猫又少女も異世界から来るそうですよ?   作:グリアノス

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第12話です。

今回はあの人がキレます。ヤバイくらいキレます。


第12話 ブチギレたそうですよ?

あの後、本拠に戻ってきた鈴香は手始めに耀の容態を確認していた。黒ウサギはウサ耳をシャキンと立てて耀の状態を説明する。

 

「黒ウサギ、耀の様子はどうなの?」

 

「はい、鈴香さんが傷を塞いでくれたので増血を施すだけで済みました! 今は眠っておられるのですよ」

 

「そっ、なら良いわ。それじゃあ今度はあの二人についてね。とりあえず私達も談話室に行きましょうか」

 

鈴香はそう言うと黒ウサギを伴って談話室に向かった。

 

 

 

 

 

一方ジンと十六夜は談話室に案内した二人と向かい合っていた。二十代位の若い夫婦が何故ノーネームに入りたいなどと言うのか、それを知るためにジンは気を引き締め、十六夜は目を細めて二人を見つめていた。

 

「では先ず、自己紹介をお願いします」

 

「分かった。俺の名はテオ=クライン。こっちは」

 

「妻のリーナです」

 

「テオさんにリーナさんですね。お二人はどうしてうちのコミュニティに?」

 

そこに遅れて鈴香と黒ウサギがやってくる。

 

「おお、東雲に黒ウサギか。春日部の様子はどうだ?」

 

「問題ないわ。今は眠ってるそうよ」

 

「そうか。無事ならそれで良い。っと、話の腰を折って悪いな」

 

話の腰を折ったと謝罪する十六夜に対してテオは首を横に振る。

 

「いや、構わないさ。仲間が負傷したんだろう? 心配するのは当然だ」

 

「気遣い感謝するわ。ジン、話はどこまで進んだの?」

 

「今、お二人の名前を聞いてどうしてうちに入りたいのかを聞こうとしてたところです」

 

「ああ、俺達がここへの加入を希望したのは(ひとえ)に恩を返したいからだ」

 

「恩、ですか?」

 

ジンが聞き返すとテオとリーナは突然頭を下げた。いきなりの事にジンや黒ウサギは戸惑いを隠せない。

 

「お、お二人共!?」

 

「い、一体何を!?」

 

「皆さん! 娘の仇を討っていただき誠にありがとうございました!」

 

「何も出来なかった私達の代わりにガルドを討ってくれてありがとうございます。きっと、きっとこれであの子も……くぅ……ぅぅぅ…………」

 

次第に涙を堪えられなくなったのか涙を溢しながら礼を言い続けるテオとリーナ。そんな二人に十六夜は軽薄な笑みを消して声を掛ける。

 

「お前らはどうしてフォレス・ガロに居たんだ? 他の同士はどうした?」

 

「俺達は家族でコミュニティを営んでいるんだ。だから同士は妻以外にはもういない」

 

「元々私達は箱庭を旅してまわっていたため、決まった本拠を持たないんです。フォレス・ガロには一時の宿り木として籍を置いていたのですが……」

 

「そこでガルドに、って訳か……」

 

「はい」

 

彼等にとっては一時期のつもりでもガルドはそれを許さなかったという事だろう。或いは彼等がサウザンドアイズに行っていればこのような事にはならなかったかもしれない。

 

「そうか。恩を返したいというのは分かった。だが俺達は名と旗を取り戻すために魔王と戦わなければならない。当然命の保障もしかねる。それでもか?」

 

十六夜は命が惜しければ止めておけと警告するがそれでも彼等の意志は固かった。テオは十六夜の目を見据えながら言葉を発する。

 

「それでも、だ。それに俺達は命の恩義には命を懸けて返すものだと思ってる」

 

「…………御チビ、コイツらは何を言っても揺るがねえよ」

 

「…………分かりました。ジン=ラッセルのノーネームはテオ=クライン、リーナ=クラインの両名の加入を認めます。僕達はお二人の加入を歓迎します」

 

