猫又少女も異世界から来るそうですよ?   作:グリアノス

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皆様、新年明けましておめでとうございます。

新年初投稿は猫又少女と相成りました。

それでは第25話、お楽しみ頂ければと思います。





第25話 地上もまた戦闘中だそうですよ?

魔王一派に強襲を掛けた鈴香、十六夜、レティシアの三人の内、上空1000m地点でヴェーザーと交戦に入った十六夜。

 

十六夜とヴェーザーが上空でぶつかり合う度に境界壁に大きな亀裂が入り、砕けた壁面が石の礫となって辺りに降り注いでいく。

 

そして十六夜の横を通り抜け、そのまま降下してきた斑模様のワンピースを着込んだ少女と陶器の巨兵、赤い長髪の大柄な男と接敵した鈴香とレティシア。

 

魔王一派と対峙するように立ちはだかった鈴香とレティシアは目の前の敵から目を離さずに睨み付ける。

 

「十六夜が五人の内の一人と交戦に入ったみたいね。共にいたもう一人は…………一足先に闘技場に行ったか」

 

「こちらは二人に対して敵は三人か………あまり良くないな。特に赤髪の男は少しまずい相手かもしれない」

 

「私があの男の相手をするから貴女は残りをお願いするわ。私も全力で行かないと勝てないでしょうし」

 

「わかった。抜かるなよ」

 

真剣な面持ちの鈴香とレティシアをよそに、力を程よく弛緩させた少女と男は呑気に言葉を交わす。

 

「ねえルフ、こいつら私達に勝てるつもりでいるみたいよ?」

 

「見事に舐められてるな。でもまあすぐに間違ってるって気づくだろうよ。それにだ、これは戦いであってスポーツじゃない以上」

 

 

 

 

 

 

「気ぃ抜いた奴から喰われるのは当然だよな?」

 

 

 

 

 

「───なっ」

 

視界からは片時も逃してはいなかった筈だった。

 

意識もしっかりと向けていた筈だった。

 

この男は今まで相対してきた相手の中でも屈指の実力者である事も理解していた筈だった。

 

なのに何故、この男が拳を振り抜く直前まで自分は反応出来なかった?

 

直後、腹部に走る強烈な衝撃に鈴香は体をくの字に折る。

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

「この程度ならとんだ期待外れだな」

 

ルフと呼ばれた男はそう言いながら拳を振り抜くと鈴香は音を置き去りにする程の速度で吹き飛ばされた。そのまま鈴香は時計塔に叩きつけられた。

 

鈴香が殴り飛ばされて激突した時計塔は半ばから上が粉々に破壊された。

 

「足りねえ。まるで足りねえ。意志も、力も、何もかもが足りねえ」

 

「鈴香!? おのれッ!!」

 

鈴香をやられた事で激昂したレティシアはランスを構え、ルフと呼ばれた男に突き立てようとするが、

 

「皆で寄って集って虐めるのは気が引けるから貴女は私が相手をしてあげる」

 

斑模様のワンピースを着込んだ少女によって阻まれた。レティシアはランスを引き戻そうと力を込めるが、その小さな手に握り締められたランスの穂先はピクリとも動かない。

 

「それにしても貴女、本当に純血の吸血鬼?」

 

「くそっ!」

 

神格を手放した事でかつての力の大半を失ったレティシアは苦悶の声を漏らしながら必死に力を込め続けるが、目の前の少女とは歴然たる力の差があった。

 

細やかな金髪を乱れさせながら相手を振りほどこうともがくレティシアをじっと見ていた斑模様の少女は、落胆した様子を隠す事もなく口を開いた。

 

「もういいわ。貴女は私やルフが相手をするまでもないみたい。シュトロム、その子殺して本命を探そ?」

 

「BRUUUUUUUUUUUM!!」

 

斑模様の少女はまったくの無造作でレティシアを掴んでいたランスごと放り捨てると共に無情なる死の宣告を下す。そしてその宣告を皮切りに、シュトロムと呼ばれた陶器の巨兵は全身の風穴から空気を吸い込むと四方八方に大気の渦を作り上げていく。

 

発せられる奇声と共に鳴動する大気。乱気流となった大気の渦は周囲の瓦礫を取り込み圧縮していく。少女の手から逃れたレティシアだったが、シュトロムの発する乱気流の影響で満足に動くことが出来ない。

 

大気と共に吸い込んだ大量の瓦礫を臼砲のように撃ち出した。

 

 

 

 

 

 

