今回はいつもと比べると少し短いですがキリが良かったので投稿します。
それでは19話です。
「おんしら、随分と派手にやったようじゃの」
「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」
「胸を張って言わないでくださいこのお馬鹿様!」
「私からすれば一緒にはしゃいでた貴女も同罪よ!!」
悪びれる様子の無い十六夜に黒ウサギは専用ハリセンを用いたツッコミを敢行するが、鈴香は黒ウサギの手からハリセンをインターセプトしてそのまま十六夜と黒ウサギの頭をシバく。
あの後鈴香達は此処、サラマンドラの運営本陣営の謁見の間に通された。あの騒動の後、十六夜と黒ウサギはそのまま謁見の間に通された為に牢屋にぶちこまれる事は無かった。
一方の白夜叉は目の前で繰り広げられた漫才もかくやといったやり取りに込み上げてくる笑いを必死に噛み殺す。笑いを堪える理由は傍にサンドラが控えている、というのもあるが何よりここで笑ってしまえば二人に向けられた怒りが自分に向けられては敵わないからだ。
「ふん!! 一介のノーネーム風情が我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな! 相応の厳罰を覚悟するが良い!!」
「これマンドラ。こやつらの処遇を決めるのはおんしではなく頭首のサンドラであろう?」
サラマンドラのそれなりに重要なポストに就いているであろう軍服姿の男は鈴香達に対して語気を荒げるが白夜叉はマンドラと呼ばれたその男を何でもないかの様に嗜めた。
サンドラは謁見の間の上座にある豪奢な玉座からゆっくりと立ち上がると黒ウサギと十六夜に声を掛ける。
「箱庭の貴族とその盟友の方々。此度はこの“火龍生誕祭”に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達の破壊した建造物の一件ですが、件の建造物は白夜叉様のご厚意で既に修繕が為されています。奇跡的に負傷者も無いようですし、この一件に関して私からは不問とさせて頂きます」
「…………寛大な処置に心から感謝致します。フロアマスター殿」
鈴香はマンドラが聴こえる様に舌打ちしたのを無視して、サンドラに向かって頭を下げる。
「へえ? 何とも太っ腹だな白夜叉」
「うむ。おんしらは私が直々に協力を依頼したのだ。建物の修繕や路銀は報酬の前金だと思えば良い。まあこれも怪我人が出なかったこそだがの」
「白夜叉、貴女にも感謝するわ」
「構わんよ。さて一先ず昼の続きを話そうかの」
白夜叉が連れの者に目配せをして、サンドラもそれに倣ってマンドラを除いて同士を下がらせた。
辺りに十六夜達を除いて人が居なくなるとサンドラはジンの下に駆け寄った。その顔は年相応の少女らしい可愛らしいものだ。
「ジン、久しぶり! コミュニティが魔王に襲われたと聞いてとても心配したよ!」
「ありがとうサンドラ。君も元気そうで良かった」
「勿論!…………でもご免なさい。本当は魔王に襲われたと聞いてすぐに会いに行きたかったけど、お父様の急病や継承式があったからずっと会いに行けなくて…………」
「良いよ、気にしないで。それでも驚いたよ、君がフロアマスターになったと聞いて────」
「その様に気安く呼ぶな! 名無しの小僧!」
親しげに談笑するジンとサンドラだったがマンドラは牙を剥き出しにして腰に帯刀していた剣をジンに対して振りかざす。しかしジンの首をはねとばそうとする剣は鈴香の圧し切り長谷部によって後数mmのところで止められていた。
「…………どういうつもり? 私が止めなかったらジンは死んでたんだけど?」
「どういうつもり、だと? サンドラはもう北のマスターになったのだぞ! 生誕祭も兼ねたこの共同祭典に名無し風情を招き入れ! 恩情を掛けた挙げ句! あまつさえ馴れ馴れしく接されたのでは我らサラマンドラの威厳に関わるわ! この名無しのクズが!」
鈴香達に対して罵詈雑言を吐き続けるマンドラに鈴香はスッと目を細めるがそこにサンドラが慌てて止めに入る。