ジンの決定を受けてテオとリーナは一礼と共に宣言する。

 

「ああ、テオ=クライン、リーナ=クラインは今日よりジン=ラッセルのノーネームに参加する! 俺達の命、君に預けるぞ!」

 

「はい、よろしくお願いします。 主なメンバーの紹介は皆が揃った時にするとして……黒ウサギ、僕は彼等を部屋に案内して来るよ」

 

「分かりました。よろしくお願いしますねジン坊っちゃん」

 

「よろしくなリーダー。しかしまさかノーネームに月の兎が居るなんてな」

 

「そうですね。もしかしたら此処は大手のコミュニティだったのかもしれませんね」

 

テオとリーナはジンと他愛ない会話をしながら談話室を後にする。そして彼等が居なくなった後、その場に残ったのは十六夜、鈴香、黒ウサギの三人である。残った三人から出てくる話題は当然先程の二人の事である。

 

「思わぬところで新しい同士が加わったわね。これはなかなか嬉しい誤算だわ。人となりも信用出来そうだし」

 

「信用出来るか云々は俺には判断はつかねえな。だがまあ、戦える戦えないは別にしてもうちは人材不足だからな。人手が増えるのはありがたいな」

 

「YES! 十六夜さん達に続いて新たな仲間が増えましたし、これからはもっと賑やかになるのですよ♪」

 

「そうね。ところで黒ウサギ、例のゲームはどうなったの?」

 

十六夜達はにこやかに談笑していたが、鈴香が仲間が出品されるゲームについて言及するとご機嫌だった黒ウサギのテンションがウサ耳と共に急降下した。何でも申請に行った先でゲームが延期される事を知ったそうだ。十六夜はつまらなさそうに鼻を鳴らし、鈴香は一つ溜め息をついた。

 

「それに今は延期とされてますが巨額の買い手が付いたらしいですからこのまま中止になる可能性が高いです」

 

そう言って落ち込む黒ウサギ。彼女のウサ耳もどこか萎れている。

 

「おいおい、主催者サマも随分とつまらない真似をしてくれるじゃねえか。白夜叉にでも言ってなんとかならねえのか?」

 

「恐らくどうにもならないかと」

 

「ふん、見世物屋としては三流以下ね。超大手の商業コミュニティが聞いて呆れるわ」

 

鼻を鳴らしながら独りごちる鈴香も遠慮無しに毒舌を吐く。

 

「仕方ないですよ。サウザンドアイズは群体コミュニティですから。あそこの構成は白夜叉様のように直属の幹部が半分に、傘下のコミュニティの幹部が半分なのですよ。今回のゲームの主催は傘下のコミュニティである“ペルセウス”。たとえ双女神の名に傷が付いても構わない程の金品やギフトが手に入ればゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

悔しそうにしながらも達観したように言う黒ウサギに十六夜も諦めるしかないかと胸の内で思う。

 

「…………さすがに今回は厳しいか。で、仲間ってのはどんな奴だったんだ?」

「そうですね、どんな方かと聞かれればスーパープラチナブロンドの美人さん、といったところでしょうか。その手触りはまさに絹糸の如く。湯浴みの際には濡れた髪が星明かりを受けてキラキラと輝くのですよ」

 

「へえ? そいつは一度見てみたいもんだな」

 

「そうね。湯浴みでなくともあれだけ綺麗なんだし」

 

「へ?」

 

黒ウサギは微妙に噛み合わない事を言った鈴香に対して間抜けな返事を返す。鈴香はそんな彼女に窓を見るように促す。

 

「あっちあっち」

 

「おやおや、彼女にはバレてしまったか」

 

二人が窓の外を見ると、そこには観るものを魅了するように笑う金髪の少女が居た。

 

「レ、レティシア様!?」

 

「様はよさないか。今の私は他人の所有物だ。箱庭の貴族に様付けで呼ばれるような身分はしていないよ」

 

黒ウサギは慌てて窓に近づき、備え付けられた錠を開ける。そそっかしい奴だと苦笑しながらレティシアと呼ばれた少女は談話室に入った。

 

