――治療も無理、再生も無理か……。参ったな。
――だが、代わりの方法はある。
◆
二時間ほどだらだら話した後、二人は帰っていった。
明日からはブルーフレームセカンドKやラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのテストを行うから、忙しくなるそうだ。それでも、時間を見つけて見舞いに来てくれるそうだが。
……言いそびれたんだけどさ。そのテスト、俺も同伴するんだよね。
だから、見舞いも何もないんだけど。
ま、いっか。せいぜい、驚かせてやるとしようか。
そんなことを考えながら、俺は腕を消し、8を操作していくつかのデータを呼び出す。
「そういや、8。篠ノ之博士にケーブル繋がれたとき、データの吸い出しとかできたか?」
《いや、不可能だった。プロテクトが堅固だな。まあ、それは向こうも同じだったようだ》
「篠ノ之博士のハッキングを退けた?すげぇな、お前」
《ふ、当然だ》
文字が表示されたウィンドウが閉じ、データが表示される。
そこに現れたのは、オレンジフレームのデータと、シャル子のラファールのデータだ。
「今後、ラファールのコアをオレンジフレームに移植するわけだが」
《コアを初期化するのはもったいないな》
「ああ。今までの戦闘経験をゼロに戻すってのは、あまりに惜しい。
……何か、利用できないか?」
《分からんな。ラファールとASTRAYでは、設計がまるで違う。そのまま継承するのは不可能だ》
「うーん、コアをオレンジフレームに移植するなら、初期化しないといけない。戦闘データを使うとなると、ラファールのままじゃないといけない。どうすれば……」
いや。
待て。
「――そうか。ラファールとオレンジフレーム、両方使えばいいんだ」
《は?何を言ってるんだ、お前は》
「いいか?こうするんだよ」
《! ……なるほど。ASTRAYの拡張領域があれば、あるいは……》
ひらめきを、8と共に形にしていく。
こうして俺は、久しぶりに、充実した夜を過ごした……。
◆
「じゃあ、今度はこっちの番だよ!」
「……甘い!」
「!? さらに早くなった!」
マシンガンの弾丸と、ガトリングの弾丸が空中で交差する。
模擬弾がIS稼働試験室の大地を抉り、何発かは互いの機体に命中する。
「……やる!」
「そっちこそ!」
オレンジ色の機体が盾を構え、青い機体に突撃する。
青い機体も手に持った大剣を変形させ、正眼の構えをとる。
「葵ちゃんが強いのは……身をもって知ってるけど」
「あっちのデュノア社の子もすごいわね~」
「なんていうか、迷える執事って感じ?」
俺と共にモニタールームにいた、3人の女性がそんな話をしている。
この人達は、俺達のASTRAYの量産機――MBF-01、M1アストレイの操縦者だ。
ちなみに、あくまでテスト操縦者であり、国家代表などではない。
相変わらずオーストラリアの国家代表は母さんだし、代表候補生は葵。まあ、専用機を持ってない代表候補生も数えるなら、実はあと3人いるんだよね。IS学園に。
しかもそのうち1人は、葵と同じ射撃部だ。
その3人にも帰国命令が出てるはずなんだけど……いつ戻ってくるんだろうね?
「あっ、盾がバラバラに!」
「あれは……パイルバンカー!?エグいもの持ってんじゃん、あの娘!」
「これじゃ、葵ちゃんも……。って、剣が飛んでる!?」
ん?タクティカルアームズの分離飛行!?
葵のやつ、もうそこまで使いこなしてたのか。
やっぱりすげえな、葵は。ちょっと見ない間に、どんどん強くなってやがる。
俺も、頑張らないとな……。
……頑張ろうにも、専用機が無いんだけど。
画面の向こうでは、シャル子のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに、独立飛行したタクティカルアームズが突き刺さっていた。
――葵の勝ちだ。
さて、じゃあ葵とシャル子をねぎらってやろうか……と、思ってたら。
「あー、緊急連絡だ。コウヤ、アオイ、すぐにミーティングルームに来てくれ。
さっき、宇宙開発局から連絡があった。後1時間で、ユウヤが帰ってくるそうだ!」
予想外の連絡が、スピーカーから飛んできた。
◆
「遅かったわね、二人とも」
「……いや、母さん。何でいるのさ」
「……連絡はついさっき」
『緊急』連絡ってことは、本当に急に連絡が入ったはずだ。
少なくとも、母さんに知らせたのが俺達より早いって線は薄いはず。
なのに、何でここ――モルゲンレーテのミーティングルームにいるんだ?
