「ここだ、奴はここを通る」
その頃、ワラキアの独立阻止の第一段階であるイオアンの暗殺、もとい奇襲を行う機銃を装備したワートホグと呼ばれる偵察車に乗る海兵隊の偵察部隊が、標的がブラン城へ帰る際に通るルートを端末に記載されたデータを手にしながら見付けた。それを直ぐに、後続の本隊へ報告する。
「こちらハイナー1-1、データに記載されている標的が夜に通るルートを見付けた。直ぐに工兵隊を寄越してくれ」
偵察隊の隊長が長距離無線機を背負う兵士から無線機を借り、本隊にそのことを報告すれば、部下の一人が本当に通ってくるかどうか疑問に思い、それを上司に告げる。
「隊長、本当に通ってくるんですかね? あのワイルドキャットの情報部からの情報ですよ? 嘘だったら俺たちは…」
不安がる部下に対し、隊長はそれ以上の事は言わないように注意する。
「それ以上言うな、奴らに聞かれている可能性がある。第一、やる気があるなら、とっくに俺たちを皆殺しにしてるさ。敵の斥候が来ているかもしれん、警戒するぞ」
「イエッサー!」
騙す気があるなら、生存者探索のために侵入した自分等を殺していることを告げれば、敵の斥候隊が居ないかどうか確認と安全を確保するため、辺りの偵察を始める。
尚、イオアン奇襲部隊は、惑星ワラキアの近い宙域に隠れている空母「ギャラルホルン」から残りの一連隊をワラキアに情報部の手引きで降下させた際に一個機甲旅団規模になっており、戦車や戦闘ヘリ、更にUNSC総軍の機動兵器であるマンティスも投入されていた。
相手にするのは一個師団ほどであり、普通なら二個師団以上の戦力が必要であるが、大規模に動いては敵に感づかれる可能性がある。その為、旅団を敵の先遣隊を攻撃するスコーピオン戦車を装備した部隊と、イオアンの本隊を攻撃する部隊、最後部の部隊を攻撃する部隊のそれぞれ二個大隊に分けての奇襲攻撃だ。
奇襲はこの森林の街道で行われる予定であり、それも成功率を高めるために、夜に行う予定だ。自分等の敵軍である上層部によれば、夜にイオアンの部隊がルートを通るそうで、それまでは歩兵は息を殺し、戦車や戦闘ヘリなどの乗り物はエンジンを切って待つしかない。それに敵の偵察機も飛んでいるため、それらに見られないように上手く偽装する必要がある。
全く持って面倒なことを押し付けた物だ。更に悪いことに、次の標的であるこの惑星の領主を殺さなくてはならず、自分等に暗殺を押し付けた敵の情報部は、何所に視察に行くかの情報すら流さなかったため、最悪の場合、直接首都を一個機甲師団だけで攻撃しなくてはならないのだ。
星で助けを求める連邦軍の敗残兵たちの力を借りたいところだが、もはや彼らはイオアンや領主直属の部隊であるドラゴン軍団の手によって狩り尽されてしまっており、生き残っていても、戦意は損失して戦えないだろう。
その上に援軍も来ないので、絶望的な状況だ。
「工兵隊、到着しました」
「よし、起爆式の爆弾を使ってくれ。地雷なんて仕掛けたら、先遣隊が踏んで奇襲が失敗する。ケツを襲う部隊にも伝えておけよ」
「イエッサー!」
偵察部隊が敵影の居ないことを確認して安全を確保した時、工兵隊が到着し、罠の設置を始めた。
「イオアン様、先遣隊より報告。前方に森林地帯です。散った敵が待ち伏せている可能性があります。迂回した方が…」
「ふん、敗残兵共がどんな小細工をして来ようとも、この俺が打ち砕いてくれる。総員怯むな! 凱旋する勢いで堂々と進め! この城を抜ければ、城はもう直ぐぞ!!」
海兵隊の待ち伏せポイントとは知らず、ハザマのもたらした情報通りに森に来たイオアンは、心配する代わりのサーコートを鎖帷子の上に羽織った女性副官の意見を無視し、罠をも踏み潰す勢いで森の中を進み始めた。
初めに森に足を踏み入れたのは、戦術機のMIG-29とTR-85M1主力戦車を中心とした機甲部隊だ。前衛は戦術機が固め、その後ろから戦車や随伴歩兵が続く。辺りが暗いため、サーチライトを付けての前進だ。これで海兵隊の待ち伏せ部隊が見付けられてしまうが、彼らも身を隠すためにステルス迷彩などの徹底した偽装を行っており、案外見つかる事は無かった。
「先遣隊より報告! レーダーに敵影無し、それに待ち伏せを行っている敵の気配なし!」
「ふん、所詮は腰抜けの集団だ。行けぇ!!」
待ち伏せしている海兵隊に気付くことなく、先遣隊は異常無しとの報告をイオアンに出してしまった。これにより、イオアンは各地に潜伏する連邦軍の敗残兵は腰抜けの集団と認知し、堂々とブラン城に凱旋する為、本隊と後衛部隊を引き連れて森へと入る。
「大名行列が森に入り込みました」
