ユートピア
「うぉぉ…いてぇ…何所だここぁ?」
崖から落ちた際、シュンを救うかのように現れた次元の亀裂の中に入り、先ほど居た場所とは違う別の場所に来ていた。
落ちる最中にそこへ来たので、頭を軽く打ってしまった。頭をさすりながらシュンは、ここが何所なのかを自分の目で確認する。
「廃墟のようだな」
周囲を見て現在地が廃墟となった木造住宅の一軒家の屋内であると確認すれば、自分の身を守る武器の点検を行う。
「クソッ、ロクヨンが…」
自分が保有する武器の中で最大の火力を秘める64式小銃は、落下した際に壊れてしまったらしく、試しに引き金を引いても銃声は一切せず、カチカチと引き金が音を鳴らすだけだ。
「こいつは組み立てるのが面倒だしな…壊すか」
分解しようにも、一旦この銃を解体すれば、組み立てるのにかなりの時間を要する。組み立てている最中に敵にでも襲われる可能性があるので、弾倉を外してから何度も強く踏みつけて二度と使えないようにした。
大男に蹴られた戦後日本で開発された自動小銃は、無残な形となって雑草が生い茂る床の上で横たえる。ついでにシュンは、身に着けているポーチから不要となった弾奏を全て、その自動小銃が横たえる近くに放り捨てる。捨てた理由は、64式小銃が滅多に手に入らないからだ。この銃が広く流通するのは、現実でも日本政府にとって、政治的にあまりよろしくない。
その滅多に手に入る事が無い銃を捨てたシュンは、再度武器の確認を行う。
「ピストルも駄目、手榴弾も駄目、ナイフは良し。んで、最大限の火力は、この馬鹿デカいのか」
背中に担いである大きな鞘に刃を収まる大剣を確認すれば、それが自分にとっての最大の火力を誇る唯一の武器であることを確認する。
この大剣を知るゲラルドからは、重すぎて使えない代物と教わったが、いざ手に取ってみれば、見た目に沿わず、意外と軽かった。重量は中世ヨーロッパの片手剣以下であり、シュンに取っては長生きの枝を振り回している感じである。
「どうなってんだ、こりゃあ?」
見た目に沿わない軽さに拍子抜けしたシュンは、鞘から大剣の刃を抜き、その質量には似合わない幅の広さに更に驚かされる。
刃の幅は60㎝ばかしで、刀身は164㎝と大きく、柄は70㎝ほど。刀身と柄を合わせれば、236㎝と言う大き過ぎる大剣となる。これがこれほど軽いとなれば、持っている本人も驚きの事だろう。
「あの白髪のおっさんはデカすぎて使えないとかぬかしてやがったが、本当にそうなのかこれ? アルミで出来てるんじゃねぇよな? 試し斬りでもしてみっか」
アルミで出来ているのではないかと疑い、シュンは外に出ようとした。無論、外に出る前に敵が居ないかどうかを確認する。安全が保障されれば、シュンは外に出る。
目の前に見える光景は、もう人が住んでいないであろう荒れた空き家が何件もある住宅街であった。ここに住もうと思なら、それなりの改装費が必要であろう。
そんなことは気にせず、シュンは試し斬りにお誂え向きの木を発見し、その木で試し斬りを行うことにする。それに向けて斬り掛かった。
刃が木に食い込むところで、力を強く入れて押し込む。こうすることにより、刃は一切刃こぼれせず、対象を綺麗に切断することが出来る。要は肉を切る感覚と同じことだ。
「魔法剣かこりゃあ?」
斜めに木を斬ってみれば、木は真っ二つに斬れた。上の部分は音を立てながら地面に落下し、鈍い音を立てて横たえる。斬り跡を確認してみれば、何所もでっぱりが無くて綺麗であった。余りの切れ味の良さに、シュンは再び驚きの声を上げる。
「マジかこいつ…!?」
幻覚を見ているのではないか?
そう疑って、大剣の刃を見つつ、シュンは周囲の立っている物に向け、手当たり次第に大剣で斬り掛かった。
大剣で斬られた物は全て、最初に斬った木と同様に職人技で斬られたように綺麗な切れ後を残している。刃はどのような物に斬り掛かっても、一切の刃毀れは無かった。異常なまでの耐久力の高さだ。
改めてこの大剣の切れ味を確認したシュンは、いつでも取り出せるように鞘に納めず、予め、これを想定して着けられている部分に大剣の刃を付けた。軽く飛んで落ちないことを確認すれば、人が居そうな場所を探して移動を始める。
「さて、ここが何所だか確認しねぇとな」
そう一人で呟いてから、シュンは大剣を背負いながら歩きつつ、耳をよく澄ませ、動いていて会話のできる者を目で探した。
歩くこと数分、足音がシュンの並の人間より聴力が優れる耳に入る。
「足音…? いや、歩いているって感じがしねぇ。酔っぱらいか?」
不規則な足音であったため、シュンはこの付近で酒を浴びるように飲んで酔っている人間が近くに居ると確信した。酔っているならある程度の情報は採取できると思い、足音が聞こえて来る方向へと向かった。
「おい、あんた。ここは何所だか…」
「ブツブツブツブツ…」
その人物である男を発見できたが、訳の分からぬことを小さな声で呟いており、瞳孔が開いた状態のままとなっている。それに顔も青白い、この男は間違いなく麻薬中毒者だ。
危険と判断したシュンは直ぐに麻薬中毒者の男から離れ、近くに居る別の人物に話しかけようとしたが、その人物もまた、初めに発見した男と同様に麻薬中毒者であった。
「どうなってやがる?」