「マ、マンドラ兄様! 彼等はかつてのサラマンドラの盟友です! 此方から一方的に盟約を反故にした挙げ句にその様な態度をとっては我らの礼節に反する!」
「礼節よりも誇りだ! その様な事を口にするから周囲から舐められるのだと「もう良い、お前の言いたい事は分かった───」」
「────ならばその誇りとやらと共に彼岸を越えて往け。小僧」
マンドラの言葉を鈴香が遮った次の瞬間、謁見の間を重苦しい重圧が襲いかかった。
鈴香はマンドラの言葉を遮って言うとその手の刀に妖気を纏わせて打ち合わせていた剣の刀身を音もなく断ち斬って、返しの刃をマンドラの首をはねるつもりで振るう。
が、寸でのところで白夜叉が鉄扇で刃を受け止めた事でマンドラは事なきを得たのだった。
「白夜叉、またお前は私の邪魔をするのか?」
「気持ちは分かるが少し落ち着くのだ。この阿呆には私の方からもしかと言いつけておく故、今はその刀を下ろしてくれ。今ノーネームとサラマンドラとの関係を悪化させる訳にはいかんのだ。どうか頼む」
鈴香の斬撃を受け止めた白夜叉は鈴香に対して頭を下げた。鈴香はその様子を見てゆっくりと刀を下ろす。
「…………良いわ、此処は貴女の顔を立てましょう」
「その判断に感謝しよう。マンドラよ、おんしも運が良かったな? 私が間に合わねば首と胴が泣き別れするところだったぞ?─────さて、一つ忠告しておくぞ。己が誰かに剣を向けるのであれば己もまた誰かに剣を向けられるのだと言うことを努々忘れるな。今回は事なきを得たようだが次も無事である保証など何処にも無いのだからな」
「くっ…………サウザンドアイズも余計な真似をしてくれたものだ。同じフロアマスターとはいえ、越権行為にも程がある。全く、『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはよく言ったもの。何よりあの“太陽と白夜の星霊”がたかが名無しの娘に頭を下げるなど滑稽と言わずしてなんというのか」
「マンドラ兄様ッ!! いい加減にしてください!! 私の友人に刃を向けて、寸でのところで命を救われ、それにも関わらずその様な暴言を吐くなどッ!! サウザンドアイズを愚弄した挙げ句に白夜叉様にその様な失礼な事を言うなんて、兄様はサラマンドラを滅ぼすおつもりですかッ!?」
あくまで自分の非を認めずに頑なな態度を取り続けるマンドラをサンドラは叱りつける。相手に舐められない様にというのは分かるがそれでもマンドラの暴言は看過出来るものでは無かった。それに加え、サンドラは先程のやり取りでハッキリと理解していた。先程、己の兄に斬り掛かった少女は星海龍王の龍角を授かった己を越える強者であると。
白夜叉はもとより、その様な相手を敵に回せばどうなるかなど考えるまでも無かった。
「サンドラ、おんしもなかなか言うではないか。今の一喝は頭首らしかったぞ。それと補足だが私が連れてきたこの者達は以前ペルセウスの最高難易度のゲームをクリアした実力がある。力不足という事はあり得んからその辺りは安心すると良い」
「なっ、 馬鹿な!! あのペルセウスのゲームをこんな子供の集まりがクリアしただと!? デタラメではないのか!!」
白夜叉の言葉にマンドラは驚愕の声を上げる。確かに普通に考えれば七桁のノーネームが五桁のペルセウスに勝利するなど考え難いだろう。
装備を取っても人材を取ってもそれだけ五桁と七桁の間には如何ともし難い差があるのだ。
「失礼ね。白夜叉がそんなつまらない嘘をつく筈が無いでしょう? それに誰が子供の集まりよ。私はこれでも貴方の数十倍は生きてるんだから。まあ年なんて千を越えた辺りから数えてないけど」
「…………実は凄い年上だったんですね鈴香さん」
「まあ、妖怪に寿命なんて無いから。代わりに純粋な妖怪が生まれる事は極めて稀なんだけどね」
「へえ? 妖怪について興味が沸いてきたな。今度詳しく聞かせろよ…………と言いたい所だが白夜叉、その前に力不足云々について説明してもらおうじゃねえか」
白夜叉が先程したフォローの中に不自然な、と言うより穏やかではない言葉が含まれていたのを聞き逃さなかった十六夜は白夜叉に問いかける。黒ウサギもそれに気づいたのかハッとしたように顔を上げる。
