魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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第二章 九校戦編
第二十九話 選出


 

「というわけで、九校戦頑張ってね」

「……え?」

 

 定期試験も終わった7月中旬。

 放課後に生徒会室に呼び出されたと思ったら、真由美お姉ちゃんからそう告げられた。

 

(そういえば達也くんも指導室に呼び出されてたな〜。大丈夫かな〜)

「ナギく〜ん?戻ってきてくれる〜?」

 

 目の前で振られる手に、達也くんが指導室で新田先生似の先生に詰問されてる空想から引き戻される。全然動じてなかったけど。

 

「……なんでボク?九校戦はあまり向いていないって話をしたはずなんだけど……」

「それはそうなんだけどね……」

「理由はこの学校の対面的な問題ですね。日本代表に選ばれた春原君を選出しないというのは、対外的にも問題があります。

 なんとか一つはアイス・ピラーズ・ブレイクに変更しましたが、もう一つのほうは学校側からの強い指示で変えることが出来ませんでした」

 

 市原先輩の申し訳なさそうな声が、生徒会が選出しようとしてしたわけじゃないことを醸し出していた。

 

「話を聞いていたあたしや真由美はそれでも渋っていたんだがな……。予想以上に部活連のほうで受け入れる空気が強かったんだ」

「二科生っていうのも、日本代表に選ばれた時点で理由にできなかったんでしょうね。とくに、ナギくんはもともと古式魔法師として知られてたんだから、なおさらね」

 

 どうやらその予想は正しかったらしく、生徒会室の全員が、力が足りなかった悔しさに顔を歪ませていた。

 

「まあ、決まっちゃったんなら仕方がないですよ。出来る限り頑張ってみます」

「お願いね。……それと、もしかしてまたコメンテーターしたりするの?」

「さすがに九校戦の中継は、一つの高校に入れ込みすぎることになるから呼ばれなかったよ。司会は赤水さんと塩川さんが続投らしいけど」

 

 あの二人はたぶん相性がいいんだと思う。見た目的にも性格的にも彼女たちに似ているし。

 

「そう。じゃあ、ナギくんの方で日程的に問題になりそうなのはないのね」

「大会中はね。それまでの休日練習とかは出れるかどうかが怪しいけど」

「それは仕方がないわよ、あんなことがあったんだもの」

「あの神隠し以降、各地の古式魔法師から会談の申し込みが殺到しているんだろう? しかも、時々平日でも休むことになっているから、風紀委員の方の日程調整も大変だよ」

「すみません。先方の都合もありますし、できるだけ休日にいれるようにはしているんですけど……」

「まあ、ウチで、というか全国的に見ても、『当主』なんてやっている高校生はお前だけだからな。十文字がそれに近いのかもしれないが、それでもあくまで代理だからその差もあるんだろう。休みが多くなるのも仕方があるまい。個人的な都合というわけでもないしな」

「むしろ、苦労ばかりしてて、姉としては心配になってくるわね」

「あははは……」

 

 ボクとしては喜び半分、苦労半分ってところなんだけど。

 十師族の七草家に世話になっている身としては古式魔法と現代魔法の壁はなんとかしたいから、そのためには願ったり叶ったりな状況なんだけど……、それに伴う日程調整とか学校や仕事との兼ね合いが大変で……。やっぱり、楓さんとか小太郎くんに影分身を教わっとくべきだったかなぁ。

 

「まあ、無理はせず、出来る範囲で頑張って頂戴ね。これから世界大会に向けて、団体戦の練習も始まるんでしょう?」

「まあね。と言っても、実は行ったところで試合的なことをするだけで、特にアドバイスを貰ったり特訓をするわけじゃないみたいだけど」

「春原くんのスタイルは前例がありませんから、コーチ陣としても教えることができないのでしょう」

「まあ、無理もないな。そもそも飛行魔法自体が古式の中でもかなりレアだ。それでバイアスロンの競技者となると、過去にいなくても仕方があるまい」

 

 別に一人でも場数をこなすことはできるから、問題ないと言えば問題ないんだけどね。

 

「さて、これで大体の選手が決まったかしらね?」

「あとは一年生を当人の資質に合わせて振り分けるぐらいでしょうか」

「とは言っても、十三束を除いたのをはじめとして、大体の振り分けはできているんだろう?司波妹はどれに出す予定なんだ?」

「振動系に非常に高い資質があるので、アイス・ピラーズ・ブレイク女子の本戦か新人戦が確定してますね。あとは、おそらくミラージ・バットになるかと」

「無難なところだな。ミラージには特に高い魔法力と持久力が必要だからな」

「……摩利。それは自慢しているの?」

 

 ってことは、渡辺委員長はミラージ・バットに出るんだ。

 

「自慢ではないが、客観的に見て高い資質があると思っているのは認めるさ。

 話を戻すが、司波妹の資質は、あの神隠しのときの様子を見る限り、本戦に出たとしても優勝候補に挙がるぐらいにはなるだろう。あたしも技量では負けるつもりはないがな」

「俺や中条はそれを体験していないので、未だに半信半疑なんですが……」

「しかし、あれだけの人数が同時に同じ白昼夢を見たというよりは余程信憑性があるだろう?

