魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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第三十三話 発足式

 

 準備会議において、達也が改めて実力を示したことで技術スタッフ入りが認められた日の夜。司波兄妹の家。

 軍のハッカーによる秘匿回線によって、達也が自らの上司である風間少佐から出頭命令を受け取り、ついでに九校戦に関して動いている(ノー・ヘ)(ッド・)(ドラゴン)に注意するよう言われた直後、風間の顔が顰められたことに達也は気がついた。

 

「どうかなされたんですか?」

『ああ。(ノー・ヘ)(ッド・)(ドラゴン)の情報が出てきた理由、というやつが気になってな』

「理由?

 先ほどの話では、内情(内閣府情報管理局)が調べた結果出てきたか、もしくは富士演習場の侵入者の痕跡から発覚したのだと受け取ったのですが」

『ああ。壬生たちが調べた結果、というのは間違っていない。しかし、調べるきっかけになったのは、とある傷害事件だった』

「その様子だと、単に下っ端が暴れた、と言う感じではありませんね。何があったんです?」

 

 達也の質問に、風間は「信じがたい話だが」と前置きして話し始めた。

 

『先月、東京の、それも比較的一高に近かった奴らのアジトの一つが、たった一夜で壊滅したのだ。

 奇跡的に死者はいなかったようだが、そこにいた幹部候補を含めた全員が、いたぶられたような無数の切り傷をつけられていたらしい』

「裏の世界での抗争、と言うわけでもないでしょう?

 それなら死者がいないはずがありませんし、少佐が口を濁すようなことでもないでしょうから」

『その通りだ。

 奴らの多くは恐怖で錯乱していてまともな話を聞けなかったが……。ほぼ全員が口を揃えて言う分には、人形にやられた、らしい』

「人形、ですか?」

『ああ。見た目は70センチぐらいの人形だったそうだが、両手に大ぶりの刃物を持って楽しそうに笑いながら次々と斬りつけて回り、情報を吐かされたそうだ。

 それだけではない。四月あたりから、特に一高周辺を中心に、同様の犯罪組織の壊滅などが相次いでいる。すべてが奴らの言う【人形】の仕業らしい』

 

 達也は、自分の生活圏なのに情報を知りえなかったことを恥じた。狙われているのは犯罪者なのだから大丈夫だろうが、もし深雪に何かがあったら、と思うとゾッとする。

 

「……その話が本当だとすると、下手人は魔法師、それも古式の術者で、ゴーレム、もしくは化成体を使っているのでしょうか?」

『わからん。そのような術者には全く心当たりがないからな。

 警察もこの一連の事件の犯人を【(ドー)(ル・)使(マス)(ター)】と仮称して捜査に当たっているが、未だ何一つとして足取りは掴めていないそうだ』

(ドー)(ル・)使(マス)(ター)とは、また大仰な通り名を付けましたね。欧州に知られたらどうなることか」

『それには同意だな』

 

 『人形使い(ドールマスター)』とは、『(ダーク)(・エ)(ヴァン)(ジェル)』『不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)』『悪しき(おと)(ずれ)』『禍音(かいん)の使徒』など無数の異名を持つ、伝説の魔法使いにして吸血鬼の真祖、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの有名な二つ名の一つだ。魔法史を学んだ魔法師の中では知らぬものはいないだろう。

数百とも数千とも言われる人形を従え悪事の限りを尽くしたと伝えられているが、たかが犯罪組織を壊滅させた程度でそれと同じ異名をつけるとは……よほど警察は下手人を捕まえたいらしい。

 

『傾向的に一つだけ言えるのは、彼の伝説の吸血鬼とは違い、犯人は無闇矢鱈に力を振るうつもりはない、どちらかといえば正義の味方のような考え方の人物だろう。

注意をしておくに越したことはないが、必要以上に警戒する必要はないはずだ』

「了解しました。気をつけておきます」

『……気をつけておくと言えば、もう一つある』

「まだ何かがあるんですか?」

 

 (ノー・ヘ)(ッド・)(ドラゴン)に通称『(ドー)(ル・)使(マス)(ター)』、その上さらにもう一つ。学校でもいろいろあるのに、頭を悩ますことが多すぎるだろう。

 

『こちらは【(ドー)(ル・)使(マス)(ター)】事件とは違い、場合によっては特尉も狙われる可能性があるからな。

 先日、藤林が謎のハッカーの足跡()()を捉えた』

「……藤林少尉が、足跡だけしか捉えられなかった、と?」

 

