魔法科高校の立派な魔法師   作:YT-3

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2話同時更新です。


第六十四話 オリオン座の三つ星

「鬼、神兵——」

 

ナギが漏らした一言は、屹立する巨人が放った咆哮に半ば掻き消されながらもリーナの耳に届いた。

 

「キシンヘイ? ナギ!あれが何なのか知ってるの!?」

「……八百万の神、って言葉にある通り、神は一柱じゃないんだ。その中には、中身である信仰(まりょく)を失い、肥大化した霊体(ようき)を残して自我が消失した神様もたくさんいる。

鬼神兵は、そんな神をコアとして仮の体に詰め、動力源として魔力を注入した決戦兵器だ。一体いれば都市一つを、十体もいれば小国一つを落とすのに十分すぎる——」

 

つまり、単騎で戦略兵器に匹敵する人型兵器。それが三体。

正しく天災規模の破壊の化身に、リーナは絶望に顔を染めた。

 

「ゲーテさん、あれは破壊してしまっていいんですよね」

 

だからこそ。隣に立つ少年がそう告げたことが、彼女には理解できなかった。

 

「ああ、構わんよ。コードD、『殲滅(デストロイ)』を送信した後、彼の手によってコンソールも壊されている、もう止めようがない。欠片も残さず破壊してくれ」

「ちょ、ちょっと待ってナギ!無茶よ!」

「大丈夫」

 

リーナが見つめるそこには、諦観も絶望もない。

ただ在るのは、リーナを風呂場で捕らえた時以上に真剣味を増した、戦士の覚悟だった。

 

「リーナ、カノープスさん。余波を気にしている余裕はないかもしれません。どうにか自分で守ってください」

「ナギ!!」

 

ただ叫ぶだけしかできなかった。

理屈もない。ただ胸の底から溢れる感情だけが、リーナの口を動かした。

 

「大丈夫だって。ボクも本気でいくから」

 

振り向き、リーナの手にその杖を握らせ、

 

 

「だから、デートどこ行くか、考えといてね」

 

 

そう告げて、ナギはその身一つで空へと跳んだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

解放(エーミッタム)——」

 

ナギの知る限りにおいて鬼神兵の問題点を一つあげるとすれば、それは細かな指示が出来ないという点にあるだろう。

宿す神は存在を失った無名の神でなくては仮の体に癒着せず、しかしそれでは自我が薄いため、「砲撃しろ」「迎撃しろ」などの単純な命令をこなすことしかできない。決戦兵器だろうが"兵器"なのだ、人が使って初めて意味をなす。

今回、あの鬼神兵が受けた命令は「殲滅しろ」だとゲーテは言っていた。建造者である彼女が用意したとはとても思えない内容だが、何かしらの理由があるのかもしれない。

……いや、それは今はいい。重要なのは、「何を」殲滅するのかが明確でない点だ。そのお陰で、地表に這い出た鬼神兵たちは、優先順位をつけているのか動きが止まっている。攻撃すればこちらに矛先が向くだろうが、まとめて潰せるチャンスは今だけだ。

 

 

千の雷(キーリプル・アストラペー)ッッッ!!」

 

 

だから、初手で全てを決するため、躊躇することなく極大魔法を解放した。

 

発動した魔法に反応してか、鬼神兵がこちらを向く。が、もう遅い。

右手の先、1メートルほどに出現した雷球は、一瞬だけ収束し——直後、無数の雷電を爆発的に放出した。

それらは束なり、縒り集まり巨大な雷柱となって、大気を焦がしながら主なき兵器の元へと突き進む。ナギは勝利を確信し——

 

 

『主砲、発射』

 

 

音すらも置き去りにしたはずの、雷が辿り着くまでの間に、そんな女性的な音声が聞こえた気がした。

 

三体の鬼神兵は、その口内に宿す砲門から光の束を放つ。

莫大なサイオンを光速で射出する、(サイオ)(ン・)(ビーム)とでも言うべき3本の光は、瞬時に混ざり合い、その下の大地を溶かした巨大な光柱となる。

 

雷と光。

柱と柱。

 

共に戦略級の威力を込めた必殺は、互いに人類の到達できない速度をもって、ナギと鬼神兵、その中間地点で真正面から衝突した。

 

 

「————ッ!解放(エーミッタム)——」

 

拮抗したのは一瞬。

次の瞬間には、光が雷を飲み込み、大きく威力を落とされながらも天へとその身を刻み込む。

 

 

(——甘く見てたっ! まさかあの段階から迎撃してくるなんてっ!)