『よし、退路を断て』
完全に約一個師団分の戦力が森に入った所で、ギリースーツと呼ばれる擬装用の上着を羽織っていた海兵隊員等が退路を防ぎ、重機関銃やロケットランチャーを設置し、敵の退路を断つ。更にこれでもかと言わんばかりに、対人地雷や対戦車地雷などを設置する。
「来たぞ、デカ物だ」
「奴が地雷を踏んで倒れたところで、攻撃開始だ」
一方、先遣隊と前衛部隊を攻撃する部隊は、地雷原に入り込むのを待つ。地雷原のその横には、起爆式の爆弾が多数設置されており、前衛部隊が足を止めたところで一気に起爆して殲滅する腹だ。
周りに溶け込んだ海兵らが息を殺して待つ中、一番先頭を歩いている戦術機の巨大な右足が、偽装された対機動兵器用の地雷を踏んで吹き飛んだ。
「じ、地雷だぁぁぁ!!」
「倒れるぞぉ!!」
片足を失い、バランスを崩したMIG-29が倒れる中、下敷きになる範囲に居る戦車と歩兵は散り散りに逃げ始める。完全に倒れたところで、左右に居る僚機が警戒態勢に入るが、もう遅かった。
「今だ!」
地雷が爆発した音を聞いて前衛部隊が足を止めた直後、それを合図に工兵は仕掛け爆弾を起爆し、目標の場所へ足を止めてくれた敵部隊を一網打尽にした。
爆発音と悲鳴、森が燃え盛る中、生き残っている敵兵等は、本隊に敵の奇襲を受けたことを知らせようと、無線機に手を伸ばす。
「敵襲だ!」
「奇襲攻撃だ! 直ぐに本隊へ報告…」
だが、暗視装置を付けている海兵隊員らは、容赦なく彼らに銃弾を撃ち込み、次々と右往左往する敵兵等を無慈悲に射殺していく。
彼らの暗視装置に映る物は、銃弾を撃ち込む度に一人、また一人と熱を発する人影が倒れていく姿が見え、まだ生きている者にはとどめの一発を撃ち込み、息の根を止める。
「くっ、クソ!」
一人の敵兵が暗視ゴーグルを着けて反撃に出ようとするが、海兵隊のスナイパーチームの狙撃を受け、一発も撃つことなく息絶える。本隊に知らせようとする無線兵も狙撃し、本隊への知らせを断つ。
「本隊へ、敵の攻撃だ! 繰り返す! 敵の攻撃だ!! 聞こえないのか!?」
まだ無事な士官が、破壊されていない携帯無線機に向けて本隊へ知らせようとするが、海兵隊は徹底的なジャミングを行っており、本隊への通信も、味方への救援すら断ったのだ。
自分等もこのジャミングのおかげで一切の通信手段は無くなったが、バイクなどの伝令を使って伝達している。
「こちら後衛部隊! 敵の奇襲を受け…がふっ!?」
後衛部隊も同様に海兵隊の奇襲を受け、一方的に壊滅状態にされていた。
派手に目立つ機動兵器の類は、次々と歩兵の携帯式ロケットランチャーやスコーピオン戦車の主砲の餌食となり、反撃をすら出来ずに次々と撃破されていく。まるで虐殺のようだ。
「い、イオアン様! これは!?」
「狼狽えるな! 暗視装置の類で敵を見付け、直ぐに始末しろ!!」
前方と左右から聞こえて来る銃声と爆破音で、副官がやや慌てる中、イオアンは周囲の将兵を纏め、反撃を命じる。そんな彼の元に、前衛部隊の生き残りの伝令が、重傷を負いながら報告に来る。後衛部隊の伝令も前衛と同じく重傷であり、まだ動けるうちに報告しようとしていた。
「前方より報告…敵部隊の奇襲攻撃です…! 敵の数は不明…我、真面に反撃できず…」
前衛部隊の兵士が傷口を抑えながら報告する中、後衛の部隊は重症の余りまともに話すことが出来ないのか、代わりの兵士がイオアンに報告する。
「こ、後衛も壊滅状態! 退路を断たれました!!」
「おのれぇ…小癪な真似を…!!」
後衛部隊も壊滅し、退路を断たれたと知り、イオアンは悔しさの余り怒りを露わにする中、彼の元にも、他の戦線で戦友や兄弟を殺されて敵討ちに燃える海兵隊員等が襲い掛かる。
「見付けたぜ! イオアンのクソ野郎!! 何が天が味方をすれば平定できるだ! こんなクソ野郎は地獄で八つ裂きにされてるのがお似合いだ! 俺がこの手で地獄に叩き落としてやる!!」
UNSCの機動兵器「マンティス」に乗るパイロットは怒り心頭に、左腕のミサイルランチャーを、イオアンとその部下たちに照準を定め、ミサイルを発射するボタンを押した。
ボタンを押した直後に勢いよくミサイルは標的に向かって発射され、わずか数秒ほどで標的に着弾し、周囲に居る者達を挽き肉へと変える。
「しゃらくさい! そんな堕落した文明が生み出した兵器などに、この俺が倒せるものか!!」
女性副官も彼の愛馬も含め、周りの側近らは既に挽き肉状態であるが、イオアンは炎の壁を魔法で召還して生き延びていた。だが、無傷では無く、身に着けている鎧にヒビが入り、ミサイルの破片が片や左脇腹に突き刺ささり、そこから出血している。