 それはつまり、(エレ)(クトロ)(ン・)(ソーサ)(リス)に少なくとも匹敵するハッキング能力を持った正体不明の人物がいる、ということだ。謎の(ドー)(ル・)使(マス)(ター)どころの話ではない。

 

「それは、都市伝説のフリズスキャルヴが実際にあった、ということですか?」

『いや、断定はできない。そもそもそいつがどういうものなのかすら噂の域を出ないからな。

 しかし、藤林の所感では人でも機械でもない、らしい』

「なんですか、それは……」

 

 ハッキングなんてするのは、人か機械しかないと思うのだが。

 

『藤林曰く、機械特有の融通の利かなさが見えなかったが、人特有の思考時間も無かったらしい』

「それで、人でも機械でもない、ですか」

『ああ。グレムリンや電子金蚕のように機械類に取り付く精霊魔法もあることだし、特尉が体験したという神霊の別種ということも考えられるが、それだと俺たちにはどうしようもないからな。

 まあ、幸いにもウチは大した情報は盗られなかったらしいが、あまりにも正体不明すぎる。気をつけるしかできないとは思うが、達也も注意しろよ。

 と、少し冗長になりすぎたか。オペレーターが焦っているので切るぞ。師匠にもよろしく言っておいてくれ』

「はい、分かりました』

『ではな』

 

 ブツッ、と画面が切れ、後には思案顔の達也だけが残った。

 

(人形、か。もしもそれがどこかの家の仕業で、一高周辺で犯罪組織を潰しつつ情報を集める意味がある家となると、七草か十文字か……春原か。

 この四月ごろからとなると、ナギの入学に合わせて負担軽減のため、ということが最も考えられるな。特にナギは人形を使ったゴーレムを作れるようだし……。そういえば四月の時に、ナギの家にもエージェントがいる、と言っていたな。そいつか?

 ……まあいい。それなら、よほどのことがない限り敵対する可能性は少ないと考えられる。そういう意味では、目的不明のスーパーハッカーのほうが何倍も危険だ。

 それにしても、あの藤林さんが尻尾しか掴めないとはな……。もし俺たちのことがバレたら……)

「あの、お兄様? 何かあったんでしょうか?」

 

 隣から聞こえたその声に、ハッと我に返った。どうやら、かなり深く考え込んでいたらしい。

 

「いや、大したそのことじゃないよ。

 少佐から正体不明の正義の味方について話されて、そのことについて少し考えていたんだ」

「そうでしたか。

 それでしたら、お茶を飲みながら教えて頂けませんか?」

「ああ。ありがとう」

 

 予想よりもかなり深く考え込んでいたようだ。知らぬ間にティーセットが用意されているとは。

 

「ふむ、珍しいな。マスカテルか。それにこのショートブレッドもいつもとは違うかな」

「分かりますか?

 実は、茶葉もレシピもナギくんから譲っていただいたものなんです。紅茶では勝てそうもありませんね」

「普段の深雪のものも、俺は好きだよ。俺のために淹れてくれるだけで充分だ」

 

 ちなみにナギの料理の腕は、和食や洋食は一般家庭料理レベルだが中華と紅茶に関してはプロレベルだったりする。いくら一人暮らしだとしても美味しすぎる、と深雪は内心悔しがっていた。

 

「ありがとうございます。もったいないお言葉です」

「別にお世辞じゃないんだがな。

 それじゃあ、何から話そうか……」

 

 その後、達也は風間からの情報を自分の所見を交えながら話を進めていき、次第に夜も更けていった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「おう。司波も選ばれたんだってな。がんばれよ」

「おはよ。わたしも見に行くから頑張ってね!」

「司波くんは選手じゃないからほとんど見れないでしょ⁉︎

 まあ、でも頑張ってね期待の星!」

「ウッス。一科の奴らを見返してやれよ!」

 

 週が明けて月曜、18日。

 既にどこからか代表入りの情報が拡散してしまっているらしく、達也の周りは朝から大盛況だった。

 

「情報が早いわね〜」

「まだ正式発表されてねぇのにな」

「人の口に戸は立てられぬ、ってことでしょうか」

 

 当然、いつものメンバーの話題もそれになる。彼らは直接聞いていたのだが、他のクラスメイトがどこから仕入れてくるのか、疑問は尽きなかった。

 

「そういえば、今日の5限の全校集会で発足式をして、そこで正式発表なんだよね?」

「ああ、そうだな」

 

