嵐の前の静けさの巻
騒動を起こしたと言ってもただ食事をしていただけなのでもちろん不問で終わり、午後の専門課程の見学になった。
昼食時の様子は美貌を維持するのにエネルギーをかなり必要とするという自己完結的思考で満場一致され、あったが無かった事にされていた。
そうして達也達は一真達とともに七草先輩の射撃実習を見に向かっており、他の一科生達はタイミングを逃したのか割り込む事が出来なかった。
「じゃ、俺は隣を見る」
「……十文字先輩のところへ行くのか?」
実習室へ入る寸前、一真が隣の部屋を指さして別行動をすると言い出した。
七草先輩よりは人気が劣るのか、そちらの方は人の数は少ないどころか始まったばかりなのか皆無だった。
「魔法を使った肉弾戦や防御戦の実技だから行かない道理は無い」
「花より団子ならぬ花より拳か。まあ、こういう見学は興味のあるものを見るのが鉄板だからなあ」
「私はちょっと、さっきの食事見てたからこっちに行きたいわ」
若干楽しげに笑う一真に対してレオとエリカが交互に言葉を吐く。
2人も十文字先輩のところに行きたいのは山々だが若干癒しが欲しいのか七草先輩の元へ向かいたいようだった。
「……お兄様、行ってまいります」
「ああ、一真は任せた」
さっさと実習室へ向かった一真に呆れつつも深雪は達也に一言断って一真の後に続いた。
その様子を見ていた達也達についてきていた形となる一科生の何人かが小さく驚愕の声をあげていたが、顔を覚えるだけに留めて特に追求しなかった。
「私は、サエグサ先輩のとこがいいけど……タツヤはミユキのとこに行かないの?」
「深雪の行ってきますの意味を考えればわかると思うんだが」
そう言って達也はリナについて行っていた。
残る面々も思惑が違いつつも同行し、付いてきていた一科生は……癒し成分の多いであろう七草先輩の元へと向かい、十文字の実技は深雪と一真の二人だけが見学者となった。
「……達也と一緒じゃなくていいのか?」
「私達を知る人間にとって、このような場合に離れて行動する行為に驚きが大きい筈です」
見学スペースに到着し、十文字先輩以外が深雪のすがたを見て準備の後れを引き起こしている最中、一真が自身にとっては至極まっとうな質問を深雪にぶつけた。
それに対して深雪は初期段階で知っている状況と違う状況を起こして選別する作業を行うためでもあると断言する。
そんなものなのか、と思いつつも一真は開始されない実技に疑問を持ち、軽く準備体操のようなものを行っている先輩に声をかけた。
「……ところで準備手伝いましょうか?」
「いや、問題ない。ほとんど準備は終えている」
先輩……十文字先輩の言葉にようやく深雪に見惚れていた他の先輩も今から行われることを思い出したのか意識を切り替えていた。
ただし、意識を深雪の方へと傾けているため授業に集中しているのかを疑っており、案の定無駄にカッコいいところを見せようとして十文字先輩が無慈悲に叩き潰すという一方的な光景で終わっていた。
◇
一真が達也、深雪、リナの誰か一人や友人たちと行動しつつ学内見学を終えて放課後になって、ようやくと言っていいのか激突が発生していた。
「「いい加減にしてください! 深雪(リナ)さんはお兄さん(達也さん)と帰るって言っているじゃないですか!!」」
「あの、ホノカ?一真もだし、あなた達とも一緒に帰るってなってたはずだけど」
「リナ、ダメよ。あの二人には聞こえてないみたい」
大人しい外見や控え目であった言動からすると意外ではあるのだが、美月とほのかが非常に熱くなっていた。
達也達のクラスメイトである1-Aの面々(駿除く男子と多数の女子)が深雪やリナが一真や友人たちと合流して帰路につこうとしたところを呼び止めたのが発端であり、その事に切れた美月に便乗してほのかも正論でぶつかっている有様である。