別の人物の方へ視線をやっても、自分の周囲に居る人間は全て麻薬中毒者ばかりだ。それにその人数も異常であり、場所に構わず嘔吐し、乱闘を起こしている。かなり危険な場所だ。
「やべぇ…麻薬中毒者のたまり場だ…!」
そう認識したシュンは、直ぐにでもこの場を離れようとしたが、何者かに手を掴まれる。
感触がするのは左腕からで、そちらの方向へ視線をやってみれば、小悪党を絵に描いたような外見を持つ男が自分の腕を掴んでいた。シュンは直ぐに男の腕を振り払って何者かを問う。
「てめぇ、汚い手で触ってんじゃねぇぞこら! それと何者だ? ベタベタと触りやがって!」
「あっ? ガタイの良い兄ちゃんもこれ欲しさにこの街に来たんじゃねぇのか? ほれ、あんたも現実から逃れたくなったんだろ? 最初はタダだ、ほら」
その男は名乗らず、下げている鞄からカプセル状の飲み薬が大量に入った瓶を一つ取り出し、中にある一錠の薬をシュンに進めた。この男を麻薬の密売人と捉えたシュンは、苛立っているのか、差し出された薬を持つ手を強く払う。
「いらねぇよ! 俺はヤクをやるほど絶望しちゃいねぇ」
シュンには麻薬を摂取して一時的な天国のような気分になる時間は一切無い。
一刻も早くこの麻薬が支配する世界を抜け出し、自分が戦争を忘れられるほどの人間にしてくれた子供たちを無残に殺したネオ・ムガルに復讐せねばならんのだ。
「悪いがそこらに居る連中にでもばら撒いとけ。ここに居たら俺もラリっちまいそうだ。んじゃな」
落ちた麻薬を強く踏み潰してから、シュンはこの危険な麻薬中毒者たちのたまり場を後にしようとした。しかし、麻薬密売人の男は不気味な笑みを浮かべ、立ち去ろうとするシュンに向けてここから絶対に逃げられないと告げる。
「おめぇ、‟ハッピィー‟を踏んづけやがったな…? グヘヘ、カッコいいこと抜かしてこの街から去ろうとしたって無駄だぜぇ? おめぇは異分子だぁ、異分子! 異分子って意味、馬鹿じゃなけりゃあ分かるよなぁ? グヘヘ…!」
不気味な笑い声を上げながら告げる男に対し、シュンは殺意がこもった鋭い視線を浴びせながら問う。
「てめぇ、気色悪い笑い方しながら何が言いてぇんだ?」
「グヘヘ、異分子って意味が分からねぇみてぇだな、おめぇ。まぁ、この後に分かるぜぇ、グヘヘ!」
恐ろしい殺気に満ちた眼光に睨まれながらも、男は自分が死ぬ心配が無いと自信を持っており、下品な笑い声を止めてから、周囲に居る麻薬中毒者たちに、シュンを殺すように大声で命じた。
「おい、おめぇらぁ! 異分子だぁ! そこに居る異分子をぶっ殺せば、薬が倍以上貰えるぞぉ!!」
この小悪党の男の声に反応し、周囲に居る無数の麻薬中毒者たちが一斉に振り向き、薬と言う言葉にも反応した。
「クスリ…?」
「貰える…?」
「薬ダァァァ!!」
最後の男が大声で叫べば、周囲に居る麻薬中毒者たちが一斉にシュンに襲い掛かった。
「この野郎、俺を異分子かなんだのホザきやがって!!」
「グヘヘ! ダッサイ台詞吐かずに大人しく貰ってりゃあよ、八つ裂きにされて殺されること無かったのになぁ、グヘヘ、ぶっはっはっ!! 死んで後悔しろぉ!!」
一斉に襲い掛かる麻薬中毒者たちの集団にシュンが怯み、彼らに自分を襲わせる小悪党に怒りをぶつける中、その小悪党が下品な高笑いを上げながら去って行った。
「畜生、やるしかねぇ…!」
襲い掛かる麻薬中毒者の大群に、シュンは覚悟を決めて背中の大剣を抜いた。
刀身の先端部分を地面に着けた。この構えは一般的な大剣の構え方であり、重さの余り持ちきれないため、どうしてもこのような持ち方になる。シュンは片手剣や両手剣のように大剣を振り回しているが、あれは彼の筋力が異常なだけである。
だが、シュンは直ぐに大剣を振るわない。十分な間合いに引き寄せるまで振るわないつもりだ。迎撃側の機関銃手も同じであり、十分の間合いを詰めてから弾を敵に向けてばら撒く。
「お前らが悪いんだぜ、そんなになるまでハイになるからよ…!」
迫ってくる自分の言葉など聞こえぬ麻薬中毒者たちに告げながら、シュンは柄を握る両手に力を込め、ローターのように刃を回転させる技である回転斬りを行った。
範囲に居た中毒者たちは、まるでミキサーの素早く回転する刃に切られたかのように、凄まじい肉が引き裂く音を鳴らしながら四方と首、胴体が飛び散らせて息絶える。周囲から斬られて失った者達の散血が勢いよく飛び散る中、シュンは空かさず大剣を振るい、死を恐れずに突っ込んで来る中毒者たちを纏めて大剣の錆にする。それに合わせて肉の避ける音と地面に横たえる無残な死体が増え、血の池が出来上がる。
「ぐぇぇあぁぁぁ! ぶべっ!?」
背後から迫る中毒者に対し、シュンは空いている左腕の膝打ちを顔面に食らわせ、怯んだところを空かさず大剣で両断する。右や左の両方から襲い掛かる集団に対し、大剣を握る手の方に居る右手の集団を纏めて切り裂き、全員が肉塊になったのをコンマ単位で確認してから左手の集団に向けて大剣の刃を振り下ろして先頭の男を肉塊へと変える。残りの数人に対しては、並んだところを横に大剣を振るって纏めて斬殺する。もう既に殺した人数は、二桁に及んでいる事だろう。
