復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今週のネタバレ。

バーバリー「埋めとかなきゃあぶねぇんだよ!」


戦友編
侵略者たちの後方


 ダラスの投げた骨董品で異次元へと飛ばされたシュンは、死体の山へと落下した。

 死体の山の上に落ちたシュンは死体をどけながら直ぐに起き上がり、バリアジャケットを纏って衝撃波の技を使い、自分の周辺にある死体を吹き飛ばす。

 

「余計に汚くなったな」

 

 少々腐敗していた死体があったのか、バラバラになって地面を更に汚した。辺り一面が肉片に内臓、欠けた人骨が広がる。

 もっとも、この死体置き場は元から肉片や人骨、臓物塗れで並の人間なら精神を病む程の惨状であり、処理していない死体をこんなに大量に放置して病気か何かが流行りそうだが。

 

「たく、こんなに積み上げるなら焼くなり埋めるなりしろっての」

 

 幾度となくこういった現場を見慣れているシュンは、何かの病気になる前に死体置き場を後にした方が良いと思い、空を飛んだ。

 転移して来た世界の空は薄暗く、とても青い空は拝めないに暗い。あの死体の山からして、どうやらこの世界は戦争か何かが起きているのだろう。

 上空から見れば、何か分かるかもしれないので、地上に目を配りながら飛んでいると、大量の死体を荷台に積んだトラックが目に入った。向かっている先は自分が落ちた死体置き場だ。

 適当な空き地で処分すればいいのに、何故わざわざトラックで運び、死体置き場に集めるのかを問うため、シュンは地上へと降りた。

 

「よぅ、なんでそんなに大量にある死体を…」

 

「ひっ、ひぇ!?」

 

「しまった。すまねぇな。だが、怪しい者じゃ…!?」

 

 いきなり地上に降りて来た空飛ぶ大男に対し、運転手は慌てて急停止して驚愕する。

 大量の死体の事が気になって、迂闊に目の前に降りてしまったシュンは謝罪しようとしたが、トラックから降りて来た運転手は、いきなり手にしている突撃銃、56式自動歩槍を撃って来た。

 これにシュンは驚いたが、銃弾を弾き返すバリアジャケットを纏っているので、近付いて銃身を掴み、強化された腕力で圧し折る。

 

「おいおい、いきなり撃つことはねぇだろう」

 

「げっ!? ば、化け物…」

 

 突撃銃の銃身を圧し折ったシュンに、運転手は目を見開きながら驚愕し、銃を棄てて逃げようとしたが、襟元を掴まれてしまう。

 異常な行動を取る運転手に、シュンはここが何所であることや、なぜ死体を死体置き場に持っていくかを問う。

 

「よし、まずはここが何処かだ。次はなんで死体を溜め込むことだ」

 

「め、命令されたからだ!」

 

「誰に!」

 

「変なカルトの奴だ! あの死体をアンデッドにして、敵に攻勢を仕掛けるらしい…! それとここはバッグランド王国。でも、国王軍は壊滅状態! 国王一家は隣国に亡命した!」

 

 運転手が死体を溜め込むのはカルト染みた者達に命令されての事であり、その大量の死体をアンデッドにして、敵に攻撃させるようだ。

 敵が何なのか知らないシュンは、その敵が何なのかを問い詰める。

 

「敵はなんだ?」

 

「連邦軍だよ! あいつ等、何の警告も無しに攻撃しやがった! だからあんなに死体が出たんだ!」

 

「連邦か…面倒だな」

 

 敵が連邦軍であると分かれば、シュンは悩んだ。

 無差別攻撃を仕掛けたとなれば、連邦軍は自軍の識別反応を示さない物全てを攻撃すると言う構えだ。この手の戦法を取った連邦軍の部隊と遭遇すると、確実に銃弾の雨が降って来る。

 この辺のカルトは大量の死体をアンデッドの大群に変えて連邦軍と戦おうとしているが、焼け石に水であり、逆にロケットかミサイルの雨を降らされて全滅させられるだろう。

 自分らしく強行突破と行きたいところだが、腹の銃創を治療しなくてはならない。

 

「もう良いだろう…離してくれ! 今日中にノルマを達成しなきゃ、俺がアンデッドにされちまう!」

 

「ちっ、行けよ! どうせ無駄になるだろうがな」

 

