桜舞い散る穏やかな春の季節、新年度として新たなスタートを迎える時期。
学校であれば入学式、会社では入社式などが始まっており、新たな気持ちでその行事を迎える者が多かった。
それを祝福するかのように天候は恵まれており、桜の花びらが舞い散っていく。
「納得できません」
そんな中、高校の内部にて百人中百人が確実に振り返って見惚れるであろう美しき少女が不満げに口を開いていた。
その言葉を投げかけられたであろう少年と他二人は軽く目を合わせる……大体言いたいことは理解できているようだ。
「なぜお兄様ではないのですか。入試の成績では間違いなくトップだったじゃありませんか!本来ならばわたくしではなくお兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」
「待て深雪、どこで達也の成績を入手した」
その美少女の名前は司波深雪、先ほどの説明の通り、黒く澄んだ瞳に、背の半ばまである艶やかなストレートの黒髪を持つ少女であり、憤りを交えている表情ですらも可愛らしいものである。
その発言に対して突っ込みを入れている少年の名前は
少年と表現しているが、容姿としては男性的なものではなく、髪を伸ばしているのも相まって女性的なものに近い。とはいえ、声は中性的よりは若干低く、男よりの声を指定いるため、声や服装で判別は可能だ。
「……該当者ならあの人しかいないじゃないの」
「リナの言うとおりだな……」
残りの二人のうち最初に口を開いた少女の名前は工藤リナ。深雪に劣る事の無い美貌を持ち合わせている美少女であり、金髪ツインテールの碧眼の持ち主で日本人的な印象を残しつつもハーフやクォーター的な外見をしており、大人びた印象を受ける。
その顔には若干の諦めや呆れの色合いが含まれていた。
最後に深雪の兄であり、司波達也。
本人は平凡な顔つきだと自称しており妹と似ていないとしているが、長く付き合いのある人間から見れば似てる兄妹と声をそろえるだろう。ただし、初見ではなかなか分かりにくい部分ではあるが。
「まあ、結果を見ればわかると思うがここではペーパーテストよりも魔法実技の成績が優先される。我ながら入学はもとより、良く一科生になれたものだと思うよ」
「その分、落ちた人間がいる事を忘れるなよ……」
「そうだったな、入学できたのが奇跡だという事は訂正する」
訂正しながらも不満な様子が一切ない兄の様子に、深雪はますます語気を強める。
「そんな覇気のないことでどうしますか。同年代ではお兄様以上に相応しい方はいません。それに本来の――――」
「はいダメよ」
校内の様子を自然な程度に見渡し、少なくない人の数を見て取り、強い口調と軽い小突きでリナが制する。
達也が若干出遅れた感があるが、妹を冷静にしてあまり大っぴらにすべきことではない事を止める目的は同じなので問題ないと判断した。
「それは言っても仕方がないことなんだ。俺はここの評価方法に文句を付けるつもりはない。それに、そうでもないと一真が入れない事になってただろ?」
「……それはそうですけど。というか答案の回答が途中から完全に一問ずつ器用にずれてるというのがなんとも言い難いです」
「189位……ネタにもされにくい順番よね」
どこでその情報を仕入れているのかなど聞くまでもない……聞くまでもないのだが、非常に理不尽である。特に三人が三人(一人は筆記だけだが)とも成績優秀なためある種の場違い感がある。
おまけに成績が低い理由が完全なうっかりミスな為、反論する事など出来ようはずもないのだ……そういう部分も含めての実力なのだから。
ついでに言うのであれば、ズレが無い状態でも順位は少し上がる程度であり、現実は非常なのである。
「ギリギリじゃないだけまだマシ……いや五十歩百歩か」
「ま、それはそれとして……ミユキの晴れ姿、楽しみにしてるんだから、タツヤと私とカズマ……それにあの人達が、ね」
弄りをそこそこにし、未だに不満げな深雪の背を軽くたたく。
まだ早いのだが席を確保しようと動いている父兄の列を見ながらであり、深雪の視線も自然にそちらへと動く。
スーツ姿の女性が機材を確認しつつ座席表のようなものをにらみつけていた。
「(……護衛任務はどうしたんだ)……まあ、そうだな。みんな深雪の晴れ姿を見たいんだ。もちろん、俺も可愛い妹の晴れ姿を見たいからな」
おそらく会議のせいで出てこれなかったから代役として寄越したであろう女性を一瞥してから、達也は諭すように深雪の頭を軽く撫でながら本心からの言葉を紡ぐ。達也の手の感触を楽しみながら頬を染めている光景にリナが「キョウダイナカガイイノハイイコトダナア」という片言を呟いていた。