 幹比古の問いかけに、空返事で答える達也。その顔には疲れの色が色濃く出ている。

 まあ、それも無理もあるまい。軍のほうでオーバーホールされた自分用の戦略兵器の調整に呼び出され、ついに開発した飛行魔法の発表のために開発三課で実証試験のデータ整理と映像回線を使っての連日の打ち合わせ。そこに加えて二週間後の九校戦に向けて担当選手の特性把握と作戦立案をしなければならなくなったのだ。流石の達也といえども疲れを感じて当然だった。

 

「一年生では一人だけなんですよね?」

「技術スタッフではな。しかも『こっち』なもんだから風当たりも強くてな……」

「そりゃ、技術面で先輩方に並ぶ方がおかしいのよ。甘んじて受け止めなさい」

「そう言われるとそうなのかもしれないが」

 

 実際には並ぶどころか遥か上をいっているのだが、それはこの学校では達也と深雪しか知らないことだ。わざわざ口に出すことでもない。

 

「それよりも、なんで俺だけなんだ。ナギだって代表、それも選手の方に選ばれてるだろう」

「ナギくんは先週の時点で分かってましたし、日本代表の時にパーティーを開くぐらい盛り上がりましたから」

「今更一高代表つってもなぁ」

「それに、()()ナギに声は掛けられないよ」

 

 そう言って、皆がナギの席に目を向ける。

 そこには、鬼気迫る表情で女性物の服を弄るナギの姿があった。周りに空間がポッカリ空いている。

 

「手芸部の自動裁縫機が壊れたんだっけか?」

「ああ。その上まともな手縫いができる人員が少なくてな……。修正を業者に任せる予算も時間ももうないし、ナギに白羽の矢が立ったわけだ」

「あのお人形さんも、すごいクオリティでしたものね」

 

 当然、衣装は当人の身体測定の数値に合わせて発注してあるのだが、そこは成長期真っ只中の高校生。4月の時点と合わなくなる人物も多く出てくる。例えばほのかのバトル・ボードの全身タイツだが、ある一部分がキツくて入らなかったらしい。雫とエイミィが黒くなっていた。

 それだけではなく、達也たちが着る技術スタッフのブルゾンや二科生のための一科の制服などは、例年既に用意してあるものを着まわしていた。例年それらの服を個々人に調整するのを手芸部がすることになっていたのだが……最悪のタイミングで故障してしまったのだ。

 その上……ナギの技術が高すぎたのだ。

 

「ミラージ・バットのひらひらレースからバトル・ボードの全身タイツまで。あそこまで色々縫えるんだったら、もう服屋を始めたらいいのに」

「全面的に同意する。

 尤も、おかげでナギの負担はかなりのものらしいがな」

 

 今のような自動裁縫機はおろか、百年前にはあったミシンなどもない、手縫いが当たり前の時代を生きた師匠の教えだ。どんな素材だろうと手縫いで縫えるのも当たり前だろう。

 ちなみに、ナギの腕を見た手芸部の部長が熱心に勧誘していたりするが、ナギとしてはあくまで人形使い(ドールマスター)の弟子として最低限の技術を身につけただけなので、今のところ入るつもりはないらしい。

 

「こ、これで終わり……あと八着……」

 

 ナギの悲痛な台詞に、E組にいた全員が心の中で合掌した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 結局5限までにすべてが終わるはずもなく、途中で切り上げて舞台袖に集まったナギだが、何故かまたチクチクやっていた。

 本来これを任されていた手芸部の部員曰く、「ごめんね〜。発足式のためにテーラードジャケットとブルゾンを先にやらなくちゃいけなかったのに、すっかり忘れてて〜」とのことらしい。理不尽すぎる。

 

「はい。とりあえずブルゾンは全て終わりましたよ。ジャケットはどうですか?」

「早いわね〜。こっちはあとこれだけ〜」

 

 間延びした声は反省しているのか分かりづらいが、この人はこれが素だというのだから仕方がない。

 

「ナギくん、終わったならちょっといい?」

「何、真由美お姉ちゃん?」

 

 もう手伝うこともないだろう、と自分のジャケットを羽織ったところで、終わったのを察したのか真由美が声をかけてきた。

 

「あそこで二人の空間を創ってる血の繋がった夫婦を止めてきて。周りがしてる嫉妬とかで空気がギスギスしてるから。一番仲がいいのはナギくんでしょ?」

「真由美お姉ちゃん……それは生け贄、って言うんだよ」

 