 場所と死体を集める意味、敵が連邦軍であると分かれば、シュンは運転手を解放して安全そうな場所に移動し、そこでバリアジャケットを解いて銃創の治療を行った。

 男らしい荒々しい治療で、PAYDAYギャング団よりくすねたウィスキーで銃創の消毒を行い、焚き火で熱したナイフを銃創の跡を熱して火傷で塞ぎ、貫通した背中側にも熱して火傷で防ぐ。凄まじい激痛を伴うが、シュンは慣れ切っており、治療を終えれば、残っているウィスキーを一口飲んで酔いで痛みを紛らわす。

 

「フッー、アンデッドに食われないように、木の上で寝ないとな」

 

 酔いで痛みが和らげば、シュンは自分が居た痕跡を消し、言った通りにアンデッドに襲われるのに対処する為、木の上に上って自分が寝られるくらいの枝に横たわり、器用にロープで巻いてからベルトの金具に固定し、落ちないようにする。

 引っ張って寝ている間に落下しないことを確認してから、コアより取り出した枕に頭を乗せ、睡魔が来れば逆らわずに眠った。

 

 

 

「また夢に呼び出しか」

 

 眠って夢の世界へ行ったが、虚無の世界へ意識を呼び出された。無論、呼び出したのはこの世界の主であるアウトサイダーだ。

 虚無の世界へ連れて来られたシュンは、何の用かをアウトサイダーに問う。

 

「何の用だ? ここにも水晶があるのか?」

 

「お前の予想通り、この連邦軍に制圧されつつある世界にも水晶がある。場所はここより遥かに遠く、警備が厳重な連邦軍の基地だ。単独での襲撃は命に関わる。仲間を集め、攻撃するのが得策だろう」

 

 シュンが考えた通り、偶然にもあの世界にも力を蓄えるために必要な水晶があった。

 そんな水晶がある場所が一筋縄にはいかない場所にあると言えば、シュンが苦労して手に入れた三つの欠片で形成した水晶の能力を明かす。

 

「それはそうと、お前の手に入れた能力はダークビジョン。暗闇でも目が効くようになり、壁の向こう側の生物も見えるようになる。かつてコルヴォが入手した能力の一つでもある。強化すれば物体や装置ですら見られるようになり、移動経路と目的地さえ知る事が可能だ。探索が更に捗る事だろう」

 

「ほぅ、暗視装置を付けなくても良いって事だな。むしろ、壁越しから見えたら、いらなくなるな」

 

 手に入れた能力はダークビジョン。

 アウトサイダーの言った通り、暗闇でも目が効いて、壁の向こう側の生物を見通せる能力だ。強化すれば物体や装置ですら壁越しから見えるようになり、更に強化すると移動経路と目的地すら分かるようになる優れものだ。

 周りの事を考えずに理想ばかり追い求める者達に対する我慢や、面倒な銀行強盗をこなして集めた甲斐があった。そんな便利な能力を手に入れたシュンは、早速使って自分の視界が不気味な物に変わったことに驚く。

 

「ここじゃ分からねぇな」

 

「ここは虚無の世界だ。お前と私以外の生命は存在しない。元の世界へ戻れば、試してみる事だ」

 

「そうか。なら、修行でもしておくか」

 

 ダークビジョンを使ったシュンであるが、この虚無の世界には自分とアウトサイダー以外の生命体は存在しなかった。

 使うには元の世界へ戻る必要があるとのアドバイスに従い、元の世界で目を覚ますまで修行を行う。

 

 

 

「落ちてねぇよな」

 

 夢から覚めたシュンは、木から落ちていないことを確認してからロープを外し、枝に腰掛けた。

 早速アウトサイダーに教えて貰ったダークビジョンを使い、周囲に生物が居ないか確認する。生きているのは動物程度で、何かから逃げている様子がうかがえる。おそらく、先の運転手が言っていたカルトが死体をアンデッドに変え、奪還を試みたのだろう。

 しかし、結果はカルト側の大敗のようだ。

 上空を見れば、連邦軍の大型爆撃機が幾度となく飛来し、遠くの方から焦げた肉の臭いがここまで届いてくる。

 

「爆撃されたか」

 

