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第1話 手紙が来るそうですよ?
「……ふっ……くあぁ……ん~暇ねぇ……」
春の風薫るなか、人里離れたとある山奥に構えられた屋敷の縁側で一人の少女が欠伸と共に暇をもて余していた。
「あ~暇過ぎて死んじゃう。やることも無いし久しぶりに人里に下りてみようかしら」
「でもこの間私が妖怪だっていうのバレちゃったしな~。行きつけの茶屋ももう行けないよね~」
自分の事を妖怪と言った少女の頭には猫を思わせる耳があり、腰には二つに別れた尻尾が覗いていた。
少女は所謂、猫又と呼ばれる存在である。
「大体人間なんて食べないっての。いつの時代の妖怪よ、それ」
どうやら以前の出来事に対して思う所があったのか、少女は愚痴り始めてしまった。
「それに…………ん?」
すると少女の元に一通の手紙が風に流されて飛んできた。
宛名には東雲鈴香様と書かれていた。
東雲鈴香というのは人里に行くにあたって名乗っていた名前である。
「なにこれ? 私宛? しかもまったく気配を感じなかったなんて」
鈴香が疑問に思うのも無理はない。何せこの場所は地元の人間ですら滅多に近づかないうえに鈴香自身が妖術で作り上げた認識阻害の効果を持つ結界で囲んでいるためだ。
侵入者が居れば真っ先に気づく筈にも関わらず自分に悟られずに手紙を運んできた、鈴香はこの事実に疑問以上に興味と好奇心を抱いた。
「……あはっ♪ なにこれ、誰の仕業? 面白いじゃない♪」
さっきまでの退屈そうな顔は何処かに消え、喜色満面の表情で手紙を見つめる鈴香。その様子はまるで母親に欲しかった玩具を買って貰った子供の様だった。
「ん~見たところ強制転位の術式が仕込まれてるみたいね。スキマ妖怪のあれみたいに探知できない訳じゃないだけ幾らかマシね。……そういえばあの子は夢を果たしたかしら?」
鈴香の頭には以前面倒を見たスキマ妖怪の女の子を思い出していた。
「確か人間と妖怪が共生出来る世界を創るって言ってたわね」
(あの子の夢を聞いた時、面白い事をいう子だって思ったわね。人間は妖怪を恐れ、妖怪は人間を見下すのが当たり前なのにあの子は共生する未来が見たいと言うんだから)
「あなたは今、何をしてるのかしらね。紫?」
そして鈴香は手紙の解析をざっと済ませると荷造りに入った。荷造りと言っても愛用の刀を異空間にしまいこみ、友人の鴉天狗に譲ってもらった扇子を着ていた浴衣の帯に差し込む程度なのだが。
「さて、と。この手紙は私を何処に連れていってくれるのかしら」
鈴香はそんな期待と共に手紙の封を切った。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その
己の家族を、友人を、財産の全てを捨て、
我らの"箱庭"に来られたし』
視界は間を置かずして開けた。
そして鈴香と他に三人と一匹は地上4000m程の位置で投げ出された。
彼方に見えるは断崖絶壁。
眼下に広がる未知の都市。
目の前に広がるのは完全に、異世界だった。
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