「うむ。理由はこの封書に書かれておる故、自身の目で確かめると良いだろう」
そう言って手渡された手紙に十六夜は目を通すと先程までの軽薄な笑みが消える。
「十六夜さん? 何と書かれているのですか?」
「自分で確かめな」
黒ウサギは怪訝な表情のまま、十六夜から手紙を受け取る。
そして黒ウサギは手紙の内容に目を通すと驚愕のあまり目を見開いた。
『火龍生誕祭にて、魔王襲来の兆しあり』
「そ、そんな…………こ、これは事実なのですか白夜叉様!?」
「魔王襲来、予想通りと言えば予想通りね」
黒ウサギが手紙の内容を見て叫ぶ様に声を上げる傍らで、手紙の内容に予想を立てていた鈴香はふっと息をつく。
「何だ東雲、お前は分かってたのかよ」
「いいえ、私は考えられる内容を幾つか予想していただけね」
「へえ? だが俺としては正直意外だったな。てっきりマスターの跡目争いみたいなつまんねえ話題だと思ってたんだが」
「何だとッ!?」
マンドラは十六夜の言葉に牙を剥き出しにして詰め寄ってくるがそれをサンドラが慌てて嗜める。そんなやり取りを眺めながら話を進める。
「謝りはせんぞ。話を聞かんかったのはおんしらだからな」
「違いねえ。で? お前は俺達に何をさせたい? 魔王相手に鉄砲玉やれってんなら突っ込んだついでに魔王の首を取ってくるのも吝かじゃねえぞ? っとその前にこの手紙は何なんだ?」
「うむ、この封書はサウザンドアイズの幹部の一人が予見したもの、つまりは一種の未来予知を記した予言書だの」
「へえ? この予言の信憑性はどれくらいだ?」
「上に投げれば下に落ちるという程度には信用出来るぞ」
十六夜達は白夜叉の物言いに何を言っているのか分からないと言った様子だったが十六夜と鈴香はすぐに意味を理解したようだった。
「あー、つまりそいつの予言は未来の事象が“当たり前”に分かるという程度のものっていう認識で良いか?」
「面白い考え方ではあるが少し違うな。詳しく説明すればそやつには“誰が投げた”のかも“何故投げた”かも分かっておるのだ。そしてこの封書に書かれておるのは逆説的に“何処に落ちてくるのか”を記したもの、というわけだ」
白夜叉の補足を聞いた一同は言葉を失った。理由は様々、たとえば黒ウサギやジンは自分の想像もつかない程の奇跡の技に。逆にマンドラなどはそこまで知っておきながら“魔王襲来”しか教えなかった事に。
当然マンドラは怒りを露にして怒鳴る。
「ふ、ふざけるなッ!! そこまで分かっておきながら何故魔王の襲来しか教えんのだ!! 我々をつまらん狂言にかけようというのなら今すぐにでも棲み処に帰れッ!!」
「に、兄様、きっとこれにも深い理由があるはずです」
「………………………………」
鈴香は怒鳴り散らすマンドラを眺めながら思案に耽っていた。
(…………あの怒りは本気じゃないわね。言ってしまえば焦りを怒りで覆ってる感じに近いけど)
鈴香にとって此処まで解れば犯人は知れたも同然なのだが如何せん明確な証拠がない。マンドラに対してカマをかけても良かったが、そこまでの危険を冒す必要も無い。
(さて、この小さな頭首様は何処まで知っているのかしらね?)
鈴香はマンドラに向けていた視線をサンドラに移す。
マンドラが後ろで手を引いているのはほぼ確定と言って良い。しかし実の兄のしているであろう事をこの幼いフロアマスターは知っているのか。
(まあ、知っていながら此処まで演技が出来るなら流石と言う他ないわね)
サンドラの態度が演技である可能性を全て否定するわけではないが、齢十一歳にそこまでの演技が出来るとは考えにくいというのが鈴香の見解だった。
ちなみに彼女は元から
言ってしまえば騙し合いも処世術の一つである以上、鈴香はマンドラを咎めない。
もっとも、自分の身内に理不尽が降りかからない限りではあるが。
その後、魔王が現れた際の対処や段取りを決める為の話し合いが続けられた。
その際にマンドラが十六夜達を理由にノーネームをゲームから追放しようと進言したりもしたがフロアマスター二人に説き伏せられて泣く泣く却下された。
それでは読んでいただきありがとうございます。