先日、ラスト・エンブリオを読んだのですが彩鳥可愛いですね。
ああ、早く続きが読みたいです。
(まさか蛇神を素手で倒した!?…………信じられませんが、本当に最高クラスの恩恵を所持しているのなら私達のコミュニティの再建も夢じゃないかもしれない!)
「おいどうした黒ウサギ、ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ」
「えっ、きゃあ!?」
背後に移動した十六夜は黒ウサギの腋下から豊満な胸に手を伸ばし、更にもう片方の手をミニスカートとガーターの間から内股に伸ばしていた。黒ウサギは先程の感動も忘れて慌てて十六夜から飛び退いた。
考え事をする暇すら儘ならないとは、全く以て油断ならない問題児である。
「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!? 二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」
「二百年守ってきた貞操? なにそれ超傷つけたい」
「二百年守ってきた貞操、ねえ? ……あれ? そういえば私も似たような感じよね?」
「ヤハハ、なんだお前もかよ」
「まあ、私はもっと長いけどね」
「お馬鹿!? いえお馬鹿!! そして鈴香さんもなにカミングアウトしてるんですか!?」
自身の体を抱き締めながら十六夜を非難し、更に何故かカミングアウトをかました鈴香にツッコミを入れる黒ウサギ。ツッコミに次いで更にツッコミとなんともまあ忙しい限りだ。彼女としては不本意な事この上無いだろうが。
「まあ、お前らの貞操は今は良いや。後々の楽しみに取っとこう」
「さ、左様デスカ」
「あははっ♪ ここまで堂々と言われたの初めてね」
十六夜の物言いを可笑しそうに笑う鈴香と油断ならないと警戒する黒ウサギ。十六夜は自分の言葉に正反対の反応をみせる二人を見ながらククッと噛み殺す様に笑った。
「そ、それはそうと、蛇神様はどうされます? というか生きてます?」
「流石にあれくらいじゃ死なないだろ」
「大丈夫よ、ちゃんと生きてるわ。まあでも、仮に死んでたら蛇神(笑)よね」
鈴香は蛇神の様子から死んでない事を軽く毒を吐きながら確認していた。
「あ、あはは、ならギフトだけでも戴いておきましょう。十六夜さんは蛇神様の試練はおろか本人を直接打倒しましたから」
黒ウサギはきっと凄い物が戴けますよー、と意気揚々と蛇神に近寄るが、十六夜と鈴香はそんな黒ウサギを怪訝な顔で見つめる。
「うっきゃー♪ 二人とも見てください! こんなに大きな水樹の苗が貰えましたよー♪」
身の丈程もある水樹の苗を抱えて喜ぶ黒ウサギの前に十六夜が立った。……飛びっきり不機嫌そうな表情を浮かべながら。
「い、十六夜さん? どうしましたそんな怖い顔をされて」
「いや? 良いものが貰えて良かったな黒ウサギ。……だけどお前」
「何か私達に隠し事してない? ねえ、黒ウサギ?」
スルリと気配を消して背後に忍び寄って来た鈴香に抱き締められた。もっとも黒ウサギにとっては暖かさや心地よさなど無く、まるで己を補食しようとする蛇に絡みつかれた心地だろうが。
「…………な、なんの事でしょうか? 箱庭の事ならお答えしますし、ゲームの事も」
「言った筈だ。"そんな事はどうでも良い"ってな。今、俺達が聞きたいのはお前らの事だよ」
「ねえ、黒ウサギ。貴女は、いえ貴女達はどうして私達を呼び出す必要があったのかしらね?」
「……それは皆様に箱庭でオモシロオカシク過ごしてもらおうと「そうじゃないでしょう?」っ!」
十六夜と鈴香の追及に黒ウサギはまるで心臓を鷲掴みにされた様な気分だった。
「黒ウサギ、私は他人の善意を無警戒で受け取れる程短い時間を生きてきた訳じゃないの」
「これは俺の勘なんだが黒ウサギ、お前らのコミュニティは弱小か、あるいは何らかの原因で衰退したコミュニティじゃないか?」
苦虫を噛み潰した様な表情をする黒ウサギ。彼女達にとってコミュニティの状況を彼等四人に知られる事は今の段階では避けたかったからである。
「……………………」
「沈黙は是也だ。黒ウサギ、今のお前に残された道は俺達に自分達の事を包み隠さず洗いざらい吐く事だけだ」
十六夜の宣告に内心爪を噛む思いの黒ウサギ。彼女は自分達にとって都合の悪い事が次々と起こっていくのにとてつもない焦りを感じていた。
(せめて気づかれたのが加入承諾を得てからなら良かったのに)
黒ウサギは内心そんな事を考えるが、そんな黒ウサギの心情を見抜いていたのか鈴香は、目を細めて黒ウサギを睨み付けた。
「ねえ、もしかして承諾を取った後だったら、とか思ってない? もしそうならこの際はっきり言っておくけど……」
「あんまり舐めた真似はしないで頂戴ね?」
そう言った次の瞬間、鈴香から濃密な妖気と殺気が溢れだした。目の色も先程までの透き通った黒からあらゆるものを射抜く様な紅に染まり、瞳孔は縦に長細く変わっていた。
(おいおいマジかよ、コイツはヤベェな。奥の手使ってワンチャン有るか無いかってところか?)