 

多重に展開した障壁を軋ませながら、光の柱の中のナギは考える。

威力で負けてることは初めから分かっていた。途中様々な兵器の誘爆エネルギーを取り込んでいたとはいえ、その大部分が天へと消えながらも大地に『千の雷』約二発分に相当する傷跡を残した主砲だ。一体分(さんぶんのいち)ならともかく正面からの衝突では分が悪い、そう判断しての不意打ちだったのだ。

 

だが、一手目が失敗に終わりつつも、ナギの顔には少しの余裕が見え始めていた。

 

(鬼神兵の主砲にはチャージ時間がかかる、いくら超さんでもこれは変えられないはず! ボクにはまだ四発分の千の雷のストックがある、次は防げない!)

 

光の尾が残した大気の輝きに視界を奪われつつも、ナギは二発目を撃つため左手を振りかぶり——

 

視界が晴れた瞬間、大地に立つ()()の鬼神に、全身を硬直させた。

 

(二、体!? そんな!あと一体はどこに——ッ!!)

 

それに気付けたのは、幾度となく神と相対してきたナギだからこそ感じ取れた、僅かな神気の残り香のお陰だったのかもしれない。

 

「上——!?」

 

そう。その鬼神兵は、全長100m弱という巨大すぎる大きさにも関わらず、いつの間にかナギの頭上に移動し、あまつさえその道の達人と見紛うような滑らかさで腕を引き、突撃の姿勢を取っていたのだ。

もはやそれは、彼の知る鬼神兵ではありえない。巨体に見合った重厚さが鬼神兵の売りなのだ。素早さを両立させた鬼神兵など、彼の知る記憶には存在しない。

 

「く!多層魔法障壁、出力最大ッ!!」

 

だから、ナギは判断を見誤った。

 

仮に人を1.6mとすれば、100m弱という大きさの鬼神兵はその60倍以上にもなる。当然、重量もそれに見合ったものがあり、単純に考えて60の3乗で21万6000倍。機械工学と魔法の融合に長けていた超らしく鬼神兵の大部分が機械化されていることを考えると、最低でも約25万倍はあるだろう。

そして、その巨体で人と見紛うほどの動きをするには、一つ一つの動作の速度が60倍でなければならない。腕を引く動作も人の60倍……腕を突き出す速度も、人の60倍。

 

一般に、物体の衝突時の威力は(重さ)×(速度)×(速度)で求められる。人の25万倍の重さの腕が、人の60倍の速度で突き出されたなら……その威力、およそ9億倍。さらに加えて魔力によるブーストがかかる。

 

 

結論を言おう。

鬼神兵のその拳は、ただ振り下ろすだけでも戦略級の威力を宿していた。

 

 

「ガ————」

 

ただ分厚いだけの、最硬防護ですらない障壁など卵の殻を割るかのごとく粉砕し、神の拳は魔物(ナギ)の肉体を捉える。

バキバキという音ではない。グシャと、人体から発してはいけない音が全身から響く。

 

そして、拳の持つ膨大な運動エネルギーをまともに受けたナギの体は、音速の壁をぶち抜いて一直線に溶岩の海に叩き落とされた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ナギッ!?」

 

地に伏せたリーナは、ヴェイパーコーンを引きながら溶けた大地へと落ちる少年の名を、顔を青く染めながら叫ぶ。

 

たとえ大部分が空へと逃げたからといって、戦略級魔法の正面衝突で何も被害がないはずがない。その莫大なエネルギーは大気を震わせ、周囲に大威力の衝撃波を齎した。リーナが伏せていたのも、可能な限り障壁に角度をつけることでまともに受けないようにするためだった。

