自分なりに改変するのが難しい事難しい事、他の作者様って凄いですね。
それでは第15話、楽しんでいただければ幸いです。
「ねえ十六夜、貴方はどっちと戦いたい?」
鈴香はルイオスとアルゴールから目を離さないままどちらと戦いたいかを十六夜に対して問いかける。
「そうだな…………見たところあのお坊っちゃんもそこそこ面白そうだがどっちかって言えばアルゴールだな」
「そっ、なら私はペルセウスね」
「決まりだな。それじゃあ俺を楽しませろアルゴール!」
そう言うと十六夜はアルゴールに向かって駆け出し、戦い始めた。
ここで二人が連携ではなく各個撃破を選んだのにもいくつか理由がある。
まず一つ、それは二人がお互いの戦い方を把握しきっていない、という点だ。連携とは相方の行動を正確に把握し、それに合わせて的確な行動を取ることで初めて成立する。
つまりもう一人の行動パターンや戦い方の癖をしっかり把握していない状態で連携行動を図ったとしても互いの足を引っ張る事にしかならず、下手を打てばそのまま共倒れになる可能性も十分に考えられるのだ。
二つ目にルイオスとアルゴールの連携を封じる為である。鈴香と十六夜の二人と違って長年共に在る彼等の連携能力は未知数。故に連携によるポテンシャルの変化は単純に1+1に止まる事は無く、場合によっては3にも4にも、或いは10にも変化する可能性もあり得る。
その為に簡単に連携行動を取らせてはならないのである。
そして三つ目には、
「GYAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「ヤハハハ! どうしたどうした気合い入ってんのは見た目だけか!!」
単に十六夜が元・魔王であるアルゴールとのタイマンを望んだからでもある。一方の鈴香も、
「僕とアルゴールを分断したのか。まあ良いさ、僕はこの女を叩き潰せればそれで良い」
ルイオスがここぞとばかりに殺る気、もといやる気を出していたためにルイオスに集中せざるを得なかった。
「…………好都合と言えば好都合なんだけど、えらく殺気立ってるわね」
「ふん、意外か?」
「そうね。そこまで仲間想いだっていうのは意外だったわ。貴方は利己的で誇りなんて知ったことじゃないって考えてる人間だと思ってたから仲間に対しても頓着しないと思っていたんだけどね」
「僕が利己的である事は否定しないさ。だけど誇りなんて知ったことじゃないっていうのは訂正してもらおうか。これでも僕はゼウスの血を引いた英雄ペルセウスの子孫、譲れない誇り位あるんだよ」
鈴香から一切目を逸らさないまま、ルイオスは言葉を紡ぐ。それは今までも時折見せていた彼自身の偽らざる本音だった。鈴香はルイオスに対して評価を改めなければならないと思った。
「…………確かにただ道楽に耽っていた子供じゃないみたいね。分かったわ、さっきの誇り云々に関しては訂正するわ。悪かったわね」
鈴香の謝罪の言葉を聞くとルイオスはロングブーツにあしらわれた翼を羽ばたかせ、空に舞い上がる。
「不満が無いわけじゃないけど────これで心置きなく戦える」
鈴香は右手に異空間から抜き放った圧し切り長谷部を、左手に懐から取り出した鴉天狗の扇子を握り、ゆっくりと腰を落として構える。
「来なさいルイオス=ペルセウス。全力でお相手するわ」
その言葉を口火に戦いの火蓋が切って落とされた。
空に舞い上がったルイオスは翼を羽ばたかせ、縦横無尽に飛び回りながら炎の弓を立て続けに射る。
数十発もの炎の矢が鈴香に向かって蛇のように蛇行しながら殺到する。
「……………………ふっ!!」
鈴香は短く息を吐くと迫り来る炎の矢を鴉天狗の扇子で生み出した突風で全て吹き飛ばした。
突風に煽られた炎の矢は勢いを失って地に落ちたり、あらぬ方向に飛ばされていった。
「…………こんな物じゃ掠り傷にもならないか」
それを見ていたルイオスは炎の弓では鈴香を倒せないと悟るとギフトカードに炎の弓を仕舞い込み、星霊殺しの恩恵を宿した鎌、ハルパーと申し訳程度の装飾を施された長剣を取り出した。
ルイオスの取り出した鎌と長剣を見た鈴香はスッと目を細めると警戒レベルを上げる。星霊殺しの鎌は勿論の事、もう片方の長剣からも嫌な気配が漂っているからだ。嫌な気配は鈴香の体を舐め回すかのようにまとわりつき、鈴香は思わず顔をしかめた。
ルイオスはその様子を見て鈴香に対して聖剣は有効であるとあたりをつけた。
「ふーん? アンタもこの聖剣は苦手みたいだね」
「それは聖剣って言うの? 正直言って凄く気持ち悪いわ」
「なら今日の為に鍛え上げた甲斐があったってところかな」
ルイオスはそう言いきると翼を羽ばたかせ鈴香に向かって突っ込んでいった。
鈴香はルイオスが近づくと共に強くなる聖剣の不快感に背筋を粟立たせ、近寄られる前に叩き落とそうと扇子から生み出した風を使って攻撃を繰り出した。