正論による口撃を行おうとしたリナが出ばなをくじかれて、誰かが熱くなると冷えてしまうという心理状況で冷静となり、少し落ち着かせようと微妙にズレた意見を言うが、深雪の言う通りほとんど聞こえていないようだった。
「別に深雪もリナも邪魔者扱いしてる訳じゃないよなあ?達也」
「(たった今完全に煩わしい対象になっているだろうが)そうだっ
現実逃避しているわけでもなく、付いてくるならついてくればいいじゃないかという態度の一真と逆に若干現実逃避気味の達也がため息をつきたいのを我慢しつつ過去形の言動を告げていた。
「……レオ、俺は何でこっち側に居るんだろうな?」
「いや、なんか自然なぐらい巻き添え食らっててこっちが驚いてるんだが」
口論している傍らで何故か人の群れの流れにより帰宅妨害組の方に位置が移動していてなんだか動けない状況の駿がレオに言葉を掛けるのだが、レオはレオで苦笑するしかない。
何故か下手に動けなくなっている空気が出来上がっているせいで駿も動こうにも動けないのである。
口論に参加できなくなっているエリカは完全な冗談交じりで「ウラギリモノー」と言い、雫はポーカーフェイスながらも同情の視線を送っていた。
「司波さんや工藤さんは僕たちと居るべきだ!そうだろう、森崎!」
「え?いや?普通にいっしょ」
「そうよ!私達は司波さん達に相談したいことがあるんだから!」
いきなり話を振られて自然と正論を述べようとして話を遮られ、駿は若干唖然としていた。
これにはエリカも苦笑いで見る事しかできず、状況を若干楽しみつつも駿に同情の視線を送るようになっていた。
「
「……」
(……森崎君の表情が一瞬歪んだ?)
建前としては禁止されている差別用語を口に出した男子生徒に対して……駿が静かな怒りを示していた。
注視しなければ気が付かない程度の表情の変化であり、正面で向かい合っている雫達でないと気が付かなかった変化だ。
怒りを示そうとしたエリカとレオもそっちに気を取られて怒りが散っていた。
「そもそも同じ新入生じゃないですか!あなた達が今の時点でどれだけ優れてるって言うんですか!」
「このアマァ……」
己の我儘でしかない事を押し通そうと言葉で脅し、屈服させようとしている人間に対して、正論というものは逆効果なものしか生み出さない。
現に美月・ほのかと口論していた男子生徒が歯を食いしばりつつ憤怒の形相をして
「どれだけ優れたものか教えてやろうじゃないか……」
「森崎がな!!!」
CADを構える動作をするかと思いきや、いきなり森崎の言葉を出す男子生徒。
その言葉に相対する側全員が「ん?」という表情で統一されており、言われた駿は自分以外にも森崎居たのか?とアウェーな陣地でキョロキョロしていた。
「…………あの?」
「男子主席の森崎駿が実力の違いを見せてやるって言ってんだよ!!」
「( ゜Д゜)」
「待って、今どうやって発音したの森崎君」
正論で攻めていた美月も思わず熱が冷めて困惑し、聞き返そうとして駿の名前を出した瞬間、駿は文字では言い表せない謎の言語で唖然として男子生徒を見ており驚いた雫がこの場にあまりふさわしくなさそうな突っ込みを入れていた。
渦中の生徒である深雪もリナも達也も一真も表情を変える事は無かったものの少しの間困惑気味になりながら、次の手を考えようとした。
「森崎さん……何処か実習スペースをお借りしましょう」
「あ、ああそうだね司波さん……それでこの騒ぎが少しでも沈静するなら―――」
「何、そこで懐柔されようとしてるんだよ
「そうよそうよ!!おぜん立てを無駄にしてどうすんのよモブ崎!!」
深雪が騒ぎがこのまま暴力沙汰になるのを避けるために唖然としている駿に提案し、それを了承しようとした瞬間、男子・女子生徒数名からどう聞いても聞き間違いでない名称が飛び出し、森崎の動きも表情も固まっていた。
物語の人物に興奮しすぎて現実感がなくなった故の言動
本人の前で言うもんじゃないよね、愛称でもないし