また来ましたYT-3です。
今回はほとんど説明回となっています。
それでもよろしいという方はどうぞ。
帰り道の途中、みんなにとっては一高から駅へ向かう道から横に一本入ったところにある、ケーキが美味しいと噂の『アイネブリーゼ』という喫茶店に来たんだけれど、なんか空気が微妙になっている。
原因はわかっているんだけど……。
「………」
「……光井さん。俺に何か用かな?」
「あ!いえっ、べつに、そういうわけでは……」
「光井さん、べつに遠慮はしなくていいのですよ。
私たちは自分から反省して謝った光井さんたちに不満があるなどと言うほど心は狭くありませんから」
「いえっ。本当に何もないんです!」
さっきから光井さんが達也くんをチラチラと見てて、それに対して深雪さんが冷たい空気を身に纏っている。そのせいで雰囲気が微妙になっているんだ。
まあ、光井さんのあの目は恋する女の子の目だからね。ブラコンの深雪さんからすれば仕方がないのかもしれないけど。
なかなか達也くんも隅に置けないね。
「そうか、それならいいんだが。
ところでナギ。さっき使った魔法が噂に聞く【
達也くんもこの空気のままだと居心地が悪いのか、話題を変えるようにボクに話を振ってきた。
「正解。アレがそうだよ」
「【
そんな魔法聞いたことない。どんな魔法なの?」
北山さんが興味を持ったのか聞いてくる。周りを見れば達也くん、エリカさん、幹比古くん以外のみんなも知らないみたいだ。
でも、ボクはそれには答えられない。
「すみません。ボクも一応、春原家の方針だった『魔法を他人に教えない』というのを最低限守っているので。
見せたり名前を答えるぐらいなら大丈夫ということにしていますけど、詳しい理屈は教えられないんです」
「……ごめん。マナー違反だった」
「でも、他人が説明するのを止めることはしませんから、達也くんとかに聞けばある程度はわかるかもしれませんよ」
ボクの答えに落ち込んでいたみんなだったけど、その言葉を聞いて一斉に達也くんの方を見た。
「……俺も概要ぐらいしか知らないからな?
それでもいいなら答えるが」
「おう、頼むわ」
レオくんが食い気味に即答したのを見て、苦笑しながら少し前のめりになって、達也くんが説明し始めた。
「まず、【
魔法の内容としては、圧縮空気を帯状に展開し、それを使って相手を縛り上げるという捕縛専用魔法、と推測されている。代々春原家が伝えてきて、ナギが三年ほど前に公開した魔法の一つだ。
区分としては系統外のSB魔法、殺傷性ランクは対人使用が前提の魔法としては珍しくランク外となっている。
さらに、展開している圧縮空気の帯からサイオン波が流れ込むために、魔法の構築を阻害する対抗魔法の性質も
「あっ!確かにそうでした。
あれに縛られた直後にサイオンが乱れたので魔法が発動できなかったんです」
直接受けた光井さんには思い当たる節があったらしく、達也くんの説明の裏付けをした。
「やっぱりそうだったか。
そして話の続きだが、実はこの魔法、単体では使われない。
コンビネーション使用が前提の魔法、いや、一つの魔法だったものを無理やり体系化させようとした結果、二つの魔法になった、の方が正しいか」
「それってどういうことですか?」
美月さんが当然の疑問を挙げる。
現代魔法でそんな魔法はないから、いまいち分かりにくいんだろう。
「光井さんと北山さんは気が付かなかったかもしれないけど、この魔法が発動する直前に、ナギが放った圧縮空気弾が当たっていた。
その圧縮空気弾を生み出した魔法の使用が前提条件となっているんだ。
魔法の名称は【
【
だが、この魔法は別に圧縮空気弾を作る魔法じゃない」
「いや、その魔法で圧縮空気弾を作ったって言ったじゃない。
それなのに圧縮空気弾をつくる魔法じゃないってどういうことよ」
「?エリカは知っていたんじゃないのか?」
うん、ボクも同じことが気になった。さっきの様子を見る限りエリカさんは知っていたと思うんだけど。
「ううん。詳しいところは全く。
ただ、春原家には【
「そうか。だが、【
エリカさんに問いただされた達也くんは、そう言うと幹比古くんを見た。
その視線を追ってみんなの視線も幹比古くんに集まる。
「……そうだね。確かにその魔法を説明するんだったら、古式魔法師の僕の方が適任だろう」
達也くんに少し恨みがましい目線を向けたけど、幹比古くんもその理由は察しているのかすぐに取り直して説明を変わる。
「【
「なんだそりゃ……。それほんとに魔法なのかよ」
おそらくレオくんのつぶやきが現代魔法師の代弁だろう。
結果によって分類された四系統八種の魔法に慣れ親しんだ人からすると、そんなあやふやな魔法が存在するとは思えないんだろうね。
「そうだねレオ。でも、一応