「そりゃ、何となくユウヤさんが帰ってくる気がしたのよ」
そうですか。
だから、そんなにオシャレしてる訳ですね。年甲斐もなk……
突如、天地がひっくり返った。
気が着いたら、ソファに座っていたはずの俺は、頭からカーペットにダイブしていた。
「私、まだ35歳よ?実の息子にババア呼ばわりされる年齢じゃないんだけど」
いや、言ってない。言ってないっす。
確かに似たようなことを考えたけど、そこまでひどくは無かったはずです、お母様。
「……でも、どうやって帰ってくるの?」
「そこまでは分からないわよ。ひょっとしたらもうギガフロートあたりに下りてて、飛行機でこっちに向かってるのかもしれないし。もしくは、直接この施設に着陸するのかもね」
「いや、直接降下、って……。有り得ないでしょ」
シャトルの受け入れなら、ギガフロートの方がしっかりしてるだろうし。
降下カプセルでも使うなら、話は別だけどね。
まったく。軌道エレベーターさえ完成すれば、もっと宇宙が近くなるのに。
「みんな、そろってるわね。……って、何でヒメさんまでいるの?」
「ん、エリカちゃん。それは乙女の勘って奴よ。何か用?」
「……アメノミハシラから連絡があったわ。ユウヤさんは降下カプセルを使って、ここに直接下りてくるみたい。アオイ、念のため破片の処理、頼めるかしら?」
「……ん。いつ?」
「急がなくてもいいわ。ただ、声をかけたら5分以内に行ってね」
こくり、と葵が頷く。
ちなみに降下カプセルというのは、宇宙から地球に下りるときに使用する、耐熱処理を施された装甲のことだ。
大気圏突入と同時に表面にジェルを展開し、摩擦熱を軽減。突破後はある程度スピードが出たところでパラシュートを展開し、着陸するような設計になっている。しかも再利用可能。エコだ。
でも――当然デメリットはある。それが、故障だ。
ジェルの展開が失敗した場合、カプセル自体は無事でもパラシュートが開かなくなることがあるのだ。
これを解決するのが、ISだ。
外部からパラシュートを取り付けたり、あるいはIS自体の出力で速度を抑えてもよし。
そして最悪の場合は……撃墜する。
それが、今回の葵に与えられた役割だ。
「あの、エリカさん。俺に出来ることは……」
「ないわ。悪いけど、今は機体を持ってないあなたに、頼むことは無いの。
ヒメさんと一緒に待っててくれる?」
「……わかりました」
わかってはいた。
それでも、はっきりと言われるのはつらいものだ。
特に、『今は』という言葉。
レッドフレームがあったなら、葵と一緒に出撃できたってことだろ?
そんなことを考えてたからだろうか。
「そう。今は……ね」
エリカさんが笑みと共にそう呟いたのを、俺は聞き逃していた。
◆
「《アメノミハシラ》、カプセルを射出しました」
「わかりましたぁ~。アオイさ~ん、出番ですよぉ~」
「……行ってくる」
「ああ、頼むな」
「アオイ。いい?無茶でも何でも、必ず着陸させなさい!いいわね?」
「……もちろん」
管制塔でアメノミハシラと交信していたユンさんが、こちらに通信をまわす。
それを聞いた葵は出撃態勢を整え、俺と母さんはそんな葵に声をかける。
まあ、母さんのは若干脅しに近かったけど。
葵が走り去る。
それを黙って見送って数分。ミーティングルームのモニターには、青空を疾走する青い機体が映し出されていた。
「あら。アオイの機体、形が変わったわね」
「
「ふーん。まあ、どうでもいいけど」
「自分から振っといて……!」
やばい。無性に殴りたい。
まあ、殴った所で、こんな身体じゃ即座に反撃→投げ→空中殺法のコンボを決められてK.O.されるのは目に見えてるわけだけど。
でも……
それでも……
だとしても……!
男には、やらねばならんときがあるのだよ!
(……それは、今じゃない)
専用回線越しに、葵の声が聞こえる。
どうやら、心の声が伝わってしまったようだ。
(……で、葵。カプセルは見えたか?)
