拝啓 私の家族、向日葵達が咲き乱れる暖かなこの季節、あなた様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申しあげます。お陰様で、私も私の家族達も、元気にしております。あなた様の持ってくるお土産等のお陰です。誠にありがとうございます。
さて、この度このような手紙を出したのには、いささか......いえ、とても重大な訳があります。それはもう、とても重大な訳が。ですが、本文に入る前に、少し思い出話でもしましょう。唐突で困惑するかもしれませんが、少しの間我慢して話を聞いてください。
思えばあなたと私との出会いは、人里の中でしたね。私の姿を見るだけでも怯えていた人里の人間たちと違って花屋のあなたは、花好きに悪い人なんていませんよ、と言って笑顔で花を売ってくれました。その時のこと、今でも鮮明に覚えています。
何だこの人間は、と。
不躾にもそう思ってしまった私のことを、どうか許してください。それほど衝撃的だったのです。
あなたも知ってのとおりですが、私は人里の人間たちによく思われていません。それこそ先程述べたとおり、私の姿を見るだけでも怯えられてしまいます。
だけどあなたは、私の姿を見ても怯えることなく、更には悪い人ではないとまで言ってきたのです。これは私も驚いてしまった。そんな人間は私の人生の中で初めてだったからです。だからこそ、何だこの人間は、と思ってしまいました。
普段人間なんかは相手しないのですが、不思議とあなたとは話が良く弾みました。同じ花好きだったからかもしれません。こんな私に『どんな花をお探しですか?』などど話しかけてきた初めての人間に、あなたに、興味が出てしまいました。
それから私は、毎日のようにあなたの花屋へと出かけました。やはりあなたとの話は楽しく、気付けばもうこんな時間かと、そうなることもしばしばでした。
さて、では、そろそろ本題に入りましょう。そう、今回このような手紙をあなたに出したのは、他でもないあなたに伝えたいことがあるからです。……ええ、そうです。話の流れから、察していただけたでしょうか。
―――私こと『風見幽香』は、あなたのことが―――
❁❀✿✾
「こんなの出せるわけないでしょうがぁぁぁぁぁ!!」
そこまで書きかけていた手紙、簡単に言ってしまえば恋文、所謂ラブレターをビリビリと破りゴミ箱に投げ捨てる。ぜェぜェと肩で息をしながら、私は自分の書いていたラブレターの内容を思い出して顔を赤くした。
「くっ。お、思ったより何倍も恥ずかしいわね……!これなら直接想いを伝えた方がいいじゃないの!大体あのスキマがラブレターがいいだのなんだの言うから……!」
ぐぎぎ、と歯を食いしばりながら、ここにはいないスキマ妖怪に怨念を抱く。あいつが提案したことは、いつでもろくなことにならない。どうしてそれを忘れてしまっていたのだろうか。恋は盲目、とはよく言ったものだ。
―――恋。
そう、恋だ。私こと花妖怪である風見幽香は、現在進行系で恋をしているのだ。しかも相手は人間。種族も生き方も、何もかもが違う存在。でも仕方がない。だって好きになってしまったのだから。気付いた時には手遅れだった、というやつだ。
「……はぁ。あいつは今頃、何してるのかしらね」
そんな独り言を呟きながら、私は彼のことを考える。
何時からだろうか?
人里で花屋を営んでいる彼に興味を持ったのは。
何時からだろうか?
彼の優しさに、笑顔に、ドキッとしてしまったのは。
何時からだろうか?
彼のことを人間としてではなくて、男として見るようになったのは。
ほんと、何時からだろうか?