 そもそも、こっちでは10分程度とはいえ突然消えて突然戻ってきたんだから、その時点で常識の埒外のことが起きたのはわかるだろう」

「現代魔法では、未だに瞬間移動の可能性すら証明できていませんから。それよりかは、春原君の言っている『異界』理論の方が理解はできます」

「それはそうですが……」

 

 服部先輩が引っかかっているのは、『異界』よりも(コノ)(カ様)のことなんだろう。中条先輩は、神様なんて恐ろしいから居ないでほしい!、って感じかな?

 

「まあ、はんぞーくんが何を信じられないのかはわかってるけど、事実は事実なのよ。たしかに神様はいたわ。この目で見たし、この肌で、笑っちゃうぐらいの量の(プシ)(オン)を感じ取ったしね」

「ああ。正直な話、彼女には勝てる気がまるでしなかった。というか、闘いという形式になる気すらしなかったな。

 本人、いや本神は戦闘は苦手だと言っていたが、それでもあたしたちなんかは指一つで苦もなく倒せるだろうという予感がビシビシしていたよ。そもそもの立ち位置からして違うんだとな。

 彼女を前にして、よく春原はいつもの調子で対応できたと思ってるよ」

「単に知識量の差ですよ。神様がいる、とわかって対応していただけですから」

 

 万が一戦うことになってたとしても、神様との戦いは何度も経験しているし。必ず勝てるとは言わないけど。

 

「はぁ。会長たちを疑うわけではないのですが……。

 やはり、いくら魔法というものが現実にあったとはいえ、神も実際にいた、というのはちょっと……。『異界』とやらも含めて現代魔法理論が覆りますし」

「それについては、知識を持っている春原君が中心となって、(おお)(よそ)の定義がまとまってきたそうですよ。

『異界』については、なんらかの原因である一定範囲内の非動的情報体(エイドス)データがコピー・一部改変された、もはや世界と言ってもいい情報量をもつ非投射型超極大魔法式、ということになるらしいです。会長たちは、その中に取り込まれた、ということですね。

『神霊』に関しては、人格を持つ莫大な(プシ)(オン)の塊を核とした化成体のようなもの、ということらしいです。人々の信仰や畏怖などで(プシ)(オン)が集中すると、その保有量が増大するのでより強大な存在になるらしいですね」

「そ、そうなんですか」

「はんぞーくん。退路もなくなったし、もう受け入れるしかないわよ〜?」

 

 市原先輩の理路整然とした説明にたじろいだのをみて、上目遣いで真由美お姉ちゃんが畳み掛ける。効果はバツグンだ!

 

「は、はい!理解しました!」

「よろしい。

 まあ、話がだいぶ逸れちゃったけど、代表頑張ってねナギくん」

「はい!」

 

  ◇ ◇ ◇

 

「おはようございます。

 ……また非番なのに来てるの達也くん?」

「ああ、巡回お疲れ。

 まあ、来ないでいいならくる必要はないんだがな……。呼び出されたなら無視するわけにもいかない」

「し、仕方がないだろう!ウチで引き継ぎ書類を作れるのは春原か達也くんだけだが、春原は忙しいんだから!」

「「自分で作ればいいじゃないですか……」」

 

 他人任せな渡辺委員長に、思わず呆れ声が重なっちゃったよ。いや、たぶん一人でやってたら、それはそれで心配になって結局手伝っちゃうんだろうけど。

 

「……はあ。それで、その紙の束は何?まさか書類ってそのままの意味じゃないよね?」

「ああ、俺が九校戦についてよく知らないと言ったら説明してくれるそうでな。わざわざパンフレットを出してくれたんだ」

「意外だろう?達也くんはなんでも知っていそうな雰囲気を出しているからな。

 ああ、春原もいるか?どうせ選手なんだから後で渡されるとは思うが」

「できればいただけますか?大枠は知っているんですが、細かいルールは毎年変わってたりするので」

「そういえば春原は毎年真由美の応援に来ていたんだったか。

 ほらこれだ」

 

 そう言って、パンフレットを渡してくれた。へぇ、紙が珍しくなったこの時代でも、しっかりしてるんだなぁ。

 

「ありがとうございます。

 そうですね。去年は実況に呼ばれたのであまり見れませんでしたけど、基本的に毎年真由美お姉ちゃんたちと行ってますね」

姉弟(きょうだい)仲がいいのはいいことだ。……節度を守ればな」

「……委員長。なぜ俺を見てくるんです?」

 

 いや、ギリギリセーフ(?)だからかな?