ここでくどいようだが、纏めて斬る際には、それなりの力が必要だ。いくら大剣が軽いとは言え、力を込めて鎧ごと斬らないようにしないと、途中で肉に引っ掛かり、直ぐに周囲の中毒者たちに八つ裂きにされる。
中世の騎士と武士も然り、敵を斬り殺せば素早く刀身を死体の肉から抜き、次なる敵に斬り掛からなければならない。それが分かっているシュンは、力を込めて大剣を振るい続け、迫り来る中毒者たちを次々と斬殺していく。
「オラァァァ!!」
雄叫びを上げながら数人を纏めて斬り殺せば、背後から迫る集団を斬り払う。斬り払いの範囲に居た中毒者たちは纏めて肉塊と化し、後続の中毒者たちを血で真っ赤に染め上げる。
戦闘開始から数分足らずで六十人以上もの中毒者を斬殺しているシュンであるが、多数の仲間を殺されても中毒者は一切の動揺を見せず、死を恐れずに突っ込んで来る。薬物の過剰摂取で恐怖心が麻痺している所為だ。それも大勢で突っ込んで来るので、このまま大剣を振り続けたところでいずれ体力が尽き、その後は八つ裂きにされるのがオチだ。
「(このままじゃチリ損だ…何処かに逃げないとな)」
無限の如く沸いてくる中毒者らを幾ら斬殺したところで勝ち目が無いと分かっているシュンは、背後から迫ってくる中毒者らの集団を大剣で纏めて斬殺し、退路を確保する。確保した後、迫り来る中毒者たちを大剣で惨殺しつつ、何処か身を隠せそうな場所を移動しながら探し回る。
「ぐぇぇ…」
「ぼがっ…」
「何所だ…? クソッ、先にこいつ等を撒かないと!」
進路上に邪魔な中毒者を二人ほど斬り捨てつつ、シュンは背後から全力疾走で追ってくる中毒者の集団から逃げながら、やり過ごせそうな場所を探した。
あの異常な暴力集団をやり過ごすには、何所か建造物に入るしかない。
そう意識しているシュンは、既に廃墟となっている豪邸に入り込み、装備の音をなるべく立てないようにして、やり過ごせる場所を探す。
「よし、ここだ」
慌てず、冷静を保ちながら、二階へ上がって自分と大剣が隠れられるほど余裕のある隠れ場所を見付けた。
そこは屋根裏部屋だ。大抵、この豪邸のような金の掛かる建築物には、デザイナーが遊び心を持って何かしらの部屋を用意している。それを見付けたシュンは、誰もおってきてないことを確認してから屋根裏部屋に続く梯子を下ろし、梯子を上がって屋根裏部屋へと隠れた。
随分と長い間、手を付けられていなかったらしく、誰も掃除をしていないので、埃と煤だらけであるが、中毒者の集団に八つ裂きにされるよりはマシだろう。それが分かっているシュンは、この部屋との唯一の出入り口である梯子を元の位置に仕舞い、気付かれないように戸を閉めた。
これで、音を立てずにいればやり過ごせる。
そう思うシュンは、小さな窓を覗き、中毒者の集団が追ってきているかどうかを探した。
「うぉ…わんさか居やがる…」
窓から見えるのは、先ほど自分を追って来た中毒者の集団だ。初めて見た際は、二十人くらいしか確認できなかったが、近くの家屋に潜んでいたのか、それが全員出て来て自分に襲い掛かって来たと推測した。
外の中毒者たちから見付からないよう静かに窓から離れたシュンは、音を立てないように大剣を置き、埃と煤にまみれた床に寝そべり、周囲に置いてあるかつての住人の子供の物と思われるぬいぐるみを枕にする。
ここで睡眠を取るようだ。この世界に来る前から十分な休息は取れているようだが、先ほどの大量の敵との死闘で少し無理をしたのか、やや疲労が溜まっている。それに、ここなら大きな音を立てないようにすれば、安心して眠りの世界へと旅立てる。
「よし、十分に寝たら、街の方に行って、連中の大将の首を取る…酒と女が欲しいな…餓鬼どもを育てている頃は、もう二度とやらねぇと誓ったのに…クソッタレが、餓鬼どもが死んだらこの有様だ…枷でも付けられてたって事かよ…畜生…!」
そう自分が抑えていた欲望が、子供たちを失ってから湧きだっているのを恥じつつ、シュンは眠りの世界へと旅立った。
「ん…いつまで寝たんだ…?」
眠りの世界より目覚めたシュンは、いつまで寝たか調べるべく、小さな窓に向かって空の様子を確かめた。
「夜明けって所か…そう言えば、昨日は暗かったな…そんで、噛まれた痕もねぇ。薬中に噛まれたら、どうなることか分かったもんじゃねぇ」
もう日が明けていることを確認すれば、次に噛み痕が無いか調べた。手足を確かめてみれば、何所も傷跡が無いことが確認できる。それから窓に近付き、外の中毒者の数を調べる。
昨日の大群はどこへ行ったのか。あれほど居た中毒者たちは、みな日差しを避けるために屋内へと避難した様子だ。しかし、幾人かの挙動不審な者が確認できる。彼らが襲ってこないとは限らない。
「なんか飲まないとな」
窓から離れたシュンは、現在地の屋根裏部屋から出て、屋外へと飛び出した。
辺りをうろつく中毒者らの視界に入らないように移動していたが、麻薬中毒者の脳は薬物の所為で殆どが破壊されて記憶の維持が出来なくなっており、昨日の事を忘れている可能性がある。それを試そうと、シュンは近くに居る中毒者に声を掛けた。
「よっ!」
「ブツブツブツ…」
「よし」
声を掛けても、何か呟くばかりで自分には見向きもしなかったため、シュンは隠れることもせず、森林地帯へと向かった。
なぜ森へ向かうのか?