「あの程度じゃ、あの悪魔は死なん! ここで俺の弟の仇を取らせてもらう! ファイヤー!!」
しかし、海兵隊の怒りは収まらない。スコーピオン戦車の車長は、自分の弟の仇を取る為、二両の僚車と共に主砲を浴びせた。
弾種は徹甲榴弾。徹甲弾と榴弾を合わせた特殊弾頭だ。第二次世界大戦ではパンターなどの後期ドイツ戦車に装備されていた。
「イオアン様を守れ!」
徹甲榴弾が放たれた直後、生きている重装備兵や鎧を身に着けた騎士などが集まり、身を挺してイオアンを守ろうとした。
無論、銃弾すら防ぐ防弾ベストや鎧が戦車砲を防げる筈が無く、一瞬のうちに挽き肉となり、イオアンを自分らの血で赤く染め上げるだけである。
「目標、依然として生きてます!!」
「クソッ、あいつ等が居なければ…!!」
しかし、彼らの死は無駄では無く、イオアンへのダメージを最小限に抑えた。
これに仇討ち目的で参加した車長は、握り拳を作りながら悔しがる。
「脆弱な連邦兵共が…! この俺を怒らせたな…! 一人たりとも生かして返さんぞ!!」
周りの兵士を肉塊にされ、自分の顔に泥を塗った海兵隊のスコーピオンやマンティスを中心とした機動部隊に怒りを露わにしたイオアンは、自分に飛び散って来た肉塊と骨、内臓を振り払い、腰に差し込んである剣を抜き、傷口から血を流しながらも、手近に居るスコーピオン戦車に斬り掛かる。
「クソッ! 来るな、来るなぁ!!」
凄まじい速さで斬り掛かってくるイオアンに対し、機銃座に座る兵士が撃ちまくるが、向かってくる男は魔法で召還した炎の壁で身を守りつつ、刀身に高熱の炎を纏わせれば、その刀身で敵戦車を斬る。鉄をも溶かす程の高熱であるため、斬られた左の履帯は高熱で溶け、動けないようにされる。
「左側面が斬り落とされました!」
「な、なんてぐわぁぁぁ!?」
「戦車長!? そんな火力が!? ぎゃぁぁぁ!!」
操縦手からの報告が入った同時に、車長が驚きの声を上げたが、言い終える前にイオアンが突き刺した剣に胸を突き刺され、血を吹き出しながら絶命する。それから剣を胸から引き抜き、左手で唱えた炎魔法で、剣で抉じ開けた穴から車内に炎を解き放ち、車内を火炎地獄へと変える。全身に炎で焼き尽くされ、火達磨となった乗員たちは、我先へと車外より飛び出し始める。
「ひっ!?」
「怯むな! 撃て、撃てぇ!!」
一両を炎で無力化したイオアンは、怯まずに続けて撃ってくる他の二両とマンティスに向けて斬り掛かる。二両目は砲塔を斬られた後に強力な炎の球体を後部に撃ち込まれて大破炎上し、三両目は高熱の刀身で滅多切りにされ、乗員共々燃やし尽くされる。
「す、スコーピオンが…!」
「相手は戦闘ヘリでも戦闘爆撃機でも無いんだぞ…!?」
意図も容易くUNSCの機動兵器にも負けない程の戦闘力を誇る最強の地上兵器であるスコーピオン戦車が、手負いの男の剣や魔法で破壊されるのを見て、海兵隊員らは恐怖を覚える。通常の人間である海兵隊員から見れば、イオアンは化け物そのものであった。そんな彼は、次なる標的をマンティスへと向け、地面を蹴って常人ではありえない脚力で迫る。
乗っているパイロットは右手の機銃を連射しつつ、近付けないようにするが、全て常人を超えるイオアンの斬り払いで弾かれ、接近されてしまう。
「そう簡単に死ぬかよ!」
足を斬られそうになった所で、パイロットはペダルを強く踏み込み、強力な踏み付けをイオアンに食らわせた。
「どうだ!?」
並の人間であれば、グロテスクにプレスにされている程であるが、結果は彼の予想を覆す物であった。
「その程度の物なのか? 貴様らの文明で作り上げられた最新鋭の兵器の力は? 俺の力はその数百倍であるぞ!!」
踏み付けた彼は、その足を左手だけで受け止め、マンティスよりも強力な力で巨体を持ち上げ、空高くに打ち上げた。それから左手に魔法で込めた炎の球を打ち放ち、マンティスを空中で撃破する。破片が四散する中、マンティスを破壊されて呆然としている海兵等に向け、自分には絶対に勝てないと宣言する。
「フハハハ! 堕落した文明に毒された貴様らでは絶対に俺には勝つことは出来ん! 絶対にだ!! この俺を倒したくば、俺と同等の戦士を差し向ける事だ!! そんな戦士が、貴様らに居ればの話だがな! フハハハ!!」
この場において自分に適う相手は居らず、負かす者も居ない。
そう勝利を宣言して高笑いを浮かべるイオアンであるが、そんな彼の右耳が、海兵隊の狙撃兵が持つ大口径の対物ライフルから放たれた重機関銃クラスの弾丸で吹き飛ばされる。
「命中…! 標的は無力必ず…!
