魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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間章1 インターマジック編
第二十四話 戻ってきた平穏


 

「……なんだ、これは……」

 

 達也は呆然と言葉を零す。

 

 ついさっきまでは、それこそ30秒前までは何事もなかったのだ。

 よく晴れた休日。豊かとまではいかないが都会よりかは自然に囲まれた会場で、熱狂する人々とともに友人を応援していた。そのはずだ。

 

 視線を左右に巡らせる。

 隣には呆然と、しかし目の前の光景が幻覚ではなく現実だと理解して体を固まらせている深雪や友人たち。

 あれほど溢れかえっていた人々はぐんと減り、十分の一以下になっている。

 

 驚愕に錯乱するか、または微動だにしていない人々を確認すると、再び視線を前方に戻す。

 いや、別に前だけではなく360度その光景に囲まれているのだが、やはり前方が分かりやすいのだろう。

 

 

 

 ——そこには、『火』があった。

 

 緑を湛えていた森や山には、生命の欠片も感じられない枯れ木が煌々と燃え盛り空気を焼いている。

 

 ——そこには、『水』があった。

 

 天を黒く覆う雲から、ざあざあと雨が降り、しかし炎を消すことはできずにただただ白煙を上げるのみ。

 

 

 ———炎と雨に彩られた世界がそこにはあった。

 

 

 

「……一体、何が起きたんだ!」

 

 達也は、自身に許された感情の上限を超える驚愕に、許された範囲で混乱し声を荒げた。

 

 —◇■◇■◇—

 

 ブランシュが起こした襲撃から五日が経ち、ピリピリしていた校内にも元の空気が戻ってきた28日のお昼休み。

 寧ろ、この時代にもまだ残っていたゴールデンウィークが明日から始まるってことで食堂の空気も浮き足立ってる。

 

「えっ?ナギくん、バイアスロン部の代表に選ばれたんですか?」

 

 そんな中、いつものメンバー(達也くんと深雪さん抜き)で昼食を食べている時、ほのかさんが発した話題にE組のみんなが驚いて箸を止めた。

 

「うん。全日本(イン)魔法技(ター)能者競(マジ)技大会(ック)のSSボード・バイアスロン個人戦に一高代表で。

 あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよそんなこと!」

 

 そうだっけ?真由美お姉ちゃんに言ったことは覚えてるんだけど……みんなに言い忘れてたのかなぁ?

 

「でもよ、インターマジックって正式にライセンス取ってる大人とも戦うやつだろ?

 毎年枠はあるけどほとんど三年の記念参加のためみたいなもんって聞いてたぜ。よく一年で選ばれたな」

 

 そう。全日本(イン)魔法技(ター)能者競(マジ)技大会(ック)って言うのは、あくまで高校だけで行われる九校戦とは違って、魔法競技の日本代表を決める大会だ。だから、全日本選手権とか代表選考会とも言われてる。

 ただ、ライセンスを持ってる大人だけだと出場する人数が少なくて会場代が勿体無いという理由から、将来の人材育成の一環という名目で毎年魔法科高校の各部活に個人・団体一組ずつ枠が与えられている。ボクはそれに選ばれたってことだ。

 

 まあ、といっても全ての魔法競技が一斉にできるわけもなくて、今回の日程で行われるのは約半分ぐらいの競技だけ、残りは秋に行われるんだけど。

 

「えーと、それは、なんというか……」

「普通に言えばいい。この前の試合形式の練習で、非公式だけど世界新記録出したって」

「「「「世界新っ!?」」」」

 

 まあ、その通りです。

 

「毎年みたいに負けるのが前提ならともかく、勝てる可能性があるなら来年以降の部費のために出たほうがいいって話でしたよね?

 それに、今年は三年生が3人だけで全員が団体戦に出れるから、枠の余ってる個人戦で出る分には問題ないってことらしいです」

「まあ、ほのかさんの言う通りです。大体そんな感じで」

「「「「へぇ〜」」」」

 

 後輩のためになる、って言われたら断れなかったんだよなぁ。

 

「それにしても、いくら非公式とは言っても世界新記録だなんてすごいね」

「飛行魔法が反則なだけ。路面の状態を気にせずスピード出せるんだから」

「あ、あははは……」

 

 はい、全くもってその通りです。と言うか、飛行魔法を禁止されたら多分素人相手にも負けると思う。

 

「飛行魔法?でもあれって精神干渉系魔法が含まれてるって言ってなかった?

