IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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第78話 8月。多くにとって突然に、それは起こった……

 8月。IS学園は、遅めの夏休みに入った。

 これは、普通の学生ならば喜ぶべき所なんだろう。

 現に、クラスの女子のほとんどは国に帰る予定を立てたり、友達と遊びに行く予定を立ててる。

 でも、私はそうはいかない。

 だって私は、代表候補生だから。

 夏休みといえば、日ごろのデータを国や企業に届けたり、それらが主催するイベントに出たり、雑誌の撮影があったり……とにかく、仕事が多いのだ。

 ただ、いいこともある。

 オーストラリアに戻れば、久しぶりに紅也に会える。

 普段から話したいことは全部電話で話してるけど、最近はなかなか電話に出てくれない。

 何でも、モルゲンレーテのIS開発で大きな動きがあったとかで、紅也はそっちにかかりきりみたいだ。

 だから……やっぱり直接会って、話したい。

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻った私に、まるで見張っていたかのようなタイミングでメールが届く。

 差出主はモルゲンレーテ。件名は「帰還命令」。

 

 ……そら、来た。

 

 あまりに早かったその連絡に辟易しながらも、メールを開く。

 

『IS学園も夏季休業に入ったようなので、明後日までにオーストラリアに戻ってこい。

 第二形態移行したブルーフレームの性能評価、単一仕様能力の解析、およびデータ取りを行う。なお、デュノア社から出向している専用機持ちも連れてこい。新型ASTRAYのテストパイロットをやってもらう』

 

 ……とまあ、内容はざっとこんな感じ。

 正直非常にめんどくさいうえに急だったけど、命令だからしょうがない。

 それに、こういう事態も想定してた。だから、準備は出来てる。

 後は、シャルロットにも伝えないと……。

 

 コンコン。

 

 私の思考は、控えめなノックの音で中断された。

 ……あらまあ。噂をすればなんとやら。

 相手に確信を持ちつつ扉を開けると、果たしてそこにいたのはシャルロットだった。

 

「葵、急にゴメンね?あの……僕のところに、こんなメールが来たんだけど……」

 

 という言葉と共に差し出された携帯の画面を、私は注視する。

 このアドレスは……エリカさんか。文面は一言。

 

『待ってるわよ』

 

 ……はあ。これじゃ、何を言ってるか分からない。

 

「ね、ねえ。これ……嫌がらせとか、呪いのメールだったらどうしよう?」

「……シャルロット?」

 

 あれ?ひょっとして、エリカさんのアドレスだと気付いてない?

 

「じ、実は昨日ね。ラウラに勧められて、一緒に日本のホラー映画を見たんだけど……。

 ちょうど、映画の中にも同じようなシーンがあったんだ……」

「………………」

 

 へえ、意外。

 シャルロットって、普段からしっかりしてるけど、ホラー(こういうの)は苦手なんだ。

 そんなんじゃ、この先生きのこれないぜ。……なんちゃって。

 

「で、でね?次の日の深夜に、ドアの外で水の滴る音がしてね……」

「……シャルロットさーん?」

「そしたら、ケータイが鳴るんだ。電源を切って、水に沈めたはずなのに……!!」

 

 ……ダメだ、早くなんとかしないと。

 しょうがない。こうなったら、最後の手段だ。

 

 ……え?何もしてないのに『最後の手段』はないだろ、だって?

 そう言われても……こういうのは、お約束だから。

 

「『落ちつけよ、シャル』」

「ふえっ!? い、一夏!?」

 

 シャルロットが飛び上がり、私の方を向く。

 そして……視線をキョロキョロと左右に走らせた後、どこか呆けたような表情で私を見た。

 

「あれ……一夏は?」

「『俺は、最初からいないぜ』……さっきのは、私」

「え?また一夏の声……って、葵!?今の、声真似だったの!」

「……うん」

 

 今度こそ驚愕の表情を浮かべるシャルロット。それを見た私は、ちょっとだけいい気分になった。

 

「……で、落ち着いた?」

「う、うん……。恥ずかしいところをお見せしました……」

 