「クソッ、風の所為で!」
頭を狙ったはずだが、風の所為で狙いが逸れてしまったようだ。
観測手からの報告に、狙撃手は二発目を撃ち込もうとするが、怒り心頭のイオアンの火炎魔法により、相棒と共に焼き殺されてしまう。
「お、おのれぇ…またしても…!!」
狙撃で右耳を吹き飛ばされたイオアンは、激痛からさらに怒りを増させ、周囲に高熱の炎を放ち、その場にいる海兵等を焼き殺す。
周囲に居る敵兵全員が、全身火達磨となって獣のような叫び声を上げる中、次なる狙撃を避けるべく、傷口を抑えながら北西の方角へ進み始める。
だが、それを待ち受けていたのか、仇討ちに燃える一個小隊程の海兵隊員等が、重傷なイオアンに襲い掛かる。
「来たぞ、俺の妹を嬲殺しにしたクソ野郎だ! あいつに殺された分の仇を俺が取ってやる!!」
「マラ舐め野郎め。ぶっ殺した後、テメェのナニをその口に突っ込んでやる!」
「容赦するな! 銃弾で奴をファックしてやれ!!」
現れた海兵等は卑猥な言葉を口にしながら、手に持った銃火器でイオアンに銃弾の雨を食らわせる。
「そんな物でこの俺を殺せるものか…!」
凄まじい嵐のような銃弾がイオアンを襲うが、彼は必死に剣を振るって銃弾を払う。だが、焼け石に水であり、防御しきれずに数発ほど被弾し、更に左手の薬指を吹き飛ばされてしまう。指は何かに触れてその感触を脳に伝えるため、神経の数が多い。一本でも吹き飛ばされれば、凄まじい痛覚が脳を襲ってくるだろう。
その痛みを耐えつつ、イオアンは目前で銃を撃ってくる海兵隊員等に向け、強力な火炎魔法を被弾しながらも放ち、自分に銃を撃ち込んで来る海兵全員を焼き殺した。
敵は声を発することなく、一瞬のうちで焼き焦げた焼死体と化し、地面の上に倒れ込む。
「どうだ…!」
数十発の銃弾を受けても、気力で何とか立っているイオアンは、物言わぬ焼死体たちに向けて言いながら、北の方角へ逃げようとしたが、またしても立ちはだかる者達が現れる。
「お前がイオアンだな?」
それはマスターチーフが率いるブルーチームだ。チーフがイオアンに向けて問えば、チーフと同じ男性スパルタンであるフレデリックが、重傷の彼が普通に動いていることに驚く。
「こいつ、何発も銃弾を食らっての重傷なのに、まだピンピンしてるぞ」
「恐ろしい執念ね、一体何が彼を動かしているのかしら?」
まだ彼が気を失わずに、戦意を保っていることを執念であることを、狙撃を得意とする女性スパルタンであるリンダが告げる。
「ここまで追い詰めてくれた海兵隊員の仇を取るべきね。私が先に行くわよ」
「それで頼む、ケリー。俺たちは援護射撃を行う」
ケリーと呼ばれる女性スパルタンが先攻を仕掛けることを告げれば、リーダーであるチーフは彼女の判断に任せ、自分等は援護射撃を行おうとする。その前に、イオアンは目前に現れたスパルタンらを見て、自分等が言う堕落した文明が生み出した化け物であると侮蔑する。
「スパルタンか! 堕落した生み出した化け物共か! ここでこの俺が討伐してくれる!!」
「化け物はどっちかしらね!」
自分等を侮蔑するイオアンに対し、ケリーは並々ならぬ速さで味方の援護射撃で動けない彼の懐に入り込み、破片が引き抜かれ、応急処置で包帯を巻いている個所に向け、強力な肘打ちを撃ち込んだ。
「ぐっ!?」
凄まじい痛覚を感じ、イオアンは顔を歪める。そんな彼に対し、ケリーは更に容赦なく蹴り込んで吹き飛ばし、宙に舞う彼に続けて瓦割りを食らわせる。
スパルタンの瓦割りは、空手の達人より恐ろしい物であり、装甲すら叩き割るほどの威力だ。そんな物を受けてしまえば、幾らイオアンと言え、無事では済まない。
「ぐあぁぁ…ぬぁぁ!!」
鎧を叩き潰されたイオアンは気を失いそうなほどの痛覚を感じ、気絶しそうになるが、何とか持ち直して反撃に出る。だが、ケリーはウサギのように早く、振るわれた刃をバク天でかわし、続け様に短機関銃を浴びせる。彼がケリーからの射撃を防いでいる間に、チーフたちが背後から撃とうとしたが、奇襲を生き延びて主を守るために駆け付けた部下たちが姿を現す。
「イオアン様がやられているぞ!」
「あのお方をやらせるな!!」
四人のスパルタンに苦戦しているイオアンを見たのか、彼らはブルーチームに向けて各々が持つ銃で撃ち始める。
「下がれ!」
凄まじい銃撃を受けた為、チーフはメンバーに命じて遮蔽物まで撃ち返しながら後退する。
「チーフ!」
「死ねやぁ!!」
フレデリックの声に、自分の背後からハンマーを振り下ろそうとする甲冑を身に着けた大柄の兵士の存在に気付いたチーフは、咄嗟の判断で背中に引っ付けてある鞘から剣を引き抜き、それでハンマーを防ぐ。
「ぬぁぁぁ!!」
刀身の上部を持ちながら防ぐチーフであるが、相手の力はスパルタン以上なのか、徐々に押し込んで来る。そんな大柄の敵に対し、腹に向けて強力な蹴りを入れ込み、一定の距離を取る。それから敵を剣で斬ろうとしたが、刃が通らず、弾かれてしまう。
「馬鹿め、そんな剣で俺を斬れると思っているのか!?」
チーフの斬撃を防いだ兵士は、フルフェイスの兜から籠った声を出しながら、自分の鎧を左手で二回ほど叩き、自分の鎧の頑丈さを自慢する。
そんな大柄の騎士に対し、チーフは剣を取手が上になるように逆さまに持ち替える。
剣は本来斬る物であるが、西洋剣は逆さまに持ち替えれば、鍔は打撃攻撃を行えるのだ。
「そうか、ならば打撃攻撃だ」
「ふん、剣を逆さに持ち替えたところで、この俺を倒せんぞ!」
逆手に持ち替えたチーフに対し、自分を倒せないことを告げてから、再びハンマーを振り下ろそうとした。だが、動きは読まれており、横に避けられて鍔の部分を胸に強く撃ち込まれる。
「ぐっ、ぐぅぅぅ!?」
胸に強く撃ち込まれたのか、その部分がへこみ、敵兵は怯み始める。チーフはその隙を逃さず、続けてへこんだ部分に向けて打撃攻撃を行い、地面に打ち倒した後、剣を通常の持ち方に切り替え、鎧の隙間に剣の刃を強く突き刺して相手の息の根を止めた。
この時、チーフには敵からの銃撃が無かったが、それはリンダの狙撃で銃を持つ敵兵が全員倒されているからだ。フレデリックも奮闘し、敵から奪ったメイスなどで多数の敵を撲殺していた。
一方でケリーは…?