「ああもう、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
鈴香はルイオスに向かって真空波の刃をいくつも放つがルイオスは戦闘機も真っ青なバレルロールを見せつけながら突っ込んでくる。
そしてルイオスは鈴香の近くまで近づくとハルパーを鈴香に対して振り下ろした。鈴香は振り下ろされたハルパーを妖気で強化した圧し切り長谷部で受け止める。
ハルパーが受け止められるとルイオスはもう片方の聖剣で斬りかかってきた。鈴香は妖気で強化した扇子で聖剣を受け止めようとするが聖剣の刃が扇子とぶつかり合った瞬間、扇子を強化していた妖気が霧散した。
「ええ!? ちょっ!!?」
これには流石の鈴香も大切な扇子を切断されては敵わないと大いに焦りながら聖剣を受け流す。
しかし扇子に聖剣が触れた瞬間に強化に用いていた妖気が霧散した、つまりあの聖剣は自身を容易く切り裂き、自身を蝕む猛毒に成りうるということになる。
「いやいや気持ち悪いだけだとは思ってなかったけどこれはちょっと洒落にならないかも……」
陰陽師の護符とは比べ物にならないと思いながら鈴香は全身に纏っていた妖気を最新の戦車に用いられる炸裂式の反応装甲のように爆発させる。
並みの大人ならば容易く吹き飛ばせるであろう妖気の爆発も英雄の端くれであるルイオスに対しては大きなダメージは期待出来ない。しかしダメージは無くともほんの一瞬怯ませる程度の隙を作り出す程度の効果はあったようで、鈴香は空中に跳び上がって妖気で足場を作るとルイオスに向き直った。
「…………厄介な物を持ち出したわね」
「言っただろう、今日の為に鍛え上げたって。まあここまで効果覿面だとは思わなかったけど、ねッ!!」
ルイオスは言葉を切るとロングブーツにあしらわれた翼を羽ばたかせ鈴香に追撃を掛けてきた。
「
鈴香は迫り来るルイオスに対して後ろに下がりながら炎の矢を撃ち出すがそのことごとくをかわされる。鈴香は自分の攻撃が当たらない事に歯噛みしながらも手元に風を集束させていき、
「…………ここなら! 砕け!
以前白夜叉にも使った何方向にも複雑に乱回転する球体状の風を放った。ルイオスは放たれた球体状の風をギリギリでかわそうとするが、
「…………ッ!?」
直前で嫌な予感を感じたルイオスは急制動を掛けて真上に飛び上がる。次の瞬間、爆発的に規模と勢いを膨れ上がらせた球体状の風は範囲内にあったものを全て削り取っていた。範囲内にあった宮殿の柱もまるでスプーンでくりぬかれたように消え去っていたのだから人間が巻き込まれればどうなっていたか容易に想像できるだろう。
ルイオスはあのまま突っ込んで行ったら自分はどうなっていたかを想像すると冷や汗が止まらなかった。
「……………………っ、はぁっ…………はぁっ…………」
しかし先に息を切らせたのはルイオスではなく鈴香の方であった。
「…………あー、妖気だけじゃどうにもならないか」
額に汗を滲ませながら呟く鈴香にルイオスは怪訝な表情を向ける。しかし続く言葉にそれは驚愕へと変わる。
「…………なら、出し惜しみは無しにしましょう…………“神気開放”」
鈴香が呟くと全身から神聖なオーラが溢れ出した。長い黒髪も神格を開放したことにより銀色に変化していた。
「…………なっ!? アンタは一体何者だ!? なぜ妖怪のアンタから神格を感じるんだ!!」
「あー、そういえば白夜叉が手を貸す代わりに貴方達に情報を一つ流すって言ってたわね。単純な話、私は神格を得た大妖怪だって事よ」
ルイオスは酷く狼狽えた様子で聞いてくるが鈴香はなんでもないかのように答える。
「僕はアンタの事を妖怪だとしか聞いてないぞ!?」
「だから白夜叉は私の情報を一つだけ貴方に渡したって言ったじゃない」
「クソッ!!」
ルイオスは吐き捨てるように言うと鈴香に向かって突っ込んでくる。今度は鈴香もルイオスに向かって駆け出し、ぶつかり合った。ルイオスは先程と同じように聖剣を鈴香に振るう。鈴香は扇子に力を纏わせ、長剣のような刃を作り出し、ルイオスの聖剣と打ち合った。
「…………なっ!?」
ここでルイオスは再び驚愕の声を上げる。鈴香の扇子の刃とぶつかり合った聖剣が今度は力を打ち消す事無く何事もないように受け止められたからだ。
「やっぱり妖気は祓えても神格の力、さしずめ神気までは祓えないみたいね」
鈴香はそう呟くと両手に持った二振りの刀剣でルイオスに斬りかかる。ルイオスは苦悶の表情を浮かべて鈴香に辛うじて食らいついていく。
「クッ!!」
しかし剣を用いた鍛錬などそこまでしてこなかったルイオスは次第に押され始めていった。十合、二十合と打ち合い続けるとルイオスは次第に鈴香の攻撃を捌ききれずに手足に小さな傷をいくつも負っていった。
ガキィィィィィンッ!!!!