 そう言って小さくなったシャルロットは、どこか小動物みたいだった。

 ……可愛い。

 

「……さっきのメールの差出人は、エリカさん」

「えーっと……確かエリカさんって、モルゲンレーテのIS開発主任だったよね?」

「そう。さっき私にもメールが来て、明後日までにモルゲンレーテに行くことになった。

 ……シャルロットと一緒に」

「……え?ぼ、僕と!?何でまた……」

「……新型ASTRAY、MBF-P06。そのテスト操縦者に、あなたが抜擢された」

 

 MBF-P06。

 オレンジフレームとも呼ばれるその機体は、ブルーフレームのコンセプトをさらに発展・実戦向けにした仕様らしい。

 ブルーフレームが多くの装備を整えることで多様な状況に対応するのに対し、オレンジフレームは複合武器を持つことで様々な状況に対処する。

 この機体を使いこなせるのは、私以外ではシャルロットしかいない。

 

 ……と、いうのが、シャルロット抜擢の理由だそうだ。

 しかも、推薦文は紅也が書いたものらしい。……何か、おもしろくない。

 

「あ、あはは……。ちょっと、照れるなぁ……」

 

 シャルロットなんか、見るからに嬉しそうだし。

 あなたは黙って一夏の尻でも追いかけてなさい。

 

「……って、ちょっと待って。葵の機体がP-03で、紅也の機体がP-02だったよね?」

「……うん」

「で、例のゴールドフレームがP-01だから……P-04とP-05は無いの?」

「……ある。でも、二機ともISじゃない」

「ISじゃない、って……。

 ……ああ!レッドフレームみたいなパターンか!」

「そう」

 

 もっと厳密に言うなら、P-04、グリーンフレームが『男でも使えるIS』で、P-05、パープルフレームが『無人機』だ。

 アイツ曰く、青+黄である緑は、赤の後継。赤+青である紫は、黄の後継。黄+赤である橙は、青の後継なのだそうだ。

 とはいえ、ただコンセプトを受け継いだわけではない。それぞれの機体は、ベース機が持っている長所を最大限引き出しているらしい。

 特にP-05……パープルフレームは、無人であることを活かした簡易変形機構を採用するらしい。あくまで予定だけど……紅也曰く、「変態的」な仕上がりになるそうだ。

 

 ……コジマはまずいわよ?

 

「それにしても……オレンジか。リヴァイヴと同じ色だね。偶然かな?」

「……さあ?」

 

 ひょっとしたら、それをも考慮しての抜擢かもしれない。

 ……それにしても。

 オレンジフレームがシャルロットの機体になるんだったら、今の専用機――ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡはどうなるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 シャルロットに荷造りをするように伝えた私は、少し寮内をふらつくことにした。

 深い意味は無い。ただ、ヒマだっただけだ。

 周りを見渡せば、楽しげに談笑する女子の姿。誰もが夏休みの予定の話題で盛り上がってる。教室と同じだ。

 ……はあ。私も昔は、そういう話題で盛り上がってた気がするけど、もう違う。

 専用機持ち特有の悩みか……。贅沢に思われるかもしれないけど、けっこう深刻だ。

 そんな、若干恨みがましい目で周りを見てたからだろうか。私の視界に、周囲の会話から取り残された、水色の髪の女子が映り込んだ。

 

 あれは――簪か。

 

 ちょうど話し相手が欲しかった。この際、簪でもいいや。

 そういう結論に達した私は、なんとなく気配を消して簪に忍び寄る。

 簪はぼーっとしていて、何を考えてるのか分からない。

 そこで、そーっと耳元に顔を近づけ、唇をとがらせ……

 

 フッ、と。

 簪の耳に、息を吹きかけた。

 

「うにゃあ!?」

 

 どこぞの金髪ツインテール合法ロリ理事長のような叫び声を上げ、簪が飛び上がる。

 一方、周囲も突然叫び声を上げた簪を見て、何事かとうわさし始める。

 その反応を見た簪の顔は、羞恥で真っ赤に染まっていき……ここで、ようやく私の存在に気付いた。

 