 なぜこうも働き詰めなのか、と世の中を恨みつつ、なんだかんだ言ってピンク色の世界を終わらせに行くナギであった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 そんな幕間もあったりはしたが、時間は待ってはくれない。5限が始まると同時に、発足式が始まった。

 

(ううぅ……)

 

 整列しているのは一科生ばかりなのに二科生は二人だけ、それも達也は後列で自分の後ろに隠れているから、嫉妬や侮蔑の視線が自分一人に集中してすごい居心地が悪かった。

 しかし、それよりもナギの心を占めているのは別の感情だった。

 

(す、すごい恥ずかしい〜)

 

 現在深雪からIDチップ入りの徽章をユニフォームの襟元につけてもらっている真っ最中だが、そのことではない。当然、真由美に自分の紹介をされていることでもない。

 チラリと講堂の席に目を落とせば、相変わらず前列に一科、後列に二科と別れている中で、一科生を押し退けて最前列に陣取っているクラスメイトたちがいた。それだけでも結構くるものがあるのに……

 

(しかも、その横断幕はなんなのーーっ⁉︎)

 

 いつの間に作ったのだろうか、『ナギくん(達也くん)代表入りおめでとう‼︎』と書かれた横断幕なんて。達也の名前が小さく手書きされているのは、発覚が遅かったから慌てて書いたのだろうが……応援されている側からすればかなり恥ずかしい。達也はどう思ってるんだろうか。

 

(隣にいる同級生からは嫌悪感がすごいしてくるし、上級生からは微笑ましい目で見られてるのが分かるし〜〜⁉︎

 恨むよエリカさん〜〜!)

 

 そんなナギの心情を知ってか知らずか、最前列でエリカはニヤニヤ笑いながら手を振ってきている。彼女が主謀者だろう、こんなことをするのは。

 

 結局、全員の紹介が終わり講堂が拍手に包まれるまで、ナギの顔の赤みが引くことはなかった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 ざわ、ざわ、と困惑の空気が漂う。

 それも、ある意味仕方がないのかもしれない。なにせ、あの『十文字』があっさりと負けてしまったのだ。

 

「えーと……」

『…………』

 

 下手人はナギ。

 一高アイス・ピラーズ・ブレイク代表同士の練習試合で、なんと()()()使()()()()勝ってしまったのだ。魔法競技とはなんだったのか。

 

「…………春原。今のはなんだ?」

「い、いえ!その、ボクのは未完成というか、見様見真似で全然使いこなせてないから名乗るのも烏滸がましいというかなんというか……」

『…………はぁっ⁉︎』

 

 いくら仮設置で地面が土のままだとはいえ、地面に大穴を開けておいて未完成とは一体どこを目指しているのか、と周囲は混乱するばかりだ。

 

「……まあいい。魔法……なのかも分からんが、詮索するのはマナー違反だからな。

 だが、今のは本戦では禁止だ。最低でも最終戦までは使うな。いくらなんでも、会場を破壊してはあまりにも周囲に迷惑がかかる」

「はい。加減が出来ないっていうのもダメなのは痛感しました」

 

 やはり、わずか数年の付け焼き刃では彼やその師匠に遠く及ばない。コレは天才型の自分とは違い、どこまでも愚直に積み重ねた先にあるものなのだから尚更だ。

 

「また戦略を練りなおさなきゃなぁ」

 

 自分で空けたクレーターを埋めながら、ナギは手持ちの手札を考え直していく。そのあまりにも強大すぎる魔法の数々は、こうした大会には向いていないモノばかりだ。

 おそらく、各魔法科高校すべての選手の中でもごく僅かな、強すぎるが故の苦悩を覚えていた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 これで、すべての代表が出揃った。

 

 当人たちの熱意もあるだろう、裏の世界の悪意もあるだろう。

 

 しかし、最後に笑うためには意地でも勝つしかない。

 

 誰しもが覚悟を抱きながら、葉月の熱戦へ向け時計は時を刻んでいった。




人形使い(ドールマスター)「正義の味方だと?酷い侮辱だ!」

まさかその(ドー)(ル・)使(マス)(ター)が、エヴァ様当人だとは思いもしないですよねww

色々ありました七月の話はこれにて終了です。次回からは八月に入ります。
それでは次回、『事故』でお会いしましょう!

・・・巌男「障壁を張る暇もなかった……」
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