が、その直後にシュトロムを紅い閃光が貫いた。

 

 

 

 

 

「BRUUUUUUUUUUUUUUUUM!!」

 

撃ち抜かれて生じた風穴から溶解していき、焼け爛れたシュトロムは地面へと落下していった。

 

「なに余所見してるのよ」

 

シュトロムが墜ちてから間を置かずに男の目の前まで肉薄してきた鈴香。妖気を解放して目を紅く染めながら、全身を大きく捻って放った渾身の蹴りを男の顔にめり込ませる。

 

男の頬からメキメキと嫌な音が響く。そして鈴香は脚から伝わる嫌な感触に僅かに顔をしかめながら脚を振り抜き、男を境界壁に吹き飛ばした。大の男を音を置き去りにする速度で叩きつけられた境界壁は多数の瓦礫を生み出しながら大量の粉塵を巻き上げる。

 

「ルフ?」

 

その様子を見ていた斑模様の少女の認識からほんの僅かにレティシアが逸れる。その隙を数多のゲームを経験し、戦い抜いてきたレティシアは決して見逃さない。

 

レティシアは広げていた翼を折り畳み、急激な加速を以て斑模様の少女に迫撃する。

 

「…………あっ」

 

「先程あの男が言っていただろう。気を抜いた奴から食われるとな」

 

大気の壁を貫く程の速度で繰り出された渾身の一突き。レティシアはこの一撃で仕留めるつもりで放つ。

 

「やったか………!?」

 

「いいえやってないわ」

 

しかし無情にもランスの穂先は少女を貫く事はなく、体を持ち上げるのみに留まった。しかもあろうことか胸を貫かんと突き出されたランスの穂先は防具を介していないにも関わらず、先端部はひしゃげて潰れていた。

 

そして少女が抑揚のない声音と共に手から黒い風を生み出すと、レティシアは言い様の無い悪寒に襲われた。

 

(なんだあの風は? あんなものは見たことがないぞ…………?)

 

一先ず触れるのはまずいと見立てたレティシアは距離を取って少しでも情報を得ようと目の前の強敵を注視する。

 

そして鈴香もレティシアの傍らにやって来たが、先程殴り飛ばされたダメージが抜けきってないのか、ごほっと咳き込むと口内に溜まった血を吐き捨てる。鈴香の姿も着ていた浴衣は右腕の袖が肩口から無くなっていて大きく露出しており、裾もあちこちが汚れにまみれ破けていた。

 

「鈴香、無事だったか?」

 

「後一瞬でも後ろに跳ぶのが遅かったらあの一撃で死んでたわ。それに…………まだあの男は健在よ」

 

「まあ、それくらいはわかるわな」

 

めり込んでいた境界壁から体を起こした男は口元に滲んでいた血を服の袖口で拭うと鈴香のように少女の傍らに飛んでいく。

 

少女もレティシアのように男に視線を向けると声をかける。

 

「あら、心配はしていなかったけれど無事だったのねルフ」

 

「おいおい心外だな。このオレがあの程度でやられるかっての」

 

「だから心配はしていなかったと言ったでしょう?…………というか貴女達もそんなに離れなくても良いのに」

 

目の前に敵がいるにも関わらず、緊張感の無い会話を繰り広げる。

 

「それにしても痛かった。凄く痛かったわ。でも許してあげる」

 

だって貴女は良い手駒になりそうなんですもの。と言って胸に手を当てながら(くら)い笑みを浮かべる少女はレティシアから視線を幼い階層支配者に移す。

 

「ようやく現れたのね。逃げ出したのではないかと心配していたわ」

 

「目的はなんですか。ハーメルンの魔王」

 

「あ、それ間違い。私のギフトネームは“黒死斑の魔王”よ」

 

「…………二十四代目、“火龍”サンドラ」

 

「自己紹介ありがと。目的は言わずとも分かってると思っていたけどあえて言うなら、太陽の主権者である白夜叉の身柄と星海龍王の遺骸。つまり貴女が身につけている龍角が欲しいの」

 

だから頂戴?と言いたげな軽い口調でサンドラの龍角を指さす。

 

「…………なるほど、流石は魔王と言われるだけあって実にふてぶてしい。しかしそのような無体、我等秩序の守護者は見逃さない。我等の御旗の下、必ず誅してみせる」

 

「そう。素敵ね、フロアマスター」

 

そして問答は終わりだと言うように轟々と唸りを上げる火龍の業火と吹き荒ぶ黒き風。並々ならぬ威力を秘めた力と力はぶつかり合うと存分にその余波を周囲に撒き散らす。

 