「死ね! この化け物!!」
彼女の背後からサーコートを身に着けた女騎士が手に握られた槍で突き刺そうとしたが、あっさりと避けられて首の骨を折られ、武器を奪われてしまう。
敵から奪った槍を使い、ケリーは気力と執念で戦意を維持しているイオアンに向けて乱れ突きを放つ。
スパルタンは訓練時にありとあらゆる武器を使って来たため、近接武器に関しても精通しており、手足のように扱うことが出来る。
「おのれぇ…! このような化け物共に…!!」
自分が徹底的に否定する文明によって生み出された
そんなイオアンにとどめを刺すように、右手に剣を握ったチーフが、彼の顔に向けて強烈な突きを放つ。
「グゥ…!? ぬぁぁ!!」
狙った額には当たらず、左頬を少し掠めた程度であり、イオアンの反撃を受けてケリー共々吹き飛ばされる。
「仕損じたか…!」
吹き飛ばされたチーフは、なんとか体勢を持ち直してライフルに切り替えて反撃に出ようとするが、この瞬間を狙っていたのか、大盾を持った集団がイオアンを囲い、彼を逃走経路まで逃がそうとする。それに生き延びた戦車やASまで現れた。
「目標が逃げる! こちらシエラ117からハンター1-4へ、近接航空支援を要請する! 大至急だ!」
『こちらハンター1-4、その要請を待っていた! 待っていろ、直ぐに石器時代に戻してやる!』
逃げるイオアンを逃がさないため、チーフは航空支援のために待機しているUNSCの戦闘ヘリとも言えるホーネットに航空支援を要請する。
それを待っていたのか、パイロットが素早く返答し、要請から十数秒ほどで標的まで来た。
『全部、ぶっ潰してやる!』
無線機からパイロットの声が聞こえれば、上空に旋回しているホーネットの両翼に搭載されている対地ミサイルポッドが勢いよく掃射され、地上に居る標的に雨のように放たれる。
ASは機動兵器であるが、戦車や戦闘ヘリなどには勝てず、戦車共々スクラップにされる。生き延びている歩兵に対しては、機種の後部に設置されている25mmクラスの機関砲などを浴びせ、挽き肉へと変える。
『ミサイル切れだ。目標は…クソッ、逃げられちまった! 標的の排除は頼むぞ!』
「あぁ、おかげで道は開けた。感謝する。行くぞ、ブルーチーム」
ミサイルを全て撃ち尽くしたのか、ホーネットはイオアンを排除できなかったことを報告してから、仮設された基地へと帰投し始める。道を開いてくれたことを感謝してから、チーフはチームメンバーを引き連れ、イオアンの後を追う。そんなスパルタンらを止めるべく、奇襲を生き延びた敵の将兵らが現れ、立ちはだかってくる。
「イオアン様は、貴様らの手にはやらせん!」
そう叫びながら、手に持っているAIMS-74を撃ってくるが、ブルーチームに適うはずも無く、的のように次々と撃ち殺されていく。何名かは遮蔽物へ避難するが、リンダの狙撃で頭を吹き飛ばされ、容易く突破されてしまう。
「死ねぇ! 怪物ども!!」
「後ろからだ!」
背後からも、主を守るべく奇襲を生き延びた刀剣類を持つ敵兵等が現れ、叫び声を上げながら襲い掛かって来たが、駆け付けて来た大剣を携えた大男によって一人が一刀両断にされる。
「ぬっ!? 貴様ぁ!!」
「邪魔だ、退け」
仲間の一人を惨たらしく殺され、怒りを露わにした槍兵が槍を突き刺したが、簡単に払い除けられ、大剣で胴体を斬り落とされ、血と内臓を撒き散らしながら地面に横たえる。その男の正体が分かっていたチーフは、気軽に声を掛けた。
「遅かったな」
「前方の方が忙しかったもんでな、遅れちまったよ」
その正体とは、大剣「スレイブ」を担いだシュンであった。ここに来るまで幾人もの敵を斬り殺して来たのか、返り血塗れであり、大剣にも赤く染まるほどの血痕が染みついている。
「う、うぅ…!」
「ひ、怯むな! 弓兵、奴を殺せ!!」
一気に味方を二人も殺され、恐れおののく兵士たちであるが、隊長の指示で弓を持つ兵士が前に出て、近付いてくるシュンに向けて矢を放つも、彼が持つスレイブで弾かれてしまう。第二射目が放たれるが、それも見ているのか、続けて弾かれてしまい、彼に近い距離に居た兵が、半分に両断されて地面に血と骨、内臓を撒き散らす。
続けて二人、三人、四人と無残に斬り殺され、接近戦に備えて腰の護身用の剣を抜いた弓兵も、地面に横たわる肉塊と化した敵兵と同じ運命を迎えた。
「…!? お、おのれぇ!!」
やけくそに、一人残った手斧を持つ隊長が、叫びながらシュンに斬り掛かって来たが、大剣を勢いよく突き刺され、上半身と下半身の二つに分かれる。
「エグイ殺し方だな」
「さっさっと尻尾撒いて逃げてりゃあ、こうならずに済んだのさ」
その惨たらしい死に方をした隊長を敵ながら哀れに思うフレデリックが口にすれば、それに応えるように自分に立ち向かわなければ、こうはならなかったとシュンは告げる。それよりも先に、イオアンを追わなければならないとブルーチームの面々に言う。
「そんなことより、あいつを追うぞ。確か、北の方へ逃げたな」
「あぁ、奴が北へ逃げるのが見えた。急ごう」
それにチーフが答えれば、一同はイオアンを追うため、北の林に逃げたイオアンの追撃に入る。彼は目印に血の跡を残しており、それを頼りにイオアンの後を追った。
