それでも見て下さる方は、どうぞ、ゆっくりしていってね!
「風見(かざみ) 幽香(ゆうか)さん!お願いします!僕を、僕を強くしてください!!」
「……は?」
ーーー太陽の畑に、ショタが来た。
……何を言っているのかわからないと思うが、いかんせん、当の本人である私でさえ何を言っているのかわからない。だが比喩にあらず、よって訂正もない。
ここ、幻想郷では危険地域に指定されている私の所有地、太陽の畑にショタ……子供が来たのだ。危険地域に、だ。ここ重要。
「……え?あなた、一人でここにきたの?」
「僕、人里で、女々しいっていじめられてて……そんな自分を、変えたくて、皆を見返してやりたくて、それでここに来たんです!!」
いや、理由は聞いてないのだけども。と思った私を、一体誰が責められようか。いやそもそも、こんなところに子供を来させる親って一体何なのかしら。人里では私、危険度極高の妖怪として知られてるはずなのに。
「お父さんにこのことを相談したら、ここにいる風見幽香さんは大変強いらしく、お前を強くしてくれるかもしれない、と言っていたので、ぜがひでもと思いました!!」
「……」
いや、明らかに冗談のつもりで言ったんでしょうよお父さん。と思った私を、一体誰が責められようか。いやだって、絶対冗談のつもりで言ったよねそれ。お父さんもまさか本当に私の元を訪れてくるとは思ってなかったよね。
……なんだか、頭痛がしてくるわ。まぁ、子供故に無邪気で純真無垢ってのもあるかもしれないけど。
そうねぇ……いくら好戦的な私でも、流石に子供を殺そうだなんて思わないし、ここは一つ、今日だけこの子の相手をしてあげることにしましょう。適当なこと言ってなにかそれっぽいことやれば、満足して帰るでしょうし。
「ふっ、この私の教えは厳しいわよ?ついてこれるのかしら?」
「ーーーは、はい!!ついていきます!どこまでも!!」
……可愛いわね。あれ、こんなに子供って可愛かったかしら。人間なんてどれも醜いものと考えてたんだけど、この子本当に人間?
って、そうじゃなくて。何かこう、それっぽいこと言わないと。
「いい?強くなりたいならまず、気持ちで負けてはいけないわ。これから返事は、はい、じゃなくて、押忍、にすること」
「はーーーお、押忍!」
やばい、ちょっと面白くなってきた。なんで子供ってこんなに疑うことを知らないのかしら。適当なこと言ってるだけなのに、それを必死に実行しようとするなんて。ふふ、押忍、って。ふふふっ、やばい、ちょっとどころじゃないかも。かなり面白い。
「ん、んんっ。じゃあまずは、腕立て伏せからいきましょうか?」
「押忍っ!!」
わざとらしく咳払いをして気を取り直した私は、それっぽいことをするために、古今東西強くなるためにはこれ、と紫が言っていた腕立て伏せをさせることにした。もちろん、私は見ているだけだ。
「準備はいい?」
「お、押忍っ!!」
「じゃあ行くわよ。よーい、始め!」
手をぱんっ、と叩き、始まりの合図を出す。そして目の前で四つん這いになっている子供は腕立て伏せを始めて……始め、て。
「ぬ、ぬぬぬぬ!い、いぃぃぃ、ち!!ひぃ、に、に、ににに……!!」
「……」
吹き出さなかった私を、どうか褒めて欲しい。体をプルプルとさせながら、必死に腕立て伏せをしようとするも、筋力がよほどないのだろう。二回目にいけるかどうかもわからないほど、彼の体力は限界に近付いていた。ちなみに私もプルプルと震えているが、これはもちろん、笑いを堪えているのだ。だって面白すぎるもの。
……ううん、でも。流石に腕立て伏せ二回すらできないのはねぇ。そりゃ女々しいって言われるわ。
「ほーら、あと八回は頑張りなさい!」
「ーーーええ!?そ、そんな、無茶です!!」
「男が甘ったれたこと言わない!喝を入れてあげるわ!頬を出しなさい!!」
「うう……お、押忍!!」
生意気にもそう口答えをしてきた少年に対して、喝を入れようとビンタをすることに決めた。古今東西、こういった熱血っぽいものにするためには、ビンタをするのだと紫から聞いたからだ。
まあ私自身、この子の腕立て伏せを見た時に、せめてもうちょっと強くなって欲しいと思ったからというのもあるが。だからこそ、もっと強くなれるよう、ビンタで喝を入れよーーー
「ん、んんっ……!!」
「……」
目をつぶってこちらに頬を差し出し、これから来るであろう痛みに耐えるため、それでいてその恐怖から逃げないために、必死に体をプルプルと震わせているこの子に私は……ビンタを、なんて。
ーーーできるわけないでしょ!?
