IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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入院編第5話 変革の序曲

 ――先生……?

 ――私に……これ以上言わせないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 8月。IS学園は、遅めの夏休みに入った。

 まあ、俺にはあんまり関係ない。結局、テストの後も学園には戻らなかったし。

 

 そうそう。例の無人機のコアは、無事に起動した。

 プレアの話では、俺が使っても反応はするらしいので、今度試してみるつもりだ。

 ……そうすれば、前回みたいなヘマはしなくて済む。

 もう、みんなに心配はかけたくないからさ。

 

 だから、今日も今日とてデータ取りだ。

 まずは無人機のコアを試す!

 そして、グリーンフレームのフィッティングだ。

 上手くすれば、無人機のコアを積んだグリーンフレームが開発できるかも。

 

 操縦者として、技術者として、夢は膨らむばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 ……と、思ってたんだけど。

 

「えっ!?グリーンフレームは俺の機体じゃないんすか!?」

「当たり前だろ。コウヤには、レッドフレームがあるだろうが」

 

 師匠に一蹴された。

 なんでも、グリーンフレームの操縦者は決まっていないが、少なくとも俺以外にするというのは確定してるらしい。

 理由を聞いたとき、師匠がニヤニヤしてたのは気になったけど……。

 

「……ってことは、レッドフレームの修復のメドがついたんですか!?」

「最初から直せるって言ったじゃねぇか。まあ、9月には間にあわねぇけどよ」

 

 やっぱし。

 ……はあ。ひょっとすると俺、M1隊に回されちゃうのかなぁ……。

 

「ま、機体の心配はすんなよ。新学期までには間にあわせてやる。

 ……それより、別の用があるんだろ?無人機のコアはあっちだ。ついてこいよ」

 

 そう言って師匠は歩き出す。

 俺は操縦者のいない緑色の機体を視界の隅に追いやりつつ、黙って師匠の後に続くのだった。

 

 照明に照らされた廊下を歩く。

 右へ、左へ、また右へ。

 そしてつきあたりのエレベーターを使って地下へ。

 

 案内された先は、モルゲンレーテのIS稼働試験室――IS学園で言うところの、アリーナみたいな場所だ。

 普段はM1のテストに使用され、騒がしいここは、今や閑散としていた。

 いつもと違う所は、もう一つ。

 アリーナの中央に、搭乗者のいない量産機――M1アストレイが立っていたのだ。

 

「やっぱりM1隊に決定!?」

 

 どうやら、俺はレッドフレームを下ろされるようだ。

 

「いいから落ち着け。ただのテスト機だ」

 

 ゴン!!

 某錬金術師よろしく、スパナで殴られた。

 つーか、どこから出したんだ……って、8からか。

 あれは元々師匠のものだ。俺だけじゃなくて師匠も使えるのは当然だったな。

 

「~~~~~~~!!」

 

 まあ、冷静に解説してみたものの、実際はすごく痛い。

 滅茶苦茶痛い。

 

《無人機のコアをベースに、M1を組み上げた》

「それが動くかどうか、ちょっと確かめてみろよ」

「まあ、そういうことなら……」

 

 頭を押さえつつ、ふらふらした足取りで機体の元へと向かう。

 師匠も8も、それを離れた所から見守ってる。

 一歩ずつ。

 僅かに緊張し、手が汗ばむのを感じる。

 

 もし、これで反応しなかったら?

 もし、もうISが使えなかったら?

 もし――

 

 俺がただの技術者に戻ってしまったら?

 

 

 目の前に立つM1の装甲が、やたらと大きく見える。

 ……ダメだ。

 オーストラリアに戻って、入院が長くなって、俺はだいぶ不抜けたようだ。

 日本にいた頃の、飄々としていた俺。

 葵の兄として振舞っていた、モルゲンレーテの技術者である俺。

 そんな俺――山代紅也だったら、こんなにビビったりしない。

 

 ……落ち着け。

 一夏をいじってた俺は、こんなにヘタレだったか?

 箒の剣術指南をしていた俺は、こんなに弱かったか?

 鈴音に軽口を言ってた俺は、こんなに無口だったか?

 シャル子を引きぬいた俺は、こんなにビビリだったか?

 ラウラを手を差し伸べた俺は、こんなに憶病だったか?

 簪の機体を作った俺は、こんなに情けなかったか?

 そして――

 葵の兄である俺は、失うことを恐れて行動できなくなるほど、小さな男なのか?

 

 否。

 断じて否だ。

 

 ……あっ、セシリア忘れてた。

 

 

 

 ……と、不覚にも最後のコレのおかげで、緊張は無くなった。

 ありがとう、セシリア。

 忘れててゴメンね、セシリア。

 

 さて。

 覚悟は決まった。もう大丈夫。

 M1を見る。

 さっきより小さな全体像。レッドフレームそっくりな外見。

 それが、よけいに俺の焦りを消していく。

 

 大丈夫。いつもやってることじゃないか。

 

 意を決して、胴体に手を触れる。

 瞬間。

 

 ドクンッ……!!

 

 確かに、鼓動を感じた。

 同時に、流れ込んでくるナニカの意識。

 俺じゃない記憶が流れ、知らない風景と知ってる景色が混ざり合っていく。

 俺は思わず目を閉じる。でも、遅かった。

 現在と過去が混ざり合い。

 光と闇が交錯し。

 空と海が交わる。

 そして、脳裏に描き出された一つの風景。

 それはいつか見た、夜の砂浜。

 

『約束は守る。力を貸そう――』

 

 声が、聞こえた気がした。

 聞いたことのない。でも、記憶の中にある声が、確かに聞こえた。

 瞬間、俺が感じたのは懐かしい感覚。

 ここ数週間は感じなかった、レッドフレームを展開するときの、あの感覚。

 

 ――意を決して目を開くと、そこにあったのはバイザー越しの世界。

 

「やった……?」

 

 間違いない。

 俺はM1を装着している。

 つまり、コアが起動した……?