そしてついにルイオスは聖剣を弾き飛ばされ、致命的な隙を晒した。そんな隙を鈴香が見逃す筈もなく、ルイオスの腹部に回し蹴りを叩き込んだ。
「がはっ!?」
蹴りを叩き込まれたルイオスは数十メートルの高さから一瞬で地面に叩き落とされ肺の中の空気を吐き出す。
ルイオスが体を起こそうと力を込めようとするが、そこに十六夜に殴り飛ばされたアルゴールが凄まじい速度で自分の近くまで吹き飛ばされてきた。
「まさかアルゴールがここまでやられるなんて…………」
「まあそれなりに面白かったが白夜叉と同じ星霊っていうにはちょっと物足りなかったな」
まだまだ遊び足りないような顔をしながらそう言う十六夜にルイオスは悔しそうに歯噛みする。だがルイオスは何かを決心したように十六夜と鈴香を睨み付ける。
「…………なら、こっちも出し惜しみは無しだ」
ルイオスはボソリと呟くと、怒りに身を任せて叫ぶ。
「アルゴール!! 宮殿の悪魔化を許可する!! 奴等を生かして帰すな!!」
「RaAAAAAaaaaaaa!! LaAAAAAAAAAA!!」
辺りに謳うように発せられた不協和音が響き渡る。すると白亜の宮殿は黒く染まり、壁や柱から蛇を模したような生物を生み出していく。
「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」
「この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物!! 貴様等の相手は魔王とこの宮殿そのものだ!!足場一つ許されない貴様等にもはや逃げ場など無いと知れッ!!」
「そうか、なるほどな。つまりだ、この宮殿ごと壊せば何の問題も無いよな? 東雲、お前はどう思う?」
「……………………」
十六夜は鈴香にそう問い掛けるが鈴香は黙ったまま何も答えない。十六夜は怪訝な表情を浮かべながら再び問い掛ける。
「おい、どうかしたのか?」
「……………………悪い」
「は?」
「うにゃあああああああああああ!! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!!」
鈴香は嫌悪感を隠す事無く叫ぶ。その表情には冷静さなど欠片も無く、ただひたすらに嫌悪感を抱いている様子だった。
実のところ、鈴香は蛇が大の苦手だったりする。トリトニスの蛇神は自ら触れる事は無かった上にあれは神だと思い込むようにしていたためにそこまで取り乱す事も無かったのだが、今回のようにまとわりつかれたとあっては理性など簡単に吹き飛ばされる事になっていたのであった。
鈴香は空中に跳び上がると両腕に神気を集中させる。
そして自由落下の数十倍の速度で降下していき、凝縮した神気を纏わせた右腕を振りかぶって宮殿を渾身の力で殴りつける。
「
その一撃だけで宮殿の最上階は崩落し、四階をも半ば崩壊していた。
「まずい!」
鈴香が宮殿の最上階を砕いたということは当然、共にこの場に居たテオ達にも大いに影響する。テオは慌てて自身のギフトで周囲の瓦礫を操作して、その場に固定することで間一髪で事なきを得た。
今の一撃は白亜の宮殿に甚大な被害をもたらした。しかしまだ鈴香の攻撃は終わってはいない。今度は左腕で宮殿を殴りつける。
その結果、宮殿は全壊と言って良いレベルまで破壊される事となった。
当然そこまで破壊されれば宮殿も魔獣として機能する筈もなく、魔獣からただの瓦礫へとその姿を戻していった。
ルイオスは宮殿が崩れる直前に空中に飛び上がっていたために崩壊に巻き込まれる事も無かったが、宮殿の惨状に半ば放心状態で呟く。
「馬鹿な…………奴は己の身一つでここまでの破壊を行ったというのか…………」
一方、ある意味この惨状を引き起こしたとも言える鈴香というと、
