ともあれ第2話です。
「…………うまく呼び出せた? 黒ウサギ」
「みたいですねぇ、ジン坊っちゃん」
四人と一匹が呼び出される少し前、とある場所で十五、六才程に見える少女と背格好に似合わないダボダボのローブを着込んだ少年が話し込んでいた。
少女の名前は黒ウサギ。
少年の名前はジン。
鈴香達をこの世界に呼び出した張本人である。
「上手くいった以上、後は運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ? 表面上は素敵な場所だと取り繕わないと。初対面で『実は私達のコミュニティ、全壊末期の崖っぷちなんです☆』と伝えるのは簡単ですが、それではメンバーに加わるのも警戒されてしまうでしょうし」
やる気を出したり、おどけてみたりとコロコロと表情を変えながらジンに対して力説する黒ウサギと呼ばれた少女。ジンと呼ばれた少年も苦笑しながら口を開く。
「…………正直呼び出した彼等を騙す様で申し訳ないけどね。それじゃあ何から何まで任せっきりで悪いけど彼等の迎え、お願いできる?」
「任されました」
彼等の元に行こうとする黒ウサギにジンは問いかけた。
「ねえ黒ウサギ、彼等の来訪はコミュニティにどんな恩恵をもたらすだろうか」
ジンの言葉に足を止めた黒ウサギは振り返っていたずらっ子の様にニヤリと笑う。
「さてさて、どうなるかは黒ウサギにも分かりませんが
「彼等四人は人類史上最高クラスのギフトの所持者、らしいですよ?」
「わっ」
「きゃっ」
「あははははっ♪」
呼び出された少年少女は驚きの声を上げるなか、鈴香はこの状況を楽しんでいた。
まったく、今までの退屈な日々はなんだったのか、と。
「まさか一枚の手紙でこんな風になるなんてね」
鈴香はこのまま行けば自分達が落ちるであろう湖を見つめながらそう呟く。
そして妖術を使って近くに着地しようとして…………やめた。
(せっかくだしこの状況は楽しまなければ勿体ないわよね)
なんとも退屈な日々に飽き飽きしていた者らしい理由である。
彼等はそのまま絶叫を伴ったまま、緩衝材のような水膜を突き破りながら湖に落ちた。
「し、信じられないわ! 問答無用で引き摺りこんだ挙げ句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだ、クソッタレ。場合によってはその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「…………いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」
「俺は問題ない」
「石が体内に無ければ私も問題ないわね」
「そう、身勝手ね」
服の端を絞りながら行われた会話に仲の良さなど欠片も無かった。まあ初対面で仲が良いというのもなかなかおかしな話だが。
「…………というかあんたはコレ着てろ。目のやり場に困る」
そんな中、少年が鈴香に自身が着ていた学ランの上着を渡してきた。
というのも鈴香が元々着ていたのが浴衣だったために全身隈無く濡れた事で彼女の整ったボディラインがくっきりと浮かび上がっているためである。
「あら? ありがとう、優しいのね?」
「へえ? 意外と紳士的じゃない?」
鈴香が少年から上着を受け取ると横から先程の少女がからかう様に声をかけてきた。
「はっ、流石に初対面でどうこうする気はねえよ」
少年もぶっきらぼうに答える。
「それにしても、此処…………何処だろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃないか?」
「亀? どうしてここで亀が出てくるの?」
「あー、まあなんだ、昔の考古学者が提唱した一説なんだが…………わかるか?」
「…………駄目、さっぱり解らないわ」
鈴香は少年の問い掛けに首を横に振って降参を示したのだった。
「さて、私から一つ提案なんだけどここらで自己紹介でもしない?」
鈴香は十六夜の説明に鈴香は解らないと降参の意を示した後、一先ず各々に自己紹介をしてはどうかと持ちかけた。
まあ、自己紹介をしようという意見は皆も反対する理由も無かった為に簡単に受け入れられた。
「その前に確認しておくがお前らにも変な手紙が来て此処に、って感じか?」
「ええ、そうよ。でもオマエって呼び方は訂正して。久遠飛鳥よ。以後気を付けて頂戴」
久遠飛鳥と名乗った少女は随分と高飛車で強気な様だ。衣服や口調からも育ちの良さを感じさせる辺り、元々居た世界では裕福な家柄だったのかもしれない。
「それで、そこの猫を抱えた貴女は?」
「春日部耀。以下同文」
対して、春日部耀と名乗った少女はかなり無口らしい。出来るだけ皆と視線を合わせないようにしている辺り、これまであまり人と関わってこなかったのだろう。
「そう。よろしく春日部さん。それじゃあ野蛮で凶暴そうに見えて紳士的な一面もある貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。紳士的かは知らねえがそれ以外は見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義者と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。
「ハハ、マジかよ。今度作っておくから覚悟しとけ、お嬢様」
正に売り文句に買い文句、というやつだろうか。だが二人共非常に我が強い事は口調で察する事がわかった。
