――義手だ。君はモルゲンレーテの技術者たちと親しかったな?
感覚は残っているんだろう?ならば、たとえ神経が焼き切れていても、動かせるはずだ。
◆
「えー、ニュースです。先ほど入った情報によりますと、アメリカの軍事企業“スターク・インダストリーズ”が、最新型のパワードスーツを開発した模様です。社長のトニー・スターク氏によると、それはISを超える可能性をも秘めているらしく……」
プツン。
ニュースを切る。
残念だったな。
そんなもの、とっくの昔にモルゲンレーテで開発済みだ。
しかも、ただのパワードスーツじゃないぜ?
なんと!実際に宇宙空間での活動実績のある機体に、無人機のコアを載せているのだ!
どうだ、まいったか!
……なーんて言っても、現状は変わらない。
例えコアが起動しても、たとえ新しい専用機が与えられても、俺は相変わらず病院の中。
左腕が消滅した今の状態では、テストだってろくにできないんだから。
父さんが帰ってきてから、早いものでもう一週間。
よく見舞いに来てくれたシャル子は既に日本に帰り、葵も家族で過ごす時間が大事なのか、見舞いの頻度は減った。
そんな中でできることと言ったら、メールやISの設計だけ。
つまるところ、ヒマなのだ。
だけど、そんな日々も今日までだ。
終わるデイ・バイ・デイ。
今日は、俺にとって待ちに待っていた知らせが届いた。
すなわち――義手が完成したのだ。
入院初日。あの嫌味なドクターからアドバイスを受け、俺はモルゲンレーテに義手を発注していた。
もちろん、ただの義手じゃない。有料だった。
……じゃ、なくて。
せっかくなので、普通の義手には無いような様々なギミックを搭載してもらったのだ。
これなら、もう俺が足を引っ張ることはない。
もう、みんなに心配をかけることもない……はずだ。
そして、何より――
これで葵に勝てる!
だって、「守る」とか言っておいて、守られる本人より弱いとか、ありえねぇだろ!
ついでに、誰かが言ってた。
自分だって守れない人間に、人は守れない……と。
今までの俺は、間違いなく弱者だった。
いや、戦い方とかそういうことだったら負けてないんだけど、『自衛』という観点ではダントツ最下位。一夏以下だった。
だって、絶対防御すら無いんだもん。
もし、あのとき俺が使ってたのがISだったら、ひどくても大火傷くらいで済んだだろうに。
おっと、話が逸れた。
とにかく、これで俺はまた、ちゃんと戦える。
俺の戦いを……。
◆
「……終わりましたか」
「ああ、もう終わった。動かしてみろ」
医師にそう言われ、俺は自分の左腕を見る。
肌の色も同じで、形も同じ。
これは、レッドフレームに登録してあった俺の生体データを元に作ってあるため、間違いない。
ただし、中身はまったく別物だ。筋肉や神経は当然通っておらず、どっちかというとゴールドフレームに近い造りになっている。
まあ、前にゴールドフレームを動かしたときのデータを流用したわけだから、当然なんだけどな。
――意識を集中する。
疑うな。俺の左腕は、確かにここにある。
神経は通っていない。血も通っていない。筋肉も、骨だってない。
でも、ここにある。
だから、動かせる。
故に、俺は何の気負いも無しに、左腕を曲げる。
次いで、指を動かす。
それらは、俺がイメージした通りに動いてくれた。
――成功だ。
「動きました!」
「見りゃわかる。……良かったな、これで退院だ」
「ドクター……。男のツンデレは、あんまし嬉しくないです」
「誰がツンデレじゃゴラァ!」
「わぁっ!モンスター!モンスタードクターがここにいる!!」
すぐさまベッドから起き上がり、窓枠から外へと飛び出す。
そして、そのまま2メートルほど先にある木に左腕を向け、思いっきり伸ばす。左手が枝を掴んだ感覚が間違いなく伝わってきたことを確認すると、振り子の要領で身体を動かし、そのまま林の中へと飛び込んだ。