「ふ、ふん! ざっとこんなもんよ!!」
未だぷるぷると震えながら気丈に振る舞っているようだった。まあ目の端の大粒の涙が浮かんでいたりもしていた為に色々と台無しであったが当の本人にそこまで気を配る余裕は無い。
「俺もこれくらいは出来るが東雲もなかなかやるじゃねえか」
崩壊した宮殿を見渡しながら十六夜は一頻り関心するとルイオスに向かって問い掛ける。
「おいゲームマスター! これでネタ切れって事は無いよな?」
「……………………っ…………もういい。終わらせろ、アルゴール」
ルイオスは十六夜の問い掛けに一瞬だけ顔を屈辱で歪めたが、すぐに表情を戻してアルゴールにギフトの行使を命じる。
再び響き渡る不協和音。それと共に放たれる褐色の光。これがアルゴールの本領足るギフト、万象一切の時を奪い去る星霊の力である。
その力が向けられる先は当然十六夜と鈴香の二人である。
褐色の光が二人に向かって殺到する────
「───────カッ! ゲームマスターが今更つまんねえ真似してんじゃねえ!!」
自分に向かって放たれた褐色の光を真正面から踏み潰した。
アルゴールの放った光は十六夜の一撃により地面に叩きつけたガラス細工のように跡形も無く砕けて消えた。
「ば、馬鹿な!?」
「星霊の恩恵を無効化──いえ、破壊した!?」
「そんな、ありえない! あれほどの身体能力を持ちながらギフトを破壊するなんて!?」
目の前の現実にルイオスだけでなくジンと黒ウサギも叫び声を上げる。
単純に矛盾するのだ。恩恵によってもたらされる非常識なまでの身体能力と、その恩恵を破壊する力が一つのギフトに集約されるなど。
「どうした、続きをやろうぜゲームマスター。それとも本当にネタ切れか?」
十六夜はルイオスに挑発するように問い掛ける。しかしルイオスは何も答えない、答えられない。
そこに声を掛けてきたのはリーナである。
「逆廻さん、残念ですがこれ以上のものは出てこないと思われます」
「何?」
「黒ウサギもそう思います。アルゴールが拘束具に繋がれていた時点で察するべきだったのでしょう……………………ルイオス様は星霊を従えるにはまだまだ未熟なのですよ」
「……………………っ」
ルイオスは黒ウサギの言葉に何も言えずに俯く。今のルイオスを支配している感情は純粋な後悔である。
一体自分はどうしてもっと鍛錬に励まなかったのか、と。その為の時間はいくらでもあった筈なのに、と。
そんなルイオスの様子を見ながら十六夜はつまらなさそうに言う。
「所詮は七光りと縛られた元・魔王ってところか。お得意の石化やギフトが通じなかっただけでこのザマだとはな」
「…………なんだと?」
十六夜の言葉にルイオスは俯かせていた顔を上げる。その顔には並々ならぬ憤怒があった。
七光り? そんなことは言われるまでもなく自覚している。だが、だがそれでもお前如きが自分達を語るな、と。
その姿に十六夜は少し関心する。目の前の男はついさっきまでつまらない七光りだと思っていたのに今は戦い始めた時のように戦意をみなぎらせているではないか。
ルイオスは目を据わらせながら絞り出すように言う。
「…………取り消せ」
「ヤハハハ! いいぜいいぜ俺をもっと楽しませろペルセウス!」
「取り消せええええええええ!!!!」
ルイオスは渾身の力で叫びながら十六夜に向かって駆け出す。その手には聖剣も、星霊殺しの鎌もありはしない。傍らに居たアルゴールすらも置き去りにしてルイオスは十六夜に向かってひたすらに走っていくのだった。
自分なりに書いててルイオスがちょっとかっこよくなった…………
まあ良いか。噛ませ犬じゃないルイオスもたまにはあって良いと思うし。
それでは、読んでいただきありがとうございます。