IS~RED&BLUE~   作:虹甘楽

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入院編第7話 新たな扉

 ――治療も無理、再生も無理か……。参ったな。

 ――だが、代わりの方法はある。

 

 

 

 

 

 

 二時間ほどだらだら話した後、二人は帰っていった。

 明日からはブルーフレームセカンドKやラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのテストを行うから、忙しくなるそうだ。それでも、時間を見つけて見舞いに来てくれるそうだが。

 ……言いそびれたんだけどさ。そのテスト、俺も同伴するんだよね。

 だから、見舞いも何もないんだけど。

 ま、いっか。せいぜい、驚かせてやるとしようか。

 

 そんなことを考えながら、俺は腕を消し、8を操作していくつかのデータを呼び出す。

 

「そういや、8。篠ノ之博士にケーブル繋がれたとき、データの吸い出しとかできたか?」

《いや、不可能だった。プロテクトが堅固だな。まあ、それは向こうも同じだったようだ》

「篠ノ之博士のハッキングを退けた?すげぇな、お前」

《ふ、当然だ》

 

 文字が表示されたウィンドウが閉じ、データが表示される。

 そこに現れたのは、オレンジフレームのデータと、シャル子のラファールのデータだ。

 

「今後、ラファールのコアをオレンジフレームに移植するわけだが」

《コアを初期化するのはもったいないな》

「ああ。今までの戦闘経験をゼロに戻すってのは、あまりに惜しい。

 ……何か、利用できないか?」

《分からんな。ラファールとASTRAYでは、設計がまるで違う。そのまま継承するのは不可能だ》

「うーん、コアをオレンジフレームに移植するなら、初期化しないといけない。戦闘データを使うとなると、ラファールのままじゃないといけない。どうすれば……」

 

 いや。

 待て。

 

「――そうか。ラファールとオレンジフレーム、両方使えばいいんだ」

《は?何を言ってるんだ、お前は》

「いいか?こうするんだよ」

《! ……なるほど。ASTRAYの拡張領域があれば、あるいは……》

 

 ひらめきを、8と共に形にしていく。

 こうして俺は、久しぶりに、充実した夜を過ごした……。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今度はこっちの番だよ!」

「……甘い!」

「!? さらに早くなった!」

 

 マシンガンの弾丸と、ガトリングの弾丸が空中で交差する。

 模擬弾がIS稼働試験室の大地を抉り、何発かは互いの機体に命中する。

 

「……やる!」

「そっちこそ!」

 

 オレンジ色の機体が盾を構え、青い機体に突撃する。

 青い機体も手に持った大剣を変形させ、正眼の構えをとる。

 

「葵ちゃんが強いのは……身をもって知ってるけど」

「あっちのデュノア社の子もすごいわね~」

「なんていうか、迷える執事って感じ?」

 

 俺と共にモニタールームにいた、3人の女性がそんな話をしている。

 この人達は、俺達のASTRAYの量産機――MBF-01、M1アストレイの操縦者だ。

 ちなみに、あくまでテスト操縦者であり、国家代表などではない。

 相変わらずオーストラリアの国家代表は母さんだし、代表候補生は葵。まあ、専用機を持ってない代表候補生も数えるなら、実はあと3人いるんだよね。IS学園に。

 しかもそのうち1人は、葵と同じ射撃部だ。

 その3人にも帰国命令が出てるはずなんだけど……いつ戻ってくるんだろうね?

 

「あっ、盾がバラバラに!」

「あれは……パイルバンカー!?エグいもの持ってんじゃん、あの娘!」

「これじゃ、葵ちゃんも……。って、剣が飛んでる!?」

 

 ん?タクティカルアームズの分離飛行!?

 葵のやつ、もうそこまで使いこなしてたのか。

 やっぱりすげえな、葵は。ちょっと見ない間に、どんどん強くなってやがる。

 俺も、頑張らないとな……。

 

 ……頑張ろうにも、専用機が無いんだけど。

 

 画面の向こうでは、シャル子のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに、独立飛行したタクティカルアームズが突き刺さっていた。

 ――葵の勝ちだ。

 

 さて、じゃあ葵とシャル子をねぎらってやろうか……と、思ってたら。

 

「あー、緊急連絡だ。コウヤ、アオイ、すぐにミーティングルームに来てくれ。

 さっき、宇宙開発局から連絡があった。後1時間で、ユウヤが帰ってくるそうだ!」

 

 予想外の連絡が、スピーカーから飛んできた。

 

 

 

 

 

 

「遅かったわね、二人とも」

「……いや、母さん。何でいるのさ」

「……連絡はついさっき」

 

 『緊急』連絡ってことは、本当に急に連絡が入ったはずだ。

 少なくとも、母さんに知らせたのが俺達より早いって線は薄いはず。

 なのに、何でここ――モルゲンレーテのミーティングルームにいるんだ?

