「……服装、よし。髪型、よし。日傘、よし」
鏡に写った自分の容姿を逐一口に報告しながらチェックをして、最後に笑顔を作る。それも、そんじょそこらの普通の笑顔などではない。そう、『彼』だけに見せる、最高の笑顔。
「……笑顔、よし!今日も張り切って行きましょうか!」
そう自分を奮い立たせて、玄関のドアを叩き、外の世界へと飛び出していく。季節は夏真っ只中。私の好きな季節。何故なら私の大好きな向日葵が咲き乱れる季節だからだ。
そして……。
ーーー彼が、最も多く来てくれて、そして、最も多く会いに行ける季節。
❁❀✿✾
『ありゃ、タイミングが悪かったねぇ。そこの花屋さんなら、ついさきほどどこかに出掛けてしまったよ』
「……ふんっ!」
ごすっ。
不機嫌だ。そう、誠に不機嫌である。朝は意気揚々とした気持ちで出掛けたはずなのに、今ではそんな気分も消失してしまい、あるのはただの理不尽な怒り。
「せっかく私が会いに来たのに、なんでいないのよ……!!」
ごすっ。
そうだ。そのとおりである。この私が、大妖怪たる私がはるばるここから数十キロも離れている太陽の畑からここ、人里まで来たというのに、肝心の彼がいないのである。
彼目的で来た私としては、それはもう、ガッカリだ。上げて落とされた気分だ。楽しみにしていた分、期待を裏切られた時のショックはでかい。
「……あーもう、イライラするわねぇ」
ごすっ。
そういうわけで今の私は、すこぶる不機嫌だ。それこそ、先程から道端にある石ころを蹴飛ばして、空の彼方へと吹っ飛ばしてしまうほど。何度も何度もごすっ、などという鈍い音とともに石ころが凄まじい速度で空へと飛んでいくが、知ったことか。
「……はぁ」
やめよう。石ころに八つ当たりしても、仕方がないこと。そう思い直し、彼が帰ってくるまでのあいだ、何をしようかなぁ、などと考えてみる。……と言ってもまあ、彼が何時頃帰ってくるかもわからないため、できればこの花屋から離れたくない。
玄関に『オープン』と書かれた板がぶら下がっているのを見ながら、私はそうひとりごちた。……うん?
「……オープン?」
つまり何か。この店は今、開いている、ということだろうか?いくらなんでもそれはない?いやいや、不用心すぎるし、それは流石に……いやしかし、もしそうだったら、気付いたものがなんとかしなくては。うん。
結論として、常連だから、まあ、大丈夫だろう。などという理由をつけ、彼の店へと勝手に入っていく私。もちろん、これは不法侵入という立派な犯罪だ。しかし私は妖怪。人間の常識など知ったことか。
結局好奇心に負けた私は、さらに店の奥へと行き、ついには、彼の部屋らしきところまでたどり着く。
「……ここが、彼の家」
だ、だめだ。意識したら、顔が赤くなってきた。結婚したらこの家に、いやそもそも付き合えるのか云々。そんなことを延々と考えてしまう。ほんとに私の心をかき乱すのが上手い人だ、彼は。
「さ、さてさて、彼のいない間に泥棒が入ってきて何かあさぐってないか、チェックしないとね!」
別に荒らされた形跡もないし、現時点で泥棒は私である。しかし、そんなものは関係ない。何故なら私は妖怪だから。人間の畏れるーー泥棒が畏れかどうかしらないがーーことをしてなんぼなのだ。ふっ。
……などと一人勝手に開き直っていたとき。見つけた。彼の机の、一番下のロッカーから大事にしてそうなノートが。……これは。
「日記、かしらね?」
うん。日記、ね。間違いないわ。日付まで書かれてるし。……それにしても、何かしらこのタイトル。向日葵日記?