 

「いや、なんでもないさ。

 さて、どこまで話したんだっけか」

「クラウド・ボールがダブルスではない、というところですね。そのあと仮想型端末の話に逸れましたから」

「ああ、そうだったな。

 それで、九校戦の選手は各校四十人ずつだ。本戦、新人戦それぞれ男女十名ずつだな」

「あれ?新人戦も男女別になるんですか?」

 

 去年まではモノリス・コードとミラージ・バットを除いて同じだったはずだけど。

 

「ああ。そのせいで、新人戦で女子も二種目を兼任せざるをえなくなった」

「兼任、ですか?」

「達也くんにはわかりづらかったか。

 簡単に言えば各種目の参加人数は、モノリスコードを除き前年度の成績に影響されるが、基本的に三枠、悪くて二枠というところからだ。ウチは全て三枠だがな」

「なるほど、新人戦と本戦を完全に分けるとしても、半分が二種目、もう半分が一種目となるわけですか。一部の一年が本戦にも出場するとなると、本戦は楽になりますが、さらに新人戦のウェイトがきつくなりますね」

「ああ。だからウチでは新人戦と本戦の兼任は無しの方向で考えている。そもそも、一年と二年や三年では、君の妹みたいな例外でもない限り勝負にならない。もっとも、他のところがどうかは知らんがな」

 

 確か、三高のある北陸地方の『一』の家系には、同い年の子が二人いたはず。その子たちは本戦にも出てくる可能性があるわけか。

 

「話を続けるぞ。

 競技種目は話したな?そのうち、モノリスとミラージは、それぞれ男子のみ、女子のみが出場可能だ」

「不満そうですね。やはりモノリス・コードに出たいのですか?」

「まあな。あたしはバリバリの対人実戦派だから、他の競技よりかはモノリス・コードをやりたい()()なんでね。他の女子に賛同者は少ないだろうが。

 ……まあ、それは置いておいて。そういったわけで、九校戦では、誰をどうやって掛け持ちさせるのかや、敵がどの競技に誰を出してくるのか、といった作戦も必要になる。

 そこで、九校戦では作戦スタッフを四名まで同伴することが認められているんだ。あくまで『四名まで』だから、ウチみたいに枠一杯にする高校もあれば、三高みたいに一人も連れて行かずに選手の自主性に任せるところもあるがな」

 

 というか、作戦スタッフって一緒に行って何するんだろう?まさか、その場で出場競技を変更する、なんてこともないだろうし。

 

「それだけ真逆なのにウチと優勝を張り合うとは、興味深いですね」

「実際に負けたのは七年前と三年前だけだ。九校戦が今の形になってから十年間、ウチが五回、三高が二回、二高と九高が一回ずつ、と基本的にはウチが勝ち越している。あっちも毎年優勝候補だと言われてはいるがな」

「一高は、今年勝てば三連覇なんですよね?」

「ああ。今年勝ってこその勝利だ。『最強世代』と呼ばれているのは伊達じゃないことを見せつけてやらないとな」

 

 真由美お姉ちゃんに十文字さん、それに匹敵する渡辺委員長。他にもAランク判定相当の人も多いし、最強世代と呼ばれるわけだよ。

 

「順当にいけば当校が優勝確実、と言われていますが」

「選手面ではそうだろう。一年も含めて、贔屓目に見なくても充分優勝が狙える実力がある奴ばかりだ。

 だが、問題なのはエンジニアでな……」

「エンジニア……CADの調整要員ですか?」

「ああ。選手面では層が厚いんだが、とにかく技術者が足らない。連れて行ける最大人数の十名どころか、最低限競技に必要な人数すら確保できていない状況だ。

 真由美や十文字はそれなりにできるから自分のを任せるとしても、あたしとかは出来ないしな……」

「ボクはそもそも必要ないですけど、確かにそれは深刻ですね……」

 

 そういった裏方の人がいないと、戦う側も全力を出せないことは多々あるし。

 ……ん?CADの調整?