そうして偶然にも目を伏せていたことが幸運し、光を直視することがなかったリーナは、その有り得ない光景を目撃していた。

 

そう、あり得るはずがない。

全高100mもの巨大な兵器が、曲芸師も真っ青な物理的にありえない動きで上空へ飛び、そこからたった一人の人間に突撃するなど——

 

「そ、そんな……」

 

だが、現実的にそうなってしまっている。彼女の瞳に、ハッキリと捉えてしまっている。

そして、それを受けたらどうなるか、彼女でなくとも想像がつく——

 

 

「————え」

 

——だが、次の瞬間、彼女の目にはそれまで以上にありえない光景が映った。

 

 

ドパゥッ!!、と粘性のある音を響かせながら、溶けた大地から人影が飛び出す。

 

「ナ、ギ……? なん、で。なんで生きてるのっ!?」

 

それがリーナの目には、それは先ほど間違いなく死んだはずの、赤毛の少年に見えた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「————!」

 

死んだ。抵抗らしい抵抗もできずに、殺された——!

 

沈んでゆくナギの意識は、驚愕という言葉でも生温い衝撃を受けていた。

まさか、という思考しかない。主砲こそ脅威と言えるほどの威力だったものの、所詮は鬼神兵。極大魔法の一つや二つで、軽く終わる程度の敵だと思っていたのだ。

だが、アレはなんだ。あんな動きをする鬼神兵、それも三体など、どう対処すればいいというのだ。あまりにも未知数の敵を前に、絶望にとらわれ、奮い立つための勇気が奪われて——

 

——ナギッ!?

 

ハッと、目が覚めた。

それは、大気よりも高速で溶けた大地が伝え、耳が捉えた音だったか。それとも闇を司る魔物としての感覚が捉えた、心の叫びだったのか。

だが、確かにナギの元に、少女の悲鳴が届いた。

 

「——ッ!そうだ、まだ終わってない!」

 

あの鬼神兵に、魔法師たちではまず勝ち目はない。それは自分よりも決定的な差だ。

今ここで自分が戦線を離脱したら、この国の人間も、そして彼女も間違いなく殺される。幾度死のうと蘇る自分とは違い、彼女たちの命は一回きりだ。

 

(——そんなこと、させはしないっ!)

 

意識が急速に浮上し、それに伴って肉体が再構築される。纏わりつく粘液を発勁と魔力放出の複合で吹き飛ばし、瞬動で再び上空へと舞い戻る。

それと同時、単眼の鬼神達から、三つの視線が突き刺さった。

 

『——危険因子A、再確認。無力化失敗』

「もう鬼神兵だとは思わない、慢心せず本気でいくぞ!」

 

どこか茶々丸(教え子)に似た合成音声が、無機質に響く。それを耳に入れつつ、空中で腰を落とし、構えをとった。

あれだけの動きができるのであれば、千の雷を避ける可能性がある。互いに睨み合った状況で二重解放からの装填は隙が大きすぎて危険。

 

——ならば、相手の攻撃をさばき、硬直時間を利用して装填、もしくはゼロ距離でぶち当てる!

 

『解析開始……完了。近似該当データあり。対処行動を変更します』

 

届いたその声に僅かに先駆け、今度は二体の巨神がこちらへ飛び出した。一体は手前に、そしてもう一体は僅かに(こちらから見て)左手側後方に。先ほどと同じく、ナギの知る"本物"に届きうる体捌きで、その姿を大きくしていく。

だけど——

 

(——大丈夫! そうだと分かってれば見える!)

 

達人の数十万倍の肉体を、60倍の速度で動かせる。なるほど、それは尋常ではない脅威だろう。前世で知る優れた"本物"の中でも、それに対処できるのは極一部に違いない。

 

——だが、それはナギの得意分野だ。

 

最速で時速50万kmオーバーを誇るナギにとって、例え雷化をしていなかろうとも()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それは自負となり、確かな勇気となる。

焦燥から余裕を取り戻し、己が経験と頭脳は巨大な壁の攻略法を弾き出す。

 

(後ろのはフォロー。だけど、一体目の懐に潜り込めば!)