(なんていう妖気と殺気!? 鈴香さんの力はこれほどのものなのですか!?)
十六夜と黒ウサギは突然の事態に冷や汗をかいていた。
コミュニティの事が此処で露見したのはある意味黒ウサギにとって幸運だと言えるだろう。彼女が黒ウサギ達に牙を剥けば創始者の眷属たる黒ウサギですらただでは済まなかった事は容易に想像できた。
「普段は気配を隠蔽してるから判らないのでしょうけど、私はこれでも大妖怪に名を連ねる存在。貴女達を殺す事なんて造作も無いのよ」
十六夜と黒ウサギは臨戦体勢で身構えるが、不意に鈴香から発せられる妖気と殺気が霧散した。
「……まっ、とりあえず運が良かったわね?」
先程までの剣呑な雰囲気も何処かに消え失せ、鈴香はいつものフレンドリーな雰囲気に戻っていた。
「ヤハハ、とんでもねえな。ほら、さっさと喋っちまえよ。コイツは俺でも勝てる自信はねえぞ?」
「…………分かりました。ならば黒ウサギもお腹を括って我々の惨状を精々オモシロオカシク語らせていただこうではありませんか」
黒ウサギは観念した様に両手を挙げて自分達の置かれた状況を語りだした。
「成る程ね。黒ウサギのコミュニティには名乗る名も、自分達を象徴する旗も無ければ、共に戦える仲間すら居ないって事ね。おまけに残っているのは百二十人もの子供達だけ、と」
「もう崖っぷちだな!」
「というか崖に腕一本でしがみついてる感じ? しかも今現在も谷底に引きずり込まれてるっていう」
「ホントですねー♪」
十六夜と鈴香の熱い死体蹴りに黒ウサギは膝から崩れ落ちた。こうして言葉にしてみると十人に聞けば十人が末期だと匙を投げる様な状況だった。
「で、なんでそんな事になったんだ? 託児所をやってる訳じゃないんだろ?」
十六夜の言葉に黒ウサギはそっと目を伏せた。
「彼等の親も全て奪われたのです。箱庭における最大の天災、魔王によって」
「ま、マオウ!?」
魔王、その単語を聞いた十六夜は目をキラキラと輝かせた。
「魔王だと!? なんだよそれ、箱庭にはそんな素敵ネーミングで呼ばれる奴が居るのか!?」
「え、ええ、でも十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると」
「そうなのか? でも魔王なんて名乗るからには強大で凶暴で全力で叩き潰しても構わないような素敵な奴なんだろ?」
「…………魔王、か」
「ま、まあ、倒したら多方面で感謝されるかも知れませんね。条件次第では隷属させることも出来ますし、って、鈴香さん?」
魔王という単語に子供の様な反応を見せた十六夜とはうってかわって何処か遠くを見つめる様な反応を鈴香。
「ん? ああ、気にしないで」
怪訝そうに顔を覗き込んでくる黒ウサギに対して鈴香はなんでもないと言い、続きを促した。
(魔王だなんて聞くと貴方を思い出すわね、吉法師)
鈴香の頭に浮かぶのは数十年前に出会った一人の男。
(全く、録な死に方をしなかったわね。貴方は)
彼は己の夢の為に戦い続けていたが、彼は部下の裏切りにあい道半ばにしてその命を散らした。まあ、彼の死体を見た者は一人として居ないのだが。
あれから数十年、あの場で生きていようが、死んでいようがどちらにせよ既に生きてはいないだろう。
鈴香は栓無き事を考えたと頭を振って黒ウサギの話を聞くのに意識を戻した。
「しかし自分の縄張りを主張出来ないのは厳しいな。いっそのこと新しく作り直したら良いんじゃないか?」
鈴香も十六夜と同じことを考えていた。正直言って黒ウサギのコミュニティの状況は新たに同士を招いた程度でどうにかなるほど甘いものではない。
今のコミュニティの衰退は盛者必衰と割り切って新たにコミュニティを作り上げることこそ黒ウサギの取るべき道だろうと。しかし、