「レティシア、貴女はサンドラと一緒にあの子の相手をなさい」

 

「わかった。悔しいが私ではお前の足を引っ張ってしまうようだしな」

 

「話し合いは終わったか? それならこっちも仕切り直しといこうか」

 

「貴方は私が潰す。仲間の所には行かせない」

 

「良い気迫だ。後は実力が伴うかどうか、見せて貰おうかッ!!」

 

鈴香とルフは凄まじいプレッシャーと殺気を放ちながらにらみ合い、境界壁を照らすペンダントランプが余波に耐えきれずに砕けた瞬間にぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴香、十六夜、レティシアが魔王一派を強襲する少し前に時間を遡る。

 

「テオ、貴方は観客の避難誘導をお願いします! 私は白夜叉様の所に行きます!」

 

「いや、この状況で単独行動はまずい!避難誘導はサラマンドラの憲兵に任せて俺も一緒に行った方が良い!」

 

「…………分かりました! 急ぎますよ!」

 

混乱の渦中にあった闘技場の観客席にてテオとリーナは周囲を満たす叫喚の声に負けないように声を張り上げる。

 

テオとリーナは皆が我先にと出口に殺到していく姿を視界に納めながら取るべき方針を混乱する頭で纏めていき、ある程度定まった方針に沿って行動を開始した。

 

「恐らく白夜叉様はバルコニーにいるはずです!なので先ずはバルコニーに向かいましょう!」

 

「よし、わかった!」

 

言葉を交わしながら駆け出すテオとリーナだったが、その後間もなく二人の周囲をサラマンドラの同士である火蜥蜴が取り囲んだ。取り囲んだサラマンドラの火蜥蜴達は例外なく血走った目をしていて、とても正気とは言えない状態だった。

 

二人を取り囲んだ十体程の火蜥蜴達はその手に握っていた武器を振りかぶって一斉に跳び掛かってくる。テオはすぐさま地面に手を当てて自身とリーナを半球状に囲むように地面を隆起させる。

 

火蜥蜴と二人の間に築かれた強固な石壁に阻まれ、火蜥蜴が振り下ろした武器は次々と折れて、欠けて、砕けていく。しかしそんなことはどうでも良いと言わんばかりにテオを怒声を上げる。

 

「コイツらはサラマンドラの連中か!? どういう事だ!!」

 

そこで間を置かずにテオに声をかけるリーナ。

 

「テオ、落ち着いてください! 彼らはハーメルンの笛吹きに操られてます! 解呪している時間もありませんから張り倒して行きますよ!!」

 

「了解だ! 緊急事態だ、悪く思うなよ!!」

 

テオはそう言って石壁の壁面に手を当ててギフトを行使すると炸裂式の反応装甲のように半球状の壁面を吹き飛ばす。吹き飛ばされた壁面は全方位に数百、数千にも及ぶ凶弾となった拳大の礫を撒き散らして、周囲を取り囲んでいた火蜥蜴を蹂躙していく。

 

「…………操ってる奴はコイツらを捨て駒にする気か」

 

リーナと背中合わせになりながら、苦々しく顔を歪めながらテオが口を開く。と言うのも、石の礫を体のあちこちに受けて血を止めどなく流しながらも立ち上がってくる火蜥蜴達を見たためである。

 

そしてテオとリーナに血走った目を向ける火蜥蜴達は火球を撃ち出す。

 

「『護り唄“甲”』」

 

矢継ぎ早に放たれる火球もリーナの展開した障壁に阻まれ届くことはない。

 

「仕方ない、死なないギリギリを狙って攻撃を加えていくしかないな」

 

「テオ、私が半分を受け持ちます」

 

「ああ、迅速的に此処を抜けるぞ」

 

「そうですね。何時までも此処で足止めを食らい続けるわけにはいきません」

 

そして絶え間無く撃ち出された火球に僅かな隙を見出だしたリーナはそこに合わせて障壁を解除する。テオもリーナの障壁を解除する瞬間を見切っていたようで、駆け出したリーナに遅れる事なく反対側に踏み込む。

 

「ふっ!」

 

リーナは自分の受け持ちである五体の火蜥蜴の内、最も近い位置にいたの懐に肉薄すると火蜥蜴の鳩尾に拳を叩き込む。すると火蜥蜴は全身を震わせ、全身の傷口から血を溢れさせて力なく倒れ込む。

 