 校内での使用許可は研究目的って名目でなんとか降りたって言ってたけど、試合で使えるものなの?」

「そこのまずい部分を抜ける目処がついたからこんな急に代表になったんだ。つかなかったら部長が出ることになってたよ」

「目処がついたって……。インターマジックって明日からのゴールデンウィークにやるんだよね?時間は大丈夫なのかい?」

 

 幹比古くんのその心配はご尤も。だけど……。

 

「そこは大丈夫だよ。ボクの出番は3日の午後だから。

 明日に最後のバグ取りとチューンナップ、明後日に使用感が変わってないか試験飛行して日曜日に最終調整。月曜日に実際のコースで練習して翌日の試合に望む、って予定だよ」

「へぇ〜。ちゃんと考えてるんだ」

「まあ、そこは問題じゃないんだけどね……」

「何か他にあるんかよ?」

 

 うん、まあ、色々問題なんだよなぁ。

 

「実はテレビマギクスでやるインターマジックの特集番組にコメンテーターとして呼ばれてて……」

「「「「「「……えっ?」」」」」」

「一応出場を決める前にプロデューサーに確認したら、そっちのほうが話題になるから寧ろウェルカムだって言ってたんだけど……。どう考えても他の選手に悪いよね……」

「そ、それはまた……」

 

 どう考えても大変だし……。いくらスポンサーとしてついてるから会場で収録できるって言っても、ねぇ?

 

「と、ところで!インターマジックって九校戦と同じ会場でやるんですよね!」

 

 美月さん、いつもフォローありがとうございます。

 

「そう。どっちも富士演習場」

「バトルボードみたいな大規模な設備が必要な競技場はあまりないから、どうしてもこういう大きな大会では競技会場が同じになりやすいみたいですよ。

 たしか、泊まるホテルも同じ軍用ホテルって言ってました」

「ボクは局の方で用意してくれた近くの別のホテル泊まりだけどね」

 

 さすがに軍用ホテルじゃ部屋が足りないみたいで、普通の魔法科高校生は競技が終わるたびに入れ替わり立ち替わりで泊まるらしいけど、ボクは前日通して会場に居なくちゃいけないから別になったんだ。

 

「それじゃあ、九校戦に出るつもりの人は下見も兼ねているってわけ」

「そうみたい。会長さんとか十文字会頭とかも表向きは応援ってことで来るみたいだし」

「ってことは、ナギは格好悪いとこ見せられないわね」

「もちろん、自分にできる範囲で頑張るよ」

 

 折角出るんだもん、優勝を狙いたいしね。

 

「たしか3日は火曜日で学校もお休みでしたよね?私たちも応援に行きませんか?」

「おっ!いいなそれ!」

「そうだね。予定がないようだったら達也たちも誘ってさ」

「賛成〜!みんなでナギが日本代表に決まるところを見に行こう!」

「エリカさん、気が早いって」

 

 まあ、負けるつもりもないけどね。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「1-Eの春原凪です」

「あっ!来た来た!遠慮せずに入って〜」

「失礼します。……えっと、どうしたんですか?」

 

 放課後。真由美お姉ちゃんに呼び出されて生徒会室に入ると、視線の十字砲火を浴びた。

 

「いやなに。春原は当校初の日本代表、引いては世界一を取れるかもしれない期待の星だからな。いろんな意味で注目しているんだよ」

「そうですか……。七草さんの意向で参加しませんでしたけど、真由美お姉ちゃんが出ても代表にはなったと思いますけど」

「なに、もしも、じゃなくて現実に起きる可能性があるというだけでも違うものだ」

「そういうものですか……」

 

 ところで渡辺委員長は今日非番ですよね?休みの日はいつもここに居るんですか?

 

「まあ、それはそれとして。

 はい、ナギくん。いいえ()()()()。これを」

「これは……一高の制服?しかもこれって……一科生のですよね?」

「はい。会長が今春原君に渡したものは、一科の予備の制服になります。

 春原君が競技会に当校の代表として出る以上、例え二科生であるとはいえ、当校のエンブレムを持っていないというのは対外的にも問題があります。

 そのため、今回のような競技会に二科生が出る場合には、一科の制服を渡すことになっています。これは、例は少ないですが今までもあったことです。もし九校戦の代表に二科の生徒が選ばれても同じことになるでしょう」

「というよりも、まぁあくまで今回の春原の記録にもよるが、現時点での選考でも君が選ばれる可能性は高いな。喜べ、史上初だぞ」

 

 と、言われてもなぁ……。

 

「どうした?あまり乗り気ではないようだが、何か理由でもあるのか?」

「服部先輩、分かりましたか?