それは武器になる物の材料が豊富だからだ。
彼はワルキューレに居た頃、空挺部隊に属していた。空挺部隊は敵地へと降下するので、武器や食料を現地で調達する必要がある。しかし、敵から奪うわけでは無い。材料を集めて一から自分で作るのだ。
「さて、まずは弓矢からだな。んで、腹ごしらえだ」
森へと辿り着いたシュンは、訓練時代に記憶に叩き込まれた弓矢の設計図を思い出しつつ、材料となる物を集め始めた。そのついでに、森に潜む蛇を捕まえ、訓練時代に教え込まれた通りに、絞め殺してから血を啜って喉を潤す。殆どの血を飲めば、蛇をさばいて肉を食らう。
蛇は豊富な栄養素が取れるので、海外派兵を行う国家の軍隊では、蛇を食べる訓練が行われている。
ただし、生では危険なので、火を起こしてから食すものだが、シュンは平然と調理せずに蛇を食っている。これは、彼の腸がとんでもないと言う事だろうか。蛇を食べ終えたシュンは、弓矢の製作に入る。
枝を手で折ってから丈夫な物を選び、弦も木材で作る。西洋弓と同じである。
流石に鏃には、同じ石で鋭く尖らせた石を使っているが、これは殺傷能力を高めるための物である。矢羽に羽は使わず、握り易いように少し平たく潰しただけだ。試しに、近くにある木に向け、矢を放ってみることにした。
「中々行けるな」
ちゃんと標的に突き刺さっていることを確認すれば、どれくらいの射程距離があるかどうか、手当たり次第に自作した矢を放ってみる。
「大体20mって所か、職人以外が作るとこんなもんだな」
最大の射程距離を把握した後、自作矢を引き抜き、そこらに居る獣から剥いだ獣皮で作った自作の矢筒に放り込む。
「よし、飛び道具は出来た。後は、水の確保と武器、それに食料の確保だ」
弓矢の製作を終えれば、他の武器の製作と水源の確保をするため、シュンは森を駆け巡った。
数時間以上、森を駆け巡って様々な物を調達し終えれば、木の根元に寄り掛かって腰を下ろし、自作した水筒の中の水を一口含む。
「休憩は終わりだ、そろそろ大将の首を取ってくるか。だが、その前に爆弾なんかこしらえないとな」
十分に喉を潤して休憩を終えれば、立ち上がって敵の大将が居るとされる都市部へと向かい始めた。しかし、敵の大将の首を取る前に、爆弾を作る必要がある。森を探索している最中に見付けた黒い大きな布をマントとして使い、それを深く羽 織って顔を隠すようにフードを被り、都市部へと目指した。
検問所に辿り着けば、案の定、街の治安を担う警官が幾人か見えた。
警官は真面だと思いきや、郊外や貧民街に居る廃人や薬物中毒者たちほどでは無いが、瞳孔が大きく開いており、あのハッピーなる麻薬を常用している様子だ。
「ポリ公もこの様か」
警官の有様を見たシュンはそう呟けば、わざと音を立てて検問を張っている警官らを自分の方へ誘き寄せた。
これに警官らは引っ掛かり、警棒を片手にシュンが居る場所まで、あろうことか全員で来た。誰も、無線機で本部に連絡を入れていない様子だ。ここで銃声のような大きな音を鳴らさなければ、纏めて始末できる。
「お、お前…本官に、何の用だ?」
「おいおい、街の治安守ってるポリ公が、そんな様で良いのか?」
やって来た警官たちは好戦的であり、呂律が回っていない様子であった。シュンは警官らに、その有様で良いのかを問う。
「ほ、本官を…ぶ、侮辱して、いるのか?」
「タ、逮捕ダ! 公務執行妨害デ逮捕ダ!!」
「脳天カチ割って、脳ミソ撒き散らしてやるぅ! キエェェェ!!」
「たく、警官ならヤクをすんなよ。つか、ただの問いだろ」
薬物で汚染された警官らは、この問いを公務執行妨害と捉え、警棒を片手に全員で奇声を上げながら襲い掛かって来た。
ただの問いを公務執行妨害と捉えた警官らに対し、シュンは聞こえぬ彼らに突っ込みながら黒いマントを脱ぎ捨て、自作の弓矢が通じるかどうか、弓矢を構え、手近に居る警官の眉間に向けて一本の矢を放つ。放たれた矢は、狙い通り眉間に突き刺さるが、傷が浅いようで、警官は向かってくる。この警官らも、薬物で痛覚を感じない様子だ。
「クソッ、やっぱ職人じゃねぇとな」
矢の威力の低さと、自分の不器用さを嘆きつつ、シュンは背中の大剣を素早く抜き、警棒を振り下ろそうとした一人目の身体を両断した。続いて二人目に巨大な刃で切り裂き、肉塊へと変える。三人目に対しては、両脚を斬りおとして地面に倒れたところで、強い力で顔面を強く踏みつけ、そのまま勢いよく顔面を踏み潰す。強く踏み潰された警官の顔面は、見る影もないほど潰れる。
「お、お前ぇ! 警官殺したなぁ!? 殺人犯だぁ!!」
「死ネェ!」
「警官だ? ケッ、笑わせんな。お前らの何所が警官だ、ボケぇ。ただの中毒者だろうが」
最初に殴り掛かった三名を斬殺したシュンに、残っている警官は恐れもせずに警棒で殴り掛かってくるが、ツッコミの後に振るわれた大剣で纏めて斬殺された。
襲ってくる敵が居ないことを確認すれば、シュンは大剣の刃に付いた血を吹き払い、背中に背負っている鞘の付け根に取り付け、警官の死体を調べて銃が無いか調べる。
「まっ、乱射でもされたら困るか」
斬殺した警官の死体から拳銃の類が一切見付からなかったことが分かれば、再び黒いマントを羽織って武器の類を隠した後、街へと入る。
「異常な光景だな…みんなハイになってやがる。郊外の連中は、廃人って所か」
