魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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章終わりなのでちょっと短めです


第五十五話 終幕、そして旅立ち

8月12日、九校戦最終日。

九時から最後の競技、モノリス・コードの決勝リーグ第1試合が始まるのだが、試合開始の三十分前となっても、達也の姿は観客席にも一高の本部テントにも、与えられた自室にもなかった。

 

「以上が、昨日深夜の作戦によって得られた情報だ。何か質問はあるか?」

 

達也がいたのは、会場に隣接する(正確には会場が隣接している)富士国防陸軍の一室。この基地に滞在中の風間に与えられた部屋だ。

そこで行われる、昨日の夜に()()()()作戦の事後報告を受けるために呼び出されたのだ。

 

「幻術は解けたんですね?」

「1時間ほど前にね。人が変わった、というよりも生まれ変わったみたいに素直に話しているらしいよ」

 

拷問や薬物投与も用いずに結構なことで、と真田(さなだ)繁留(しげる)——独立魔装大隊所属の技術士官で、階級は大尉——が告げる。

だが達也には、それが事実と反していることを知っていた。この世では受けられない()()()()を受けたのだ、文字通り『死んで産まれ変わった』のと同じ心境なのだろう。

そんな思考を知らず、風間はそれを行った者に対して言及する。

 

「特尉と藤林が接触した術者は、現在捜索中だ。まだ映像記録の一つも出てきてないが」

「確か、藤林を眠らせたのは金髪長身の欧州系美女、だったか?」

 

達也が大隊幹部の一人である(やなぎ)(むらじ)大尉に頷きを返すと同時、藤林もそれを肯定した。

 

「はい。一目見ただけですが、すごい美人だったのは覚えています」

「それだけ特徴的なら目立ちそうなものだけどねー」

「藤林を人質に取った後、達也を部屋まで連れて行ったという仲間がいるのだ。それも真田たちの監視の目を抜けて。何らかの身隠しの術、達也がわからないのなら精神干渉系の認識阻害魔法を持つ術者だろう。そう簡単に尻尾を出すとは思えんな」

 

真田が軽い口調で話をすれば、柳がキツくそれを正す。そんなやり取りが行われる中でも、達也を責めるものは誰もいなかった。

確かに達也の能力があれば人質を取られても切り抜けられそうなものだが、相手が精神干渉系を使うとなれば話は別。達也本人に向けられるものは()()()守るが、達也自身に精神干渉系魔法を扱う力はないし、それを感知する能力も低い。精神(こころ)を盾に取られては分解も再生も意味をなさず、諦めて相手に従うしかないのはこの場にいる全員の共通理解だった。

もっとも、それが何かしらの害を及ぼすなら達也も躊躇わずに藤林を切り捨てただろう。軍人になった時点で、藤林もその覚悟を済ませてある。だが今回は、『ただ現場に連れて行って伝言役を頼んだだけ』だ。身内を切り捨てる必要がある内容ではないし、むしろ一方的にこちらの利益にすらなる。従ったところで何も問題はなかった。

 

「しかし、その術者たちから得られた情報は大きい。

『ソーサリー・ブースター』、魔法師の大脳を原材料に無頭竜が作る外付け魔法増幅装置。元々はそれを止めさせる為に奴らのボスの情報を得るのも今回の作戦の目的だったわけだが……まさかそれを上回る非人道的行為が行われていたとはな」

「奴らの言葉ではジェネレーターでしたっけ? 死者を操り人形にするなんて魔法は、後世に残さないよう俺たちで断たなくちゃなりませんね」

 

そう返す真田の表情には、いつもは浮かんでいる軽い雰囲気はない。柳にも、藤林にも、風間にも、そしてもちろん達也にも。一様に険しい顔の中にあるのは、人間としての怒りだった。

 

「とにかく。今回得られた情報を公安や国際警察とも共有し、ソーサリー・ブースター、及びジェネレーターの製造技術をこの世界から抹消する。情報の精査や各方面への根回しが終わっていないため日程などは現在調整中だが、もしかすればお前たちにも動いてもらうことになるかもしれん。そのつもりで鍛錬を怠らないように」

『はっ!』

 

風間が話を締め、それに全員が敬礼で返したことで、この場のミーティングは終了した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

その後、達也は先に会場入りして席を取っていた友人たちの元へ向かい、九校戦最後の競技、本戦モノリス・コードを観戦した。

それについて特に語ることはない。大方の予想通り、十文字を有する一高は個々人の力を十全に発揮し、モノリス・コードの優勝を果たした。ただそれだけだ。

 

最終的な戦績は、二位の三高と110pt差をつけて第一高校が優勝。事前予想の通り、第一高校の最強世代は三連覇を成し遂げた。

とはいえ、それが上級生だけの力ではないことは周知の事実。途中まで三高相手にリードを許していたのを払拭できたのには、二人の一年が絡んでいる。それが一高内での共通認識だった。