 水を口に含んで、口の中を洗ったシュンは、臭いで爆撃されたと判断して水を吐いた。

 それから再び水を飲み、残敵掃討の銃声を聞きながら朝食を取る。朝食はビスケットなどの直ぐに食べられる野戦食だ。シュン的には肉の缶詰が良いと思っていたが、残念ながらコアには無い。肉類は、下にいるウサギを仕留めれば食べられるのだが。

 朝食を手早く済ませれば、枝を引き抜き、皮を削いで手製の歯ブラシを作り上げた後、それで歯磨きを行う。それも終われば顔を洗い、髭剃りセットをコアから取り出し、枝の上で器用にバランスを取りながら髭剃りまで始める。

 鏡の方は木に突き刺した釘に吊るしている。専用のクリームを顔に塗りたくり、肌を切らないように刃先で髭だけを剃る。完璧に剃り終えれば、水で顔を洗って身だしなみを整えた。

 軍隊生活で染み付いた日課だ。野戦生活では余りしなかったが、余裕があれば出来る限りやっている。

 

「すっきりしたな」

 

 鏡を見ながら身だしなみを整えれば、修行を行おうと枝から降りようとしたが、逃げるカルト教団を見付け、直ぐに枝に立って身を隠した。

 息を殺して気配を消し、ダークビジョンを使ってカルトが逃げて来た方向を見れば、中隊規模の連邦軍の歩兵が押し掛けて来る。

 

「向こうに逃げたぞ! カルト共を逃がすな!」

 

「射殺しても構わん! ゾンビ共を召喚するネクロマンサー共を殺せ!」

 

 小隊長の士官らが命令する中、先遣隊の歩兵は立ち止まって、手にしているモリタ式ライフルで射程距離に居るカルトを撃ち始める。

 走りながら撃っても、対して当たらないからだ。数名が立ち止まって撃っていれば、逃げたカルトの何名かが撃たれて倒れた。

 分隊支援火器を持った歩兵が射撃位置に着けば、先遣隊は撃つのを止めて再び追跡を続行する。分隊狙撃手も同様に射撃位置に着き、逃げるカルトの背中を撃つ。木の上に居るシュンは、連邦軍の追跡隊がここを離れるまで、息を潜めて待ち続ける。

 銃声が何十発も聞こえる中、やがて最後の小隊が過ぎ去ったのを確認すれば、木の上から降り、目的の水晶がある場所の方角へと進んだ。

 

 

 

 歩くこと数時間、ようやく人気のある街へと辿り着いたシュンは、コアから出したこの世界の平服に身を包み、労働者に扮して出入り口へと向かう。

 街は既に連邦軍の制圧下であり、あちこちに連邦兵の姿が見える。その中には銃を持った憲兵もおり、周囲に目を光らせている。アンデッドによる奪還攻撃を仕掛けるカルト教団に警戒しているのだろう。

 出入り口は当然ながら検問が設けられており、労働者に扮したシュンは、怪しまれないように検問を受ける。

 

「よし、通ってよし」

 

「出稼ぎ野郎、IDを発行する。そこで受け取れ」

 

 銃やナイフの類を全てコアに仕舞ったシュンは、完全に街に出稼ぎに来たデカい労働者であり、検問の憲兵たちは身体検査だけを済ませて通した。

 それからIDを発行するので、右手の受付に並ぶ行列の最後尾につく。行列は自分と似たような服装の出稼ぎ達であり、殆どが中年だ。自分と歳が近い若い人間は数えるくらいしか居ない。

 

「次!」

 

 受付の兵士が呼ぶ声で、徐々に自分の番が近付いてくる。来るのは大分先だと思ってか、シュンは列を見張る憲兵に喋り掛ける。

 

「なんかありましたか?」

 

「…」

 

「聞いてますか、旦那」

 

「煩いぞ、大人しく並んでIDを受け取れ」

 

 憲兵は答えることなく、注意して自分の任務を続行した。

 情報が得られないシュンは、IDを受け取ってから情報収集に入ることにする。

 

「デカいの、お前のIDだ。握り潰すんじゃないぞ」

 

「ありがとやす」

 

 自分の番が来れば、直ぐにIDを受け取って街の中へ入った。

 遠くから見ても兵士の数は多かったが、近付けば街の隅々まで巡回の兵士が配置されている。襲撃を警戒しているのだろうか?