「窓から入室する無礼を許してくれ。ジンには見つからずにお前に会いたかったんだ」

 

「いえ、お気になさらないでください。すぐにお茶を用意しますので少々お待ちください!」

 

以前の仲間と久しぶりに会えた喜びを滲ませ、黒ウサギは軽快にステップを踏みながら茶室に向かった。

 

「ふふ、ああいう反応をされると少しむず痒いな。っと、どうした? 私の顔に何か付いているか?」

 

「いや、大した事じゃねえよ。ただ評判通りの美人、いや、美少女だと思ってな。所謂、目の保養ってやつだ」

 

「ふふ、なるほど。なかなか嬉しい事を言ってくれる。正直な奴は好きだぞ?」

 

「…………む」

 

十六夜とレティシアの会話にどこか面白くないものを感じる鈴香。その反応を目敏く拾っていたレティシアはスッと目を細めた。しかしそうしていたのも一瞬の事。レティシアはすぐに表情を変えて十六夜に向き直った。

 

「(…………ほう?)で、君が十六夜だな? 全く白夜叉の言う通りの男だ。ところで観賞するなら黒ウサギやそこの彼女でも良いんじゃないか? 二人共なかなかお目に掛かれないような美少女だろうに」

 

「確かにな。だが東雲はともかく黒ウサギは弄ってナンボだろ」

 

「ふむ、否定はしない」

 

「否定してください!」

 

「諦めなさい黒ウサギ」

 

「そうはいきません!」

 

ティーセットを持ってきた黒ウサギはあんまりな言われようにウサ耳を逆立てて怒る。

 

「それにレティシア様と比べれば世の女性の大半が観賞価値の無い女性でございます。私達だけが見劣りするわけではありませんっ」

 

「いや、そういうつもりで言った覚えはこれっぽっちも無いんだがな。俺の好みでいうならお前らの方が断然好みだぞ?」

 

「…………そ、そうですか」

 

「ふふっ♪ ありがと」

 

不意打ちとも言える誉め言葉に頬とウサ耳を紅く染める黒ウサギに、誉め言葉に満更でもないと頬を綻ばせる鈴香。その様子にレティシアはなんとも言えない表情になる。

 

「いやはや、なかなか隅に置けない男だな君は。美少女二人にこうも想われるのは男冥利に尽きるのではないか?」

 

「そうだな。悪くない気分ではある。が、お前はそんな話をするために来たわけじゃないんだろ?」

 

「そ、そうです! して、どのようなご用件でしょうか?」

 

「いや、用件というほどのものではない。ただ確かめたかったんだ。新生コミュニティがどれ程の力を持つのか、私はそれが知りたいんだよ。ジンに会いたくないというのは会わせる顔が無いからだ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

 

ジンや黒ウサギは予想していたが、木々を鬼化させたのはレティシアの仕業だった。

 

「黒ウサギ達がノーネームとしてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、私は憤りを感じたよ。なんと愚かな真似を、とな。コミュニティを解散させるためにお前達を説得するつもりだったが、接触する前に看過出来ぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者が同士としてコミュニティに参入した、と」

 

「所有される…………接触する前に…………なるほど、白夜叉の差し金ね?」

 

鈴香の確信を持った問い掛けにレティシアは隠すことなく答える。

 

「その通りだ。ああ、これは内密にな? 白夜叉にも迷惑がかかる。話を戻そう。そこで私は一つ試したくなったんだ。その新人がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかをな」

 

「で、結果は?」

 

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。こうして足をはこんだは良いが、さて私はどうしたものか…………」

 

介入しても今一つ画竜点睛を欠くこの状況にレティシアはどうにも困り顔だ。そんなレティシアに鈴香は声を掛ける。

 

「貴女は迷ってるのね」

 

「迷う? 私がか?…………いや、そうかもしれないな」

 