 

「そりゃ、何となくユウヤさんが帰ってくる気がしたのよ」

 

 そうですか。

 だから、そんなにオシャレしてる訳ですね。年甲斐もなk……

 

 突如、天地がひっくり返った。

 

 気が着いたら、ソファに座っていたはずの俺は、頭からカーペットにダイブしていた。

 

「私、まだ35歳よ?実の息子にババア呼ばわりされる年齢じゃないんだけど」

 

 いや、言ってない。言ってないっす。

 確かに似たようなことを考えたけど、そこまでひどくは無かったはずです、お母様。

 

「……でも、どうやって帰ってくるの?」

「そこまでは分からないわよ。ひょっとしたらもうギガフロートあたりに下りてて、飛行機でこっちに向かってるのかもしれないし。もしくは、直接この施設に着陸するのかもね」

「いや、直接降下、って……。有り得ないでしょ」

 

 シャトルの受け入れなら、ギガフロートの方がしっかりしてるだろうし。

 降下カプセルでも使うなら、話は別だけどね。

 まったく。軌道エレベーターさえ完成すれば、もっと宇宙が近くなるのに。

 

「みんな、そろってるわね。……って、何でヒメさんまでいるの?」

「ん、エリカちゃん。それは乙女の勘って奴よ。何か用?」

「……アメノミハシラから連絡があったわ。ユウヤさんは降下カプセルを使って、ここに直接下りてくるみたい。アオイ、念のため破片の処理、頼めるかしら?」

「……ん。いつ?」

「急がなくてもいいわ。ただ、声をかけたら5分以内に行ってね」

 

 こくり、と葵が頷く。

 ちなみに降下カプセルというのは、宇宙から地球に下りるときに使用する、耐熱処理を施された装甲のことだ。

 大気圏突入と同時に表面にジェルを展開し、摩擦熱を軽減。突破後はある程度スピードが出たところでパラシュートを展開し、着陸するような設計になっている。しかも再利用可能。エコだ。

 でも――当然デメリットはある。それが、故障だ。

 ジェルの展開が失敗した場合、カプセル自体は無事でもパラシュートが開かなくなることがあるのだ。

 これを解決するのが、ISだ。

 外部からパラシュートを取り付けたり、あるいはIS自体の出力で速度を抑えてもよし。

 そして最悪の場合は……撃墜する。

 それが、今回の葵に与えられた役割だ。

 

「あの、エリカさん。俺に出来ることは……」

「ないわ。悪いけど、今は機体を持ってないあなたに、頼むことは無いの。

 ヒメさんと一緒に待っててくれる?」

「……わかりました」

 

 わかってはいた。

 それでも、はっきりと言われるのはつらいものだ。

 特に、『今は』という言葉。

 レッドフレームがあったなら、葵と一緒に出撃できたってことだろ?

 そんなことを考えてたからだろうか。

 

「そう。今は……ね」

 

 エリカさんが笑みと共にそう呟いたのを、俺は聞き逃していた。

 

 

 

 

 

 

「《アメノミハシラ》、カプセルを射出しました」

「わかりましたぁ~。アオイさ~ん、出番ですよぉ~」

「……行ってくる」

「ああ、頼むな」

「アオイ。いい?無茶でも何でも、必ず着陸させなさい!いいわね?」

「……もちろん」

 

 管制塔でアメノミハシラと交信していたユンさんが、こちらに通信をまわす。

 それを聞いた葵は出撃態勢を整え、俺と母さんはそんな葵に声をかける。

 まあ、母さんのは若干脅しに近かったけど。

 

 葵が走り去る。

 それを黙って見送って数分。ミーティングルームのモニターには、青空を疾走する青い機体が映し出されていた。

 

「あら。アオイの機体、形が変わったわね」

第二形態移行(セカンドシフト)したんだよ。今の名前は、ブルーフレームセカンドK。ちなみにKってのは、紅也のKだからな」

「ふーん。まあ、どうでもいいけど」

「自分から振っといて……!」

 

 やばい。無性に殴りたい。

 まあ、殴った所で、こんな身体じゃ即座に反撃→投げ→空中殺法のコンボを決められてK.O.されるのは目に見えてるわけだけど。

 でも……

 それでも……

 だとしても……!

 男には、やらねばならんときがあるのだよ!

 

(……それは、今じゃない)

 

 専用回線越しに、葵の声が聞こえる。

 どうやら、心の声が伝わってしまったようだ。

 

(……で、葵。カプセルは見えたか?)