 気になるシュンは近くに居る兵士に話しかけ、あの警戒ぶりが何なのかを問う。

 

「兵隊さんよ。随分と兵隊が多いが何があったんで?」

 

「あれか? お前新顔だから言っておくが、この付近でカルトの残党共が死体を蘇らせて我が軍を襲撃しているんだ。それとカルトを見たら迷わず我が連邦軍に通報しろ。生け捕りにして報奨金を得ようだなんて考えるな。あいつ等、大男すらぶち殺す武器を隠し持ってる。自分がデカいからって、変に立ち向かうなよ。それと入信もするな」

 

「あぁ、どうもっす」

 

 憲兵とは違い、兵士は直ぐに答えてくれた。その後からカルトを見れば通報しろや近付くな、入信もするなと注意を受ける。この親切な兵士に対し、シュンは礼を言ってから離れた。

 情報を手っ取り早く集めるなら、酒で喋り易くなる酒場が一番だと思い、兵士も集まるであろう酒場を目指して街路を歩いていると、銃声が聞こえて来た。

 どうやらカルト教団の襲撃が行われているらしく、付近の連邦軍の将兵らが慌しく動いている。市民は動揺しているが、将校から騒ぐなと注意される。

 

「騒ぐな、直に制圧される! 安心して労働や市民生活に励め!」

 

 この言葉で、市民らは恐れて自分の仕事や生活に励んだ。

 シュンは動じることなく酒場を目指し、見付ければ直ぐに三名の兵士と共に入店する。

 店内は少しごった返していたが、共に入店した三名の兵士と自分が座れるくらいの席は残っている。三名の兵士は雑談でも交わすために空いているテーブル席の方へと向かい、シュンはカウンターの一つ空いた席に腰掛け、コニャックを注文する。

 

「コニャックを」

 

「あいよ」

 

 前払い方式なので、シュンはコニャック分の賃金を払ってから、出された一杯を手に取る。少し酒を飲みつつ周囲に耳を傾け、その内の有益な情報となりえる噂や雑談を聞き分けるようと耳を澄ませる。

 地元の人間なら何か知っているかもしれないが、連邦軍が厳重に立ち入りを制限している所為か、余り有益な情報は得られない。

 なれば事情を知っている兵士だ。酒を飲んでいれば少し口が軽くなると判断して、シュンは飲酒をして雑談をしている兵士たちのみに集中した。

 

『これで何度目だ?』

 

『知るか。これも全部航空部隊のアホ共の所為だ。手当たり次第に爆撃しやがって。おかげでこの辺は何所へ行っても死体だらけだ』

 

『航空部隊だけじゃない。機動兵器部隊や車両部隊の奴らも手当たり次第に殺してる。あいつ等、民間人と兵士の区別もつかねぇのか』

 

『おかげで俺ら歩兵が大変迷惑を被ってんだ。おまけにカルト共が死体をゾンビにする魔法まで使ってる、ネクロマンサーだ。ゾンビ共を爆撃で吹き飛ばせば、俺らはネクロマンサー狩りに駆りだされる。そこで奴らまたゾンビを使って来る。嫌な世界だよ、ここは』

 

 聞いた会話は、ネクロマンサーとの戦いにうんざりする連邦兵等の愚痴だ。更に愚痴は続く。

 

『いつになったら奴ら投降するんだ? 参謀本部の奴らは一週間で終わるとか抜かしてやがったな? でっ、今は膠着状態になって四カ月だぞ? あいつ等は現場の事なんて何にも知らねぇんだ! だからあんなアホな事が言えるんだよ! 安全な場所でぬくぬくとしやがって! イラつくぜ!』

 

『師団本部に代わりに文句を言ってくれと頼んでも、突っ返されるだけだったよ。参謀も含めて士官連中は、俺たち下士官や兵を消耗品だと思っているようだ。反乱でも起こしてやろうか?』

 

『止めとけ! 前に反乱があったが、一週間で制圧された! そいつ等の二の舞になるだけだよ。徴兵期間が終わるまで、精々生き延びるこったよ』

 

『生き延びられればな! それはそうと、ワイルドキャットから亡命者が出たらしいな』

 

 酒に酔った勢いの愚痴続きであったが、ここに来て有益な情報を得られた。

 

『亡命者? なんだ、女か?』

 

『いや、士官食堂で盗み聞きをしてたら男だ。一緒に亡命して来た護衛は、とんでもなく強いらしい。なんでも、亡命した男は恨みを買っているらしくてな。殺し屋が襲撃してくるのを恐れているようだ。でっ、周りが放射能まみれのファルゲン基地に移送された。理由は安心だからとさ』