 

巨大人型兵器とは、その大きさから優れた威力と攻撃範囲を誇ると同時、人型がゆえに生じる死角もまた広い。腕の内側、懐などその最たる例だ。

もちろん、それ故に防御も厚い。ナギの目から見ても、自分や運命の名を持つかつてのライバルと遜色ない厚さの魔法障壁が展開されている。

 

 

先に走る鬼神兵(超)が、体を半身に、その右腕を振りかぶる。意図を隠そうともしないそれは、まともに食らえば一回は命を奪っていくのだろう。

だがしかし、八卦掌(カウンター)を得意とするナギにとって、その隙は大きすぎた。

 

「ふ————」

 

仮にも神の展開する障壁に、魔物の力である障壁破壊掌の系統では相性が悪い。それは経験則で知っている。

 

 

——ならば、一点集中の大火力で突き破る!

 

 

解放(エーミッタム)——」

 

遂に、巨岩と見紛うほどの拳が突き出される。

その一瞬前、ナギは飛行魔法を解除し、体一つ分だけ下に()()()

烈風を纏いナギがいた場所へと突き進む巨腕に左手を添え、確かに虚空を足で踏みしめつつ、その力を背後へ受け流し——

 

「魔法の射手・収束・光の10001矢——」

 

巨神の腕の内側に入り込んだナギは、無数に出現した光球の中、腕を受け流した反動すら利用して、虚空瞬動でその懐へと突き進む。

現れた光球は、直後に光の矢となり、縒り集まり、ナギの体を流星へと変えた。その光は、まっすぐに巨神の元へと突き進み——その力を解放する。

 

 

「——(おう)()(ちょう)(ちゅう)ッッッ!!」

 

 

八極拳・六大開(ろくだいかい)(ちょう)」が一、カク打頂肘に、1万もの光の矢を乗せたナギの絶技。

一点集中のカウンター技は、直撃していたら如何な神の障壁といえども打ち砕いただろう。

 

 

 

 

——そう、()()()()()()()

 

 

 

 

光の矢が肘先へと収束し、視界が晴れたナギの目の前から、巨大な影が上へと消えた。

そしてその先、後ろを走っていた鬼神兵は腕をクロスさせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ナギの記憶が、光の速度で一つの光景を呼び起こす。

あれは——そうだ。前世の師への弟子入り試験。師の従者であり、そして自分の生徒であった彼女に、一撃を入れるという内容。

あの時も、絶好のタイミングでカウンターを仕掛けた。だが彼女は、背後にあった柵の柱を蹴り、受け流された拳の勢いを利用して側宙へと移行、完全に決まったはずのカウンターを避けたのだ。

 

そして彼女は、さらにその勢いを利用して体を捻り——

 

 

「!回し蹴」

 

 

最後まで言葉を紡ぐことは叶わなかった。

側面上方から襲いかかった衝撃に、世界ごと自分を揺さぶられる。そして直後に訪れる、世界を置き去りにするような加速感。

高速で流れる視界は白く濁り、体を構成する要素一つ一つがミシミシと悲鳴をあげる。

 

「ガ——!!」

 

そう感じたのも束の間、再度訪れた衝撃。それが地面にぶつかったからだと気付いたのは、背中で何本もの木々を粉砕して減速し、瞳が立ち登る土煙を捉えた時だった。

 

「ぐぅッ、障壁再展開!姿勢制御術式解放!」

 

またもや粉砕された障壁を張り直し、体勢を魔法で無理やり整えて、深い轍を大地に刻みながら減速する。

 

(——またやられた!茶々丸さんを作ったのは超さんで、この鬼神兵に同じ動きが出来ないわけがなかったのに! 咄嗟に矢を爆発させて自分から吹き飛ばなければまた死んでた!)