検問を抜けて都市部へと入れば、シュンの目の前に広がる光景は異常な物であった。
老若男女問わず、誰しもが幸せを感じ、ウキウキしながら街道を歩いているが、警官と同じく顔を白い化粧で覆い、偽りの笑顔を作っている。誰もの目の瞳孔が開いており、正常な者が見れば、この街が異常な場所あると捉える。街並みは幻覚を見ている彼らにとっては華やかな物と見えるが、正常な人間から見れば、単に整備が整ってない薄汚れた街並みにしか見えない。
どうやら、行政の人間も薬物に汚染されてしまったようだ。
「ちょっとイカれたふりでもしれりゃあ、楽なもんだな、こりゃあ」
正常な者が一切居ない街の中をシュンは臆することなく堂々と入り、爆薬の材料がありそうな場所を探す。その際に人の家や、店の裏側に無断で侵入し、辺りを荒らし回っているが、誰もシュンの事を咎めない。この街に住む誰もが、嫌な現実は見たくないと様子なのだろうか。
そんなことを気にせず、シュンは爆弾の製作に必要な材料を全て手に入れれば、人気の無い場所で爆弾を制作する。回収した材料で出来た爆弾の数は三つ以上、現代のように起爆装置を使うタイプでは無く、ダイナマイトのように導火線に火を点けて起爆させるタイプだ。
破壊力はどれほどの物か、作った本人でも分からないが、中枢部などに設置すれば、効果は増大するだろう。それを懐へ仕舞い、シュンは少し顔を変えてから外へ出た。
外へ出れば、このハッピーなる薬物を生産している工場を探す。それには、正常な敵兵を見付ける必要がある。何かを呟いている者では無く、正常な喋り方をしている人物を、街中を歩きながら探し回る。探し回ること数分、人気の無い場所で正常な喋りをする二人の男を見付けた。
「おい、本当にこいつ等が俺たちの兵隊になるのか?」
「知るか。郊外で廃人が何人か見掛けたぞ、絶対に失敗するぜ、この計画」
「あぁ、確かにな。薬物で死を恐れぬ強い兵隊なんか作るとか言い出しといてこの様だ。ボスの計画は完全に失敗だな」
「それ、ボスの前で言うなよ。確実に消されるぜ」
二人の男の瞳孔は正常であり、喋り方も正常その物の正常な人間であった。ようやく正常な人間に出会えることが出来たシュンは、少し安心感を得たが、安心感に浸ることなく、一人目を矢で射殺し、素早く二人目に接近して羽追い締めにして、空いている手で引き抜いた自作した石の短刀の刃を喉元に突き付け、薬の類をやっていないかどうか問う。
「お前、薬は一切やってねぇな?」
「や、やってない! 一体何なんだ!?」
「お前の質問はどうでも良い。んなことより、街の連中がやってる薬の生産工場は分かるか?」
「ここから東だ! そこにデカい建物があれば、間違いなくそれだ!」
「そうか、ありがとよ」
工場の場所を聞き出すことに成功したシュンは、礼を言ってから男の喉元に石の短刀を強く突き刺して絶命させる。拳銃の類を奪ってから工場がある東へと向かった。
数分ほど進んでいれば、目標である工場が直ぐに目に映る。工場の周辺の警備を遠くから確認してみると、正常な人間が自動小銃や突撃銃などで武装して警備を行っている。真正面から行くのは危険すぎる。シュンは潜入する方を選び、進路上の邪魔になる警備兵を静かに始末しつつ、爆弾の効果を増す場所を探した。
「確か、デカい建物をぶっ壊す際は、主柱に爆弾を引っ付けるんだよな」
破壊工作の訓練で受けたことを思い出しつつ、シュンは工場の主柱となる柱の脆い場所に爆弾をセットする。数分ほどで爆弾を設置し終えれば、更に威力を増させるために、警備兵らが持っていた手榴弾を近くに置き、街で手に入れたマッチで導火線に火を点け、全力で工場からの脱出を図る。
導火線の長さから、脱出の有余が許されるのは約三分。周りの敵を無視して全力疾走して脱出に専念しないと、絶対に間に合わない時間だ。
「クソッ、五分にすればよかった」
導火線の長さをもっと長くすればよかったことを後悔しつつ、シュンは周りの警備兵を無視しながら全力で工場の外を目指す。
「おい、誰だぶわっ!?」
「邪魔だ!」
自分に気付いた警備兵を殴り倒してから、シュンは工場の外を目指す。途中で背後から銃撃が浴びせられるが、そんなことは気にせず、シュンはひたすら外を目指す。
「よし、なんとか出れた!」
「侵入者だ! 殺せ!!」
「その前に、突破口を作らねぇと!」
敵を無視して外に出ることに成功すれば、周りに居る警備兵らに向け、走りながら拳銃を数発ほど撃ち込んで一人を射殺する。手近に居る警備兵に対しては、殴り掛かって自動小銃を奪って、セレクターをフルオートに切り替え、背後から負ってくる警備兵らに向けて放つ。
「ぐぁ!?」
「撃ち返せ!」
数名程が銃弾を浴びて倒れる中、何名かが地面に伏せ、直ぐに撃ち返してくる。これにシュンは少しばかり被弾したが、何とか遮蔽物まで逃げ切ることに成功した。この際に掛かった時間は二分三十秒、あと三十秒ほどで爆弾が爆発する。
三十秒間、遮蔽物で身を小さくして隠れていれば、主柱に張り付けた爆弾が爆発して工場が倒壊した。これで、薬物の生産をかなり遅らせることが出来る。
「こ、工場が…!?」
「お、俺たち殺される…!!」
工場を守っている警備兵らは、たった一人の男を相手に工場を守り切れず、自分等のボスに殺されると認識し、恐怖した。