 

『殺し屋だって? おいおい、ここは俺らの勢力圏内だぞ。殺し屋なんて入れるかよ』

 

『群の中に裏切り者が居るとか言ってたな。どっちにしろ、放射線まみれなファルゲン基地を襲撃するなんて、どっちにしろ、正気の沙汰じゃねぇな』

 

 水晶があるとされる基地の名がファルゲンと分かり、周辺が放射線で汚染された地域にある基地だと分かった。

 バリアジャケットを纏えば放射線を気にせず基地に行けるが、アウトサイダーが言っていたように警備が厳重であり、厳重な理由もワルキューレからの亡命者の所為であるとも分かった。またしても敵陣の中だと頭を悩ますシュンであったが、殺し屋の存在を知って、その存在と協力すれば、水晶の回収が円滑に進むかもしれない。

 そう判断したシュンは、コニャックを飲み干して酒場を出ようとした。だが、新参者が気に入らない性質の悪い酔っ払いたちに絡まれてしまう。

 

「お、おみゃあ、見ない顔だなァ~?」

 

「気に食わねぇ顔だべェ~」

 

「オイコラぁ! 面貸んかい!」

 

「ちっ、面倒だな」

 

 性質の悪い酔っ払いの三名は、シュンに絡んで来る。

 この場に兵士たちが居るはずであるが、他所でやれと怒鳴って止める気が無い。

 

「おい、表に出てやれ! 酒が不味くなるだろうが!」

 

「そう言うこったよォ~! ほら、表行くぞォ~!」

 

「ちょいと懲らしめてやるか」

 

 兵士たちの言う通り、表に出たシュン達は乱闘を始めた。

 

「行くぞぉ~!」

 

 最初の酔っ払いが殴り掛かれば、シュンは飛んできた右拳を掴み、地面に強く叩き付ける。叩き付けられた一人目の酔っ払いは脳震盪を起こし、そのまま気絶して地面に横たわる。

 

「こ、この野郎~!」

 

 続けて二人目が殴り掛かったが、酔ったパンチなどシュンには止まって見えており、腹に強い拳を打ち付けられて一人目と同じく気絶した。

 最後に残った三人目は、仲間を倒されて激昂して懐からポケットナイフを取り出し、刃を出してからシュンに斬り掛かる。

 

「ち、ちくしょぉ! このド畜生が! その顔剥いでやるぅ!!」

 

 ナイフを突き刺そうとして来た三人目だが、突き出された刃をシュンは左手で掴み、握力で刃を握り潰した。

 刃を潰されたことに酷く動揺した三人目は、余りの恐怖で酔いが醒めて、更には失禁して伸びている二人の仲間を放置して自分だけ逃走する。

 

「ば、化け物だぁーッ!!」

 

「仕掛けて来たのはそっちだろうが」

 

 自分から仕掛けておいて、化け物呼ばわりする三人目にシュンは悪態を付く。

 この騒ぎは付近の住人が通報していたのか、憲兵たちが駆け付けて来る。

 

「この辺で酔っ払いが喧嘩をしていると聞いたが!?」

 

「マズい!」

 

 ここで憲兵に捕まれば、どうなるか分かった物では無いので、直ぐにシュンは急いでこの場を離れた。

 

 

 

「さて、その基地の情報を頂戴させてもらうか」

 

 町を離れ、水晶があるファルゲン基地の情報を得るために通りすがりの連邦軍の下士官を気絶させ、その本人の制服を奪ってなりすましたシュンは、丈があっていることに感謝しつつ基地へと向かった。

 道中にある連邦兵等に落書きされた祠の前を通れば、何の前触れもなく虚無の世界からアウトサイダーが姿を現す。

 

「そのまま基地へと赴くのか?」

 

 いきなり現れて問い掛けて来る黒目の青年に対し、慣れ切っているシュンは驚くことなく答える。

 アウトサイダーは自分が虚無の世界に招いた者以外、決して見ることは出来ない。シュンは見えているから喋っているのだが、脇から見えれば、何も無い場所に話し掛ける異常者だ。制服を奪った下士官同様に、また連邦兵でも通り過ぎれば、確実に声を掛けられる。

 