レティシアは果たそうと思っていた目的を果たせず、しかし今更当初の黒ウサギ達を諭すということも出来ない現状にどうしたら良いのか知らず知らずの内に分からなくなっていたのである。それを鈴香に指摘されたことで己のなかの言い様の無い感情を理解した。

 

「レティシア、貴女の迷いを払う方法があるわよ?」

 

「何?」

 

「簡単な話よ。私達を再び試せば良い。今度は元・魔王たる貴女自身の力でね。早い話、頭で考えて駄目なら自身の体で感じる他ないでしょう?」

 

ポカンと惚けた顔をするレティシアだったが、鈴香の意図を理解すると一変して哄笑を上げた。

 

「くくっ…………なるほど、それは思いつかなかったな。頭で駄目なら体で、か。実に分かりやすい。下手な策など最初から要らなかった、というわけか」

 

「おいおい、随分と楽しそうな話をしてるじゃねえか。俺も交ぜろよ」

 

「ちょ、ちょっと皆さん?」

 

黒ウサギが何か言ってるがとりあえず無視だ。というのが今の十六夜達の心境である。故に黒ウサギを放ったまま着々と話は進む。

 

「ルールはどうするの?」

 

「そうだな、双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

 

「そして地に足を着けて立っていた奴が勝者、だな?」

 

「単純で良いわね。それでいきましょう」

 

三人はニヤリと好戦的な笑みを交わし合い、窓から中庭に降り立つ。

 

地に足を着ける二人に対して一人空に在るレティシア。その姿は夜空を支配する吸血鬼の名に恥じないものだ。

 

「へえ? 箱庭の吸血鬼は翼が生えてるのか?」

 

「あるぞ。だがまあ、翼を用いて飛んでいるわけではないがな。制空権を取られるのは不満か?」

 

「私も飛べない事もないけど地面に立ってる方が良いからこのままで良いわ。それにこういうのは飛べない方が悪いんだから気遣いは要らないわ」

 

「ちょっと待て、お前も飛べんのかよ。猫又が飛ぶなんて聞いたことねえぞ」

 

「方法はレティシアとそう変わらないと思うわよ? ただ空気を妖気で固めてそれを足場にするだけだし」

 

二人の様子を伺いながらレティシアは金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを取り出す。

 

(気構えは十分だな。さて、コイツらの実力は如何に、といったところか)

 

「レ、レティシア様!? そのギフトカードは!?」

 

「下がれ黒ウサギ。単なる力試しとはいえ、これも決闘だ。邪魔をするのはお前といえど許さん」

 

レティシアは黒ウサギに目もくれずにそう言うとカードからランスを顕現させる。

 

「確認だ。互いにランスを一打投擲し、受け手は止められねば敗北。相違ないな?」

 

「ああ、とりあえず俺からだ。良いな東雲」

 

「好きになさい」

 

「よし、では先手は譲って貰うぞ」

 

「構わねえよ」

 

ランスを掲げるレティシアは呼吸を合わせ、翼を大きく広げる。そして自身の力を余すことなくランスに乗せ、十六夜に向かって打ち出す。

 

「……スゥ────ハァッ!!」

 

渾身の気迫を込めて放たれた槍は空気の層を貫き、摩擦で穂先を赤く染めながら十六夜に向かって突き進む。それはまさに流星の如く。常人がその身に受ければ触れた瞬間に砕け散る一撃を前に十六夜は、

 

 

 

 

 

 

 

犬歯を剥き出しにして笑い、

 

 

 

 

 

 

「ハッ────しゃらくせえッ!!」

 

 

 

 

 

 

正面から殴りつけた。

 

 

 

 

 

「「────は?」」

 

素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。しかしありのままの光景を受け入れられないのも当然だろう。目の前の少年は大気の壁を易々と貫く速度で放たれた槍の穂先を素手で殴りつけて、あろうことか一撃で砕き、弾き返したのだから。

 

(ま、まずい!)

 

馬鹿馬鹿しい破壊力で砕かれた槍は散弾銃の様に無数の凶器となってレティシアに牙を剥く。

 

受け止める?