「た、確かにコミュニティを新たに作り直すことは可能です。しかしそれでは駄目なのです! 私達はなによりも…………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのです! 」
「ちょっと待ってくれる?」
黒ウサギの話を静かに聞いていた鈴香は自身にとって見逃せない事を問いただす為に待ったをかけた。
「貴女の想いは立派よ、それは認めるわ。でも黒ウサギ、貴女達はその想いの為に百二十人の子供達に名無しの烙印を背負わせているのに気づいてる?」
なによりも仲間達が帰ってくる場所を守りたい、これは黒ウサギの心からの想いである事は間違いないだろう。それを聞いた者は立派だと感じるかもしれない。しかし鈴香にとってその想いは過去に執着する余り、今の現状から目を背けているのではないかと感じていた。
「そ、それは…………」
「貴女程の者が心身を捧げる位だもの、衰退前のコミュニティはとても素晴らしかったのでしょうね。以前の栄光を取り戻したいと思う気持ちも理解出来るわ。でも貴女達」
「過去を見てばかりで今のコミュニティを見てないんじゃない?」
「…………っ」
鈴香の言葉に黒ウサギはなにも言えなかった。鈴香の言葉は黒ウサギ自身が無意識に目を背けていた事だった為に。
十六夜も軽薄な雰囲気を消して成り行きを見守っていた。
「…………それでも」
それから五分、十分と時間が過ぎていくなか、俯いていた黒ウサギはぽつりと呟く様に声を洩らした。
「それでも私はっ! 仲間達の帰ってくる場所を守りたいですっ! 茨の道である事も分かってます! それでも私達は仲間達の帰ってくる場所を守りつつ、コミュニティを再建し、いつの日かコミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです! 」
「そのためには十六夜さんや鈴香さんの様な強大な力を持つプレイヤーを頼る他ありません! どうか、どうかその力を私達のコミュニティの為に貸してはいただけないでしょうかっ…………」
黒ウサギはその大きな眼からボロボロと涙を溢し、恥も外観もかなぐり捨て、頭を下げて懇願する。
「……黒ウサギ、その決意に偽りは無いわね?」
「はい!」
「辛く、果てしない道のりよ?」
「覚悟の上です!」
「絶対に諦めない?」
「死んでも諦めません!」
鈴香は黒ウサギの瞳をジッと見つめる。黒ウサギも涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらも鈴香を見つめ返した。
「…………なら、私が見届けようじゃないの」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、だから貴女の決意が決して口先だけじゃない事を私に証明なさい」
「……グスッ……ヒグッ……ありがとうございます……ありがとうございますっ!」
「ああもう、泣き虫ね」
鈴香は感極まって泣き始めた黒ウサギを胸に抱き寄せながら十六夜に顔を向けた。
「私は黒ウサギのコミュニティに行くけど貴方はどうするの?」
「おいおい、あんなの見せられて入らないなんて言える訳無いだろうが。……俺も行くよ」
十六夜は頭をガシガシと掻きながらぶっきらぼうに答えた。なんとも素直じゃない彼らしい反応である。
「そっ、これからもよろしく頼むわね」
「おう」
「ほら、十六夜も入ってくれるそうよ」
「……えぐっ……十六夜さんもありがとう……ふぐっ……ございますっ……」
「ったく、精々感謝しろよ?」
「はい、はいっ!」
「…………ふふっ♪」
涙で目元を真っ赤にした黒ウサギと照れくさそうに顔を背ける十六夜。鈴香はそんな二人を眺めながら微笑んでいた。
読んでいただきありがとうございます。