 

一人は、その日の夜のパーティーで所在なさげに立っている『司波達也』。

直接的な戦績のない技術スタッフではあるものの、担当選手がお互い以外に負けなしという過去類を見ない伝説を築き上げた、九校戦史上最強の呼び声高い一年だ。それに加え、一高内部でしか知られていないことではあるが、実技に劣るという理由で二科に入れられたという(あくまで主観的に)不遇の人物でもある。

 

もう一人も、同じく二科。それも選手出場であり、単独優勝こそ果たしていないものの、十師族一条家の御曹司に喰らい付き、単独で団体競技であるモノリス・コード同率優勝を勝ち取るなど目を見張る活躍を見せた少年、『春原凪』。

 

だが、その赤髪の少年の姿は、パーティー会場には見当たらなかった。

 

「…………」

「真由美、無言で食べ物を口に詰め込むな。仮にもお嬢様だろう、お前は」

 

実際にはリスのように膨れた頬も、それはそれでまた愛嬌があるようにも見えるのだが、それはそれでこれはこれ。摩利としても、これ以上他の高校の生徒や参列した大人に一高トップのこんな姿を見せるわけにもいかず、呆れた声で忠告せざるを得なかった。

真由美もやけ食いは分かっていたのだろう。摩利の言葉を聞き、頬袋に貯めた料理を飲み込むと、大きく溜息を吐いた。

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜」

「気持ちは分からんでもないが、一応公共の場なんだから取り繕え。猫を被るのはお前の得意分野だろ」

「失礼ね。まあその通りなんだけど……はぁ〜、なんであと一週間、いえ、一日だけでも待ってくれなかったのかしら……」

 

割と本気で落ち込んでいる真由美。いじけモードに突入した親友に口元をヒクつかせながらも、摩利にもその落胆は理解できたので強く出るわけにもいかずに目で訴えるだけに留めた。

真由美がこんな状況になっている理由は単純だ。ナギが一足先に帰ってしまった、ただそれだけ。それだけなのだが……高校生活最後にして最初のパーティーで想い人とのダンスを楽しみにしていた真由美にとっては、総合優勝したことなんかよりも重大なことなのだろう。

 

「まあ、文句は御上(せいふ)に言え。ここでやけ食いしたところで太るだけだ。それとも何か、春原にプヨプヨに弛んだ腹を見せるつもりか?」

「別にいいですよ〜だ。どうせナギくんは新学期まで帰ってこないんだし〜、一緒に海に行く約束もなくなっちゃったし〜? 水着なんて見せる機会はもうないですよ〜」

 

ブチッという音が摩利のこめかみの辺りから響いたが、なんとか腕が出るのは抑え込んだ。来賓もいる中で風紀委員長が生徒会長を殴るのはマズいという意識は、ギリギリで残っていたのだ。

 

「はぁ。そろそろ折り合いをつけろ。仕方がないだろう、人間主義の一派が、春原を兵器として『確保』しようなんて言い出したんだから」

「……ええ分かってるわよ。ナギくんに実績を残させるために、予定を早めて世界大会の会場に向かったのもね」

 

事の始まりは、ナギが力を見せすぎたことに由来する。戦略級魔法などの決定的な一線は越さなかったものの、それでもモノリス・コードの決勝で見せた『氷の女王』は驚異的すぎる魔法だった。その力に目が眩み、魔法師を人間と思わない派閥が強引な手段に出ることも、容易く予想されるくらいには。

しかし今の世の中は、魔法師にも人権を認める派閥の方が力が強い。政府も同様だ。そんな行動を許してしまっては支持率に響くが、だからと言って真っ当な手段ではないから『強引な手段』なのであり、100%防げるかと言われると首を横に振るしかない。

 

ナギを取り巻く状況はそんな感じで不安定だったわけだが、唯一効果的な手段があった。それが、強硬派の手が届かない外国へ逃す方法だ。

とはいえ、もちろん亡命させるというわけではない。世界大会の出場が決まっているナギを予定を早めて開催国まで先行させ、そこで成果を上げさせるというだけだ。

誰が見ても確実な『魔法師』としての成果があれば、いくら強硬派といえども『兵器』と言い張り人権を無視することは出来なくなる。また、あまり他国の魔法師の受け入れには好意的ではない世界情勢とはいえ、滞在時間が長くなればそれだけ自国へ移住するよう『説得』できる可能性も上がるため、開催国の方もこの提案に乗り気だった。

 