 

再びの焦燥。だが今回は絶望はない。

そうと分かれば対処法はあるのだ。いや、ナギにとっては大きなメリット。

自分の教え子であり、従者であり、仲間であり、秘書であった絡繰茶々丸の動きは、ナギ自身の魂に刻み込まれている。巨大化した彼女と思って戦えば、動きの先読みができるはずだ。

 

ようやく速度が落ちる。それと同時に視界を遮る土煙を吹き飛ばし、また()()()()()()()()()鬼神兵を視界に捉えた。

 

気配はないが、直感が()()と叫んだ。

 

「2度目が通用————」

 

するとでも。と続けようとして、ナギは絶句した。

ナギの前方には二体の鬼神兵。位置的に、先ほどナギへと向かって来ていた二体だろう。

 

 

 

では、見上げた先で尋常ではない魔力(サイオン)を右腕に収束させている、()()()()()()は、一体どういうことだ。

 

 

 

「ッ——!!」

 

とにかく、あれを食らってはただ死ぬだけでは済まない。全身を問答無用で塵以下まで消しとばし、確実に霊体までダメージを与えうる——!!

 

「——縮地!!」

 

形振りなど構っていられない。迫り来る拳の隙間目掛け、()()()()()()()()()()()()()()()、全身全霊で大地を蹴った。

ドパゥッ、と世界が鳴き、音の壁を突破したナギの視界は白で染まる。体の僅か数十cm先に感じる圧縮された"神気(サイオン)"に、全身の産毛が逆立つ。それをすり抜け、仕切り直しを狙って、更に更に上空へ——

 

「っは!」

 

3秒とかからず上空2kmへ移動し、全身を使った"抜き"で無理矢理に止まる。それで両の尺骨に罅が入った感覚があったが、その程度ならノータイムで修復されるから気にすることはない。

 

気にすべきは、ナギの眼下に広がる光景だ。

そこには、先のナギの衝突に数倍する土煙の柱が立っていた。それを作り出した拳によって、一体どれだけ巨大な地震が発生したのだろうか。そして、それによって一体どれだけの被害が……

ナギの思考が一瞬ボストンの街の人へと向かい、だが突如舞い降りた直感に、一瞬で意識をこの場に舞い戻した。

 

風花・風塵乱舞(フランス・サルタティオ・ブルウェレア)!」

 

その土柱は、それを起こした鬼神兵たちの視界を防ぐものでもあるのだろう。しかし、その中で起きる光景を見なければならないという予感に従い、ナギはそれを吹き飛ばした。

そこには、やはり四体の鬼神兵が、その拳をナギがいた大地に突き刺し——

 

「————ッ!!??」

 

いや、違った。その内の三体が、まるで蜃気楼で見えていただけの幻覚だったかのように、その身を空気へと溶かした。

だが、それが幻影ではないのは、ナギが確かに感じ取っていた。その絶大な威力を大地に刻みつけていることが証明しているし、歴戦の英雄である彼の感覚を、あれほどまでに精密に誤魔化せるような幻術は考えにくい——

 

 

 

——いや、それは理由などではない。

目の前で起きた現象を、ナギは知っていた。

 

 

 

「影、分身——ッ!?」

 

 

それは、絡繰茶々丸の技ではない。超鈴音の技でもない。

あれほどの影分身、高度な気配遮断、あの攻撃方法。

その全てを満たすのは、彼の知る限り一人だけ——

 

 

 

 

「楓、さん————?」

 

 

 

 

無機質な三つの視線が、喫驚に体を硬直させるナギを貫いた。




・今日の星座①

狩人オリオンは、海神ポセイドンの子の半神であり、同時に巨人でもあったと言われています。その死は諸説伝えられていますが、必ず蠍に足元を刺されるという点だけは共通しており、そのため、天にさそり座が昇るとそそくさと天を降りると伝えられています。
彼を模したオリオン座は冬の夜空で一際目を引く星座で、全天の中でも明るい星々が特徴的な形を成しているので、一番見つけやすい星座ではないでしょうか。
その中でも特に目を引くのは、腰の部分にほぼ等間隔で直線状に三つの星が並んだ、通称「三つ星」です。英語でも「Tristar」という名詞があり、その他多くの国でもこの三つの星を示す単語があるほど、世界各国で長い間見られてきた星々ですね。
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