【
つまり、精霊を活性化して射出するという結果は決まっているけど、活性化する精霊の種類によって性質が変わってくるから影響は変わってくるんだ。
火の精霊を使えば炎が、風の精霊を使えば圧縮空気が弾を作っているように見えるからね。
これが理由で殺傷性ランクも事後的に定義されることになっている。まあ、本来ならナギが使えばこの魔法には殺傷性ランクは存在しないんだけど」
「そんな魔法があるんですか……。
それで、吉田くん。ナギくんが使った時には殺傷性ランクがないというのはどういうことでしょう?」
殺傷性ランクが事後的に定義される魔法はいろいろあるけれど、全くなくなるというのは聞いたことがないんだろう。達也くん以外全員が理解できなさそうにしている。
「司波さん、それが【
実は【
そこでナギは、精霊に接触することを発動条件にした魔法式を投写して射出していると考えられています。その一種が【
それによって、接触した瞬間に次の魔法が発動するため、【
「なるほど。そういうことだったんですか」
「でも、複数の精霊をそこまで活性化させて、その上そんな複雑な魔法式まで用意しておくってかなり大変じゃないですか?」
そう。ボクの目的のためにはそこの部分が気になってもらわなくちゃならないんだ。
「そうですね。光井さんの言う通り、この理屈だとかなり術者の負担があります。
実際にその方法でウチの術者もやってみたんですが、限界まで消耗して二つ三つが限界でしたし、かなり時間もかかりました。他の古式魔法師のところでも似たようなものだったそうです」
「その情報は知らなかったな。
ナギは息をするように五つも使っていたぐらいだし、理論が間違っていたということか?」
「いや。理屈では間違っていないと思うよ。
観測結果から論理的に説明しようとしたらそれぐらいしかないからね。
おそらくその負担を軽減するような手法、もしくは術式が春原家には伝わってきたんだろう。
発動スピードでも現代魔法に僅かとはいえ勝っているし、ほんと今まで完全非公開だったのも納得できるよ。発展期に公開していたら、実力行使での取り合いになって大混乱しただろうから」
ご先祖様たちも、その問題もあったから隠したんだろうしね。
まあ、一番の問題だったのは一般人でもある程度なら扱えるということだろうけど。
「それで、春原家としては今の説明で何点ぐらいなんだい?」
「うーん。百点満点で五十点ぐらいかな?
特定の魔法に対する考察はできているけど、基礎的なところがまだまだだからね」
「五十点……。正解は遠そうだね」
まあ、こんなに早く詳しい理屈まで知られたら困るから、あと十年はいろんな人に研究してもらわないと。
「へぇ〜。いろいろ常識はずれなんだね。
ところで、なんでナギくんは理論を隠してとはいえ公開する気になったの?
そんな魔法があるんだったら隠しておいたほうがいい気もするけど」
「うーん。ちょっと理由が湿っぽいものになるんだけど、理由としては春原家がボク一人になったからかな。
ボクがなんらかの事故で死んでしまったらご先祖様たちが遺してきた春原家の魔法も
その手段の一つが、魔法大全に載せるっていうこと」
これが魔法を公開するようになった対外的な理由。
これならば新しい技術が欲しい現代魔法師は喜んで歓迎するし、伝統を重視する古式魔法師も後世に伝えるためという理由なら批判できない。
もちろん、一番はさっきのようにボクの魔法に違和感を持ってもらうことが目的だけど、この考えもあるにはあったから嘘ではないんだ。
「ごめん。こんなノリで聞いちゃいけなかったわよね」
とはいえ、そんな計算をみんなは知るはずもなくて、普通に暗い空気になってしまったけど。
「エリカさんたちには言ったけど、本当に気にしないでいいよ。
もう何年も前のことだし、それにある意味そのおかげで真由美お姉ちゃんたちとも知り合えたり、こうして魔法科高校に入学してみんなとも知り合うことができたしね」
「魔法師には家庭環境が良くないことも多いが、流石にナギほどのは少なくてな。できるだけ努力はするよ」
確かに親子とか兄弟で仲が悪いって話とかはよく聞くけれど、未成年で天涯孤独っていうのは少ないからね。しばらくは仕方がないか。
「わかった。ボクもできるだけそっちに話がいかないようにするね。
ところで、幹比古くんは吉田家から何度か術式提供し合わないかって持ちかけられてたからともかく、よく達也くんはボクの魔法のことを知ってたね。
自分で言うのもなんだけど、結構マイナーな話だと思うんだけど」
「当時は関係者の間で話題だったそうだからな。CADに入れる魔法を探していたら知っただけだよ」
「えっ!達也さんってCADの調整ができるんですか!?」
へぇ〜!それはすごい!