「うぅ…くそっ、退路ではないのか…! この俺ともあろうが…!」
その頃、北の方角へ逃げたイオアンは、自らの退路を断ってしまうような一本の木が立っている絶壁に辿り着いてしまい、一番大きい傷がある左脇腹を抑えながら悔しがる。
その木を背に横たえ、イオアンは応急処置のために突き刺さっている破片や銃弾を摘出するため、腰の鞄に入ってある医療キットを取り出し、中から止血剤を取り出す。それからズタズタになった鎧を脱ぎ、鎖帷子もマントを脱ぎ捨てれば、治療を始める。
「こんな物に頼る日が来るとわな…!」
自分が貶す高度な文明の産物である医学力に頼らなければならないことを恥じながら止血剤のパックの封を手で開け、粉末を傷口に拭き掛ける。それから包帯を取り出し、傷口に撒いてから持ち込んだ酒瓶を、痛みを和らげるために一口飲んだ。
「この俺は…負けるのか…? あんな者どもを相手に…?」
この中世のような地で育ち、自分が貶す高度な文明に頼り切る者達に負かされたことで、イオアンのプライドはズタズタであった。痛覚も他の感覚も徐々に感じなくなったため、恐怖を感じ始める。
「クソッ! この俺が恐怖を感じているのか!? 死の恐怖に怯えているとでも言うのか!? そんな下らぬ感情を抱くなど…!」
背にしている木を怒れ任せに拳で叩き、イオアンは自分の内に湧いてくる感情を否定する。そんな時に、木の枝に置かれていた何らかの容器が落ちる。お守りのような物のようだ。
「ん、なんだ?」
それに気付いたイオアンはそれを手に取り、中が光っていることに気付いた。
「木彫りのお守りか…それに光っている。何が入っているのだ? それに蓋が…」
中にある光る物体が気になったのか、イオアンは蓋を開けて中を確かめた。
そこに入っていたのは、数匹の蛍であった。それを見たイオアンは、鼻で笑った後、一匹を手に取る。
「ふっ、蛍か…下らぬイタズラだな。直ぐにでも叩き潰して…」
手に取った一匹を叩き潰そうとしたイオアンであるが、光に見入られたのか、叩き潰さず、手を離して蛍を解放した。飛び去っている光を見ながら、イオアンは呟き始める。
「ムシケラの命に奪い程の価値は無い…そう、価値は無いのだ…」
そう呟きながら飛び去って行く光を見て、笑みを浮かべながら瞳に涙を浮かべる。
「ローゼに我が娘ジルよ…俺はお前たちの所へは行けぬだろうな…」
空に舞い上がる光を見つつ、今は亡き愛しき女性の名をイオアンは口にする。
そんな黄昏に惹かれる彼の元に、復讐に燃える海兵隊員らの怒号が響いてくる。
『光!? 居たぞ! あそこだ!!』
その声が響いた後、一斉に銃声が鳴り響く。
「がはっ!」
声が響いた直後に、イオアンは直ぐに臨戦体勢を取って、魔法で唱えた障壁で防ごうとしたが、特殊な徹甲弾が使われていたのか、壁を用意に貫き、次々と被弾し、地面に膝を付け、血を吐き出す。
「あの野郎、まだ生きてやがる!」
「しぶとい野郎だ、俺がこのナイフでとどめを刺してやる!」
「待て、スパルタン達だ。ここは彼らに任せよう」
あれほど撃ち込んだのに対し、まだ息のあるイオアンの姿を見て、海兵隊員らは直接自分等の手でとどめを刺そうとする。しかし、チーフらが追い付いたため、士官は部下たちを引き留め、スパルタンとシュンにイオアンの生殺与奪をゆだねる。
「瀬戸、話がしたいと言っていたな? 今がチャンスだぞ」
「あぁ、助かるぜ。チーフ」
海兵隊が手を退いたのを確認すれば、チーフはライフルの銃口を下げ、シュンをイオアンの元へ行かせる。そんな彼に礼を言いつつ、シュンは剣を杖代わりにして立ち上がるイオアンに近付き、自分を覚えているのかと問う。
「なぁ、覚えてるか? 俺の事」
「その声は…いつぞやに助けた大剣使いか…暫く会わぬ内に、連邦へ寝返っていたのだな…」
そう気軽に声を掛けながら問えば、イオアンはシュンが連邦に寝返って、自分を殺しに来たものと思う。それをシュンは即座に否定し、一時的な物であると告げる。
「けっ、誰が群れなきゃ何もできねぇような連中に寝返っただ。一時的なもんだよ、この惑星の領主をぶっ殺せば、俺は自由の身だ。それよりも、あんた変わっちまったな。なんであんたみたいな男が、虐殺なんかしたんだ? 過去に何があった?」
一時的な協力関係であることを告げれば、次に何故、それ程までに性格が変わってしまったのかを問う。そんな問いに、イオアンは薄ら笑いを浮かべながら答える。
「貴様に話してどうなると言うのだ…? 俺はただ、我が妻ローゼと我が娘ジルを恵み物にした連中を、一人でも多く駆逐したいと思ってやったまでだ」
正確がここまで変わった理由と虐殺の理由が、今は亡き妻と娘を恵み物にしたことであると答えれば、シュンは次の問いであるネオ・ムガルから強化剤を受け取っていることが本当であるかを問う。
「それが理由か…あんたの心中は察するぜ。次の質問だ、ネオ・ムガルって連中を知ってるな? そいつ等から、身体強化剤や魔力強化剤なんか受け取ったか?」
「ネオ・ムガル? あぁ、高度な文明の機械や犬畜生共に頼り切る連中の事か。貴様の言う通り、受け取って打ったとも。まぁ、売人は直ぐに我が母ショアラによって殺されているかもしれんがな…それで、次はなんだ?」
