコア。

 コアに呑み込まれた少年。

 ISを使えない男。

 人がいなくても起動するIS。

 

 すべてのピースが、繋がった。

 

「まあ、コウヤさんは悪い人には見えないし、いいですけど。

 その代わり……またこうやって、遊びに来てくれませんか?」

「ああ、もちろん。

 現実世界での俺は、入院中なんだ。時間ならいくらでもあるから、安心してくれ」

「わかりました。じゃあ、ちょっと行ってきます。長くなるかもしれないので、コウヤさんは先に帰っていてください」

「ああ。じゃあ、プレア。また明日(・・・・)な」

「……はい!」

 

 目の前のプレアが、歩き去っていく。

 その先にあるのは、ログハウスの扉。

 その扉は、どこに通じているんだろうか?

 最後に一度、プレアはこちらを振り返り、手を振った。

 その姿が見えなくなるまで、俺は子供のように手を振り続けていた。

 

 そして。

 扉が閉じ、俺は一人取り残される。

 

「……帰るか」

 

 ゴールドフレームから戻った(・・・)ときと同じように、俺は意識を外へと集中した。

 

 

 

◆

 

 

 

「バイタル安定。意識レベル、安全域まで上昇。……お帰りなさい」

「けっこう長かったな。無事で安心したぜ」

 

 目が覚めた俺が最初に見たのは、こちらを覗きこむ師匠とエリカさんの顔だった。

 

「ただいま、でいいんですかね?この場合」

 

 とりあえず軽口を叩いて、無事をアピール。

 周囲は既に海岸ではなく、モルゲンレーテの秘密研究室であった。

 

「……で、会えたの?“人喰い”の人格とは」

「ええ。コアにいたのは、プレアでした。リュウタ君と同じくらいの年の、男の子でしたよ」

「そう……。終わった実験とはいえ、やりきれないわね……」

 

 そう言ってエリカさんは、悲しそうに顔を伏せる。

 自分の子供と同じくらいの少年が犠牲になったと知ったのだ。その心中は、今どうなっているのだろうか?

 

「で、あのコアに危険性はありそうか?」

 

 その空気に耐えかねた師匠が、空気の転換を図って発言する。

 

「いいえ。もう、人を取り込むことは無いと思います。

 でも……やっぱり、男が起動することはできないそうです」

「そっか。ま、使えるって分かっただけ上出来だ」

「おっと、成果はそれだけじゃありませんよ」

「……どういうこと?」

 

 師匠とエリカさんが、俺に注目する。

 ……ふふふ、聞いて驚け。俺の活躍をッ!!

 

「例の無人機のコア、起動するかもしれませんよ」

 




精神世界のイメージは、マルキオ導師が住んでたあの場所です。
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