え、ええ?な、なにかしらこれ、この生き物。あれ?こんなに可愛かったか?なんでそんな必死に体をプルプル震わせてるのよ。なんでそんな目をつぶってこちらに頬を差し出してるのよ。いやいや、なにこれ。ほんと、なんなんだこれは。
「……えい」
「ーーーぬぇっ!?ぬぁにふるんですかぁ!」
……とりあえず、頬をむにむにしてやった。目をつぶる前に見た私が、腕を振り上げていたからだろう。ビンタが来ると思っていたこの子は、まさか頬をむにむにされるとは思っていなかったためか、素っ頓狂な声を出して驚いていた。
いや、しかし。なんだこの頬は。むにむにしててすべすべではないか。なんという肌の質感。ずっと触っていたいくらいだ。……って、こら。何気持ちよさそうな顔してるのよ。むにむにさせるの好きなのかしら、可愛い……ーーーって、
「ちがぁぁぁう!!」
「う!?ど、どうしたんですか!?」
「はぁ……はぁ……いえ、なんでもないわ。危うく殺られるところだったけど」
私の中の何かが、だけど。いや、ほんと。あのまま続けていれば、一体どうなっていたことやら。子供、恐るべし。
……よし、気を取り直そう。強くなるための続きをしなければ。
「ん、んんっ!よ、よーし、次は腹筋よ!」
「押忍!!」
むぅ、こんなに必死だと、そんなところまで可愛く思えてきたわね。って、落ち着け私。それがいかんと言っているだろうに。理性を保て。
よし、とりあえず腹筋の形はできたわ。あとはこの子がどれほどやれるかなんだけど……まぁ、お察しかな。この分だと、背筋もできるかどうか。
「じゃあ腹筋、よーい、始め!」
「……う、ううう、ぬうううう!」
……だから、その掛け声はなんなのよ。必死すぎて笑えるからやめなさい。あと可愛いからやめなさい。ええいやめなさい。そんなに体を震わせるなと言ってないけど言ってるでしょうが。
「男がそんな甘ったれた声を出してどうするの!今度こそ喝を入れてあげるわ!!」
「は、はひぃ!?……うう!」
腹筋の体制のまま、ビンタをしようとするも、先ほどより怖くなったのだろう。顔を横に向けて、プルプルと震えている。……いや、ほんと、やめなさいそれ。ビンタできない。できないから。くっ、代わりに頭を撫でてしまうじゃない。
「……髪サラサラね」
「……んぅ」
だからその気持ちよさそうな顔をやめなさい。目を細めるな。ほんとに、真剣に。もっとしたくなっちゃうでしょうが。あれか、子供とはこんなにも私を惑わせる生き物だったのか。恐ろしすぎる。
「ゆ、幽香さん!!」
「ーーーふ、ふぁい?な、何かしら急に。びっくりしたじゃない」
あれから頭を数分間撫でていた時、ふと、この子が大きな声を出して、撫でていた私の手を握ってきた。更に、そのまま体をこちらに寄せて、迫ってきたではないか。これじゃまるで、私が押し倒されてるみたい……って、な、何よその真剣な目は。ちょ、か、顔近いわよ?なんでそ、そんな、急に男らしい顔つきになるのよ。ドキドキするからやめなさい。
「さ、さっきから僕を、甘やかしてませんか!?腕立て伏せもちゃんと最後までしてないのに許すし、腹筋だって全然できてないのに頭を撫でるし!……そ、その、気持ちよかった、ですけど」
最後ぼそっと言ったの聞こえてるわよ。妖怪の聴覚を舐めてはいけない。可愛すぎるわよ、反則。
……まぁ、図星だ。甘やかしてしまっている。ついつい。だって仕方ないじゃない。まさか人間の子供がこんなに可愛かったなんて思ってなかったんだし。私だって努力したけど、結局甘やかしてしまうのよ。
だがしかし、この子にはそれが不満なのだろう。この子は人間だから、それを考慮してるんだけど、それでも甘やかしてしまう私が確かに悪いわ。