 

いや、これは受け止められない。

 

なら避けなければ。

 

しかし体は動かない。

 

(こ、これほどのものか…………)

 

第三宇宙速度に匹敵するほどの速度で迫り来る凶弾を前にレティシアはただ見ていることしか出来ない。しかし同時に安堵した。これほどの力ならば或いは、と。

 

レティシアは目の前の凶弾に蹂躙され、血みどろになって地に落ちる己の姿を幻視するが、

 

「全く、やり過ぎなのよ。貴方は」

 

彼の傍らに居たはずの少女が迫り来る鉄塊を一つ残らず蹴り砕いた事で事なきを得たのだった。

 

地に降り立ったレティシアは自分を助けた目の前の少女に目を向ける。

 

(あれを蹴りで全て叩き落とした…………この少女もまた)

 

鈴香を見つめながらそんなことを考えるレティシアだったが、傍に駆け寄ってきた黒ウサギによってその考え事は中断される。理由は黒ウサギの手にあるレティシアのギフトカードの為だ。

 

「く、黒ウサギ! 何をする!」

 

当然レティシアも黒ウサギに対して抗議するが、黒ウサギは構うことなくギフトカードを見つめ、震える声で読み上げる。

 

「……ギフトネーム・“純潔の吸血姫” やはりギフトネームが変わっている。鬼種こそ残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ…………」

 

知られたくない事を知られたくない相手に知られたと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜は先程に続いて肩透かしを食らった気分で声を掛けた。

 

「なんだよ、コイツのギフトって吸血鬼のやつしか残ってねえのか?」

 

「武具はいくつか残ってますが、自身に宿る恩恵は……」

 

「道理でね。仮に魔王と呼ばれた存在があの程度の力しかないなんて考えづらいとは思ったけど、弱体化してたのね」

 

「なんだよ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのか?」

 

「いいえ、その身に宿すギフトは謂わば魂の一部、合意なく奪うことなど魔王であっても不可能です」

 

それはレティシアが自らギフトを手放した事に他ならない。レティシアは三人の視線を受けて気まずそうに目を逸らす。

 

「まあなんだ、とりあえず屋敷に戻ろうぜ? 話なら腰を落ち着けてした方が良いだろ」

 

「……そう、ですね」

 

十六夜の提案に黒ウサギは沈鬱そうに頷くのだった。

 

黒ウサギ達は中庭から屋敷に戻ろうとするが、次の瞬間、異変が彼女達を襲う。

 

突如として遠方から差し迫る褐色の光にレティシアは焦ったように叫ぶ。

 

「ゴーゴンの威光!? まずい、見つかった!」

 

焦燥の声と共にレティシアは三人を庇う様に立ち塞がる。

 

「そんな!? 駄目ですレティシア様!」

 

黒ウサギの叫びも虚しく、褐色の光を全身に浴びたレティシアは物言わぬ石像に変えられた。さらに光の差し込んだ方向から翼をあしらった靴を装着した男達が大挙して押し寄せてきた。

 

「居たぞ! 吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

 

「例のノーネームはどうする?」

 

「邪魔をするなら斬り捨てろ!」

 

「おいおい、生まれて初めてオマケ扱いされたぜ。新たな体験をありがとうと言うべきか、怒りに任せて叩き潰すべきか、黒ウサギ、お前はどうすれば良いと思う?」

 

「と、とりあえず本拠に逃げてください! 鈴香さんも!」

 

「……………………」

 

黒ウサギは十六夜の手を引いて本拠に押し込もうとするが、鈴香は何も言わず、そして一歩も動こうとはしなかった。その視線は石像と化したレティシアに縄を括り着ける男達に向けられる。

 

「これでよし…………危うく取り逃がすところだったな」

 

「……………………」

 

「ギフトゲームを中止してまで用意した大口の取引だ。失敗すればサウザンドアイズに我らペルセウスの居場所は無いぞ」

 

「……………………」

 

「それだけじゃない。箱庭の外とはいえ、相手は一国規模のコミュニティだ。もしも奪われでもしたら」

 