そんな訳で予定を十日ほど早め、ナギは今日の昼間に富士演習場を発たなくてはならなかった。ならなかったのだが、そんな政府の事情など乙女の恋心には関係ないことだ。

真由美の身に起きていることは、理屈では分かっても感情がそれを認めたくないという簡単な話なのだろう。任務で偶に恋人にドタキャンされる摩利にも気持ちは分かる。だから、優しく慰めるように声をかけた。

 

「そう落ち込むな、ダンスぐらい七草家のパーティーに呼べばいくらでも出来るだろう。海に行けなかったのは残念かもしれないが……」

「……いえ、正直そんなことはどうでもいいのよ」

 

だが、勘違いも甚だしい。

真由美が荒れているのはそんなことが原因ではなかった。

 

「問題は、向こうでナギくんが彼女を作らないかってことよッ!!」

「……は?」

「だって、ナギくんよナギくん! 誰にでも優しくて、顔も良くて、しかも強いって三拍子揃った完璧イケメンよ!! 絶対手を出してくる馬の骨が居るはずだわッ!!」

「…………」

 

真由美の話は超主観的だが、あながち間違ってもないからタチが悪い。しかも相手は、そんな恋愛感情だけで動いてくるとは限らない。ハニートラップだって十二分に警戒してしかるべき可能性だ。

 

「摩利だって、噂の彼氏が出張中に現地妻に寝取られないか心配じゃないの!? 私は心配よ!やっぱり今から追いかけるッ!!」

「あー待て待て落ち着け。祝勝会に生徒会長がいなくてどうする」

「なら今すぐこの場であーちゃんかはんぞーくんに引き継いでもらって!」

「生徒会長を決めれるのは生徒総会だけだ、そんな思いつきでどうこうなる問題じゃない」

 

ガルルルと野生動物化してる親友を羽交い締めにしながら、誰か助けてくれないかなどと溜息をついてしまったのも仕方がないだろう。

 

結局、(人柱に選ばれた)達也が録画機材を片手に現れて、『後世にこの快挙を残さないといけませんからね』と嫌みたらしく告げるまで、七草真由美の暴走は続いたのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「着替えよし、端末よし。急ぎの仕事も済ませたし、謝罪の電話も入れたし……」

 

真由美が恋の獣と化しているころ、ナギは自宅で慌しく動き回っていた。

政府の決定が告げられたのが、九校戦最後の試合が終わった直後の一時半過ぎ。そこから荷物をまとめ、法律に従って車でゆっくり戻ってきたのが二時間前の五時半。さらにそこからも色々と奔走していたら、飛行機の離陸まで残り四時間を切っていた。移動時間や手続きを考えると、すぐにでも出なくては間に合わない。

 

「ぼーやも大変だな。いや、社会に縛られるのが大変なのか?」

「あ、師匠(マスター)。ボクが居ない間の食事とかは弘一さんに頼んでおいたので、目立たないように行ってくださいね。あと、ドラゴン退治は済んだんでしたっけ?」

「ああ、()()()()()()()()()()

 

バタバタ動き回る弟子を前に、その友人のことは口にしなかった。当然だ、『他言無用』と契約(やくそく)したのだから。

 

「なら良かったです。()()()の方は?」

「慎重に進めざるを得ないからな、実用化できるのは今月末といったところだ」

「了解です。じゃあこの家の防衛ですけど……」

 

二、三今後の予定を決めながら、大きなカバンを背負ったナギ達は玄関へと向かっていく。

 

「こんなところですね。じゃ、行ってきます!」

「ああ。()()()()勝ってこい」

「はい!」

 

ニタリと微笑む師に見送られ、ナギは空港へと走り出す。

その胸に、一つの絆を忍ばせて。

 

 

 —◇■◇■◇—

 

 

 

次なる舞台は、新大陸の大国"北ア(U)(S)カ大(N)衆国(A)"

 

しかし、彼の行く先に安寧などない。

 

彼の地にも、異邦なる者の手が、静かに、しかし確実に伸びていた。




これにて第二章、九校戦編が完結です!
いや〜7ヶ月半かかりましたね、長かったぁ。まあ、うち休載が約2ヶ月半なんですけど(^_^;)

次回からは間章2『世界大会編』が始まります。舞台はUSNA、となれば出てくる人は分かりますよね?
また、これまでは『ネギまを魔法科的に説明』でしたが、次章からは逆の現象が起き始めます。加速度的に交わる二つの世界、その起点となる章ですので、お楽しみにお待ちください!

また、この投稿をもちまして、アンケート①の募集を締め切らせていただきます。沢山のご提案、ありがとうございました!
色々と考えた結果、見やすいように活動報告で一覧に纏め、そこでご返信をさせていただきたく思います。すべてのご提案に目は通しているので、今しばらくお待ち頂けると幸いですm(_ _)m
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