ネオ・ムガルから強化剤の類を受け取ったことを認めれば、売人はもう既に殺されているかもしれないと告げ、次はどんな問いなのかをイオアンは余裕の表情を浮かべながら聞いてくる。
「あぁ、もう質問はねぇ。後は、あんたを楽にしてやることだ」
質問が無い事を告げ、自分の手で苦しみから解放してやると告げれば、それが彼の癪に障ったのか、それとも自分の生涯最後の相手と思ったのか、これを決闘と捉え、痛みを忘れたかのようにしっかりと足を揃え、剣を構え始める。
「ほぅ、この俺を楽にするなど…とんだ戯言を…よかろう、このイオアン・シルヴァニア。生涯の最後の相手として、貴様の決闘、申し受けてやろうではないか。もっとも、貴様の障害の相手が、この俺になるかもしれんがな」
決闘と捉えたイオアンは、全盛期の頃に戻ったかのように、今まで見せていた冷徹で残忍な表情から、まるで一流の戦士のような表情へと変わり、シュンを挑発する。
「ちっ、この死にぞこないが。待ってろ、今楽にしてやる」
相手が決闘と足ら得た為、挑発を受けたシュンは、舌打ちをしながらも仕方なくそれに応じ、背中の大剣「スレイブ」を抜いて構え始めた。
「な、決闘だと!?」
「おい、ふざけんじゃねぇぞ! さっさっとぶっ殺しちまえ!」
「退いてろ! この俺が代わりに殺してやる!!」
勝手に決闘をし始めた為、海兵隊員らは怒り、罵声を浴びせ始めた。
一人の海兵隊員がシュンごとイオアンを殺そうと、散弾銃を持ち込んで撃ち込もうとしたが、男の勝負に水を差されるのが嫌いな大剣を持つ大男が投げたナイフが、ヘルメットに突き刺さる。
「ひっ!?」
幸いにして、刃は頭部にまで届かなかったが、本機で殺す気があれば、勢いよく投げていた。勝負に水を差そうとした海兵隊に向けて、シュンは凄まじい剣幕で怒鳴り付ける。
「邪魔すんじゃねぇ!! もう一回鉄砲の銃口でも向けて見ろ! てめぇら全員皆殺しにすんぞ!!」
「この野郎、調子に…」
怒鳴っても、海兵隊の怒りは収まらなかったが、チーフの一声で彼らは怒りを抑える。
「これは決闘だ、我々が介入する余地はない」
「で、ですが…!」
「ですがも無い。これ以上、邪魔をすれば、我々スパルタンが相手だ」
これに異議を唱える海兵も居たが、チーフと他三名のスパルタンが相手をすると告げれば、彼らは流石に相手をしなくないと思い、引き下がる。
海兵隊を抑えてくれたチーフに礼を無言で言えば、シュンはイオアンとの決闘を始めた。
「おい、動かねぇぞ。どっちとも」
「相手は死に掛けだぞ、デカいのはなにしてるんだ?」
決闘は始まったが、両者とも動かず、ただ睨み合いが続くだけだ。これに海兵隊員らは、ヤジを投げる。
「(ちっ、何所が死に掛けだ。ピンピンしてやがる。それに隙もねぇ)」
相手が死に掛けているにも関わらず、油断も隙も無いため、シュンは攻められずにいた。
睨み合いが続くこと数分、先にしびれを切らしたのは、シュンの方であった。彼は一か八か、攻めに出ることにし、スレイブの巨大な刃をイオアンに向けて振り下ろした。
「オラァァァ!!」
雄叫びを上げ、勢いよく刃を振り下ろすシュンであるが、イオアンはそれを読んでいるのか、重傷とは思えない程の軽やかに動いて避け、隙だらけとなった脇腹を斬ろうとする。
「ちっ!」
「ほぅ、そのような大剣で反応するとは、凄い力だな」
「あんたも死に掛けなのに、良くそんなに動けるな。やっぱドーピングのおかげか?」
危機一髪、シュンは即座にスレイブを地面から引き抜き、見事にイオアンの斬撃を防ぐことに成功した。持ちきれない程の大剣で自分の斬撃を防いだシュンに対し、イオアンは関心の声を上げ、重傷の身で動ける相手に対し、彼はネオ・ムガルから渡されたドーピングのおかげなのかと問う。
「ふん、あんな物に頼らずとも、俺は自力で貴様を殺せる!」
これに怒りを覚えたのか、イオアンは凄まじい速さの連撃を放ってきた。それをシュンは出来る限り防ぎ、反撃の糸口を見付けようとするが、イオアンはそれを一切見せない。
「なんで死にぞこないに押されてるんだ? 鉄砲使えば楽勝だろ」
「いや、使っても奴には勝てないだろう」
一人の海兵が銃を使えば直ぐに相手を殺せると言うが、チーフは銃を使ったとしてもイオアンを殺せないと告げる。
この間にもシュンは一方的にイオアンに押され、防戦一方であった。繰り出される連撃を防ぎながら、あの手この手の卑怯な手を使おうとするが、相手はそれを見越してか、使わせないように更に連撃の手を強め、挑発してくる。
「どうした!? 貴様は死にぞこないでも勝てないムシケラなのか!?」
「こっちが手加減してりゃ、ごちゃごちゃと!!」
手加減はしてないが、このままでは防戦一方で決着がつかないため、相手からの挑発に乗ってシュンは、ダメージを覚悟で攻勢に出た。相手がスレイブの刃に刀身を当てたところを見計らい、一気に押し込む。
「なに!?」
ジャストガードを受けたイオアンは思わず怯み、後退ってしまう。万全な状態であれば、こんな物は容易く見抜き、叩き潰すころだが、満身創痍である上に重傷であるため、それを見抜けず、引っ掛かってしまったわけだ。