「逃げるなら今の内だな」
敵の士気が低下しているのを見逃さなかったシュンは、直ぐに遮蔽物から飛び出し、邪魔なマントを脱ぎ捨て、街の方へと全力で走り去ろうとする。だが、警備兵らは道連れにしようと執念深く、銃を撃ちながらシュンを追ってくる。
「お前も道連れだ!!」
「クソが!」
自分を道連れにしようとして追ってくる警備兵らに対し、シュンは自動小銃で撃ち返すが、フルオートで撃ち返したがために直ぐに弾切れを起こしてしまう。予備弾倉など奪ってもいないために、無用な長物と化す。即座に自動小銃を捨て、街がある方向へと逃げる。
街へ逃げれば、遮蔽物となる物が数多くあるためである。遮蔽物となる物とは、建造物や街のオブジェクトでは無く、街を歩く薬物に汚染された人間だ。シュンは勝つためなら、手段を択ばないタイプの人間のようだ。
「街へと逃げたぞ!」
「構うもんか! 市民ごとやっちまえ!!」
シュンが街へと入ったのを確認した警備兵らは、平穏のように歩き回っている市民ごと撃ち始めた。これにより多数の市民が銃撃に巻き込まれ、命を落とす。シュンに取っては知った事では無く、遮蔽物として利用している店から、自作の弓矢で反撃を行う。射線上に市民が居ようと構わずに。
「うぉ!? 矢だ!!」
「馬鹿野郎、手製の矢だ! アーマーなんか貫けねぇよ!!」
「通じるわけねぇか…」
折って来た敵兵等に向けて矢を射るも、アーマーには全く通じず、徐々に追い込まれていく。しかし、シュンはここで終わるような男ではない。一か八か、身を隠している店から飛び出して大剣を抜き、周りで右往左往している市民を盾にしながら、追跡部隊の兵士等に斬り掛かる。一人目の胴体を斬って分断すれば、空かさず近くに居る二人目の頭を飛ばし、三人目を市民ごと斬る。
「う、うわぁぁぁ!?」
血飛沫が上がる中、シュンは怯えて叫ぶ四人目を斬り捨て、続けて五人目を三人目と同じく市民ごと真っ二つに斬り落とす。シュンが街に逃げ込んで数分足らずで、敵兵と市民を合わせる数十人が無残な死体へと変わり果てた。銃弾にも負けず、鬼神の如く大剣を振るって味方を斬殺し続けるシュンの姿を見て、追って来た敵兵等は恐れを抱き始める。
「な、なんて強いんだ…!」
「こっちには銃があるんだぞ! なんで大剣を持ってる奴なんかに…!」
「に、逃げよう…! 俺たちが勝てる奴じゃ…」
「逃げる…だと…?」
「ひっ!? ちがっ…」
銃を持っていても勝てないがため、敵兵等は逃げようと考えたが、後からやって来た自分等のボスとその部下たちに、全員が工場防衛の失敗の責任を取らされ、あの世へと送られた。
自らの部下たちを始末したのは、巨大な戦槌(せんつい)を持つ、体長250mと言う巨人のような体格を持ち、奇抜なデザインの甲冑を来た大男だ。不気味な表情が正面に描かれた顔全体を覆うような大きさの兜を被っており、居るだけでも敵を威圧しそうだ。彼が引き連れた部下たちも、中々の奇抜なデザインの甲冑を身に着けている。
予想外にやって来た敵の大将の到来に、シュンは被弾した個所から感じる痛みに耐えつつ、余裕の笑みを見せながら戦槌を持つ巨人に問う。
「あんたが敵の大将か?」
問われた巨人は、兜の視界からシュンを見ながら答えた。顔全体を覆うほどの兜なので、中でかなりの熱がこもり、視界も狭くて戦い辛そうだ。
「如何にも! わしはこの世界のネオ・ムガル軍の侵攻部隊の指揮官であるテドッテ・ポルノース・ハイドンである!! 先ほどの戦闘、貴様は中々の動きを見せておるようだが、私がわざわざ出て来るほどでは無い! よって、わしの部下と心置きなく戦うが良い!」
シュンは相手がネオ・ムガルの所属であると聞き、表情を曇らせる。そしてシュンを見たテドッテは、自分が出る程でないと認識し、背後に控えている西洋風味な甲冑を身に着けた自分の部下に、目の前の男を始末させようとした。
「我こそは…げっ!?」
「雑魚はどうだって良いんだよ。それよりもだ、なんでヤクなんか売り捌いてんだ? まさか、そいつ等を兵隊にしようって言うのか?」
出て来たテドッテの部下の頭を大剣の一突きで瞬殺したシュンは、何故、この世界の住人に薬物を与えているのか問う。それと、最初にあった正常な二人から聞いた話が、本当の事であるかどうかも問う。この問いに、テドッテは部下を殺されたことも気にせず、素直に答えた。
「ほぅ、そこまで知っているとはな。さてや、貴様、ワルキューレの破壊工作員か? いや、その馬鹿デカい大剣を振るう辺り、そうには見えんがな! ブッハッハッハッ!!」
答えた後に高笑いするテドッテを見ながら、周囲に目を配って不気味な笑いをする小悪党の男が居ることを確認した。その間に高笑いを終えたテドッテが、聞いても居ないのに訳を話し始める。
「ここいらの住人はのぅ、みな戦争に負けたショックで現実から逃げようとする者ばかりよ! この世界にも薬物があるが、我らがネオ・ムガルの作り出すマズペルと呼ばれる薬物の方が更に上よ! この世界では、ハッピーなる物で呼ばれておるがな! この薬欲しさに、奴らはどんなことでもする! 恥もプライドも捨ててな! どうだ、貴様もやってみるか?」
「グヘヘ、ほれ…ハッピーだぞおっ!?」