「最後は私ね。東雲鈴香よ。十六夜、上着貸してくれてありがとう」
「おう、感謝しつくせ」
「よろしく東雲さん。十六夜君に何かされたらすぐに言いなさい」
「あははっ♪ その時はよろしくね、飛鳥」
ヤハハと笑い続ける逆廻十六夜。
十六夜にじとっとした視線を送る久遠飛鳥。
我関せず無関心を装う春日部耀。
やたらフレンドリーな雰囲気を醸し出す東雲鈴香。
このやり取りを見た者は皆こう思うだろう。
一人を除いて問題児ばっかりだ、と。
(うわぁ、なんか一人を除いて問題児ばっかりみたいですねぇ…………)
物陰から様子を窺っていた黒ウサギもその一人である。
まあ尤も、その認識が誤りである事に黒ウサギが気づくのにさほど時間は掛からないのだが。
「で、呼び出されたはいいけど何で誰も居ねえんだよ。こういう時はこの世界についてとか招待状にあった"箱庭"とやらの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうねなんの説明も無いままでは動きようがないもの」
「おなかすいたわね~」
「…………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
(全くです。しかもなんなのですか、おなかすいたって。フリーダム過ぎるのデスヨ)
普通ならもっと慌てたりする所なのだろうが思いの外彼等の胆が据わっていたため、黒ウサギはどうにも出ていくタイミングを計れないでいたのだ。
黒ウサギはっきり言ってこの展開は予想していなかった。全く以て予想外である。
「仕方がねえな。こうなったらそこに隠れてる奴にでも話を聞くか?」
物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を鷲掴みにされたように体を跳ね上げた。
「あら、貴方も気づいてたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負け無しだぜ? そこの二人も気づいてるんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でも判る」
「呼吸を止めてる訳で無し、気配を周囲に溶け込ませる訳でも無し、あの程度じゃかくれんぼにすらならないわ」
「へえ、面白いなお前ら」
そんなやり取りと共に向けられる冷ややかな視線に耐えきれなくなったのか、物陰から一人の少女が現れた。
「や、やだなあ御四名様。そんな狼みたいな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ穏便に話を聞いていただけたら嬉しいのでございますよ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
「あ、ウサ耳」
「あっは、とりつくシマもないですね♪ 後、最後の方は何故に黒ウサギの素敵耳に反応したのでございますか!?」
バンザーイ、と降参のポーズを取りながら驚くという器用な事をやってのける黒ウサギ。
しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。扱いにくそうなのが難点で……)
「おい」
彼等に対する考察をまとめていると鈴香から声をかけられた。
「な、なんでございましょうか?」
「その相手を値踏みするような視線を止めろ。小娘」
先程までとは雰囲気を一変させた鈴香が黒ウサギを睨み付けながら釘を刺した。
十六夜達も鈴香の豹変とも言える変化に目を丸くしていた。
「い、いえ、そんなつもりは無いのですよ」
「…………そっ、一応そういうことにしておくわ」
黒ウサギは安堵する一方で内心大いに焦っていた。
(く、黒ウサギとしたことがやってしまいました。まさかここまで鋭い方がいらっしゃるとは)
黒ウサギがそんな事を考えていると耀が黒ウサギの傍にまで近づき、
「えい」
「フギャア!?」
彼女の耳をぎゅむっ、っという擬音が聴こえる位強く握り、そして思いっきり引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!? 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用且つ全力全開で黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとはどういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ? このウサ耳って本物なのか?」
「…………じゃあ私も」
黒ウサギが耀に対して抗議の声を上げるなか、左右から十六夜と飛鳥が近づいてきて、左右同時に黒ウサギの耳を引っ張った。
手加減無しにウサ耳を引っ張られ、黒ウサギは絶叫を上げる。
その様子を見ていた鈴香は無意識に頭を押さえていた。当然だ、目の前の惨状を自分に置き換えたらと思うと身震い位誰でもするだろう。
(…………本来の耳を出してたらどうなってたかしら?)
まあどうなるかなど、黒ウサギの有り様を見れば判りきった話ではあるが。
「黒ウサギ、南無」
鈴香は溢れんばかりの同情を籠めてそう呟く。
「そう思うなら助けてほしいのですよ!?」
「黒ウサギ、無力な私を許して頂戴」
「そんな殺生なぁあああああ!?」
黒ウサギの受難は始まったばかりである。
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