「あぁ、だから制服を借りた。俺と同じ身長の奴だから、合って良かったよ」

 

「ふむ。だが、連邦軍は高い科学力を有する軍隊だ。それなりのセキュリティーを施している可能性がある」

 

 シュンは忘れている事だが、これから侵入する基地は、高度な科学力を持つ軍隊の物だ。

 攪乱を狙うスパイを警戒して、様々な認証装置を導入している可能性がある。ただ制服とIDを奪った所で、気付かれてお終いである。ヘルメットやマスクの類で顔を隠そうとも、それら最新鋭の認証装置の前にしては、あっさりと暴かれてしまう。

 アウトサイダーに言われて悩ますシュンに対し、神と悪魔が混ざり合った存在はある物を渡す。

 

「ならばこれを使うと良い」

 

「これは?」

 

「一度しか使えない物だ。それを使えば、その軍服を着ていた者に完全になることが出来る。効果は二時間」

 

「一回で十分さ。またありがとな」

 

 アウトサイダーが渡したのは、この所為服を着ていた者に姿形まで変装できる魔法瓶だった。

 効果は二時間程度であるが、情報を得るには十分なので、シュンはアウトサイダーに礼を言う。

 

「では、事が上手く行くことを楽しみにしているぞ」

 

 渡したい物を渡したアウトサイダーは、虚無の世界へと戻った。

 変装できる魔法瓶を手にしたシュンは、少しでも探索時間を確保するために基地のギリギリのところで魔法瓶を飲み、自分が着ている制服の持ち主に変わった。それから基地の検問所で、忘れ物をしたと言って通してもらい、基地内部へと潜入する。

 堂々と敵の基地を歩くことは、シュンは複雑の気持ちになったが、そんな事ではファルゲン基地の情報が得られないので、基地の情報を保管しているデータ保管庫まで進む。

 しかし、シュンはこの基地の構造を知らない。情報を知っているなら、将校に聞くのが一番だと思い、通りかかった将校に声を掛けた。

 

「すいません、中尉殿。データ保管庫とかの場所、何所すっか?」

 

「馬鹿者、俺は大尉だ! 階級章も読めんのか? それと貴様、何所の中隊の者だ? 貴様の上官に抗議するぞ、曹長」

 

 基地をウロウロしているなら中尉だと思って声を掛けたシュンであったが、連邦軍の階級章が読めなかった為、大尉であった上に目を付けられてしまった。

 自分が変装している人物の階級は分かったが、この手の将校に目を付けられては、何をやらされるか分からないので、ここは鬼教官にやって来た謝罪方法で謝る。

 

「失礼しました、大尉殿!」

 

「ん? お前にしてはやけに素直に謝るな。まぁ、新兵時代の事を思い出したようだ。でっ、データ保管庫の事だな? その上の階級の者に対する敬意に表し、教えてやろう」

 

 直立不動状態を取って敬礼して謝罪したシュンに、変に気を良くした大尉は、彼にデータ保管庫の場所を教えた。それに従ってデータ保管庫に向かったシュンは、そこへ入ろうとしたが、見張りの情報将校に止められる。

 

「おい、曹長が何の用だ?」

 

「ちょっと調べ物を…」

 

「調べ物…?」

 

 保管庫を警備する情報将校に対し、調べ物と言ったが、情報将校が睨んで来る。黙っていれば怪しまれるので、適当なことを答えて誤魔化す。

 

「女の事で…」

 

「あぁ、そうか。良いのを見付けたら俺に報告しろ。見逃してやる」

 

 娼館の事だと答えれば、直ぐに情報将校は入るのを許してくれた。

 許しを得てデータ保管庫に入り、慣れない手付きで端末を操作して、水晶があるファルゲン基地に関する情報を調べた。

 

 ファルゲン基地は核実験を行うための秘匿施設であり、連邦軍に制圧される前からあるワルキューレの軍事施設だ。何百年も前から核実験が行われており、基地周辺が放射線に汚染されているのは、その名残である。

 連邦軍がこの核が常に配備されている基地を攻撃して制圧したのは、単に核攻撃を恐れてのことだと分かるが、そんな危険な基地など、核で吹き飛ばしてしまうのが早い。

 だが、連邦軍は自軍の将兵を放射線に晒すような真似をさせ、核も使わずに制圧した。もっとも、自軍の将兵を消耗品のように扱う連邦軍が、将兵の生命など気にすることが無いのだが。