 

「おっしゃぁ!成功だ!!」

「……いぃぃぃぃぃやったあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 歓喜。

 先程まで感じていた不安は吹き飛び、成功それ自体に対する歓喜が、俺の心を満たしていく。あふれた思いは叫びとなって、2人だけの稼働施設に響き渡った。

 

「やりました!成功ですよ、師匠!」

「よっしゃあ!後は、ユウヤさえ来れば、『4番目』が完成する!!」

「そりゃすごい!なんだかよく分からないけど、すごいっすよ、師匠!!」

 

 IS特有の機能――シールドバリアーや、絶対防御などのシステムも正常。

 レッドフレームにあった欠陥は、これで解決したと言ってもいい。

 ……まあ、最終的にはコアに依存しないのが理想形なんだろうけど。

 でも、これでもう、葵に心配をかけずに済むな。

 

 残る問題はまだまだある。

 だけど、課題が減ったのは事実だ。

 今日くらい、それを喜んでもいいだろ?

 

 

 

 

 

 

 その後、ビーム兵器の運用、空中での運動などの各種テストを終え、俺達が帰ったのは夕方過ぎだった。

 病室に戻ってみれば、うっかり放置した携帯電話にメールが一通。

 差出人は葵。学園も終わったので、明日にはこっちに帰ってくるとか。

 ちょうどよかった。帰ってきたら、真っ先にこの話をしてやろう。

 そうして、俺は大丈夫だ、ってアピールしてやる。

 

 まあ、今は葵よりも先に、お礼を言わなきゃいけない相手が居る。

 そいつに会いに行くために、俺は意識を投げだす。

 もう何度目になるか分からない、暗い道を歩いて。

 たどり着いた先は、昼間に垣間見た星の見える砂浜だ。

 

「来たぞ、プレア!」

「あ、コウヤさん。今日は遅かったですね」

「ああ。今日は、例の無人機のコアを使ってISが動かせないか、試してたんだ」

「そうなんですか。それで、結果は……?」

「ああ、ありがとう、プレア。……成功だ!」

「それは良かった。おめでとうございます!」

 

 右手、左手、最後に両手でハイタッチ。

 とはいえ、身長差があるから、俺は若干かがんでるけど。

 

「お前のおかげだぜ!これで俺は、また戦える」

「そんな。僕はただ、彼女と話しただけですよ」

「『だけ』って言ってもなぁ。それはプレアにしかできないことじゃねぇか。自慢していいんだぞ?」

「うーん、そう言われても……。ISコアそのものになった僕にとっては当たり前のことだし、それに、コウヤさんだって同じようなことをやってるじゃないですか」

 

 ……ん?

 言われてみればそうだよな。

 人間の身体を捨てて、意識だけで無人機を操縦したり。

 意識をデータ化して、ASTRAYネットワークを通じて送信したり。

 

「……あれ?もしかして俺って、人外になりかけてる?」

「ははは……。ノーコメントです」

 

 うわぁ。気付かなかった。

 ひょっとしたら俺、もう人間の身体が無くても生きていけるのかもしれない。

 いや、試さないけど。

 まだ人間止めたくないし。

 

「案外、8もそういう存在だったりして」

「まあ、僕も肉体を失っても『生きてる』わけですから。似たような例があっても不思議には思いませんよ」

「そっか」

「そうです」

 

 そして、笑い合う。

 今のところ、すべてが順調だ。

 IS開発にめどが立ち。

 俺の治療も手配済み。

 福音戦がもたらした損害は、確実に回復しつつある。

 

 すべてが安定期に入った。

 ――この時の俺は、そう思ってた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 無理がたたり、寝坊していた俺を起こしたのは、ドアをノックする音だった。

 ……葵が着いたのか?

 だとすると、俺はだいぶ長い時間寝ていたことになる。

 まあいいや。

 葵には、状況を伝えてある。ならば、こんな格好でも問題は無いだろう。

 

 コンコン。

 

 再びノックの音。

 

「紅也、起きているか?」

 

 そして、予想もしなかった声。

 

 ――急激に目が覚めた。

 

「ほ、箒か!?ちょっと待て、今は……」

 

 慌ててベッドから飛び起きる。

 8の位置は……机の上か。

 箒がドアを開けるより先にホログラフを起動すべく、走りながら右腕を伸ばす。

 が、最悪なことに、脱げかけていたズボンで足がもつれ、俺はそのまま転倒する。

 伸ばした右腕で受け身は取れず、結果、俺は自分を支える術を持たないわけで……

 

 ドタン!!

 

 大きな音を立てて、左肩から床にダイブすることとなった。

 

「どうした、こう……や……?」

 

 恐れていた事態。

 ドアが開いた。

 ゆっくりと、侵入者――箒の姿を見る。

 彼女の視線は、床に倒れている俺に集中していた。

 

「紅也……。何だ、それ(・・)は……」

 

 ――ああ。

 今の箒の驚愕の原因が、ズボンが脱げて下着まるだしの俺の格好が原因だったら、どんなに良かったか。

 だけど、残念なことに。

 彼女の視線は、俺の身体――正確には、左肩のあたりに固定されていた……。

 

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