「…………相変わらずの威力だな」

 

テオは目の前の火蜥蜴を殴り倒しながらリーナが自分の後ろで振るった攻撃に若干呆れたような声を漏らす。

 

リーナと火蜥蜴では単純に重量差が大き過ぎて本来ならダメージなど通るはずもない上、強固な鱗によって逆に自分の拳を痛めてしまうのだが、これにも理由がある。

 

まず、拳自体の威力は飛鳥と然程変わらないと言っても良い。これは同じ女性であり大きく体格も変わらず、武術を修めているわけでもない以上極めて自然な事である。

 

しかしリーナには飛鳥とは身体能力である部分に決定的な違いがあった。それは桁外れな肺活量と強靭な横隔膜だ。これは本来なら戦闘能力には直結しないのだが、ギフトによって音を操作するリーナならば話が大きく変わってくる。

 

そして読者の皆様はこう思わないだろうか?

 

『“音”とは“波”、“波”とは“衝撃”、そして“振動”である』と。

 

つまりリーナが先程行った攻撃は、拳が当たる瞬間に体内で増幅した音を自身の骨を経由した骨振動を用いて相手の体内に直接打ち込む、というからくりなのだ。

 

体内で暴れまわる増幅された音は火蜥蜴の体を余すことなく駆け巡り、脳まで揺さぶられた火蜥蜴は糸を切られた人形のように沈められたのである。

 

「さて、俺も負けてられないな」

 

そう言ってテオは拳を打ち鳴らし戦意をみなぎらせる。

 

そして二体もの仲間が何も出来ずにやられた事で本能的に後ずさる火蜥蜴達だったが、

 

「何処へ行くんだ?」

 

「何処に行くんです?」

 

「「まさか逃げられるなんて思ってないよな?(思ってませんよね?)」」

 

そう言った次の瞬間、テオがつま先で地面を叩くと自身と火蜥蜴達を囲むように石造りの城壁が築かれる。言外に逃げたくば自分達を打ち倒してからにしろと言われた火蜥蜴達は覚悟を決めて一斉に跳び掛かった。

 

その後、三分にも満たない僅かな時間で総勢十体にも及ぶ火蜥蜴を無傷で制圧したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして火蜥蜴達を制圧したテオとリーナは白夜叉の居るであろうバルコニー付近に辿り着いたのだが、そこには鈴香や十六夜の懸念通りに封じられた白夜叉と複数の火蜥蜴を従え、小脇に飛鳥を抱えた白装束の女、ラッテンが居た。

 

「聞かなくても、いえ聴かなくともわかりますね。貴女がハーメルンの笛吹きですか」

 

「…………そう、貴女が私の演奏を遮った歌い手ね。貴方には念入りに操った火蜥蜴共をけしかけた筈なんだけど、そいつらは殺したのかしら?」

 

「いいや、今は疲れて眠ってるよ」

 

そう答えるテオの視線がラッテンに抱えられている飛鳥に注がれる。どうやら気を失っているようだが命に関わるような傷を負っているわけではないようだった。

 

「白夜叉! 状況はどうなってる!?」

 

「先程までジンと耀が居たが既に離脱して黒ウサギの元へ向かった!飛鳥は足止めを買って出てやられたのだ!」

 

「ならコイツから飛鳥を助け出せば丸く収まるな」

 

「あら、貴方程度にそれが出来るかしらね?」

 

「私を忘れないでください『縛り唄“楔”』」

 

リーナが歌声を発するとラッテンの足下から石造りの鎖が何本も飛び出してくる。

 

「チッ!お前達、時間を稼げ!」

 

ラッテンは襲い掛かってくる鎖をかわしながら火蜥蜴をリーナの元へ差し向けて機を伺う。

 

「リーナ! サラマンドラの連中は任せろ!」

 

テオは火蜥蜴の鳩尾を地面から伸ばした柱で打ち抜いて手早く無力化していく。

 

しかし一方のリーナは飛鳥を案ずる余り思うように攻め込めず、ラッテンを捕縛出来ないでいた。ただ余裕がないのはラッテンも同じでこのまま千日手が続くかとかと思われたのだが…………

 

「そこまでです!」

 

神格武器である“擬似神格・金剛杵”を掲げ、天を貫く雷鳴を轟かせた黒ウサギが高らかに宣言する。

 

「“審判権限”が受理されました! これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”は一時中断し、審議決議を執り行います! プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します─────」

 

 

 




それでは今年もよろしくお願い致します。



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