「……まったく、いきなり無茶をするぜ」
「入院費用は後で振り込みまーす!」
駆け足のまま、俺はモルゲンレーテの施設を目指す。
が……すぐにバテた。
「う……腕が……重い」
そういえばここのところ、体重が左腕の分だけ軽くなってたからな。急に身体が重くなったみたいで、まだ慣れるのには時間がかかりそうだ。
しかも……寝てる時間が長かったせいで、筋力がだいぶ落ちた。
はぁ。父さんと一緒に訓練施設へ行こうかな。多分父さんも、宇宙が長かったせいで筋力が落ちてる筈だし。
……一ヶ月で復帰できるといいなあ。
◆
そして、どうにかこうにかIS研究施設に到着。
そこで俺が見たのは、背中から光の翼を発生させた、新たな愛機の姿だった。
「これは……?」
「ヴォワチュール・リュミエール。コイツに搭載された、新世代の推進システムだ」
どこから現れたのか、ひょっこりと顔を出した師匠が、そう答えた。
「新世代……?どのへんが新世代なんすか?」
「ああ。レッドフレームの応用でな。推進力はバッテリーから供給してるんだ。
さらに、シールドエネルギーに回す分のエネルギーまで注ぎ込めば、銀の福音以上のスピードが出るはずだぜ」
「なるほど。レッドフレームのフライトユニットの上位互換、って感じですね」
「まあ、持続時間は短くなってるから、注意が必要だけどな」
とはいえ、助かる。
ISコアを使って組み直されたこの機体には、PICや絶対防御といった機能も付加されてる。
だから、バッテリーが尽きたとたんに墜落なんてことにはならないし、当然今回みたいに五体不満足な身体になることも無い。
「欠点は、こいつがワンオフ機ってことだ。……意味は分かるな?」
「はい。パーツの替えがきかないってことっすよね?」
「そういうことだ!レッドフレームみたいに、光雷球なんて使うなよ」
「わかってますって」
そう言ってから、俺は再び機体を見る。
背中から発せられていた光は既に収まり、実験施設の中は少しずつ暗くなっていた。
「ところで師匠。こいつの名前は決まってるんすか?」
「もちろんだ。モルゲンレーテが稼働させた、4番目のアストレイ……。
まあ、P-04はグリーンフレームだからな。さしずめ、デルタアストレイってところか」
「
「そうだろ!で、だ。コウヤ、お前、まだその身体に慣れてないよな?」
「……?ええ、まあ」
「そこで、だ。夏休みを利用して、ちょっと修行してこい」
はい?
なんだ?また無理難題を押し付けられるのか?
勘弁してくださいよ!蘊老師とかアフリカとか、死ぬかと思ったんですよ!?
そんな俺の考えを読んだのか、師匠はニヤリと笑って言った。
「安心しろ。今回の修業先はアメリカだ。
……リバティーシティって街がある。そこで、ちょっと鍛え直して来い」
「え?ただの旅行じゃないですか、そんなの」
「甘いぜ。食料、住居、金銭は全て自分で調達して、無事に帰ってくるんだ。
……どうだ、大変だろ?」
まるで、こちらを試すかのような物言いの師匠。
それに対し、俺もまた不敵に笑って答えた。
「その程度、何の問題もないっすよ!一ヶ月くらい、余裕で過ごしてやります!」
「そうか、じゃあ、死ぬなよ」
物騒な言葉と共に渡されたのは、一枚の航空券。
そこには「モルゲンレーテ空港発フランシス国際空港行き」と書かれていた。
出発日時は……明日!?ずいぶん急だな。
おそらく、だいぶ前から用意してあったんだろう。
俺が、この話を受けると信じて……。
「師匠。俺……必ず強くなって、戻ってきます」
「おう!もうアオイを泣かせんじゃねぇぞ!」
そうと分かれば、ここに用は無い。
家に戻って、家族と話して、出発準備を整えないとな。
さて……待ってろよ、新天地!
※この作品にアイアンマンは登場しませんし、もちろんアイアンアッガイも出ません。
これで「紅也の夏休み」は終了です。次話は8月25日12:00に投稿します。