テドッテが例の薬物をシュンに進めようとすれば、薬の売買を行う小悪党の男がその薬物が入っている瓶を前に出してくる。これにシュンは薬の瓶を出してくる小悪党の男の首を刎ね、改めていらないことを、挑発的な笑みを浮かべながら伝える。
「いらねぇよ、バーカ! ヤクなんかやってる暇があんなら、俺はてめぇ等を片っ端から殺す方に掛けるがな」
「ぬぅぅ…減らず口を…! 我らネオ・ムガルに逆らった報い、あの世で後悔すると良いわ! 死に晒せぇ!!」
これほど追い込まれているにも関わらず、余裕の表情を一切崩さないシュンにイラついたテドッテは、怒り任せに巨大なハンマーを振り下ろした。ハンマーは銃弾にも匹敵するほどの速さであるが、シュンはそれを大柄の体格に似合わぬ速さで避け、テドッテの右脇腹を深く斬り付けた。切り口からか真面に動けない物と断定し、敢えてとどめは刺さず、傷を深くするように大剣の刃を引き抜く。
「ぐっ、ぐあぁぁぁ!!」
「どうした、その馬鹿でけぇ体格は脂肪か?」
「お、おのれ…! 調子に乗りおって!! 貴様ら、生き返らした礼をここで果たせ!!」
右脇腹を斬り付けられたテドッテはシュンの更なる挑発に怒りに燃え、自分の配下に居る生前に悪行をなして男達に、シュンを始末させようと呼びつけた。これに応じ、多数の髪型がモヒカンの筋肉質な男達が一斉に現れ、斧やこん棒などの様々な近接武器を振り下ろそうとする。
「死ねぇゴラァ!」
「また雑魚か…邪魔すんな!」
ちょうど纏めて斬れる程の高さまで飛んできてくれたため、シュンは迷い無しにそこへ向けて大剣を振るい、纏めて現れたモヒカンの男達を斬殺する。
『ぶげぁ!』
「う、うぉ…!? あんた剣で数人の男達を一瞬で!?」
奇妙な断末魔を上げてモヒカンの男達が肉塊へと変わる中、巨大な刃を容易く振るうシュンの腕力にテドッテは驚きを隠せなかった。そればかりか、第二派目も十秒もかからずに全滅させられた。
短い時間で配下に加えて貰った戦闘部隊を全滅させる人間離れした戦闘力を見せるシュンに対し、テドッテは人間であるかどうかを問う。
「き、貴様…! ノンダス人か!? その巨大な大剣を振るえる者は、ノンダス人以外他ならん筈だ!」
「ノンダス人…? まぁ、父親が誰かも分からねぇ俺には、ノンダス人が父親かもしんねぇなぁ!!」
テドッテの問いに対してシュンは、襲ってくるモヒカンの男達を斬り殺しつつ、返り血を浴びながら答えた。時には周囲からやってくる市民たちも巻き込んだが、市民らは薬物に汚染されているためか、シュンは一切の罪悪感など抱いていない。むしろ介抱してやったと思っている。
シュンの周囲には、立ち向かって無残な死体へと変えられた敵の死体が横たえており、下の道路が血で水浸しになるほどだ。シュンの圧倒的な強さを見たテドッテと部下たちは、戦意を喪失し始める。
「う、うぅぅ…な、なんという強さだ…!」
「か、勝てるのか…!?」
「な、なにを恐れておる!? 我らはネオ・ムガルの戦士ぞ! このようなデカい大剣を振り回すだけの男に怖気づくではないわ!!」
部下たちの声を聴き、テドッテは指揮官らしく部下たちに向けて怒号を掛けるが、次々と味方を斬殺していくシュンを間近でみてしまった彼らには、戦う勇気はもう無かった。
「どうした、もう終わりか? 俺を殺したきゃ、鉄砲でも持って来いよ」
自分に立ち向かってくる相手が全て斬殺死体となった為、シュンは恐れおののく周りのネオ・ムガルの将兵らに挑発を仕掛けるが、誰も死にたくないと思って立ち向かわず、銃を持っている者すら撃つ前に斬られるのではないかと思ってしまい、引き金に指すら掛けない。まるで案山子のようだ。
そんな敵兵等にシュンは呆れつつ、周囲の将兵らが仕える主である自分の大切な物を目の前で奪ったリガンに、自分がいつか殺しに来ると告げるよう命じる。
「誰も来ないのか。そんじゃ、てめぇらのボスである紫色のロン毛のクソにこう伝えろ。テメェを斬殺しに行くから、その首洗ってろってな」
大剣の刃を右肩で抱え、空いている左手でテドッテを指差しながら告げた。
一人が頷いたのを確認すれば、彼らがこの世界に来るための装置「次元転移装置」があるとされるネオ・ムガルの侵攻部隊の本部へと向かう。
「お、終わりだ…俺たち粛清される…みんな…!」
ここで、おめおめと敵を逃してしまったテドッテの部隊は、リガンが待つ総司令部に帰れば確実に全員が粛清されるだろう。しかし、誰もシュンに勝てる自信が無いので、テドッテも含める誰もが追おうともしなかった。
ここで背中を見せているシュンを撃てばいいのだが、銃を持っている者は誰も撃たず、プライドを傷つけられたテドッテすら動こうとしない。どうやら、シュンの背中から感じるこの世の物とは思えない恐ろしい殺気を肌で感じ、身体が動かないようだ。
本拠地へと帰ってリガンに報告して粛清されるか、ここでシュンに立ち向かって全員玉砕するかの二択の選択肢をネオ・ムガルの侵攻部隊の将兵らに与えられていたが、彼らはどの選択肢も選ばず、全員が粛清や死を恐れ、ネオ・ムガルからの脱走の事だけを考えていた。
これで戦闘は終了と思いきや、空から新たなイレギュラーが現れる。
イレギュラーが鳴らす爆音を聞いた一同が、一斉に空へ向けて視線を向ける。
その方向にあったイレギュラーの正体とは…?