「葵!何するの!」

「何って……。ため息ついたら、たまたま簪がそこにいただけ」

 

 驚いた。

 簪が、こんなにアグレッシブな話し方をするなんて。

 しかも、名前を呼び捨てにしてるし……。

 

 まあ当の本人は、今の行動でさらに周囲の注目を集めたことに気付いて、また顔を赤くして俯いてるけど。

 

「……うう、恥ずか……しい」

 

 あ、簪デストロイモード(命名:私)が解除された。

 もうちょっと見てみたかったのに……。つまらない。

 

「で……本当に、何の用……?」

「……特に用は無い。でも、話し相手がほしかった」

「……そう」

 

 一言、そう呟いてから、簪は私の方を見た。

 それを肯定の意と受け取った私は、そのまま話を始めた。

 

「……みんな、夏休みで浮かれてる」

「そう、だね……」

「でも、専用機持ちは、素直に楽しめない」

「……それ……私への、当てつけ?」

「……違う。簪だって、打鉄弐式の戦闘データ提出とか、偉い人へのあいさつとか……あるでしょ?」

「……うん。あれは……拷問」

「……同感。息が詰まる」

「私の場合……専用機も未完成だし。……しかも、倉持技研は……稼働データだけは持っていくし……」

「……せこい」

「はあ……いっそのこと……白式なんて、無くなっちゃえばいいのに」

「……もし無くなっても、一夏には別のコアが与えられると思う」

「……そうだね。ずるいや」

 

 私と簪。

 二人とも、元々そんなに口数が多い方ではないから、どうしても会話が途切れがちになる。

 でも、こうやって愚痴を言うときだけは、なぜだか会話が長続きする。……不思議だ。

 

「不思議だ、じゃないわよ!!」

 

 横合いから、聞きなれた元気な声が聞こえてくる。

 

「……(ファン)さん?どうし、たの……」

「どうしたもこうしたもないわよ!廊下を歩きながら、みんな楽しそうだなーって思ってたら、一か所だけ暗いオーラが出てたから近寄ってみたら……。話題が暗いわ!!」

 

 そう言って、がおーっ、と吠える鈴音。

 おまえはどこぞの虎か。

 

「……鈴音は、夏休みの予定は?中国に帰ったりとか……」

「いずれは帰るけど、しばらくはこっちにいるわ。……セシリアやシャルロットは国に帰るだろうから、今のうちに……」

「……鈴音?」

「うへ、うへへ……」

 

 ……駄目だ。トリップしてる。

 鼻にジュースでも突き刺すか。それとも、持ち物を取り上げるか。

 あるいは……

 

「む、三人とも、そんなところで何をやっているのだ?」

 

 ……あ、ラウラだ。ちょうどいいところに。

 

「……ラウラ、ちょっとこっちに来て」

「む、何だ?」

「いいから、ここに立ってて。鈴音が起きるまで」

「……それが何になるというのだ……」

 

 文句を言いつつもやることはやる。それがラウラクオリティーだった。

 さて、後は物陰に隠れて、様子を見物させて貰おうかな。

 だって、これでしばらくこのメンバーとは会えないんだもの。

 少しくらい、遊んだっていいでしょ?

 

 

 

 

 

 

〈side:篠ノ之 箒〉

 

 明日からは、夏休み。

 だというのに、私の気分は一向に明るくならない。

 原因ははっきりしている。……紅也だ。

 葵は、なんともないと言ってる。でも、何かが引っかかるのだ。

 福音と戦ったあの時……。

 何か、大事なことを見落としてた気がする。

 それがここ数日、ずっと気になっていた。

 

 だから、私は――

 

「もしもしー、箒ちゃん!そっちからかけてくるなんて珍しいね。どーしたのかな?」

「……姉さん。一つ、頼みがあるんだ……」

「んー、何かなー?今ならお姉ちゃん、何でも聞いちゃうよー!ぶいぶい!」

「明日……私を迎えに来て欲しいんだ」




オレンジフレームは原作には登場しないオリジナルの機体です。ご了承ください。
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