(……捕捉した。ジェル展開正常)

「今、カプセル見つけたって。今のところ問題ナシ」

「そりゃそうよ。だって、ユウヤさんが乗ってるんだもの」

「……………」

 

 ……はぁ。

 母さんって、父さんのことになると周りが見えなくなるからなぁ……。

 

 そうこうしてる間に、モニターにも降下カプセルが映し出される。

 パラシュートを展開して、既に一次制動に入ったようだ。

 そして――唐突にパラシュートが外れた。

 

「ちょっと!パラシュート外れちゃったわよ!大丈夫!?」

「アンタ、IS以外はホントに馬鹿だな!!」

 

 一応言っておくが、事故ではない。

 現に、新たに3つのパラシュートが展開され、カプセルの速度が落ちている。

 二次制動を行っているのだ。

 ここまでくれば、もう大丈夫。

 後は葵がフォローに入って、降下地点へ誘導するだけだ。

 

 そして葵は危なげなく作業を終え、カプセルは無事に地上に降り立った。

 

「さて、ユウヤさんを迎えに行かないと」

「待てや馬鹿!ここで待ってろって言われたじゃねぇか!」

「なによコウヤ!さっきから黙って聞いてれば、親に向かってバカバカ言って!」

「バカに馬鹿って言って何が悪い!」

 

 ぎゃーすぎゃーす。

 

 

 

 

 

 

「ヒメ!帰ったぞ~」

「お帰りなさい、ユウヤさん!」

 

 ひしっ。

 人目も気にせず抱き合う、母さん(35)と父さん(41)。

 父さんの後ろに立ってる葵も、どこか呆れ顔だ。

 

「久しぶりだね、父さん」

 

 とりあえず、いい加減現実を見やがれ、という意味を込め、声を上げる。

 すると父さんは、母さんと抱き合ったまま、顔だけをこちらに向けた。

 

「えーと……。ああ、コウヤ!久しぶりだな」

「オイコラ馬鹿親父。お前、息子の名前忘れてただろ」

「ハハ、悪い。ヒメとまた会えた喜びのあまり、つい……な」

「ユウヤさん……」

「ヒメ……」

 

 ああ、駄目だ。俺じゃ無理。

 とりあえず葵に目線を送ってみるも、それより前に「無理」という思念が飛んできた。

 

「ところでコウヤ……すごい怪我だな」

「……ああ、腕のこと?治す目処も立ってるし、そこまで大事(おおごと)でも……」

「いや、そっちじゃない。その、真新しい生傷のことだ」

「ああ、これ……」

 

 母さんを睨む。あっ、目を逸らした。

 その態度がムカついたので、俺は父さんに真実を告げることにした。

 

「母さんに、ついさっきやられた」

 

 具体的には、◆の直前くらい。

 

「そうか。駄目だぞ、ヒメ。お仕置きだ!」

 

 ピンッ!

 デコピン一発。

 ……それだけかよ。

 

「……父さん」

「分かった!分かったからそう睨むな、アオイ!」

 

 アオイに声をかけられた父さんは、突然咳払いをする。

 そして母さんを離し、真面目な顔になって俺を見る。

 

「コウヤ。お前に、少し早い誕生日プレゼントをやる。ついて来い」

 

 突如告げられた、意味不明な言葉。

 だが、そこに込められた有無を言わせぬ迫力が、俺の首を縦に動かした。

 

 

 

 

 

 

 ――モルゲンレーテ・搬入ドッグ

 

 父さんを先頭に、俺達が歩いていった先が、ここだった。

 そこには、降下カプセルに積まれていた荷物が、布をかけられた状態で置かれていた。

 

「これが、プレゼント……?」

「ああ。……布を外してみろ」

 

 そう言われ、その物体に近寄る。

 だが、何故だろうか?

 俺は、これと似たようなものを見たことがある気がした。

 

 布に手をかける。

 そして、一気に引く。

 

 かくして――それ(・・)は姿を現した。

 

 まず目についたのは、真っ赤な胴体。そしてそこから伸びる、すらっとした白い手足。

 さらに背中からは、とても短い赤い翼が生えていた。

 

 そう。積荷の正体は、ISだった。

 

「これ、は……?」

「宇宙で実験を行っていた、高機動型の試験機だ。

 レッドフレームが壊れたって聞いてな。上にかけあって貰ってきた。……必要なんだろ」

「父さん……」

 

 後ろを振り返ると、ドヤ顔をしてる父さんの姿が。

 さらにその後ろでは、葵と母さんがやわらかい笑みを浮かべている。

 

 ああ……ありがとう、父さん。

 これで俺はまた、ちゃんと戦える。

 

 再び前を見る。

 赤と黄色のVアンテナを持つ、どこかレッドフレームに似た顔立ちの機体は、静かに俺を見つめていた。

 

(よろしくな……新しい相棒)

 

 その瞳を見つめ返し、俺は心の内でつぶやいた。




というわけで、ロボットものの定番、主人公機の乗り換えイベント。
原作でも登場しているあの機体です。(というか、タイトルがネタバレかも)
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