家に帰っても、花の世話をしていても、何処にいても、彼のことが頭から離れられなくなってしまったのは。
そうだ。これが恋。私は、間違いなく彼のことを意識している。好きになっている。それを自覚したときの私の慌てっぷりは、もうほんとに形容しがたいものであった。大妖怪たる私が、まさか恋などどいう感情一つでここまで女々しくなるなど、考えてすらいなかったからだ。
「ぬぐぐっ。恋の病、シャレにならないわね」
誠、そのとおりである。生活リズムは壊れるし、考え方も変わってくるし。主に彼をどう意識させようか、どう立ち振舞えば彼は気に入ってくれるのか、などなど。ほんと、彼のせいで私の人生は一変してしまった。
……でも、決して。そうだ、決して嫌な気分じゃない。
むしろ、喜ばしい。彼のことを考えると、不思議と暖かくなる。心がポカポカするのだ。日向ぼっこをしている向日葵の気持ちに近いのだろうか。
それに、彼の近くにいると、満たされる。心の隙間を、埋めてくれる。そんな感じなのだ。でも彼が離れてしまうと、途端に胸が苦しくなる。時間が経てば苦しくなくなるのだが、なんなのだろうかこれは。寂しい、という感情なのだろうか。ほんと、病みたいなものだ、恋というのは。
「……はぁ。だからこそ、彼に想いを伝えたいっていうのに」
そう。そこだ。彼に想いを伝えたい。そうして成功すれば、私は病から開放される。彼がいつも近くにいてくれるから、この苦しみもなくなる。人生の薔薇色。私は最高に幸せだ。
……だが失敗したら?
そう考えると、途端に怖くなる。きっと、私は私を保っていられなくなるかもしれない。それに、何より恥ずかしい。仕方無いじゃない。今までそんな経験なかったのだから。
「唯一の救いは、彼に彼女がいないことくらい、かぁ」
いや、ほんとそれだ。聞いた時に、彼女がいる、などと言われていたら、私は泣いていたかもしれない。だが、それでも油断はできない。なぜなら彼はそのあと、
『好きな人ならいるんだけどね……』
などと呟いていたのだ。妖怪の五感を舐めてはいけない。私に聞こえないように呟いたのだろうが、私にはバッチリ聞こえている。なぜ私の方をチラ見しながら言ったのかまでは流石にわからなかったが。
まあ、かなりショックだったが、それを表に出さず、私はこれからのことを考えた。
ならばその好きな人よりも、もっと私を好きになってもらおう、と。
所謂殺られる前に殺る、というやつだ。とにかく、私は彼の気を引くように心がけた。経験豊富そうな人妖全てに話を聞いた。そして実践した。……何処ぞの邪仙の話はかなり有力だった。今度また聞いてみよう。
閑話休題。
結果として、私は自分の持てうる限りの力を出してきた。そう、全て。文字通り全てだ。その力で彼の私を見る目が変わったかどうか、私の方を好きになってくれたかどうかは、私にはわからない。だが、時期的にもういいだろう。私も持てうる限りの力を、全てを出し切ったのだから。これ以上はない。
だがらこそ、告白を、自分の想いを伝えたいのだが……。
「……ぬあぁ。だめだ。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。大体彼の顔と目が合っただけでも顔を逸らしてしまうのよ!?そんな私にどうしろと!?」
遂には自問自答。これは相当きてる。限りなく恋の病の末期だ。末期症状だ。
「それもこれも全部あのスキマ妖怪のせい!そもそも何よあいつ、いつもいつも白い目で『貴方達って、ほんと、鈍感というか何というか……』なんて言って!!絶対にバカにしてるわ!今度会ったらただじゃおかないわよ!」
遠くから、えっ?なんて声が聞こえた気がしたが、気の所為。そう、きっと気の所為。だから私はあの妖怪を見つけて叩きのめす。そうよ、思い立ったが吉日。
私は自分自身の問題を一旦置いておくことにして、愛用の日傘を片手に、家で寝ているであろうスキマ妖怪の元へと向かった。帰りがけに、彼の店に寄っていくことももちろん忘れてはいない。
この日、幻想郷の空気が震えたのは、言うまでもない。
……実際のところ、告白のことが恥ずかしすぎたので、ただの照れ隠しのためにスキマ妖怪に罪を擦り付けたということは、彼女のみぞ知る。
これは風見幽香が……花妖怪が、恋を知った。そんな物語。
評価や感想等いただけると作者が狂喜乱舞して死んでしまいます(すいません嘘です喜ぶのは本当です)。息抜きだけど、精一杯やらせていただきました!