 

(チラッ)

(サッ)

 

 あー、気づいてて無視してるのね。

 うーん、でも……

 

「じゃあ、達也くんがエンジニアをしたら?」

「なっ!」

 

 多分こっちの方が、みんなが幸せになるかな?

 

「そうk——」

「ナギくん、ナイスアイディアよっ!」

 

 うわっ!びっくりしたぁ。

 

「……真由美?お前いつからそこに」

「たった今よ。ちょうどその話に関して摩利と協議しに来たんだけど……予想以上の拾い物があったわね」

「ちょ、ちょっと待ってください!今のはナギが言っただけで、俺はやるとは一言も言ってません!」

「なんだ、やらないのか?」

「そもそも、俺は二科生です。俺なんかを選んだら、また一科生からの反発が——」

「だが、春原も二科だが代表に選ばれているぞ。今更選手でもないエンジニアに二科生を選んだところで、反発は大差ないだろう?」

「それは……。ナギはまだ日本代表という肩書きがあるからいいんです。俺は何もないじゃないですか。

 それに、経験の少ない一年が、とかいう反発もあるはずです」

「肩書きなら風紀委員で充分だし、証拠ならそこの棚にあるだろう?」

 

 指差した先には、三ヶ月前とは見違えるほど綺麗になった、風紀委員の備品CADがあった。

 

「あれだけの整備をできる生徒が、この学校に何人いると思っている。

 馬鹿どもがそれでも反発するようなら、実際に腕を見せればいい」

「ですが……」

「渡辺委員長、達也くんの説得はボクに任せてくれませんか。推薦した者として、役目を果たしてみせます」

「そうか?なら頼んだぞ」

 

 渡辺委員長と真由美お姉ちゃんが、『どう説得するのか』と言った顔で見つめる中、達也くんと向き合う。

 

「達也くん。一つ重要なことを見落としてるよ」

「なんだ?」

「人手が足りない、ということは、必ずしも男子に男子の調整員が、女子に女子の調整員がつくわけじゃない、ってことはわかる?

 高度なCADの調整には薄着にならなくちゃいけないらしいのに、ちょっとしたハードルだよね」

「それと俺がエンジニアをやるというのと何の関係があるん……あ」

 

 もう気づいたかな?

 

「ところで、深雪さんも代表に選ばれているんだよね?

 なら、このままだと深雪さんを他の男の人に任せることになるかもしれないけど、達也くんとしてはそれでいいの?」

「会長。エンジニアとして、精一杯努めさせていただきます!」

「よ、よろしくね。……()()()()()()()()()()()()()()()

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()(使)()()()

 

 あくどい手段だなんてひどいなぁ。

 どちらにせよ、深雪さんは達也さん以外に任せるつもりはないんだから、最終的には達也くんはやることになるんだから、そのタイミングを少し早めただけですって。

 

「確かにナギの言う通りだった。深雪を他の男には任せるわけにはいかない。……相手のためにも」

「ああ。深雪さん、すごい嫌がって相手の人を氷漬けにしそうだよね」

「そこまではいかないだろうが、後で俺がフォローしなくちゃいけなくなるからな。それだったら初めからやっておいたほうがいい」

 

 そうそう。こういう時に大事なのは開き直ることだよ。

 

「それじゃあ、達也くんはエンジニアにする方向で調整するわね。これでなんとかなるかな?」

「最低限は、な。できればもう少し余裕が欲しい」

「となると、やっぱり五十里くんかな。……達也くんと同じ手が使えるし」

「なるほど。花音のやつをダシにするのか。

 ……理論畑とは言え、平均以上の腕があって自分から志願したやつを無下にするほど、人員が有り余っているわけでもないからな」

「ええ、そうね。自分から志願したのなら、是非ともお願いしたいわね」

「はははは」

「うふふふ」

 

 うわ〜。笑みが黒い……。五十里……先輩かな? どうもすみません。

 

「……なあ、ナギ。早くも不安になってきたんだが」

「奇遇だね、達也くん。ボクも、推薦したことを間違えたんじゃないかと思ってきたよ」

 

 もしかして、技術スタッフって、選手以上に九校戦の間忙しかったりするのかな……。

 

「はははは。この手があったか」

「うふふふ。これからもっと集まりそうね」

「……はぁ」

「あ、あはは……」

 

 なんというか、本当ごめんなさい。




女顔先輩「なんか外堀が埋まった気が……」

さて、今回から九校戦編です!
ナギのもう一つの競技はなんなのか、そして戦績はどうなるのか!乞うご期待ください!……まあ、二つでる時点で大体察しているとは思いますが。

それでは、まだ次回!

……人形遣い「なんか出番がなさそうな……」
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