「大佐殿、十二時方向の都市部にて、件のテロリストの部隊を確認! 規模は歩兵一個中隊程!」
空から現れたイレギュラーとは、統合連邦地上軍の爆撃機部隊であった。
編隊長機を務める超大型戦略爆撃のコックピット内で、操縦桿を握るパイロットが、隣に座る編隊長を務める大佐クラスの男に報告する。それを確認してか、大佐はモニターを動かし、爆撃目標である都市部に居るネオ・ムガルのテドッテの部隊を捉えた。
「ふむ、あの装備は例のテロリストだな。これで都合が更に良くなる」
「つ、都合が更に良い? どういう事です?」
都合が良いと口にした大佐に対し、部下であり副官であるパイロットは問うた。
その問いに対し、言葉通りの意味であると大佐は返す。
「言葉通りの意味だ。この都市部は奴らの手で焼き尽くされた。この意味が分かるな?」
「えぇ、はい…ですが、都市部にはまだ多数の生命反応が…」
問いの意味を理解しているパイロットは、レーダーを指差しながらこの都市部に住む薬物に汚染された住民がまだ残っていることを伝えたが、大佐は彼らの存在自体を否定する。
「少佐、この爆撃は麻薬中毒者どもから健全な者を守るための作戦だ。彼らは我々の統一社会において、誰一人として存在してはならない存在だ、分かるだろ? 麻薬や覚醒剤は全世界、否、この世の全てから消し去なければならん存在なのだ。君は何のために、我が軍で最高の難関校に志願したのだ?」
「…イエッサー! 直ちに爆撃コースへ入ります」
「そうだ、それで良い。人類が生み出してしまった悪魔を倒すのだ、完膚なきまでに」
麻薬や覚醒剤は完全に消し去なければならない。
これが大佐の考えであった。連邦軍の中で最も難関な士官学校を卒業したパイロットに問えば、彼は大佐の思想を理解し、任務に当たった。
戦闘の長機が爆撃態勢に入れば、他の僚機も同様に敵の拠点を完全に消し去ることが出来る編隊を取り、一切崩すことなく編隊を維持し続ける。この編隊を維持するために、どれほどの訓練を積んできたことだろう。
『三、二、一…! 投下開始!』
『投下、投下!』
『全部焼き尽くちまえ!』
爆撃機の編隊は爆撃態勢を維持しつつ、都市部の上空まで辿り着けば、大量に積んである爆弾を都市に向けてばら撒いた。
列記とした無差別爆撃であるが、彼ら連邦地上軍の爆撃隊からしてみれば、自分等の統一社会を脅かす二つの害悪なる存在を消すための大義名分を掲げる殲滅作戦である。
投下した爆弾の種類は焼夷弾といった対人を対象にした物だ。
焼夷弾は太平洋戦争末期でアメリカ陸軍のB-29戦略爆撃機が日本本土の都市部に投下され、続いてナパーム弾としてベトナム戦争にも使用された。
これらの条約違反レベルの兵器を投入することは、連邦軍は完全に街を焼き払うつもりだ。誰一人この街の人間を逃さずに…。
地上のテドッテの侵攻部隊は、所有している対空火器で迎撃を試みようとしたが、持ってくる前に、爆撃隊に随伴していた護衛戦闘機隊に全て破壊され、隊長であるテドッテは、本部へと逃げる最中に機銃掃射を受け、部下諸とも挽き肉へと変わった。
「畜生、冗談じゃねぇぞ!」
空から現れた連邦軍の爆撃隊を目撃していたシュンは、爆弾倉から開かれた投下される爆弾が全て焼夷弾の類であることが分かり、それらを避けるためにネオ・ムガルの侵攻軍の本部があるビルを目指していた。
「雨だ、凄い雨だ…! でも熱いな…」
「こんなのは夢だ…! 全部夢なんだ! きっと覚めれば元通りなんだ…!」
「こんな時に、まだ幻覚を見てんのか、こいつ等!」
必死にばら撒かれた焼夷弾によって燃え盛る街の中を駆け巡る道中、全身を焼かれても未だに夢を見続けている市民らの異様な姿がシュンの目に映った。それに火達磨になりながらも楽しく笑顔を絶やさずに歩いている男も見える。空から無数の焼夷弾が雨のように降り注いでいるにも関わらずに。
「よし、あれっぽいな!」
炎に焼かれる街の中を走り回ること数分、シュンは侵攻部隊の本部らしいビルを見付けた。焼夷弾が当たってかなり燃えているが、この辺では他の建物とは違ってかなり整備された痕跡が見える。それを敵の部隊本部と断定し、シュンは全力疾走でそのビルまで、落ちて来る焼夷弾を避けながら向かう。
少しばかり火傷はしたが、大した傷ではないので、ビル内へと突入し、中に居る自分等だけでも脱出しようとしているネオ・ムガルの将兵らに素早く抜いた大剣で斬り掛かる。
「う、うわぁ! ま、待て!!」
標的にされた敵兵が命乞いをしたが、シュンは容赦なく大剣で斬り捨て、仲間を見捨てて自分だけ逃げようとする二人目の上半身を斬り、無残な肉塊へと変える。残っている者達は、やって来た大剣を持つ敵に対して持っている銃を撃ち込んだが、シュンは銃弾に構わずに前進し、被弾しながらも自分に向けて銃を撃ってきた敵の集団を全滅させた。
「クソッ、腹に食らっちまった」
被弾した左脇腹から来る出血を抑えつつ、シュンは次元転送装置がある場所へと向かう。
階段を降りて通路に入れば、次元転送装置がある表記を確認して、その案内図を辿って目当ての物がある部屋を目指す。途中、ドアからバックトラフトと呼ばれる火災現場で起きる爆発現象が起きたが、シュンはそれでも構わず、少しばかり火傷をしながらも進み続ける。多少の無茶をしながら辿り着けば、直ぐに次元転送装置を起動させようとする。
「クソッ、分からねぇ…!」
だが、シュンには次元転送装置の使い方など一切知らない。
ワルキューレに属していたころは、専門の将兵らがやってくれていたが、その操作方法も見たことが無い。しかしここで足踏みをしていては、背後から来る炎に呑まれて丸焼きにされてしまうだろう。
「仕方がねぇ…一か八かだ! 丸焼きにされる前に、何所へなりとも行ってやるぜ!」
シュンは一切の迷い無しに次元装置を起動させ、転送先の座標を適当に素早く決め、転送機の中へ飛び込んだ。炎が近くまで来ていたが、炎が部屋全体を覆う前にシュンが入り込んだ転送装置の開閉ドアは閉まり、彼を地獄の業火のような炎から守る。
「よし、これで一安心…クソッ、ちゃんと座標を決めてねぇ…俺ぁ、一体何所へ飛ばされちまうんだ?」
数秒後、シュンは次元の狭間へと吸い込まれ、自分が適当に決めた座標である世界へと飛ばされた。
して、シュンが適当に決めた転送先の座標は1941年11月の西暦世界…。
この時期と言えば、第二次世界大戦が始まって二年余り…ドイツ軍侵攻部隊がソビエト連邦の首都であるモスクワの攻略を目的とした作戦である「タイフーン」作戦が実行されている頃であった。