 そうですね、乗り気じゃない理由ですが……。真由美お姉ちゃんは知ってるんですけど、そもそも春原家の魔法は九校戦向きじゃないんですよ」

「なに?それはどういうことだ?」

 

 渡辺委員長だけじゃなくて、深雪さんを含め真由美お姉ちゃん以外の全員が分かっていないようなので、続きを説明する。ちなみに真由美お姉ちゃんは苦笑いしてる。

 

「春原の魔法は、公開してる戦術級魔法からもわかると思いますが、中遠距離から雷だとか風だとかの物理攻撃を介しての広範囲殲滅がその真価です。対象の直接情報改変なんてものは殆どありませんし、魔法自体の精密性にも欠けています」

「だが、あの捕縛魔法はかなりの精度だっただろう?」

「あれは比較的慣れている魔法で、なおかつかなり誘導制御に集中してなんです。特に、それに加えて特殊な集中が必要なスピード・シューティングに出たとしても、予選、一回戦、二回戦まではなんとかなると思いますが、おそらくそれ以降は集中力が切れて精度が落ちますよ」

「ナギくんの言っていることは本当よ。スピード・シューティングをフルでやると、ナギくんもかなり精神的に疲弊するのよ。いくら休憩を挟むって言っても、1日に何度も戦う必要のある九校戦向きじゃないわ」

「それは……また、独特ですね」

 

 対象の情報改変を介して間接的に物的ダメージを作り出すしかない現代魔法師からしたら、イメージから魔法を作り出す『精霊魔法』の特徴は分かりづらいのだろう。

 

「だが、お前の出場競技はおそらくバトル・ボードだぞ。それなら問題はないんじゃないか?」

「バイアスロンでボクが使っているのは飛行魔法ですよ?」

「む?それがどうし……あ。確かルールには……」

「そうです。バトル・ボードではバイアスロンと違って、規定のコースを短縮する目的だとか相手の妨害を回避するなどの目的で水路を外れる人が出ないように、ルール上水面から一定時間離れることは禁止されています。結局水面に板をつけて走ることになるので、路面だとか水面の影響を受けないという飛行魔法の利点が全く無くなるんです。

 それでも速度ではそうそう負けるつもりはありませんが、春原の魔法では『水面に干渉して妨害をする』という唯一認められてる戦術が使えませんし、それに対する対策を取れないんですよ」

 

 例えば、『風(エウォ)精召(カーテ)還』(ィオー)で道を塞いで足止めする、は水面に干渉しているわけじゃないからダメ。水路を凍らせるとか……も多分進行妨害でダメ。残りの使える魔法で妨害が出来るとなると『流水(ウィンクト)の縛(ゥス・アク)り手(アーリウス)』ぐらいだけど……あれも干渉してるのは『水面』じゃなくて『水』だからなぁ、グレーゾーンなんだよなぁ。

 

「つまり、あたしたちが思っているほど一方的に勝てるわけではない、ということか」

「というよりも、相手の対策次第では普通に負けるかもしれません。

 正直、九校戦で一番向いているのはアイス・ピラーズ・ブレイクだと思ってます。加減をあまり気にしなくていいので、一本だけ情報強化してなんとか時間を稼いでいるうちに、大威力の魔法で一気に壊しちゃえばいいですから。一本でも残っていたら勝ちなんですよね?」

「……どこかの二年生と同じ様なことを言いますね」

 

 そんなにおかしい戦術かなぁ?守るのより攻めるほうが簡単なのは基本的なことだと思うんだけど。

 

「ああ、くそ!真由美があまり浮かれないほうがいいと言っていたのはこのことか!これは選考に大きく関わるぞ」

「とは言っても春原家の魔法の全容を把握しているのは春原君だけですし、言っていることは作戦を考える上では間違ってはいません。

 確かに春原君の実際の魔法戦闘力は惜しいですが、おそらく本人も言っている通り、選出したとしてもアイス・ピラーズ・ブレイクの出場になる可能性が高いです」

「だがそれでは各部からクレームが来る。バイアスロン部が適性のあるスピード・シューティングかバトル・ボードだからこそ、とくに文句もなく出せそうだったんだ。もしそれ以外に出そうとしたら模擬試合でもして実力を見せつけるしかない。

 それに、アイス・ピラーズ・ブレイクには三高からあのクリムゾン・プリンスが出てくるはずだ。十文字がいて優勝の可能性のない本戦は避けるだろうから、まず間違いなく新人戦に出てくる。くじ運が悪ければ予選突破も難しいぞ」

「それは……」

 

 どうしよう、なんだか事態が迷走し始めちゃった……。

 