 優秀な指揮官や参謀などは、何かしらの目的があってやっていると考える。

 そこにワルキューレからの亡命者を移送したのは、その亡命者が連邦軍に取って貴重な情報を持っている可能性があるからだ。

 放射線に囲まれた基地に、その亡命者を移送したのは、殺し屋や刺客たち警戒しての事だろう。

 

「やれやれ。また古巣に目を付けられちまうな」

 

 基地の情報を得たシュンは、ワルキューレにまた狙われると毒づき、調べ終えたので後にしようとした。

 だが、調べている間に変装魔法の効果が切れたのか、シュンの姿のままになっていた。出ようとした見知らぬ男に、情報将校は驚いてホルスターから自動拳銃を引き抜いて安全装置を外し、銃口をシュンに向ける。

 

「お、お前!? 誰だ!?」

 

「えっ? 俺だよ、俺」

 

「いつの間に保管庫に入っていたんだ!? ゴードンはどうした!? ゴードン!」

 

 銃口を向けられたのに、まだ変装が解けていないことに気付かないシュンは、近くにある鏡を見た。

 

「あっ…」

 

「こちらデータ保管庫! 侵入者だ! 直ちに応援を!!」

 

「マジかよ」

 

 ようやく変装が解けていることに気付いたシュンは、受話器を持って応援を呼ぼうとする情報将校を殴り倒し、基地から脱出するために廊下に躍り出た。

 通報を受けた警備兵らが既に駆け付けており、シュンを見るなり手にしているライフルやサブマシンガン、ショットガンを撃ってくる。

 

「居たぞ! あそこだ!!」

 

 撃ってくる警備兵らにシュンは、コアからAA-12自動散弾銃を取り出し、圧倒的な火力と連射力で一気に警備兵らを全滅させた。

 

「ひっ!? 死にたくねぇ!」

 

 一瞬にして全滅した警備兵らを見た周りの将兵らは、拳銃で応戦することなく、遮蔽物に身を引っ込める。

 彼らが抵抗しない内にシュンは基地の廊下内を駆け、邪魔となる警備兵や将兵を倒しながら出入り口を目指そうとする。

 

「ちっ、後方の癖に手が早いな!」

 

 既に出入り口は封鎖されており、シュンは袋の鼠状態であった。仕方なく脱出に使えそうな乗り物がある格納庫(ハンガー)へと目指す。

 もしもの時に備え、覚えておいた物だ。二時間以内に終わるかと思っていたが、使う羽目になってしまったので、進路上に邪魔になる兵士たちを倒しながら進む。

 弾倉の中身が無くなれば、直ぐに遮蔽物に身を隠し、手早く再装填を済ませる。銃を使うまでも無い距離に居た敵兵に対しては、ストックで殴るか、頭突きを食らわせたり、殴り倒したりして突破する。

 ダークビジョンも使って敵の位置を把握し、敵が多い場所を避け、ハンガーに向けて走り続ける。

 ここに来て再びバリアジャケットを纏えば良いと言う話になるが、この後に連邦軍が投入してくると思われる機動兵器に向けて温存している。もしくは対能力者用の部隊に備えてだ。

 ハンガーへと辿り着けば、整備兵等の歓迎が待っていた。

 

「防犯機能がきっちりとしてやがるな!」

 

 拳銃で撃ってくる整備兵や、ライフルで撃ってくる警備兵らに、遮蔽物に飛び込んだシュンは防戦態勢がしっかりと整っていることを評価しつつ、コアから大量の煙幕手榴弾を取り出した。

 一つ一つ安全ピンを外し、敵兵等が居る方向へ向けて投げ込む。全部投げ込めば、ダークビジョンを使って脱出できる乗り物がある方向へと走り出す。

 

「撃ち方止め! 撃ち方止め!!」

 

「くそっ、煙幕だ!」

 

「暗視装置を持って来い!」

 

 銃を撃つのを止め、探索に入った警備兵らはシュンを探し始める。煙幕で行方を晦ましたシュンは、脱出できる乗り物を探すが、そのどれもが脱走防止用の為に鍵が掛けられている。

 

「クソッ! 優秀なこって!」

 