(……捕捉した。ジェル展開正常)
「今、カプセル見つけたって。今のところ問題ナシ」
「そりゃそうよ。だって、ユウヤさんが乗ってるんだもの」
「……………」
……はぁ。
母さんって、父さんのことになると周りが見えなくなるからなぁ……。
そうこうしてる間に、モニターにも降下カプセルが映し出される。
パラシュートを展開して、既に一次制動に入ったようだ。
そして――唐突にパラシュートが外れた。
「ちょっと!パラシュート外れちゃったわよ!大丈夫!?」
「アンタ、IS以外はホントに馬鹿だな!!」
一応言っておくが、事故ではない。
現に、新たに3つのパラシュートが展開され、カプセルの速度が落ちている。
二次制動を行っているのだ。
ここまでくれば、もう大丈夫。
後は葵がフォローに入って、降下地点へ誘導するだけだ。
そして葵は危なげなく作業を終え、カプセルは無事に地上に降り立った。
「さて、ユウヤさんを迎えに行かないと」
「待てや馬鹿!ここで待ってろって言われたじゃねぇか!」
「なによコウヤ!さっきから黙って聞いてれば、親に向かってバカバカ言って!」
「バカに馬鹿って言って何が悪い!」
ぎゃーすぎゃーす。
◆
「ヒメ!帰ったぞ~」
「お帰りなさい、ユウヤさん!」
ひしっ。
人目も気にせず抱き合う、母さん(35)と父さん(41)。
父さんの後ろに立ってる葵も、どこか呆れ顔だ。
「久しぶりだね、父さん」
とりあえず、いい加減現実を見やがれ、という意味を込め、声を上げる。
すると父さんは、母さんと抱き合ったまま、顔だけをこちらに向けた。
「えーと……。ああ、コウヤ!久しぶりだな」
「オイコラ馬鹿親父。お前、息子の名前忘れてただろ」
「ハハ、悪い。ヒメとまた会えた喜びのあまり、つい……な」
「ユウヤさん……」
「ヒメ……」
ああ、駄目だ。俺じゃ無理。
とりあえず葵に目線を送ってみるも、それより前に「無理」という思念が飛んできた。
「ところでコウヤ……すごい怪我だな」
「……ああ、腕のこと?治す目処も立ってるし、そこまで
「いや、そっちじゃない。その、真新しい生傷のことだ」
「ああ、これ……」
母さんを睨む。あっ、目を逸らした。
その態度がムカついたので、俺は父さんに真実を告げることにした。
「母さんに、ついさっきやられた」
具体的には、◆の直前くらい。
「そうか。駄目だぞ、ヒメ。お仕置きだ!」
ピンッ!
デコピン一発。
……それだけかよ。
「……父さん」
「分かった!分かったからそう睨むな、アオイ!」
アオイに声をかけられた父さんは、突然咳払いをする。
そして母さんを離し、真面目な顔になって俺を見る。
「コウヤ。お前に、少し早い誕生日プレゼントをやる。ついて来い」
突如告げられた、意味不明な言葉。
だが、そこに込められた有無を言わせぬ迫力が、俺の首を縦に動かした。
◆
――モルゲンレーテ・搬入ドッグ
父さんを先頭に、俺達が歩いていった先が、ここだった。
そこには、降下カプセルに積まれていた荷物が、布をかけられた状態で置かれていた。
「これが、プレゼント……?」
「ああ。……布を外してみろ」
そう言われ、その物体に近寄る。
だが、何故だろうか?
俺は、これと似たようなものを見たことがある気がした。
布に手をかける。
そして、一気に引く。
かくして――
まず目についたのは、真っ赤な胴体。そしてそこから伸びる、すらっとした白い手足。
さらに背中からは、とても短い赤い翼が生えていた。
そう。積荷の正体は、ISだった。
「これ、は……?」
「宇宙で実験を行っていた、高機動型の試験機だ。
レッドフレームが壊れたって聞いてな。上にかけあって貰ってきた。……必要なんだろ」
「父さん……」
後ろを振り返ると、ドヤ顔をしてる父さんの姿が。
さらにその後ろでは、葵と母さんがやわらかい笑みを浮かべている。
ああ……ありがとう、父さん。
これで俺はまた、ちゃんと戦える。
再び前を見る。
赤と黄色のVアンテナを持つ、どこかレッドフレームに似た顔立ちの機体は、静かに俺を見つめていた。
(よろしくな……新しい相棒)
その瞳を見つめ返し、俺は心の内でつぶやいた。
というわけで、ロボットものの定番、主人公機の乗り換えイベント。
原作でも登場しているあの機体です。(というか、タイトルがネタバレかも)