そんな疑問を抱きながらも、私は、彼の書いた日記の一ページ目をめくった。
『〇月✾日
今日は美人なお客さんが来た。とても不思議な人だった。僕が話しかけると、きょとんとした顔でこちらを見たまま動かなくなったのだ。ちょっと面白かったのは内緒だ。今日はいい日なので、日記を書こうと思う。彼女が好きらしい花、向日葵にちなんで、向日葵日記、なんてどうだろうか』
『△月✾日
今日も彼女が来た。あいもかわらず、とても綺麗だ。何度か見惚れてしまっていたことも、しばしば。チラチラ見ていたの、ひょっとしてバレてしまったのではないだろうか?』
『□月✾日
今日も彼女が来た。最近よく来るようになったものだ。もうすっかり常連さんである。彼女との話はとても面白い。可愛いのにトークセンスがあるだなんて、羨ましい限りだ。外の世界では友達のいなかった僕には、とても真似出来ない。見習わなければ』
『◇月✾日
向日葵の種を送ってあげることにした。なので博麗製の御札を身につけて、太陽の畑に行くことにした。周りの人々からは止められたが、彼らが彼女を嫌う訳がわかない。とてもいい人なのに。とにもかくにも、向日葵の種を送ってあげたときに見せた彼女の満面の笑みは、一生忘れることはないだろう。それほどまでに、魅力的だったのだ』
『☆月✾日
気付けば彼女は、僕の隣にいて当たり前の存在になっている。ほんと、彼女にはいつも助けてもらってばかりで、こちらからは何もしてあげられていない。というわけで、明日、彼女の家まで訪れて、プレゼントを渡すことにしたのだ。ふっふっふ。かなり奮発したからな、彼女なら驚くこと間違いなしだ。……またあの時みたいな、とても綺麗な満面の笑みを、浮かべてくれるかな。あぁ、明日が楽しみだなぁ』
「ーーーっ!!」
前日の日記を見た後、急いで彼の店を飛び出した。
プレゼント……!!
なるほど。つまり彼は、今日、私にプレゼントを渡すために、太陽の畑に向かっていたのか。それで入れ違いになった、ということか。うんうん。なるほどなるほど。ふふ。全く、気にしないでいいのに。……なんて、強がってるけれど。
ーーーうれしいいいいいい!やったぁぁぁぁぁ!!
彼が私にプレゼント!?一体何かしら!!ふふ、今日はいい日だなぁ!!っていうか、あの日記!!可愛いって!綺麗って!美人だってぇ!!彼が私のことを褒めてくれた!やったわ!!最近自信無くしてたんだけど、そんなことはなかったわ!!あぁ、今なら私、なんでもできそうな気がする!
……最初の不機嫌などどこ吹く風、といった風に、くるくると踊るように空を飛びながら、私は自分の家へと向かった。
ーーー私のことを待っているであろう、彼と会うために。
幽香が、彼の部屋から出て行った後。その部屋の何も無いはずの空間から、突如、裂け目が入る。幻想郷で彼女のことを知っている者ならば、誰もが口を揃えて言うであろう。
ーーー『スキマ』、と。
「ふふ。慌てて出て行っちゃってまあ。彼女も立派な乙女、なのね」
鈍感すぎて、助力しちゃったけど、などと呟き、彼の店の玄関の鍵を閉める。自然な動きだ。そう、まるで、『鍵が空いていたのを知っていた』かのような。
「ま、こうでもしないと、彼女は行動的にならないからなぁ……見ているだけなのもいい加減焦れったいし。まあ、今回の刺激で、何らかの変化はあるでしょうね……まあ、もっとも?」
彼女は振り向き、彼の店の奥にある、彼の部屋へと目を向ける。正確には、その机の上に置かれている、日記を。
「彼女が最後のページを見ていれば……結果はもっと、変わっていたかも、ね?」
そうクスクスと面白そうに笑いながら、彼女はスキマを開く。今頃は馬鹿みたいなテンションで彼を困らせているであろう、乙女な友人を宥めに行くために。
『風見幽香さんへ
あなたが好きです。恐らく、あなたを見た瞬間から、好きになったのだと思います。それほどまでにあなたが魅力的であったからです。
花好きなあなたが好きです。
不器用だけど優しいあなたが好きです。
褒めると顔を真っ赤にするあなたが好きです。
風見幽香さんへ。僕が、もしあなたと付き合えたなら、僕は、あなたより先に死にます。それでも、そのあいだだけでも……あなたにとっては、たった一瞬でも。僕は、それでもあなたのことが好きです。
花屋の店主より』
どうですか?焦らしますよ、ええ。続きが気になるようにしているので(`・ω・´)キリッ。
感想、評価、批評、心よりお待ちしております。
P.S.
くそぅ!ゆうかりん転生(憑依)?ものを先に書かれてしまったぁ……!わがままを言えば、書いてるの先に出したかったぁ!……いやまあ、向日葵の咲く頃に、か、花妖怪、が終わり次第出す予定なので、まだまだ先でしたけどね:(;*'ω'*):。という変な話でした。