 鍵が掛けたことを褒めながらも苛立ちを覚え、腹いせに爆弾を仕掛けた。

 煙が充満している間に動く乗り物を探し続けたが、どれもロックが掛かっていて開かない。

 後もう少しで煙が晴れるので少し慌てていると、ロックも掛けられずに駐機されているATのスコープドックを見付けた。

 他にも数十機ほどが駐機されていたが、そのどれもが鍵が掛かっておらず、選びたい放題だ。これをシュンが逃すはずが無く、直ぐに手近なATに乗り込もうとする。

 

「うわっ!?」

 

 ダークビジョンをせずに向かったため、近くにいた整備兵に見付かった。

 即座にシュンは顔面を殴って昏倒させた後、ATに乗り込んでハッチを閉めた。ATの起動方法は前の世界でやって覚えているので、大量生産されてほぼ全ての前線に配備されているスコープドックを、シュンは容易に動かすことが出来た。

 

「さて、こいつでトンズラするか」

 

 ゴーグルを着けて外の状況を確認できるようにしてから、シュンはATを動かしてヘビィマシンガンを取り、格納庫の隔壁に向けて命一杯撃ち込む。更には他に駐機されているATを破壊し始める。

 ATを奪われたことで、警備兵らは退却を始める。

 

「ATを奪われた! こちらの装備では敵わん! 対戦車部隊と交代する!!」

 

 警備兵らが撤退すれば、代わりに対戦車兵が来るので、シュンは敵が駆け付ける前に戦闘車両に仕掛けた爆弾を作動させ、格納庫を火の海にした。それから全速力で空いた穴から脱出し、目標のファルゲン基地まで目指す。連邦軍は面子を潰されたのか、追跡部隊を送って来る。

 

『クソッ、このまま逃すか! 追跡部隊、奴を絶対に逃がすな!』

 

「おいたが過ぎたようだ」

 

 無線機から聞こえて来る基地司令官からの命令に、シュンはやり過ぎたと思って背後を警戒する。

 見れば、破壊を免れた戦闘ヘリの類が上空から飛来し、シュンが奪ったスコープドックを見るなり機銃を撃ってくる。装甲の薄いATでは致命的になるので、シュンは回避行動を取りながら対空射撃を行う。

 移動しながらの射撃は全く当たらなかったが、まぐれに一発だけが当たって後退し始めた。基地から離れるにしたがって、追跡部隊は続々と増えて来る。

 

「さっきより増えてねぇか!?」

 

 ファルゲン基地に近付けば近づくほど、追跡部隊は増えて来る。更には同じ型のAT部隊の追跡まで入り、機体に空いた穴が増える一方だ。

 

「どうにかならねぇか?」

 

 周囲の追跡して来る部隊に、シュンがどうやって突破するか悩む中、バリアジャケットを纏う方法を思い付いたが、それでは帰って敵を増やすだけなので使用は厳禁だ。

 

「うぉ!? 今度は何だってんだ!?」

 

 攻撃を躱しながら進んでいれば、ミサイルが着弾した影響で地面が崩落し、シュンが乗っていたスコープドックが落ちた。

 

『落ちたぞ!』

 

『昔の坑道だ。埋めるのを忘れていたようだな!』

 

『死体を確認する! 歩兵を連れてこい!』

 

 ギリギリのところで止まったAT部隊は、シュンが埋められていない坑道に落ちたと判断し、指揮官が死体を確認するための歩兵部隊を連れて来るように無線機で命じた。

 僅かながら機能しているATに乗っていたシュンは、落ちた衝撃で気絶することなくそれを傍受しており、直ぐに動かなくなったATを放棄して大昔の坑道へと入った。

 この辺は無線機の連邦兵達の会話からして、昔は採掘が盛んであったようだ。採れる鉱物が無くなれば、直ぐに採掘場は閉鎖されたようだが、埋められずに長らく放置されていたらしい。

 

「ずさんな管理をしてくれてありがとよ」

 

 そんなずさんな管理に助けられたシュンは、ダークビジョンを使って暗闇の坑道の中を逃走した。




 放置された古い坑道。そのずさんなまま長らく放置された坑道に助けられたシュンは、暗闇の中を逃げる!
 暗闇の中で連邦軍の追跡から逃れる中、シュンは思わぬ人物たちに助けられる。その人物たちは…!?

 次回、戦友。

 戦場で背中を預けられる味方、その名も戦友。
 君は、時の涙を見る。  

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