「おぉぉぉ!!」
相手が怯んだところで、シュンは空かさず大剣を連続で打ち込み、力尽くで相手のガードを崩そうとする。ここで形勢逆転だ。
「クソッ、この俺が…!」
自分より早いであろう大剣の連撃に耐え切れず、イオアンは自分が負けると思い、何とか反撃しようとするが、ここで主導権を渡せば反撃は出来ないと思うシュンは、相手に反撃の隙を与えることなく、雄叫びを上げながらスレイブを連続で打ち込む。大剣の刃を撃ち込まれるにつれ、剣の刀身にヒビが入り、いつ壊れてもおかしくない状況となる。
「っ!?」
「しゃぁっ!!」
連続で強い攻撃を受け、イオアンの愛刀の刀身は砕け散った。そこにシュンは容赦なく大剣の刃を振り翳し、左肩に巨大な刃を食い込ませる。
「ぐぁぁ…!」
左肩を抉られ、胸まで刀身が達すれば、勢いよく血が噴き出す。それからもう満足に動ける力が無くなったのか、地面に両膝を突き、右手に握る剣の柄を離した。相手が完全に戦闘不能と判断すれば、シュンはスレイブの刃を引き抜く。
「見事…!」
「…」
自分を負かした相手であるシュンに敬意を表せば、相手は無言で自分を見つめたままだ。
それから褒美の物を渡さないと思ってか、懐から鍵のような物を取り出し、それをシュンに渡す。
「これだけ敬意を表してやっているのに、無言とわな…まぁ良い、褒美の物だ、貴様にくれてやる…後で役に立つだろう…それにネオ・ムガルの始末、貴様に任せたぞ…」
「あぁ、任せておけ」
手渡された鍵を受け取り、ネオ・ムガルの討伐も任されれば、シュンはそれに答える。それと言い忘れたことがあったのか、特定の人物に手を出さないことを誓わせる。
「それと死ぬ前に…我が妹であるルカには手を出すな…もし手を出すようなら、地獄から蘇り、貴様を縊り殺してやろうぞ…」
「安心しろ、俺の邪魔をしなきゃ、殺さねぇ。出来るだけ守ってやるよ」
「ふん、信用できんな…それと周りに居る豚共に伝えたいことがある…立たせろ…!」
死人との約束を出来るだけ守ることを誓えば、死が近いことを悟るイオアンは、周りに居る者達に言いたいことがあるのか、シュンに立たせてもらうよう上から目線で告げる。それに応じてか、シュンは無言でイオアンを立たせる。相手に立たせてもらったイオアンは、息を深く吸ってから、凄まじい声量で告げた。
「聞けぇ! 貴様ら!! 俺は堕落した文明に汚染されたお前たちには、絶対に負けなかったぞ! 貴様らに勝っていない! 俺の隣に居る男がこの俺に勝ったのだ!! それと我が母と妹のルカを恵み物にしようとしてみろ! 俺は貴様らを呪い殺してやる!! 絶対に殺してやるぞ!! 分かったか!? この豚共ぉ!!」
決死の思いで叫べば、もう言い残すことが無いのか、イオアンは糸が切れた人形のように、シュンの手から離れ、地面へと安らかな表情を浮かべながら倒れた。言いたいことを言ってこの世に悔いなく去ったイオアンの元に、チーフらは駆け寄り、脈を図る。
「完全に死んでるわ」
「何か、可哀想な悪党だったな」
脈を図ったリンダが完全に死んでいることを伝えれば、息絶えたイオアンの姿を見て、フレデリックは何かやるせない気持ちになる。
イオアンが死んだことを知ったのか、海兵隊員らは歓喜し、士官は損害を確認するために部下らに集合を掛ける。海兵隊が戦闘後の後始末をする中、チーフはイオアンの近くに近付き、彼の安らかな表情を見ながら自分の思ったことを口にする。
「どちらにせよ、先に逝った家族の元へは行けないだろう」
「そうね、あれだけの悪行をしてきたもの。完全に地獄送りだわ」
チーフの考えにケリーが賛同すれば、ある程度の持ち物を回収したシュンは、死んでいる敵兵の死体から着けられる鎧を剥ぎ取り、それを身に着けて黒いマントを羽織る。
「で、お前は何所に行くつもりだ?」
死体から鎧を奪い、黒いマントを羽織って何処かに行こうとするシュンに、フレデリックは呼び止めて何所に行くのかを問う。
「次の標的の元だ」
「次の標的? 一人で城に乗り込む気なの? 無謀だわ」
「それは無茶が過ぎるぞ」
「関係ねぇ、次からは俺一人だ」
次の標的が居るブラン城へ向かうと告げれば、リンダが無謀であると告げ、チーフが止めようとするが、シュンは無視して大剣の刃を鞘に戻し、ブラン城がある方向へと一人で向かった。
「終わったようですね。後は、ショアラ嬢の暗殺が上手くいくことを願うばかり」
「あぁ、あの男とマスターチーフが上手くやってくれればな」
イオアン暗殺と言うより奇襲成功の一部始終を陰から見ていたハザマは、隣に立っている男に告げれば、男は適当に何を考えているか分からない男に応え、何処かへ去ろうとする。
ハザマも一瞬だけ振り返ってからそれに続き、何処かにある場所へと同じく身を隠している部下たちと共に帰る。
この海兵隊一個旅団による、約一個師団ほどのイオアンの護衛部隊の奇襲攻撃は成功したが、思わぬ敵の反撃で海兵隊は大損害を被り、次の暗殺標的が居るブラン城への攻撃は、増援が来ない限り不能となった。
すげぇ長いな…何故か知らんが…
次回からは、あれかな…? ベルセルクの黒い剣士編の最終辺りです。