「箱庭の外ですって!?」

 

「……………………」

 

黒ウサギの叫びに男達の手が止まる。彼等の目に明らかな敵意が宿る。しかし黒ウサギは彼等の敵意など気にも留めずに抗議の声を上げる。

 

「一体どういうことです!? 吸血鬼は、箱庭の騎士は箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!? その吸血鬼を箱庭の外に連れ出すとはどういう心積もりです!?」

 

「……………………」

 

「黙れ。これは我等の頭目が決めたこと。部外者に文句を言われる筋合いなど無い」

 

「……………………」

 

本来なら本拠への不法侵入などコミュニティへの侮辱行為であり、当然世間的にも宜しくない。商業コミュニティである彼等がこんなことをするということはノーネームを見下していることに他ならない。

 

「こ、この…………これほど無礼を重ねておきながら詫びる一言すら無いのですか!? 双女神の旗をなんだと思っているのですか!!」

 

「……………………」

 

「ふん、こんな下層のコミュニティに払う敬意などハナから持ち合わせてなどいない。身のほどを知れ“名無し”が」

 

「……………………」

 

この一言で黒ウサギの堪忍袋の緒が切れた。如何に穏和で献身的と言われる箱庭の貴族でもコミュニティやレティシアに対する数々の無礼に何も言わないわけもない。

 

「な、なんですって…………」

 

「……………………」

 

「ふん、戦うというのか?」

 

「愚かな。名無しごとき我等の敵ではないぞ」

 

「恥知らず共め。我等の御旗の下に成敗してくれるわ!」

 

口々に罵る彼等は旗印を大きく掲げ、陣形をとるように広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そうか。それが貴様らの選択か」

 

 

 

 

 

 

一瞬、誰が発した言葉なのか理解出来なかった。空を舞う騎士達も、怒りに震える黒ウサギも、黒ウサギを止めようと近づいてきた十六夜も。

 

当然、言葉を発したのは鈴香である。

 

しかし普段の彼女からはあまりにもかけ離れた雰囲気にコミュニティの同士である黒ウサギや十六夜ですら一瞬、理解出来なかった。

 

それを理解したのは彼女から天を衝くほどの妖気が立ち上ってからだった。

 

周囲には重苦しい重圧がのし掛かる。対象に例外はない。

 

ペルセウスの騎士達も、

 

黒ウサギも、

 

十六夜ですら冷や汗を流しながら立ち竦む。

 

騎士達はのし掛かる重圧に既に満足に飛ぶことも出来ずに一人、また一人と地に落ちていく。

 

「随分と舐めた真似をしてくれたな小僧共。余程命が惜しくないとみえる」

 

十六夜と黒ウサギはなんとか気を保ってゆっくりと振り返る。

 

「「ッ!!」」

 

そこには誰が見ても分かるほどに、いや、分かってしまうほどに怒りを露にした鈴香がただ立っていた。

 

その眼は夜でありながら鮮血の様に赤く、紅く輝いている。

 

「さあ、小僧共。辞世の句は紡いだか?」

 

鈴香はそう言うと口をニィ、と歪める。

 

「う、うわあああああああああああああああああ!?」

 

誰かが発した叫びに皆が我先にと一斉に逃げ出す。

 

「なんだコイツは!?」

 

「やめろ、来るな、来るなあ!!」

 

「ああああああああ!?」

 

騎士達は目の前の存在から逃げようと、逃れようと走り続ける。

 

もはや交戦の意思など何処にもなく、あるのはまとわりつくような死に対する恐怖心である。

 

「何処に行くのだ? まさか逃げられるとでも思っているのか? ……めでたい奴らだ」

 

鈴香の目の前には腰が抜けて立つことすら儘ならない一人の騎士が居た。

 

騎士に対して鈴香のその手が伸ばされた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ、娘」

 

 

 

 

最強の階層支配者、太陽と白夜の星霊・白夜叉が現れた。

 

 




読んでいただきありがとうございます。


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