一真は普通に仲が良いのはいいことだよなあ、と純粋に考えて微笑ましそうに見ているだけだったが。
「さて、そろそろリハーサルの時間だろ?行っておいで、深雪」
「はい、行ってまいります。お兄様、リナ、一真」
会釈して講堂へと消えていった深雪を確認して、達也が二人に向き直る。
消えていく深雪を見送っていたのは二人も同じであり、終わった後で達也と目を合わせた。
「後2時間、どうしようか」
「タツヤ、時間を言わないでちょうだい、長く感じるから」
「腰を落ち着けられるところを探すか、探索でいいんじゃないか?」
迷惑というほどではないが、始まるまで長くない時間待つ羽目になり、途方に暮れそうになりつつ無難な選択をした。
◇
多種多様な施設をあらかた見て回り、まるで大学のようだと思うに至った探索を終えて講堂へと向かおうとして、三人は足を止めた。
「新入生ですね。探検もいいですが、間もなく式が始まりますよ」
「すみません。今、行きます」
先輩が相手であるのと同時に、同じ事をしている生徒を見てきたと言わんばかりの態度であったので、今から行くところでした、などという言い訳は三人ともせず、感謝の意を告げる。
原則風紀委員か生徒会の役員だけが付けられるCAD――魔法を行使しやすくするデバイス――とエンブレムを見て一真は優秀な人なんだなあ、と普通の事を考えていた。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は生徒会長の七草真由美です。七草と書いて“さえぐさ”と読みます。よろしくね」
優秀な中でもとびっきりだった、と訂正する一真。
そして過去の母親の話から記憶を引っ張り出し、七草家の長女、七草真由美という人物がいる事を思い出した。
十師族に相応しい技量の持ち主だと聞いている、が今はそう言う事を考えるよりもやるべきことがある。
「俺は、いえ…自分は司波達也です」
「工藤リナです、ちなみに九ではなく工場の工ですよ」
「夜津一真です」
自己紹介されたのでし返したのだが、まだ話すことがあるかのような表情をしていた。
他にも新入生は大勢いるのに、何故ようやく見つけたと言わんばかりの表情をしているのだろうか、という疑念がよぎっていた。
「貴方たちが司波君に工藤さん、それに夜津君ね。司波君は魔法理論で平均点70点台のところを満点。工藤さんは新入生総代とほぼ同等の成績、夜津君は身体測定がブッチギリだったそうね」
「あれって入学には一切評価されない項目ですよね?」
なんで知っているんだというのは無粋であると認識していた……深雪の情報源の事を考慮すれば日本でも優秀な名前に数字付き、しかも十師族であり生徒会長ともなれば把握していてもおかしくはない。
話のネタがそれだけしか思い浮かばなかったのだろうが、身体測定でダントツでも魔法科高校である以上あまり考慮されない筈だ。
「自分の結果はあくまでペーパーテストの結果、情報システム上のことです。それに実技が伴っていないのは把握しているのでは?」
「実技に重きを置いてるから仕方の無い事だけどねー……」
基本的に魔法実技が出来なければ理論もできないと言われる。
それだけ達也の結果は実技結果とかけ離れて異常だったということだ……ただそれ以上にひどい人間が居たお蔭で一科生に滑り込めた結果があるのだが。
「そんなことはないわ。私が同じ試験を受けたとしても満点が取れるとは思わないわ。これでも理論も結構得意なんだけれどね」
「恐れ入ります」
……ここで、問題である。
七草真由美はかなりの美貌と妖精のような可憐さを持ち合わせている、そして工藤リナは言うまでもなくベクトルは違うものの明るい感じの美少女である。
そして話をしている四人の中で一真は唯一二科生である、そして多数の生徒が見ているという状況で間違いなく起こるであろう事を想定せよ。
「お花が摘みたくなったので去ります」
―――口に出して言われていないが、補欠の分際でなんでそこにいるんだという視線が突き刺さるのである。
まあ、一真はそれとは関係なく、トイレに行きたくなって走り去ったのだが。
達也とリナは止める暇もなく、魔法力なしで人間が出せるはずのない速度で走り去っていく幼馴染の姿を見送るしかなかった。
「……呼び止めちゃって悪いことをしたかしら」
「大丈夫ですよ、たぶん」
幸いにも魔法の行使をしていなかった事を我慢の限界からリミッターを解き放って走り去ったと解釈されていたが、達也とリナは幼馴染の様子に内心でため息をついていた。
工藤リナ、いったいナンジェリーナなんだ(ォィ