「もっと、その、厳しくしてください!!そうじゃないと、強くなるなんてできません!!」
「で、でも、あなたは人間なんだからーー「か、関係ありません!!」ーーええ?」
「僕、その……幽香さんになら、めちゃくちゃにされても、構いませんから!!」
「……ちょ、は、はぁぁぁぁぁ!?」
いきなりのめちゃくちゃにしていい発言に、狼狽してしまう私。そりゃ、こんな可愛い子にめちゃくちゃにしていいですよ、なんて言われた日には、私は自分の理性を抑え切れる自信が無い。あ、今がそれか。
……それにしても、めちゃくちゃ、か。め、めちゃくちゃにしていいののよね?なら、遠慮しないわよ、ってそうじゃなくて、何を言い出すのかしらこの子は。あれか、誘っているのか。この私を誘っているのだろうか。そうだ、そうに違いない。
だが、私も大人。ここはグッと自分の要望を抑えて、この子を諭さなければいけない。
「そういう発言は、その、この人しかいないって人に言いなさい」
だからこそ私は、そう言った。好きな人に、大切な人にそう言え、と。……まぁ私には、そんな人いないけどね。好きになったこともなければ、そんな感情抱いたこともないし。ふふ、一生独身か、ふふふ。
話が逸れてしまったが、とにもかくにも、今のこの状態をどうにかしなければ。めちゃくちゃ発言で忘れがちだったが、今の私、顔を俯かせてしまったこの子に、現在進行形で押し倒されてるのよね。大妖怪の威厳もないわ、こんな姿。それに、流石の私も、この体勢はかなり恥ずかしい。
そう思っていた時、私の言葉に顔を俯かせていた彼は、突然ばっと顔を上げてーーー
「僕には、幽香さんしかいないんです!!!」
ーーーそれは、唐突な、愛の告白だった。
「……え、ええ、と。そ、その、それは、どういう、意味、かしら?」
あまりにも唐突すぎて、頭の中が、まっ白になる。なってしまう。でも、でも。すごく、ドキドキしてしまう。
な、何、急にドキドキしてんのよ私。相手は、子供、なのよ?しかも、今日会ったばかりの。そりゃ、さっきは、なんか真剣な顔してたから、男らしい顔つきに、なってたけども。
「そのままの意味です!!」
「う、うえっ?」
やばい、変な声が出る。恥ずかしい。っていうか近い。やめて、そんなに迫らないで。な、なによ、なによこれ。これじゃ攻守逆になったみたいじゃない。こ、この大妖怪たる私が、こんな人間の子供相手に。
「……やっぱり、だめ、ですか?」
「ーーーっ!!」
そ、そんな悲しそうな顔をしないでよ。こっちまで悲しくなるから。そ、そんな、涙ぐんだ上目遣いで迫られても、そんな、私は……!
「え、ええ、と……よ、よろしく、お願い、します」
違う違う違う。そうだ、これは、その、あれだ。この子があと数年すれば立派な青年になるんだから、その、それを見越しての付き合いなのだ。そうだ、そのとおりなのだ。
「えへへ、これからも一緒によろしくお願いしますね、幽香さん!!」
「……は、はい」
ーーーだからその笑顔、反則なのよ、ばか。
……後に、紫はこう語る。
『逆光源氏計画とは、やるわね幽香』と。
子供って可愛いよなぁ、って思ってたら出てきた話でした。まる!
花妖怪の君と、の方は、近日更新致します!楽しみにしていてくださった方々は、どうもすいませんでした!
あと、これは関係ない話なのですが、昨日からツイキャスなるものを入れておりまして、今日の夜11時30分頃に、やろうと思っております!声とかどんなのだろ、とか気になる方は、お気軽にきてください!
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