「取り敢えず!確定してないことはまた後にしましょう。

 今はナギくんには目の前のインターマジックに集中してもらう。それしかないんじゃない?」

「あ、ああ、そうだな。

 例年記念参加しかしていないから忘れそうになるが、九校戦なんかよりも大きな大会だ。勝てる可能性があるならそっちに集中してもらったほうがいいか」

「そうですね。

 それに、九校戦の代表の選抜は私達が頭を悩ませることです。春原くんには本来関係ない話ですね」

「ということで。

 今の話は一旦忘れて、ナギくんは火曜日の試合に集中してね。

 私たちも現地まで応援に行くから、頑張るのよ!」

「了解、優勝してくるよ真由美お姉ちゃん!」

「その意気よ!」

 

  ◇ ◇ ◇

 

 翌日の早朝。

 

(マス)(ター)。設置して三日ですけどHAR(ハル)の使い方は大丈夫ですか?きちんと服は着替えて洗濯に出してくださいね。それと、一応期間中の食材は用意しておきましたけど、暴食できる程はないので気をつけてください。口に合わなくても物に当たらないように。

 あと、吸血鬼ですから暗くて見えない、何てこともないでしょうけど、夜は明かりを点けないでくださいね。この家には誰もいないことになっているので。

 あとは……」

「ええい鬱陶しい!お前は私の母親かっ!」

「ケケケッ。見タ目的ニハ兄妹ジャネーカ?」

 

 だって、前世でも今世でも(マス)(ター)の生活能力って壊滅的に近いんだもの。裁縫でなんとか総合最悪を回避しているぐらいで。

 一応HAR(ハル)自動家事システム(Home Automation Robot))の設置工事が間に合ったから、食事とか洗濯はほとんど自動で出来る様にはなったけど……心配だなぁ。

 

「そこはかとなく馬鹿にされている気がするが、否定出来そうもないのが頭にくる……!」

「あれ?自覚があったんですか?」

「悪いかっ!そしてやっぱり馬鹿にしてたのかっ!」

「ソンナ御時勢デモネーガ、女トシテソレハドーナンダヨ御主人」

「煩いっ!だいたいお前も大概だろうがっ!」

 

 ……うん?『だいたい』と……『(たい)(がい)』?

 

「オオ!ソンナ親父ギャグヲ言ッテクルトハ、流石氷ノ女王(笑)ダナ!」

「……いいだろう。久し振りに全力で暴れたいと思っていたところだ。後で別荘で灸を据えてやる……!」

「俺ハ街ノ見回リガアルカラ付キ合エネーナ。弟子ガ帰ッテ来タラ相手シテ貰エ」

「ちょっ!?チャチャゼロさん!?」

「……そう言えば元々はお前が発端だったなぁ?それに、お前の実力は記憶でしか知らんしなぁ?

 ……帰って来たら付き合って貰うぞ?」

「イ、イエッサー‼︎」

 

 やばい、もし日本代表に決まっても、早々に死んじゃうかも……。

 

「それじゃあ(マス)(ター)、そろそろ行ってきます」

「ああ、行ってこい。テレビで観ているからな?無様な姿を晒すなよ?」

「勿論です」

「デモソノ場合、世界大会トカデマタ家ヲ空ケルコトニナルンダケドナ」

 

 それはそうだ。日本代表の選抜大会、ってことは勝てば世界大会に出ることになるからね。

 

「ああ、そう言えばそうなるのか。

 ……まあ、先のことはその時に考えればいい。

 矜持や制約の許す限りで全力を出すのが、本気で挑んでくる相手に対する礼儀だ。私の弟子である以上、どんな状況であれ礼儀だけは忘れるな」

 

 首を縦に振って、理解していることを示す。

 ボクは前世で、綺麗な道だけじゃなくて、とても正義だったとは言えない道筋も辿っているけど、それでも(マス)(ター)と同じ『誇りある悪』だ。それを貶める様なことはするつもりはない。

 

「よし!ならば勝ってこい!」

「はい!行ってきます!」

 

 扉を開けて足を踏み出す。

 目的地は富士演習場。熱狂渦巻く競技会場だ!




小動物先輩「あれ?私たち一言も……」

さて始まってしまいましたオリジナル回、インターマジック編。
え?日本選手権編?い、意味は同じだし……(震え声)

そしてタイトル詐欺を思わせる冒頭のあれはなんなのか?
もし何か気づいた方がいらっしゃっても、心の中にしまっておいてください。この章の、ある意味中核ですので。

因みに九校戦のくだりは筆者の心の叫びです。誰かいい案ください(切実)

それでは次回にお会いしましょう!

・・・氷の女生徒「一言も描写がありませんね。どういうことでしょうか?」
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