CADの調整とかって専門的な知識が必要だから難しいって聞いたことがあったんだけど。
「ええ。その通りですよ光井さん。
お兄様はCADの調整を得意としていらっしゃるの。
私のCADをお兄様に調整していただいているのも、それが一番安心できるからですし」
「俺は少し手を加えているだけなんだけどね。
それに深雪の処理能力が高いから、あまりCADのメンテナンスには手間がかからないし」
まるで自分のことのように誇らしそうな深雪さんと、そこまで特別ではないように振る舞う達也くんは対象的で、なんか少し可笑しいな。
「それでも、デバイスのOSを理解できなくちゃできませんよね」
「それにデバイスの基礎システムにもアクセスできないと」
どうやら、みんなはどこが凄いかまでわかっているみたいで、CADを持っていないボクからすると何が何だかわからない話をしている。
やっぱりCADって持っといたほうがいいのかなぁ。
正直アレを使うよりかは無詠唱魔法を使ったほうが楽なんだけど。
「じゃあ私のCADも調整してもらおっかな」
「さすがにそれは無理だ。あんな特殊なものを調整できる技術はないよ」
?どういうことだろう。エリカさんのCADって見たことはないと思うんだけど。
「へぇ。これがCADだと分かったなんて、達也くんってホントに凄いんだね」
そう言ってエリカさんは、さっき森崎くんのCADをはたき落してた伸縮式の警棒を取り出した。
「えっ!?それがCADなんですか!?」
「うんうん。ザ・普通の反応をありがとう、ナギくん。
全員が気付いてたら赤っ恥をかくところだったからね」
いやいや、気づけた達也くんが凄いだけで、流石にそれを一目でCADだと気づける人はそうそういないよ。
「……伸縮式なんだから中身はほとんど空洞だろ?それでさっきみたいなことができんだったら硬化魔法を使ってんのは理解できんだけどよ、どこにシステムを組み込んでんだ?」
「おっ、正解!さすがは得意分野。
システムの部分は簡単よ、単に刻印型の術式を使っているだけ」
刻印型?でも確かあれって……。
「感応性の合金板に、幾何学文様化した術式を刻んで、サイオンを注入して発動するっていうアレか?
だけどよ、アレってサイオン消費が激しいっていうんで今じゃあまり使われていない技術だろ?よくガス欠にならねぇな」
「惜しい、あと一歩ね。
魔法が必要なのは振り出しから打ち込みの間だけだから、その瞬間を捉えてサイオンを流し込めば消耗は少なくて済むのよ」
「なるほど、兜割りと一緒だね」
「そゆこと。……ってみんなどうしたの?」
うんボクとエリカさんのことを、まるでチュパカブラでも見つけたかのような目で見てるけど。
「エリカ、ナギ。兜割りは奥義の類に分類される技術だと思うんだが……」
「単純にサイオン量が多いなんてことよりもよっぽど凄いことですよね」
達也くんと光井さんの呆れ声が、みんなの気持ちを代弁しているみたい。
確かに一般の剣術だったら奥義に分類されることだけど、『切るものを選べる斬撃』とかを知っている身からすると、そこまで凄いことだとは思えなくなっちゃっているんだよね。
「もしかして、第一高校って一般人のほうが少ないのかな?」
「というより、魔法科高校に入学している時点で一般人はいないと思う」
ああ、それは確かに。北山さんの言う通りだ。
みんなもそれが分かっているのか、なんとも言えない空気に逆戻りした。
◇ ◇ ◇
「ただいま戻りました」
と言っても、時間的に
「ああおかえり。随分と遅かったな?」
「って、あれっ!?
「そうだが、それがどうかしたか?」
いや。返事を期待していなかった、ただの習慣に対して返答があったので驚いただけなんですけど……。
「いえ、なんでもありません」
「そうか、ならいいんだが。
それで?なんでこんなに遅かったんだ?」
「ああ、新しく出来た友達と寄り道をしていて遅くなりました。これがお土産です」
「ほう。アイネブリーゼのケーキか。ここのは上手くて好きなんだ、夕食後にでも食べるとしよう」
ケーキ一つでご機嫌になるなんて……。
「それで、
出てきたっていうことは終わったんですよね?」
「ああ、いろんな意味で終わったよ。
まず別荘だが、さすがに内部時間で4800年も放置されていたせいで保護の魔法は切れていて、森に呑まれてボロボロの荒れ放題。使えるようになる
食料の確保もまともにできなくて早めに切り上げて帰って来ざるをえなかったから細部までは見れていないが、そのうち人形を使って建て直しだろうな。
まったく、封印が時間経過をしない類のものだったら、こんな問題も起きなかっただろうに」
「ある意味予想通り、といったところですね。
それで、人形のほうはどうだったんですか?」
「別荘の中にしまっておいた奴らは全滅だ。かろうじて核が無事だったのが救いといえば救いか。
だが、保管室にあった体の材料からダメになっていたから、しばらくは使い物にならん」
となると立て直しは数ヶ月は先になるかな。
「わかりました。あとで何が必要か教えてください。集められるものだったら集めておきますから」
「ああ、ちょうどいい機会だから3Hとかいうのも一体用意してくれ。
あれと
「そう言うと思ってもう注文してありますよ。
ただ、それのために
「分かっているさ。
それで人形だが、一体だけ無事なのがあった。まあ、細かいとこにガタがきてたからそれの修繕に時間を食ってしまったがな」
「へぇ!よかったじゃないで——ッ!!」
後ろから殺気!!
狙いはおそらく首!避けられない!だったら!
「オォ、スゲェナ。ホントニ電気ニナッテスリ抜ケヤガッタ」
「……チャチャゼロさん?」
とっさに雷化回避をして後ろを振り向くと、70センチくらいの、見覚えのある人形が浮かんでいた。
「オウ、知ラナイノニ知ラレテイルッテノモ妙ナ感ジダナ。
アア、話ハ御主人カラ聞イテルゼ。コレカラヨロシクナ」
「はい。よろしくお願いします。
無事だった人形って、チャチャゼロさんだったんですね」
「殺されかけたことには突っ込まないのか……。
まあいい。こいつは常に外に出しておいていたからな。私が封印されて魔力供給が切れた時点でただの人形になって、そのまま他の荷物と一緒に封印されたんだろう。あの山の中に埋まっていたよ」
ああ、整理が途中でめんどくさくなって、まとめて別荘に放り込んじゃったからなぁ。あの中にあったのか。
「とはいえこいつはこんななりだからな。別荘の修復には役に立たないし、情報収集にでも動いてもらうとするよ」
「例の、『フリズスキャルヴ』関係ですか」
あの、
「それもあるし、『
物理的に情報を得られるようになっておいて損はないだろう?」
「なるほど。チャチャゼロさんはそれでいいんですか?」
「殺シサエシナケリャ、犯罪者ヲ切ッテイイラシイシナ。
人ヲ切レルナラ文句ハネェゼ」
「というわけだ。他に何かあるか?」
「いえ、特には」
ボクの方ではとくに何かがあったわけではないからね。
「そうか。では夕食にするとしようか」
「そうですね。では作ってきます。三人分でいいですよね」
「オウ、ワインモ持ッテコイヨ」
「わかりました」
それにしても、家族が増えたのは嬉しいけれど、また食費を誤魔化すのが大変になったなぁ。どうしようかな。
やったねナギくん、家族が増え(オイ
というわけで殺戮人形ことチャチャゼロが合流しました!
入学式編入ってからエヴァの出番がなかった理由もわかっていただけたと思います。
これからまたしばらく出てこないんですけどね。
さて、補足もないので今回はここまでです。
次回は魔法科主人公の巻き込まれ体質がついに発揮されます!
それではでは次回「勧誘」もみてください。
・・・魔法の分だけでも設定集あった方がわかりやすいですか?